酒とタバコとバレンタインデー 2話
私はことねぇと合流して、少し立派になったことねえの新しいマンションに入り暖を取っていた。
「ありがとう〜ことねぇ!うう〜寒々……。」
「……なんでその薄着で出ようと思ったの?はい、これ差し入れの白湯。」
「待ってことねえ!?ちょっと私の価値安くない!?」
ことねぇはとても奇妙な人物で、28歳までメイド喫茶に働いていた。
人気があるので独立して、どうやら時給暮らしの時よりかはお財布が潤っていたみたいでもう畳にちゃぶ台があるような家ではなくなっていた。
私は渋々白湯を飲む。
うん、たしかに冷えた体には聞くけど無味無臭だ!
「……あんたねぇ、本当にベストセラー作家なの?貧乏性は相変わらずなのね。」
「違うんだよ〜!れんれんがね……私が使うからって別の口座に定期預金して勝手に貯金してるんだよ!!こんなに稼いでるのに……お小遣い制なんだよ。」
「……めちゃくちゃきちんとしてるじゃない、飯田くん。」
まあでもれんれんのやり方は理にかなってる。
私の場合……宵越しの金は持たないと思ったらいつも印税が入るまでは極貧生活を送っている。
でも実際、どれくらい金があるのかは分からなかった。
「……しょうがないわね。はい、これ残り物だけど。」
「ありがとうございます……。」
そう言って、私はパスタを食べる。
トマトに唐辛子の効いたアラビアータは私の身体を熱くさせて、冷えた体によく効いた。
「私どうしよう。れんれんと喧嘩しちゃってしばらく合わせる顔無いかも。」
「……そうなんだ。早く帰れば?」
「聞いてた!?私の話。」
「……冗談よ。でもあなたたちは距離が近すぎるからきっと嫌なところに目がいっちゃうのよ。昔の好だし、数日だけ泊まってもいいわよ?」
なんだかんだ昔からことねぇは優しい。
こうやって悪態を突きながらも最後はこうして優しくしてくれるのだ。
「ことねえ、今回は甘えてもいいかな?」
「いいわよ……その代わり。」
「え。」
ことねぇは何やら紙のリストを私に渡す。
なになに……洗濯、食器洗い、掃除……
「おいー!私を家事代行サービスだと思ってない!?」
「……え、当たり前じゃないの。タダ飯も食べさせてあげたりお世話になるんだからそれくらいはお願いね。あと風呂1日でもサボったら容赦なくたたき出すから。」
ことねぇは真顔でそんなことを言った。
美しい顔立ちで鬼のような性格をしている。
多分このアメとムチでメイド喫茶のお客さんを虜にしてるのかもしれない。
「お世話になります。」
「……うん、よろしく。空いた時間は執筆に使っていいから。」
こうして、かつての旧友と私の奇妙な同居生活が始まった。
ちょっとしてやられた感じはするけど、ひとまず私の心を落ち着かせるにはちょうど良かった。
すると突然……スマホが着信音を鳴らす。
電話先は、れんれんからだった。
私は少し緊張して電話に出る。
「もしもし?」
「笛吹さん!どこ行ってるんすか!マジで!」
痺れを切らしたのか心配混じりにちょっとれんれんが怒っていた。
私が答えようとすると、ことねぇはスマホを奪って変わりに話した。
「……飯田くん久しぶり。神宮寺ことねです。」
「あ……あれ?神宮寺さん?」
私は奪い返そうとするけど高身長のことねぇに顔を掴まれて抵抗ができなかった。
「……しばらくだけど、さやかを家出がてら預かることになりました。」
「え!?そうなんですか?まあ……神宮寺さんなら安心は出来ますけど。」
「……さやかから一部始終は聞かせてもらったけど、あなたは何も悪くないわ。いつもさやかが迷惑かけてごめんなさいね。」
「ことねぇー!離せ……いたたた!!」
れんれんとことねぇは勝手に会話を続ける。
ちょっと、聞こえるように迷惑とか傷つくんだけど!?
「……まあでも、あなた達は距離が近すぎるのだと思って私はお互いの為に協力するから飯田くんも少し頭冷やせればなって思ってるの。」
「確かに……最近強く当たりすぎたから頭冷やします。笛吹さん!」
最後にれんれんは私を呼びかける。
音質の悪いスマホが私の名前を呼んで少し静かになる。
「落ち着いたら……いつでも帰ってきてくださいね、待ってますから。」
そう言って電話を切る。
優しいれんれんの姿を見せられて恥ずかしさで耳まで熱くなってるのを感じた。
「……ひゅー。」
「返せスマホ!!」
私はことねぇからスマホを奪い返し。ポケットに入れる。その様子を見てことねぇはクスクスとまるで微笑ましい光景を見るかのように笑っていた。
「……飯田くんって、本当に天然の女たらしよね。あなたもっと彼を大事にしなきゃダメよ。」
「うっさい!!ほっとけ!」
「……ほら、あなた締切も近いんでしょ。作業しなくていいの?」
「覚えてろよ……ことねぇ。」
「私もSNSの動画編集とかやるから……しばらく部屋に籠ってるからね。」
そう言って、少し広い家で私たちは壁で隔たれ自分の時間を過ごす。
私は悔しさと恥ずかしさで妙にその思いを走らせて小説を書く。
不思議と私の筆は進み、いつまでも……どこまでも書けそうだった。マンションは暖かく暖房の音がほんのりと聞こえる。
今日の夜は寒波で少し強い風が窓を鳴らして、少しだけ不安な気持ちを与えるようでもあった。




