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僕のお母さんは△▽女優  作者: kyonkyon
第21章 直輝と決意とクリスマスイブ

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直輝と決意とクリスマスイブ 11話

俺たちは保田駅に入り列車に乗る。


列車の中は相変わらず関東とは思えないほど閑散としていて、その静けさだけが妙に心地よかった。


帰る時間が迫ってくる度に俺の心臓の鼓動が強くなる気がする。

愛さんは……ずっと俺の手の甲に手を乗せている。

後はまっすぐ新宿まで行ったら終わりだ。


「楽しかったね。」

「うん、ありがとう……俺も楽しかった。」


話を続けようとすると、夕方に差し掛かって人々が列車に押し寄せてくる。

通勤の人が乗ってきたのだ。

俺たちの会話が一旦途切れる。


人前ではこれ以上の会話は聞かれたくないのかふたりで苦笑していた。


その後の時間は、不気味なほど静かだった。

ゆっくりと進んだ俺たちの旅はあっさりと終わりを告げてしまう。


やがて、聞きなれた駅名が飛び交ってきて、無機質な都会に帰ってくると妙にほっとしている自分がいた。


新宿に降りると、その時には人に満ち溢れていた。

でも、人が溢れるのに不気味なほど静かなのは、やはり都会に疲れる人で溢れてるからだろう。


その疲れが伝染したのか、俺は少しだけ……目を閉じてしまった。それで寝てしまうとは思いもせず。


☆☆


「今日は花壇の花の苗を育てるので、指定の肥料を入れてください!」

「「「はーい。」」」


委員会の生徒はみんなやる気がない。

きっとやらされてる感があるからだろう。

俺もその中で一際無気力な人物だった。

この委員会の嫌なところはペアを組むところだけど、俺は諦めて先生と組む気満々だった。


それでいい、俺に友達なんて必要ないんだから。

みんな敵、どいつもこいつも陰口をしたり、時にイタズラをしたりするばかりで信用する要素などどこにあるのだろう。


「ねえ、天野くん……だよね?私と組まない?」

「……えっと君は。」

「石川!石川愛だよ!」

「……ああ、ごめん石川さんだったね。」


あまり目立たない石川さんだけは妙に俺にからかってきた。他の人とは違って徒党も組まずに単体で俺にからかってくる。


「ぐぬぬ……肥料の袋重い。」

「頑張れー!いっちにーいっちに!」

「ペアだから手伝って!?」

「手伝ってるじゃん!応援してるし。」

「物理的!物理的に支援を求める!」

「あはは!ごめん……すぐ手伝うね!」


そう言って、彼女は俺の正面に立ち袋を抱えると、初めて彼女の顔を見る。

まつ毛が長くて、髪がサラリとしている彼女は……ふと可愛いとおもってしまった。


「やっと、こっち見た。」


俺はハッとしている。

なんか、夢を見ていた。

懐かしいような、どこか今の気持ちを逆撫でするかのような夢だった。

ふと左右を見ると、駅は四ツ谷に止まっていた。


隣には……愛さんはいなかった。

冷や汗が出る。

妙に心拍数が上がり気持ち悪くなる。


彼女はどこに行った?

辺りを探しても……彼女はどこにもいない。

まさか、俺に黙っていなくなったのか?

喪失感と、焦燥感が俺の心を揺らいだ。


列車は走り出して、しばらくして新宿に到着する。

俺は新宿駅で降りて彼女を探した。

くそ!なんで行っちまったんだ!

俺は辺りを見渡すけど……やっぱり彼女は居なくて、力なくベンチに座ってしまう。


「いつも……いつもそうだ。」


妙にベンチの冷たさと駅の寒さが座り続けて発汗してる俺には心地よかった。

下がる温度は頭を冷やすようで、俺は徐々に冷静になり……帰ろうとするとふと視界が真っ暗になる。


「だーれだ!」

「……へ?」


冷たい物が俺の目を覆い被さる。

それは人の手だった。

声の主はさっきも聞いた優しくもミステリアスな声をしていた。


「……愛さん?」

「正解〜!」

「どこいってたんだよ!急に居なくなるから……心配だったんだぞ!」


俺はいつもの彼女のからかいに少し声を荒らげてしまう。

もう居なくなるかもと話をしていたから、このイタズラは立ちが悪い。

すると、彼女は初めて俺に怒られたのか意外そうな顔をしていた。


「ごめん、隣の人……妊婦さんでね。席譲ってあげたの。そのあと、人が押し寄せるから離れちゃったんだ。」

「え……。」


俺はそれを聞いてクールダウンする。

どうやら、全てがイタズラじゃ無かったらしい。

俺が勝手に怒ってただけだった。


「ごめん……そんなことも気づかず。」

「ううん!いいの……それよりも、初めて私に怒ってくれてありがと。」


彼女は嬉しそうだった。

まるで、怒るほど大切にされてることを心から喜んでるように……そして、いま彼女に置かれてる状況を重んじてることに幸せを感じるようだった。


突然、俺は彼女に抱きしめられる。

人前なのに、彼女はどこまでも大胆だった。

彼女の甘い匂いと、絹のように艶やかな黒髪が俺を離さなかった。


「直輝くん、私はあなたが好きです。」

「……。」

「12月の24日、16時に私はアメリカへ旅立ちます。でも、その前に君が私を選んでくれるなら……残ります。」

「……。」

「成田空港で……待ってるね。」


正直、離れたくなかった。

ずっとこの時間とこの感覚のまま居られればよかった。

でも、彼女は切なそうにゆっくりと俺から離れてしまった。


俺たちの旅はあっさりと終わってしまう。

非日常を無理やり日常に戻すかのように総務線で人々が押し寄せてきて、まるで織姫と彦星を天の川が割くかのごとく、流れる人の川が俺たちを分かつ。


俺は1人、新宿駅のホームで棒立ちをしていた。


途中、中年のサラリーマンにドンと押されて床に腰を着いてふと理性を取り戻した。とにかく、疲れとか焦りとか……様々な感情が心を揺さぶり俺は今すぐにでも吐き出してしまいそうだった。


とりあえず、俺はひとつの行動をしようと思う。


「今日は……帰ろう。」





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