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僕のお母さんは△▽女優  作者: kyonkyon
第19章 直輝と別れと小さな夢

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直輝と別れと小さな夢 12話

突然の事だった。

分かっていても、やはり天変地異が自分の身に降りかかると本能的に身震いするものだ。


俺がこの時代に来て9日後に、それは来たのだ。

大地は大きく揺れて、ビルは少しだけ傾いてしまう。

人々の悲鳴があるのだが、まだ危機感がわかってなかった。

いつもの日常がまた帰ってくると思ってやり過ごすのだが、震度は大きくなりちょっとずつ異変だということに気がついて不穏な空気になる。


2009年8月19日、南海トラフ地震は発生した。


「はぁ…はぁ…直人!こっちだ!」

「随分と…冷静だね。」

「そんな訳あるか!こっちも内心ヒヤヒヤしている。」

「どこに向かってるんだい?」

「母ちゃ……天野遥香さんを探すんだよ!」


俺は未来を変えるために今日を待っていた。

ハザードマップは何回も見返したし、母ちゃんの動きも探っていた。

直人にも、生きてもらう約束をした。

だからこそ、今この瞬間を全力で頑張るんだ。


「もしかして、この日をずっと……待っていたのかい?」

「ああ!訳あって俺はこの日を知っていた!」


くそ!人が多すぎてどこにいるか分からない!

母ちゃんの実家の付近を探しても見つかることはなかった。

母ちゃんの実家には、俺のおばあちゃんやおじいちゃんにあたる人が家の中で静かに待っていた。


母ちゃんの姿は…どこにもなかった。

まだ早朝で登校には少し早いはずなのに…!


