直輝と別れと小さな夢 10話
「迂闊だった……。」
スマホを手にそう吐露してしまう。
俺は訳あって今は亡き父の家に居候をしている。
父親は素晴らしい素質を持った人間だし、話していてとても楽しい。
だからこそ、俺は現代で彼には生きて欲しいと願っておそらく彼の命日であろう南海トラフ地震が起こった日を探すべくGoogleをいじっているのだが……。
当たり前だけど南海トラフ地震なんて2009年には程遠い言葉だし、検索しても100年前くらいの記録しか出てこない。
なので、いつ彼が亡くなるのか分からず俺は灼熱の大地を右往左往していた。
すると、突然女子高生とすれ違う。
でも、俺にとっては女子高生とは程遠い女性だった。
「か……母ちゃん……!」
「ちっ、またあんたね。」
若き日の母ちゃんは今では想像できないほど鋭い眼光で舌打ちを飛ばす。
いや……こわ……これが16年後にはAVしたりメイド喫茶でバイトしたり、息子大好き人間になるとは到底思えない。
「ま……待ってくれ!」
「いや、話す理由がないんだけど。」
人生で2度目の母親からの拒絶、その行動に俺は胃がキリキリと擦り切れそうだった。
「あのさ!直人の事なんだけど……。」
「……あなたには関係ないわ。」
「関係ないかもしれない!でも……もしあの人が大変そうなら、手を差し伸べて欲しい!!」
ぶっちゃけ、時を超えた先でのネタバレなんて高度なコミュニケーションは取れない。
というか、妙にその件について話すと口元が思うように動かないから母ちゃんに対して抽象的なことしか言えなかった。
「……そう。でもあの人なら大丈夫よ。」
「いや!そういう訳じゃないんだ!」
「うっさいわね!私だって子供妊娠してそれどころじゃないの!……あの人の足かせになるなら、こんな子……!」
それ以上は、母ちゃんは何も言わなかった。
きっとそれは母親として、それでいて人として言ってはいけないと悟ったのだろう。
やっぱり、そういうところはかわらないんだなと少しだけ安心する。
「いや、十分だ。ありがとう。」
俺は去ることを決意した。
これ以上は、母ちゃんに干渉しちゃダメだ。
大丈夫、俺はちゃんと役目を果たしてまた会いに行くと心の中で彼女に誓う。
次会うときは……笑ってて貰えるように。
だって、時が変わっても蹴られても……俺は母ちゃんが大好きなんだから。
「……変なやつ。」
☆☆
俺は直人の家に戻ると、当時の沖縄のハザードマップを見つけることが出来た。
それに加えて、母ちゃんのなんとなくだけど実家の位置であったり、二人の通う高校までは収集できた。
後は当日2人をどう誘導するべきか、そんな事ばかりを考えてひたすら地図とにらめっこしていた。
「……大丈夫?」
直人が覗き込んできたのだ少し驚くのだが、この男恐ろしいほど鋭いから下手に隠す必要もなかった。
表情を見ると不安そうに、それでいて何か力になって上げたいようなそんな顔をしていた。
「災害に興味があるの?」
「ああ、これはゴシップニュースになるんだけどたまたまネットで大きな地震が起こるかもしれないって速報があってね。自由研究として対策してるんだ。」
「……変わった趣味してるね。」
いや、あんたもなかなかいい線行ってるけどね。
手に持ってる本が神隠しとか恐ろしい書籍を積み上げていてそれもそれで気味が悪かった。
「君には言われたくないよ、なんで神隠しの本ばかり読んでるんだよ。」
「ああ、ここら辺ムヌにもたれるなんて言葉があるくらいだし、今はそういった事がマイブームなんだ。」
本格的にヤベー奴じゃん。
マジでタイムリープなんてろくな事ないぞ?
