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第一章:奪われた日々

 カトリーナ・ローレンスは、ローレンス伯爵家の長女として生まれた。父であるエドワード・ローレンス伯爵は剛毅で知られる名君であり、母であるレイナ・ローレンスは優美な貴婦人だった。カトリーナは両親に愛され、温かい家庭の中で何不自由なく育った。

 父は仕事で忙しくとも必ず毎晩食事を共にし、母は教育に熱心でありながらも、カトリーナが楽しめるよう様々な遊びや行事を取り入れてくれた。

「カトリーナ、お前は将来立派な伯爵夫人になるのだぞ。誇り高く、優しくあれ」

 父の言葉を胸に、カトリーナは夢を膨らませた。しかし、その幸福は唐突に終わりを告げた。

 父が突然の事故で亡くなり、母も持病が悪化し寝込んでしまった。屋敷中が悲しみに包まれ、カトリーナは毎日祈るように母の手を握りしめていた。

「大丈夫よ……お母様、きっと良くなるわ……!」

 しかし、その願いも虚しく、母は数カ月後にこの世を去った。両親を失ったカトリーナは、途方に暮れながらも、伯爵家の名を守らなければと必死に自分を奮い立たせた。この時カトリーナは十歳だった。

 そんな矢先に現れたのが、父の弟であるハロルドだった。

「可哀想に……伯爵家のことは私たちに任せなさい」

 彼の言葉に、周囲の大人たちは感謝すべきことだと囁いた。子どものカトリーナだけでは伯爵家を守るには幼すぎると。しかし、カトリーナは言い知れぬ不安を覚えた。


 叔父一家が屋敷に乗り込んできたその日から、彼女の地獄のような日々が始まった。

「これからは私たちがここの主人よ。カトリーナ、わかったわね?」

 叔母のエレーヌが冷たく笑い、彼女を見下ろした。従姉妹のリリアナは嘲るようにカトリーナのドレスを引っ張り、

「こんないい服、着られる立場じゃないわよね」

 とドレスを引き裂いた。

 最初は部屋を奪われ、次に食事が減らされ、やがては屋敷の雑用を押し付けられた。

「お前はもう貴族の娘じゃないんだからな。感謝して働け」

 叔父の言葉に逆らえるはずもなかった。彼らに逆らえば、しつけだと言って叩かれ、食事を抜かれることもあった。

「貴族の娘? もうそんなものじゃないでしょ?」

 リリアナはことあるごとにカトリーナを嘲笑い、わざと手近にあるものを割っては

「カトリーナが壊したのよ!」

 と嘘をついた。そのたびにカトリーナは罰を受け、彼女の手のひらはいつも傷だらけだった。

 それと対照的に、エレーヌとリリアナは贅沢を極めた。エレーヌは新しいドレスを仕立てさせ、豪奢な宝石を買い漁った。リリアナもまた、頻繁にパーティーに出席し、新しい帽子や靴を誇示するようにカトリーナの前で見せつけた。

「これ、パリュミエ侯爵夫人の仕立屋で作らせたのよ。あなたには一生縁のない代物ね」

 リリアナは優雅に回りながら、ふわりと広がるドレスの裾を見せつける。カトリーナはその間も使用人のように彼女の着替えを手伝わされた。

「汚い手で触らないで。そんな手で私のドレスを傷つけたらどうするの?」

 罵声を浴びせられながら、カトリーナはひたすら耐えた。リリアナたちには豪勢な食事が用意され、酒が振る舞われた。しかし、カトリーナが口にできるのは、使用人に与えられた冷めたパンと薄いスープだけだった。

 夜、ボロ布のような寝間着をまとい、使用人用の冷たい部屋で膝を抱えて眠るカトリーナの目から、涙がこぼれた。

「どうして……どうしてこんなことに……」

 誰も助けてくれない。伯爵家の誇りも、かつての幸せもすべて奪われた。彼女がただ耐え続けるしかない日々が始まったのだった。

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