第五章:暴かれる真実
エドワードは冷静に見えたが、その目は怒りに燃えていた。カトリーナの語った話を思い返すだけで、拳を握る力が増してしまう。
「ラズモンド伯爵と、カトリーナの叔父について徹底的に調べろ。何としても、事実を明らかにする」
夕刻、エドワードは信頼する執事ルイスを呼び出し、静かに命じた。ルイスは公爵家に長年仕える忠実な家臣であり、裏の情報収集にも長けている人物だった。
「かしこまりました。しかし、公にはできない調査となります。慎重に動かねばなりません」
「分かっている。だが、やる価値はある。奴らの悪事を暴かなければならない」
エドワードは目を閉じ、冷静に考えを巡らせた。すでに騎士団の手によってラズモンド伯爵は逮捕されているが、貴族社会においては罪人であろうと、逃げ道が用意されていることも少なくない。彼の背後にどのような勢力があるのか、慎重に探らなければならなかった。
そして、もう一人の問題——カトリーナの叔父である。
「カトリーナを売るような輩が、大人しくしているとは思えない……」
エドワードの胸中に、疑念が渦巻いた。
カトリーナは温かい部屋の中、ぼんやりと炎が揺れる暖炉を見つめていた。
ここに来て数日が経ち、ようやく少しだけ心が落ち着いてきたものの、今でも夢に見る。
叔父家族の冷たい仕打ち。
ラズモンド伯爵の屋敷で感じた屈辱。
彼女の手が小さく震えた。
「……大丈夫」
自分に言い聞かせるように呟く。過去は変えられない。でも、未来は……。
「カトリーナ」
静かに扉が開き、エドワードが入ってきた。彼は落ち着いた表情をしていたが、その目には深い思索の色があった。
「大丈夫か?」
「……はい」
彼の優しい声に、少しだけ安心する。
エドワードは彼女の向かいに座り、静かに言った。
「君の話を聞いた以上、放ってはおけない。私は、君を売ったローレンス伯爵の行動を調べるつもりだ」
カトリーナは驚き、彼を見つめた。
「……でも、そんなことをしたら……」
「何か問題が?」
エドワードは淡々とした口調で返した。
「君をこんな目に遭わせた者を見逃せるほど、私は寛大ではない」
その言葉に、カトリーナの胸が熱くなった。
——誰かが、自分のために怒ってくれる。
それは彼女がずっと求めていたものだった。
「私にできることはありますか?」
カトリーナは小さく問いかけた。すると、エドワードは静かに首を振った。
「今は何も心配しなくていい。ただ、ゆっくり休めばいい」
彼の言葉に、カトリーナは小さく頷いた。
しかし、彼女の胸の奥には、消えない決意が芽生えていた。
——私も、ただ守られるだけではいたくない。
エドワードの命令を受け、ルイスや部下たちがカトリーナの叔父家族、さらにはラズモンド伯爵に関する徹底的な調査を開始した。。屋敷の使用人の中にも情報収集を得意とする者はおり、数日もしないうちに多くの事実が明らかになった。
「進展は?」
エドワードは冷静に尋ねるが、その目は鋭く光っていた。
「ラズモンド伯爵の件ですが……彼が関与していた闇のオークションには、数名の高位貴族も関与していたことが発覚しました」
「当然だろうな。そうでなければあそこまで露骨な人身売買はできない」
「ラズモンド伯爵自身は既に取り調べを受けており、彼の供述から他の貴族たちの名前も明らかになりつつあります。ただ、高位貴族の関与もあるためオークションの件は表向きには闇に葬られようとしていました。ですが公爵閣下が手を回せば、動かせる可能性があります」
「それでいい。それより、カトリーナの叔父であるローレンス伯爵は?」
エドワードはその名を口にするだけで不快感を覚えた。
ルイスは淡々と答えた。
「ギャンブルでさらに借金を重ね、かなり追い詰められているようです。貴族としての体裁も危うくなっているとか」
「……そうか」
エドワードは静かに目を細めた。
「また、叔母であるエレーヌ・ローレンツは、社交界において虚栄に満ちた生活を送り、貴族たちとの不適切な関係を持っているとの噂があります。従姉妹のリリアナも、わがままな性格のようで貴族の子息達を手玉に取り、婚約を破棄させた過去もあるようです」
エドワードは静かにため息をつきながら、指を組んだ。
「つまり、ローレンツ家は全員腐りきっていたというわけか」
「はい。3人とも浪費が酷く、ローレンツ家の財産はほぼ底をついております。カトリーナ様を売ることで一度借金は清算されましたが、すぐにまた借金が積み上がっているようです。」
「ふざけた話だ……」
エドワードの表情が険しくなる。
「ならば、少し圧力をかけてやろう」
彼は微かに笑みを浮かべた。それは冷酷なまでに計算された微笑みだった。
「あの家族を完全に地に落とし、カトリーナの名誉を回復する。」
エドワードは、静かに計画を練り始めた。