でも、その話題はちょっと興味があった。
なんせ、俺が元の時代に帰れる確信が無かったから帰り道を確保したかったからだ。
少し、その辺も調べた方が良さそうだ。
「なあ、大山貝塚とかはどうだ?」
「あそこなかなか危険なところだって言うよね。」
「ああ、あそこはヤバいぞ。」
「……へえ。行ってみる?」
「え、いいの?」
「もちろん、君も行きたそうな顔をしてたからね!」
彼はどこまで見えてるのか分からないけど、俺の提案にすぐ乗ってくる。
内心は何考えてるか分からないけど、そこは聞くだけ無駄な気がしたので俺たちはあの心霊地に赴く決意をする。
☆☆
俺たちはすぐに着替えて大山貝塚へと向かった。
心細い懐中電灯と、直人の好きなカロリーメイトを添えて、恐る恐ると。
夜の貝塚はあかりがほとんどなく、不気味に森の深淵と共にどこまでも闇が拡がっている。
しかし、違和感があった。
空気がまるで軽い。
始めてきた時に比べたら明らかにもぬけの殻もいい所だった。
そして、俺が神隠しにあった洞窟も組まなく調べるのだが……なにもない。
「…………なんでだ。」
「神隠し、起きないね。」
「いや、起きないに越したことはないんだけどね。」
俺はどうやら気軽に元の時代には帰れそうになかった。
もしかしたらこの時代で生まれた俺と並行して生活しなきゃ行けない、そんなことさえ覚悟してしまうようだった。
マジでわからねえ、今まで引きこもってゲームしてた思い出しかないから。
あまりのミステリアスに俺は混乱で景色が揺らぎ軽くパニック状態で吐きそうになったが、直人が肩に手を当てて落ち着かせてくれる。
「すまない、取り乱した。」
「いいんだ、何か事情があるんだよね?」
この男は、つくづく察しがいい。
神隠しの知識なのか、それとも……全てを見すえたかのような洞察力なのか。
暗闇の貝塚のなか、俺は今日も何の成果も得ることが出来なかった。
両親の助け方も分からないし、帰り方も分からない。
修学旅行でタイムトラベルなんかしたら余計頭の混乱が頭を捻りそうだった。
そんな中、二人でゆっくりと並んで歩いていく。
ふと、緊張が抜けるとある疑問が浮かんできた。
なぜこの男が父親なのかとか、色々と考えてしまう。
「ねぇ、直人?」
「なんだい?」
「その……君は母ちゃ……ゲフンゲフン!遥香さんのこと……好き?」
そう、この3日間俺は彼と一緒にいるのだがこれから夫婦になるにしてはドライすぎる。
本来は彼女を守るべきなのに、この男は見ず知らずの観光客ばかりを気にかけてくれているのだ。
若い頃の母ちゃんは等身大を遥かに超えるほどの責任と悩みを抱えている。そこに連れ添わないなは些か無責任もいいところだと助けて貰った身でありながらも疑問だった。
「好き……というか、愛してる。」
意外にも直人は即答だった。
しかも想像以上の返答が返ってきた。
「どこを愛してるんだ?彼女は今も不安に頭が苛まれてようだったぞ?」
「僕は家族を養う覚悟をしている。でも彼女はまだ結論が着けていない。僕が先に覚悟を強要したらそれは彼女の負担になってしまうんだ。彼女の人生を……強制させてしまうことになる。」
俺は唖然を取られてしまった。
この男はどこまで見えているんだ。
まるで俺の倍以上の視力を持っていて、先の心理まで彼は手に取るようにわかっていた。
まるで、母ちゃんが一人で子を守る決意をするのを悟るかのように。そのときをゆっくりと待って守るつもりだったのだ。
「僕は、家族からも距離があって、友人もいないでずっと孤独だった。でもそんな僕に正面からぶつかり、共に時間を分かちあって、愛してくれた唯一の女性だ。そんな彼女を無下になんてしたくないからね。僕は……彼女を愛している。」
知らなかった。
死んだ父はどこまでも家族を愛していた。
それでいて自分という芯を貫いていたのだ。
少しだけ、嬉しいのと安心した気持ちがあった。
俺は尚更この人を助けたいなと強く感じた。
足の力が強まり、思考が更に冴えるを感じる。
でもその前に、この父のことももっと大好きになりたいなとさえ感じた。
「なあ!直人!コンビニでアイス買わない!?」
「……君は、居候の身でちょっと図々しくないか?」
「頼む!借りはちゃんと返すからさ!」
「あはは、仕方がないな。」
俺と直人はお互いに肩を並べてアイスを食べる。
俺はシャリシャリのシャーベットで、直人はガチガチのあずきバーだった。
夜の沖縄は蒸し暑く、歩くだけで汗が滴っていく。
波音が流れ潮の生臭さと香りが混じった匂いが鼻を刺す。
でも、その未知の感覚が妙に心地の良いと感じる。
そんな静かな夜でもあった。
南海トラフ地震まで……あとX日。
直輝は父を救うことが出来るのか?
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