この時の母ちゃんは妊娠して7~8ヶ月、少しお腹が目立ち始めた時期だった。

その中で走るのはどれだけリスクで大変なのだろう。


「直輝。」


すると、直人が俺の肩をポンポンと叩く。

母ちゃんの家とは別の方向に母ちゃんがゆっくりと避難してる姿があった。

でも、やはり動きは鈍い……。走るのが辛いんだ。

母ちゃんの後を追おうとすると、海辺には地獄のような光景が拡がっていた。


「おいおい……まじかよ。」


津波が、恐ろしいほどの速さで母ちゃんを追いつこうとしていた。

津波と言われたら水の波だと考えるかもしれないけど、瓦礫の塊が一気に街まで遡上している。

あれに巻き込まれたら一溜りもないだろう。


俺は母ちゃんを助けるべく塀の近くまでなるべく自分の安全を確保しながら走ると、直人は俺を信用し着いてくる。

もう少しだ、もう少しで未来は変えられるかもしれない。

既に心拍数は限界を迎えて横っ腹が痛い。

多分後で具合悪くなりそうなほど、俺はアドレナリンに溢れて全力で走っていた。


「直輝…、少しいいかい?」

「どうした?」

「このタイミングで申し訳ないのだが、僕は君が未来人なのではと思ってるんだ。」

「え…。」


突然のの直人の核心に俺は少し頭がフリーズしてしまう。

それどころでは無いとは思うものの、彼の言葉に耳を傾けざるを得なかった。


「なんで、そう思うんだ?」

「君のiPhone…17なんだね。明らかに十数年後のモデルだと思う。それに……君がこの日を予測してるのも不自然だった。まるで……全て知っていたようだった。」

「………。」


俺たちは母ちゃんのすぐそこまでたどり着く。

しかし、波はあと数分で母ちゃんを巻き込みそうになっていたので母ちゃんの自力では助かりそうになかった。


少し考える、母ちゃんを塀の上に持ち上げてから波を避けて塀の上に避難する……それが可能だろうか。

人を助けるよりも、自分の死という方が恐ろしく感じてしまう。


「正直に話してくれ、君は僕の……なんだ?」


いつもは穏やかな直人の顔は状況も相まって鬼気迫る表情だった。それだけ彼は本当の対話を望んでいるのだ。


「信じて貰えないかもしれないけど……俺は君と遥香の息子の……天野直輝です。」

「……そうか。」


彼はまたいつもの表情に戻った。

全てを理解し、安堵したような……そんな顔をしていた。


「信じるよ…というか、分かっていた。君の一生懸命なところは、あの子そっくりだ。それでいてしっかりしてる。」

「直人?」

「教えてくれ、未来には僕はいるのかい?」


彼は妙に吹っ切れたような表情だった。

嫌な予感がする。

まるで今から望んでないことがこれから起きるかのような、そんな予感が肌からピリピリと伝わってくる。


「16年後の未来に……君はいない。」

「あはは、そっか……でもそんな気がした。親子の会話なのにこんなにぎこちないんだもん。まるで初対面じゃないか。」

「おい、なにしようとしてる?」

「助けるんだよ、彼女を。」


彼は全てを覚悟したかのように腹を括る。

母ちゃんの後ろには波が押し寄せ、既に巻き込まれた人は文字通り木っ端微塵になっている。

俺はまだいい方法は無いかと思考をいつもよりめぐらせ、吐き気がしていた。


「やめろ!!約束したじゃないか!生きるって!父さん!!」

「あはは、同い歳なのに父さん呼ばわりされるの……なんか変な気分。直輝、少し僕の夢をきいてくれるか?」


聞きたくなかった。

まるで父の遺言をそのまま聞かされるようだった。

そしたらどうなる、全てが水の泡だ。

せっかく父さんに出会えたのに……見殺しにすることになる。


「やめて……直人、そんなの今からでも実現は。」

「僕の夢は……人の命を救う医者になることだ。」

「やめろっつってんだろ!」


直人は、俺の制止を無視して続けた。


「僕は、目の前の命を救うことに全力を注ぎたい。きっと…この出会いは神様からの僕の生きる意味を教えてくれるための贈り物だったんだ。」

「待って……。」

「彼女と僕の思い、託したよ。ありがとう直輝、僕は本当に幸せ者だ。」


彼は、足を震わせながら瓦礫の雪崩に飛び込む。

白い壁が押し寄せて、母ちゃんの元へとたどり着いた。

母ちゃんを持ち上げて、母ちゃんの安全が確保される。


母ちゃんも彼に手を差し伸べるのだが、それは全くの徒労におわる。彼は最後に俺を見て……静かに笑っていた。


そして、押し寄せる波は一瞬で彼を飲み込み、文字通り…全て水の泡へと変わっていった。


母ちゃんが聞いた事ない声で悲鳴をあげる。

俺は…ただ見ることしか出来ず、泣くことも……騒ぐことも出来ずに塀の上から崩れてしまった。


「あ…ああ…。」


俺はその場で崩れ何度も地面を殴りつける。

また、助けられなかった。

母ちゃんにも何もしてやれず、過去で父ちゃんを救えたかもしれないのに……なにもできなかった。


無力感と、悔しさと、様々な気持ちがこの津波の瓦礫のようにどろりと混ざりあった不快感で俺はその場で吐き出してしまった。


全て準備を整えたはずなのに、まるでそれも全て歴史のシナリオをなぞってるに過ぎなかったのだ。


まてよ、母ちゃんは……まだ母ちゃんは無事か?

俺は自分の感情を抑えて母ちゃんの様子を見ると、母ちゃんは塀の家主に助けられていた。

でも、母ちゃんは直人の方向にひたすら両手を伸ばし助けようと騒いでいる。


それを見るのも……心が張り裂けそうだった。


波は落ち着いたけど、時折余震が響き渡る。

街を見ると全ては無に帰したかのように無音になり、子供がないていたり、時折赤い斑点が見えるのは…それは人だったものだと思うとこの災害の恐ろしさが垣間見えた。


俺は母ちゃんの母校に避難して、これからどうするか考えていた。

やっとのことでたどり着く母ちゃんをみて安心する。

母ちゃんは誰かを見ていた。


確かあの子は初日に一緒にいた女の子だった気がする。

1人は名前が知らない。もう1人は確か愛深と呼ばれる女の子だった。


……いや、愛深の方は愛深だったもの、というのが正しいだろう。

彼女の頭だけはどこかに行ってしまって、母ちゃんは、それを無表情でみつめるしかできなかった。

きっと感情が限界なのだろう。

もう1人の友達に悲しんでいないことを怒られて……彼女は孤立してしまう。


やがて、彼女は屋上へと足を運んだ。

俺はそれを追いかけた。


「母ちゃ……遥香さん!!」


母ちゃんは静かに俺の方を見つめる。

無気力で、絶望しきっていてまるで知らない人のようだけど、顔つきで辛うじて自分の母だと認識する。


「あんた……生きてたんだ。」

「………。」

「私は、全部……無くなっちゃった。」

「……。」


俺は、なんて声をかければいいのか分からなかった。

母ちゃんは今にも死にたそうな顔をしていたからだ。

でも、彼女を立て直すのは時間の特異点の俺ではなく、彼女自身なので、俺は無力ながら歴史をなぞるしか出来なかった。


「俺には……いま貴方にかけられる言葉はありません。でも、生きてください。」

「なんでよ!こんな……こんな状態で生きようなんて……思えるわけないじゃない!!」

「俺も、大切な友人と家族を失いました。」

「そんなの聞いてないわよ!!」

「あなたは……ひとりじゃないはずです。まだ貴方に生きてて欲しい存在は……いるはずです。」


俺は……睨みつける母ちゃんに最後の言葉と思いを……働かない頭で最後の言葉を続けた。


「生きてたら、いつか幸せが来ます。お願いです、直人の分も……生きてください!!」

「……。」


母ちゃんに俺の言葉が刺さったのか分からない。

もしかしたら未来では忘れられてるかも知れない。


俺は立ち去ろうとすると、母ちゃんはまた大きく泣き出した。

屋上に響き渡り、俺の耳と心に何度も反響させて。


俺は夜道を歩く。

直人と散歩した道が、押し寄せる波によって跡形もないほど変貌していた。

でも、一つだけ変わらない道があった。


波が及んでいない1つだけの場所、俺の始まりの地である大山貝塚が。

空気は、初めて来た時と同じように重かった。

頭が痛くなりそうで、俺はボロボロの服装で意識が朦朧としていた。


なにかに動かされてるように俺はくらい森を歩いては、洞窟は一際不気味に佇んでいる。

帰れるんだ。

俺は初めて、ここに来て理解した。

俺は父ちゃんではなく、歴史どおりの母ちゃんと俺自身を救うために、ここに来たのだ。

そう思うと、自分の無力さや浅はかさがより際立って嗚咽が止まらなかった。


役目を終えて、俺は帰る。

洞窟に入り、景色が強く揺らいで…俺は気がついたら、目の前が真っ暗になった。


今日は南海トラフ地震当日。

俺の神隠しは、再びこの身に降りかかったのだ。

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