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伊吹の最後 第三話

「落ち着けっ!」

「諦めるなっ!」

「今から助けに行くぞ!」

 “鈴谷すずや”から到着した兵士達が、開かれたハッチめがけてメガホンで怒鳴る。

 その横では整備兵がバーナーでドアを焼き切ろうとしている。

 ドアの向こうからはひっきりなしに、

 カーン

 カーン

 という音がしている。

 中で乗組員達がパイプか何かで壁を叩き、生存を教えているのだ。

 皆、その音のみを希望として作業に没頭する。


「和泉騎はハンガーデッキへ侵入。ハンガー内のメサイアを外に引きずり出せ」

「了解っ!」

 広域火焔掃射装置スイーパーズフレイムを構えながら、甲板に移動した美奈代がまず目にしたのは、カタパルトに固定されたまま放棄された“幻龍改げんりゅうかい”。


 ……いや。


 “幻龍改げんりゅうかい”の“一部”だったモノだ。


 美奈代の目の前に広がるのは、黒く溶けた床だ。

 まるで延ばされたアメのようになって、溶け落ち、下のデッキが丸見えになっている。

 その真ん中で溶けずに残ったのは、リニアカタパルトのシャフト部分だ。

 その上には、カタパルトと“幻龍改げんりゅうかい”の脚部とおぼしき物体が乗っている。


「こ……これは……」


「発艦待機中に被弾して、広域火焔掃射装置スイーパーズフレイムのリキッドが」

 牧野中尉は顔を引きつらせながら言った。

「……引火したんでしょう。」


 広域火焔掃射装置スイーパーズフレイムのリキッドは引火すれば、一瞬にして数万度に達する炎を生み出す代物だ。

 それが艦内で引火したとなればどうなるか。

 美奈代は身をもってそれを知った。


「その引火した……騎体は?」

 

「原型さえとどめていないでしょうね……エンジン以外」

 牧野中尉は言った。

「下に4つのエンジン反応―――騎士のMCメサイア・コントローラーも助からなくても、エンジンだけは残りましたね」

「……」

「引火、爆発はこの飛行甲板を吹き飛ばしただけで済んだようです」

 ズタズタになった飛行甲板の構造物を一別した牧野中尉は言った。

「ここからの侵入は厳しいですね。下デッキは構造上、メサイアの重量に耐えられません。一度外に出て、第2ハッチからハンガーデッキに入りましょう」

「この辺、生存者の反応はありませんか?」

「この周辺では考える必要さえありません」

「で、ですけど」

「リキッドの爆発は、一瞬で周辺の酸素を燃やし尽くす、一種の気化爆弾です」

 牧野中尉は言った。

「その中で生存していたら―――それこそ冗談です」


 墜落の衝撃で吹き飛んだのか。

 “伊吹”のハンガーデッキ物資搬入出用ハッチから侵入した美奈代は、少しだけ安堵の表情を浮かべた。

 前衛作家の作品のようになったフライトデッキとは違い、ハンガーデッキはまだまともだった。

 ハンガーベッドから吹き飛ばされたらしい“幻龍改げんりゅうかい”達が、直立した姿勢のまま床に倒れている。


 大丈夫だと思ったのは、デッキの入り口までのことだ。


 被弾した時、ハンガーデッキ内部で移動作業中だったのが災いしたのだろう。

 内部で固定されていなかったメサイア達がハンガー内部でかなり派手に転げ回ったことは、ハンガーデッキ内部の破損を見れば用意に想像が出来る。

 “征龍改せいりゅうかい”のライトに照らし出された壁は床から天井まで、あちこちがめちゃくちゃにへこんでいる。

 左側の壁では、“幻龍改げんりゅうかい”が半ばめり込んでいる。

 床にはメサイア達が機材や兵器の残骸と共に転がっている。

 ひっくり返った補助動力装置の下には、何かを引きずったようなどす黒い跡が残っていた。

 壁にも、似たような痕跡がいくつも残っている。

 その跡が何かを考えないようにする美奈代の目の前に転がる“征龍改せいりゅうかい”達は、手足が失われた騎ばかりではなく、騎士、MCメサイア・コントローラー用のハッチが爆破解放された物も少なくない。


