第二章:売られた少女
カトリーナが叔父の家で耐え続けてから、五年の歳月が流れた。
幼い頃はただ必死に生き延びることに精一杯だった。少しでも反抗的な態度を見せれば殴られ、食事を抜かれる日々が続いた。成長するにつれ、彼女は叔父や叔母、従姉妹に従うことが当たり前になり、逆らうことすらできなくなっていた。
ある日、叔父のハロルドに呼び出された。何か嫌な予感がしたが、逆らうことは許されない。静かに執務室へ向かうと、ハロルドはいつものように不機嫌そうに椅子に座り、酒を煽っていた。
「お前には新しい家が決まった。感謝しろよ?」
「……え?」
意味がわからず、カトリーナは戸惑った。ハロルドはにやりと笑いながら続けた。
「お前を引き取るっていう貴族がいてな。お前が欲しいんだとよ」
瞬間、血の気が引いた。売られる――それしか考えられなかった。
「許して下さい……行きたくありません……!」
カトリーナは思わず膝をつき、必死に許しを請うた。しかし、ハロルドは鼻で笑った。
「お前を売った金で、俺は借金を帳消しにできるんだ。ありがたい話だろう?」
従姉妹のリリアナは楽しそうに笑い、母のエレーヌは満足げに紅茶を飲んでいる。
「泣いたって無駄よ、カトリーナ。あなたには選択肢なんてないの」
「じゃあな、厄介者」
次の瞬間、屈強な男たちが現れ、カトリーナの両腕を掴んだ。
「やめて! お願いします……!」
必死に抵抗したが、日々の労働と食事の不足で弱った体ではどうすることもできない。容赦なく引きずられ、馬車に押し込まれた。
行き先は、悪名高い貴族――ラズモンド伯爵の屋敷。
数時間後、馬車が重厚な門の前で止まった。
「降りろ」
男たちは淡々と命じ、カトリーナは無理やり引きずり下ろされた。屋敷は異様な雰囲気を放っていた。まるで生気のない場所だった。
広い廊下を進み、彼女は窓ひとつない部屋へ押し込まれた。分厚い扉が閉ざされ、外から鍵がかかる音が響く。
「ここが今日からお前の場所だ」
しばらくすると、貴族風の男が現れた。ラズモンド伯爵だった。
「ふむ……商品としては、まだ粗が目立つな」
彼はカトリーナの体を値踏みするように眺めた。
「お前の価値を高めるためだ」
そう言われた次の瞬間、使用人たちが現れ、カトリーナを取り囲んだ。
「な、何をするの……!」
抵抗する間もなく、彼女は服を剥ぎ取られ、冷たい空気が肌を刺した。
「逃げようなんて考えるなよ。この屋敷では、お前に自由なんてない」
髪を整えられ、体を拭かれ、栄養のある食事を無理やり与えられた。だが、それは決して慈しみではない。
「商品として、価値を上げるためだ」
それがこの場所の理だった。
こうして、カトリーナの屈辱の日々が始まった。
食事を与えられるのも、肌を整えられるのも、全ては『より高値で売るため』。彼女はただ、逃げられない檻の中で、耐えるしかなかった。




