うちのメイド長はヘビースモーカー 10話
帰り道。
私たちは少しお酒に酔っていた。
帰り道に美味しそうな焼き鳥屋があったので寄ってみたらさやかは、美味しさのあまりビールをたらふく飲んで現在泥酔中だった。
「あんた…ちょっとは自重…しなさい…よ!」
「ごめ〜ん、飲みすぎた〜。」
さっきまでのスカイツリーの感動を返して欲しいくらいだ。
さやかは女性としては軽すぎる方だけど、肩で抱えて歩いているといい加減重く、鬱陶しくさえ感じていた。
そんな時だった、突如スマホの電話の音が鳴る。
私かと思ったが違うようだ。
さやかの方から聞こえてくるが反応する様子はない。
私はさやかのポケットに手を突っ込んで代わりに出ることになった。
なになに…電話の主はれんれん、さやかの同居人か!
すかさず電話を出ることにする。
「もしもし…。」
「笛吹さん!まじどこいってんすか!?鍵忘れてったでしょ!」
電話に出るなり耳がキンとなるほどの声が聞こえてきた。
17歳とは思えないほど落ち着いている。
「すみません、さやかの友人のことねと申します。現在さやかは酔いつぶれて代理にてお電話させていただきます。」
すると青年は「え…?」と少しフリーズをしながら私と会話を合わせることにする。
「すみません、ご迷惑おかけしました。今介抱して下さってるんですね。」
「そうですね。ちょっと今隣で壊れてます。」
「今…どちらにいらっしゃいますか?」
「今は…渋谷にいます。」
☆☆
相手に場所を伝えて、私たちは渋谷の人混みから少し離れた所に腰をかけていた。
どうやら迎えに来てくれるそうだ。
時刻は21時、既に夜が更けっていて…正常に働く体内時計が睡眠を促す。
こんな時に限ってさやかはずっと、うへへ〜としかいわない。
いいな、人が迎えに来てくれるなんて。
私はそんな人はいない。
孤独なようで帰る場所があるさやかと
人に囲まれてるようで孤独な私がここでも明確に対比されてしまう。
そんな事を思ってると1人の青年が駆け寄ってきた。
「笛吹さん、見つけた!!もう〜マジで勘弁してくださいよ。」
「はじめまして、神宮寺ことねと申します。」
青年は17歳の170cmで若干筋肉質で短髪の似合う爽やかな青年だった。
青年は、私を見るなり少し驚いていた。
「は…はじめまして!笛吹さんの同僚の飯田蓮と申します。」
「どうしたの?少し…緊張をしてるようだけど。」
「いえ…、とても綺麗な方だなと思いまして。」
「まあ、お上手。」
「いえいえ!マジです。」
少し、可愛いなと思ってしまった。
今の子ってこんなに素直かつ大胆に綺麗だなんて褒めてくれるのか。
私の客は「ことねは…ブルベでクール系で(以下略)」みたいな感じで長ったらしく私を形容するのだけれど、シンプルな方が素直に嬉しい。
どうやら、さやかは素敵な人と同居できてるみたいだ。
「ってか、笛吹さんめっちゃ寝てるし!ほんっと、困った方ですよ!」
そして、かなり世話焼きというかお人好しのようにも思えた。
「ねえ、少し私と話さない?」
年下の男の子だけど…少し話したくなってきた。
男の子と言うより、人柄が好ましく感じている。
「いいですよ!失礼ですが…ことねさんどんなお仕事されてるんですか?」
「メイド喫茶よ。秋葉原の人気のあのメイド喫茶よ。」
すると、彼は目を丸くしていた。
「え、そこたまに行きますよ。あれ…ことねってまさか……いつも行列を量産するあのことねさんですか!?」
「そう、そのことねさんよ。」
「すっげー!本物だ!道理で綺麗だと思ったんすよ!」
悪くない。
褒められるのは慣れてるけど、プライベートで褒められるのはまた違った快感である。
普段は男という存在は業務的に接するので珍しい機会だ。
「笛吹さんとは…いつから?」
「施設の時からよ。とは言っても一緒にいたのは1年余りで私はすぐ里親が見つかったから、そこまで長い付き合いじゃなかったけどね。」
「そういう事だったんですね!あれ?もしかして…佐倉舞衣とも一緒に仕事してるんですか?」
突如、聞きなれた名前に目をパチクリとしてしまう。
的確に……しかもフルネームで呼ぶということは知り合いなのかな?
