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【書籍化・コミカライズ】売られた聖女は異郷の王の愛を得る  作者: 乙原 ゆん


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番外編6 希望の光(マリー視点)

WEB版の「4.売られた聖女は異国へ向かう2」「5.売られた聖女は療養する」の間に入る話です。

 マリーは地方の貴族の娘だ。

 三人いる弟妹の養育費を稼ぐために、王宮に働きに出た。

 王宮に上がったのは今の陛下が即位された直後だった。


 それから数年。

 気が付けば働きぶりを評価していただいたのか、宰相閣下からは直接ご用を言いつかるようになっていた。


 今回はエヴァンデル王国からお客様をお迎えするため、部屋を整え、滞在中のお世話もするよう言われている。

 お客様は故郷の国で聖女をなさっていたお方だそうだ。

 陛下と宰相閣下は瘴気に悩まされるこの国のことを憂い、聖女の招聘を何度も交渉されていた。

 その交渉が実り、今回ようやく来ていただくことができたと伺っている。


 遠い国からいらっしゃる聖女様のことを、王宮に仕える者のほとんどが待ち望んでいた。

 この国の騎士団は辺境で魔獣を倒すため、瘴気を浴びる。

 討伐で命を落とさずとも、討伐後、瘴気に苦しむ騎士も多い。

 聖女様が来られたら国民のために体を張る彼らの瘴気を浄化してもらえると思うと、希望がもたらされたような心地がする。


 それに、現在、王宮内でひそかに囁かれている噂があった。

 陛下のご体調が思わしくないというものだ。

 もちろん表だって陛下のご体調を噂するなど不敬なことはできない。

 それでも不穏な雰囲気はどこからか伝わるようで、王宮に仕える者は皆、何事もない風を装って過ごしている。

 けれどどこか、王宮内の雰囲気は暗かった。

 マリーは閣下に信用され、ご不調で寝付かれている陛下のお世話も頼まれているため、その噂が真実を含んでいることを知っていた。


(どうか、聖女様が陛下をお救いくださいますように……)


 祈りのような、そんな思いが胸に満ちていた。


 しかし、当日。聖女様の到着時刻を過ぎても、マリーが呼ばれることはなかった。

 最初に挨拶をしてから仕事に入ると聞いていたが、何か予定外のことが起きたのかもしれない。

 待機していると、聖女様のために準備していた客室の方に来るようにと、別の侍女から声がかかった。


 部屋の近くは人払いされていた。

 立ち入りを禁じるように立っている騎士には、マリーのことを通すようにという指示があったようで問題はない。

 しかし、普段にない様子に、何か想像以上のことが起きているのだろうと気を引き締める。

 部屋に入ると、中には宰相閣下が護衛と共に待っていた。


「マリー、来ましたか。あちらでロセアン殿が眠っていらっしゃいます。当初の予定とは違いますが、マリーには彼女のお世話をお願いします」

「かしこまりました。聖女様はご体調を崩されたのですか」

「ロセアン殿は到着早々、魔力を使い果たすまで陛下の瘴気を浄化してくださいました……。パルム医師の見立てでは、ロセアン殿は魔力が回復すれば自然と目覚めるだろうということです。魔力切れの場合のお世話はわかりますね」


 頷くと、閣下は表情を緩める。

 聖女様のご不調の原因が陛下のご体調に関わっていたため、マリーだけ先に呼ばれたようだった。


「事情を知っているあなたでしたら、お世話も安心して任せられます。このあとすぐに別の侍女も寄越しますので、くれぐれも頼みましたよ」

「はい。誠心誠意、お世話いたします」

「何か聞いておきたいことはありますか?」

「あの、陛下のご体調はいかがなのでしょうか……」

「そうでした。そちらを伝えておりませんでしたね。ロセアン殿のお力により、陛下はご快復なさいました。少しやつれていらっしゃいますが、意識もしっかりしておられます」

「……何よりでございました」


 話が一段落ついた時だった。

 扉がノックされ、宰相閣下が怪訝な表情で扉を見る。


「マリー以外、呼んでいないはずですが」


 背後で聞こえた宰相の言葉に、厄介事かもしれないと気を引き締めながら用件を伺いに出向くと、そこには身なりを整えた陛下がいらしていた。


「陛下! どうしてこちらに!」


 宰相閣下が珍しく驚いた声を上げておられる。


「ヘンリク、声を抑えないか。聖女殿がこちらに運ばれたと聞いたので、様子を見に来ただけだ」

「……本日はお休みくださいとお伝えしたはずです。パルム医師の診断で問題なかったとはいえ、まだお顔の色が戻られておりません」

「私はもう十分休んだ。これ以上は寝ていられない。それに、顔色というならヘンリクの方がよくない。私の代わりに無理してくれていたのだろう。今から休んだ方がいいのではないか?」

「陛下の代わりはおられないのです。もう少しご自覚を……」

「心配は無い。不調の原因は全て聖女殿に取り去ってもらったからな。それで彼女は、あちらか?」


 陛下は閣下に聖女様の居場所を尋ねておられるが、流石に寝室に立ち入るつもりはないようだ。

 代わりに、マリーに目を向ける。


「マリーだったな。私も世話になった。あなたが彼女の世話をしてくれるのならば安心だ。どうか、聖女殿がつつがなく過ごせるよう、私の時のように世話を頼む」


 覚えていてくださっていたのかという驚きに包まれながらも頭を下げることができたのは、長年侍女として勤めてきた経験のおかげだろう。


「もったいないお言葉です。心からお仕えいたします」


 マリーの返答に満足したようで、陛下は一つ頷くと宰相の方に顔を向けた。


「さて、執務室に向かおうか」

「まったく、あとでパルム医師に怒られても知りませんよ。本当にもう安静にされていなくてよろしいのですか」

「構わない。聖女殿のおかげで調子もいいのだ。書類の山の一つや二つ、今なら簡単に崩せそうだ。不在の間、溜まっている書類はどのくらいある?」

「では、ご自身で確かめていただきましょうか」


 そんな風に言う閣下の目元はわずかに赤くなっている。


 マリーは二人を見送ると、聖女様の様子を伺うために寝室へと足を向けた。

 閣下の話によると、聖女様は到着されてすぐに陛下のもとへと向かわれたと聞いている。

 旅装のままかもしれない。

 もしそうなら、お着替えをしていただいた方がゆっくりお休みいただけるだろう。


(聖女様がつつがなくお過ごしいただけるように私は私の職務を全うしましょう)


 陛下を救っていただいた聖女様に、少しでも快適にお過ごしいただきたい。

 気合いを入れるマリーの胸の内には、希望の光が灯っていた。


 そして翌日から毎日、聖女様が眠っておられるにもかかわらず見舞いの花を持って訪れる陛下の姿に、マリーは別の意味で期待に胸を躍らせるのだった。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

書籍版でイラストが出ていなかったキャラクター達を

春咲先がすごく素敵に描いてくださっているので、思わずマリー視点のお話を書きたくなりました。

もしご興味ございましたら、コミカライズも読んでくださると嬉しいです。


以下、コミカライズ詳細です。

シーモア様では先行配信で、本日10/15より①~③話が配信始まりました!

すごく素敵な漫画にしていただいたので、↓↓↓にリンクもありますので、

是非読みに来てくださるとうれしいです!

どうぞよろしくお願いいたします。

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【書籍化情報】
▼2023年2月17日発売▼
売られた聖女は異郷の王の愛を得る(笠倉出版社 Niμノベルス様)
表紙絵

【コミカライズ情報】
▼2025年10月15日発売▼
表紙絵
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