第八章:新たな人生
ローレンス伯爵家を捨て、貴族としての立場を手放した彼女は、今ようやく自由を手に入れた。しかし、その自由は、長年の束縛から解き放たれたがゆえの不安をも伴っていた。
エドワードは、そんなカトリーナに無理をさせることはなかった。彼女が少しずつ自分の生き方を見つけられるよう、そっと見守るように接してくれた。
「無理をするな。君が望む道を、ゆっくりと探せばいい。」
そう言ってくれる彼の存在は、カトリーナにとって何よりも心強かった。
穏やかな時間が流れる中で、二人の距離は自然と縮まっていった。
エドワードは、カトリーナの笑顔をもっと見たいと思うようになっていたし、カトリーナもまた、彼と過ごす時間が心地よいものになっていくのを感じていた。
しかし、ある日エドワードがふと口にした言葉が、彼女の心に影を落とした。
「私は、君と共に歩んでいきたい。」
カトリーナは、息を呑んだ。
「……それは、無理です。」
「なぜだ?」
「だって……私はもう貴族ではないのです。あなたは公爵家の当主。そんなあなたの妻になる資格なんて、私には……。」
彼女の声は震えていた。
ずっと心の奥で感じていた恐れが、言葉となってこぼれ落ちた。
エドワードは静かに彼女を見つめた後、微かに苦笑した。
「君は本当に、頑固だな。」
「…………。」
「私は、公爵家の名誉のために結婚相手を選ぶつもりはない。私が共にいたいと思う相手だからこそ、こうして君に想いを伝えているんだ。」
「でも……。」
「君は、そんなに私の気持ちを無視するのか?」
エドワードの言葉に、カトリーナは息を詰まらせた。
彼が、本当に自分を求めてくれていることはわかっていた。
それでも、自分にその価値があるのかと、不安がぬぐえなかった。
「……私は、あなたにふさわしくないわ。」
「そんなものは、君が決めることじゃない。私が決める。」
エドワードは強く言い切った。
「君が貴族だろうと、そうでなかろうと関係ない。私は、君という人間を選んだんだ。」
彼のまっすぐな言葉に、カトリーナの胸が熱くなった。
「エドワード様……。」
「私と共に歩んでくれ、カトリーナ。」
彼がそっと差し出した手を、カトリーナは見つめた。
迷いは、まだ心のどこかにあった。
けれど、それ以上に、彼と共に生きたいという気持ちが強かった。
ゆっくりと、彼女はその手を取った。
「……ありがとう。」
カトリーナは微笑んだ。
「私も、あなたと生きたいです。」
エドワードの顔が、嬉しそうに綻んだ。
こうして、運命に翻弄され続けた少女は、自らの手で未来を掴み取った。
彼女の新たな人生は、今、ようやく始まるのだった。