「ええ、可愛い後輩だわ。この間も一緒にサウナに行ったの。最近友人として仲良くさせてもらってる。」
「めっちゃ仲良しじゃないですか!」
「貴方は彼女とはどんな…?まさか、彼氏さんだったり。」
「あはは、そんなわけないじゃないですか。笛吹さんが家にいること知ったら八つ裂きにされてますよ。」
……八つ裂き?
普段の子犬のような素振りで接してくる彼女とは想像がつかないので違和感を感じる。
「そ…そうなの?八つ裂き…?」
「いやね、あいつ直輝って彼氏がいるんですけど、その男がどうもモテちまってるようで……その度に舞衣に
アイアンクローとかさせられてるんですよ。」
意外だった。
彼女にそんなバイオレンスな面があるとは思わなかった。
確かに…たまに握力だけでグラス割ったと報告が来てた気がしたけど。
もしかしたら、見た目はあんなに可愛いけど実態はフィジカルギフテッドのようなものなのかもしれない。
「いや〜それにしても世間って狭いですね!まさか色んな知り合いと繋がっているとは…。」
「世の中なんてそんなものよ。奇妙な偶然が重なって人って成り立っているのだから。」
「いやもう……間違いないっす。」
彼は気さくで、話し上手で信頼感の置ける爽やかな青年だ。
それだけでもモテそうな要素がある。
なんというか、オーラがキラキラしてる感じがする。
「蓮君は…彼女は作らないの?」
「あ〜……ちょっとそういうのは苦手というか、まだ経験がないというか。」
可愛い。
私はもしかしたら歳下の子が好きなのかもしれない。
年齢差は10歳弱…。
ってことは、私が彼の歳には…小学一年生!?
怖い!歳をとるってこんな感じなのかと急に彼の年齢差が恐ろしくなってきた。
いけないいけない、取り乱してしまった。
きっと酔っているせいである。
少し、いつもより心の声が騒がしく感じてしまう。
「私なんてどう?28歳の独身なんですけど。」
「え……、ええええええ!!??」
「しーっ、声が大きいわ。」
「す…すみません…。」
彼はかなり動揺していた。
まあ、突然そんなに話をされたら驚くのも無理がない。
私も気づかないだけで、男に飢えた動物のような面があるのかもしれない。
「いや……なんというか、恐れ多いですよ。こんなに綺麗で美しい方なんか釣り合うかなと…。」
「釣り合う釣り合わないとかじゃなくて……どうしたい?」
何言ってんだろう。
私…どうみても痴女である。
しかし、羞恥心よりも好奇心の方が勝っていた。
なにより、心がドキドキしてしまっている。
「え……いや…その…。」
「その……!」
私は、からに近寄るとガシッと腕を掴まれた。
さやかが目を覚まして、少し起こった表情でこちらを見つめている。
「こ〜〜と〜〜ね〜〜え〜!?何してるのかな〜?」
表情はいつまの糸目の笑顔から一転、目を見開いて少し怒っていた。
「なによ、あんたら付き合ってないんでしょ?」
「わたしのれんれんに手を出すな〜〜!」
私は、さやかを蓮君に預け立ち上がる。
「だったら、手放さない努力をする事ね。
貴方は彼に甘えすぎだし、もっと日頃から彼に感謝しなさい!彼……いい人すぎるわ。油断したら私がもらうから。」
「も…もら!?」
「へっへーんだ!もう離さないもん!れんれん、私とハグをしろ!」
「ちょ!?笛吹さん……マジで酒くせえ!」
私はそんなあたたかい様子にクスッと笑い出す。
「2人とも……またね!」
私は少し足が踊るように軽くなっていて、そのまま渋谷の人混みの中、夜に駆けていく。
ふと……後ろからさやかの声が聞こえてきた。
「ことねえ!夢諦めんなよ!あと……もうれんれん取るなよ〜!!」
私たちは…よく喧嘩をする。
喧嘩するほど仲がいいとはよく言ったものだ。
私の心は、渋谷の街みたいに明るくて、でもどこか寂しかった。
でも今夜はほんの少しだけ、帰る場所があるような気がしていた。