 美奈代は、五体満足な騎体を探した。


「あった」

 整備用のハンガーベッドに固定されていた一騎の“幻龍げんりゅう”だけだ。

 ハンガーロックを解除するだけで一苦労と気づいたのは、すぐのことだ。

 床に転がる“幻龍改げんりゅうかい”達を前に、正直、何から手を付けていいのかさえわからない。

「まさかと思いますが」

 美奈代は牧野中尉に尋ねた。

「ここに妖魔が侵入してる可能性は?」

「ありえますね」

 牧野中尉は何でもない。という顔で言った。

「整備部隊とベルゲを入れますから、妖魔の探索を優先しましょう。“さくら”?」

「はぁい」

 “さくら”が片手をあげて返事をした途端、“征龍改せいりゅうかい”のセンサー感度が一気に高まった。

「いるよ」

「どこ?」

 さくらは不意に、指先を上に向けた。


 次の瞬間―――


 ボトッ!


 本当にそんな音がして、スクリーンが真っ暗になった。

「えっ?」


 ゴソゴソゴソ


 そんな音だけが聞こえてくる。


「な、何?」


 ゴソゴソゴソ


 不意に、スクリーンの映像が回復した。

 まるで、何か遮蔽物が上に移動することで視界が広がったような―――


 問題は、その視界の隅で動いているもの。

 恐ろしく悪趣味な色彩を持つ何かが、“征龍改せいりゅうかい”の光学合成によって、照明に反射した色を鮮明に輝かせる。

「あのぉ……」美奈代は声が震えていた。

「これ……何かで見た気がします」

「何に見えます?」

 牧野中尉の声も涙混じりだ。

「でっかいクモのお腹」

「たぶん……正解です」

 牧野中尉が言った。

「私―――もうダメです」


 プシュン


 そんな音がして、“征龍改せいりゅうかい”のパワーゲージが一瞬にして半分になった。

 それだけではない。センサーは軒並みダウンしている。


「―――へ?」


 ピーピーピーピー


 聞き慣れない警告音が響き渡り、“MCメサイア・コントローラーに異常事態発生”を告げる警報が視界に表示されたのは次の瞬間だ。

「気絶している可能性あり?―――ちょっとぉ!」

 警告を読んだ美奈代があわてたのも無理はない。

 メサイアを管理するMCメサイア・コントローラーがいなければ、メサイアはまともに動かないのだ。

「起きてください、牧野中尉っ!」

 美奈代はたまらず大声で怒鳴った。

「たかがクモ一匹、ちょっとデッカイだけじゃないですか!」

 当然、返事はない。

「クモなんかよりずっと厄介でバケモノな人が何やってんですか!」

 クモが目の前で動いた。

 尻から出ているのは、間違いなく糸だ。

 本能的な危険を感じた美奈代は、恐ろしく重くなったSTRシステムを操作して、広域火焔掃射装置スイーパーズフレイムのノズルを上に向けた。

 その灼熱地獄は、かすって無事で済む代物ではない。

 センサーのかなりにダメージが来ることは避けられない。

 だが、ここで死ぬわけにもいかない。

「“さくら”―――恨むなら中尉を恨みなさい!」

 ノズルを慎重に調整しながら、

「これは―――中尉のせいっ!」

 美奈代はそう怒鳴り、トリガーを引いた。


 ギシャァァァァァァァッッッ!!


 騎体表面温度の急上昇の警報が鳴り響く中、騎体の間近を紅蓮の炎が走り、背中を焼かれた巨大なクモがハンガーデッキの床に落下。のたうち回る。

「―――こいつっ!」

 美奈代は腹を見せながらもがくクモにもう一度、トリガーを引いた。

 外に絶対出たくない!

 絶対、恐ろしいにおいが立ちこめているに違いない。

 火葬されたクモの腹からは吐き気を催すような色の液体がにじみ出し、床に広がっていく。

「クモはいなくなりましたから!」

 今、美奈代の感心はクモの死骸ではなく、自分の頭上でノビている牧野中尉にあった。

「起きてください―――よっ!」

 美奈代は“征龍改せいりゅうかい”の上半身を激しく揺すった。

「これで起きない!?どれだけ神経が図太いんだ、あのクソ中尉!」

「マスター」

 ひょっこり顔を出したのは“さくら”だ。

「私、起こしてこようか?」

「頼めるか?」

「うん」

 “さくら”は頷くと、両手の握り拳をリズミカルに繰り出す動きをした。

 “さくら”の愛らしい仕草からすぐに気づかなかったが、それか゜ボクシングだと気づいた美奈代が何か言う前に“さくら”は姿を消した。


 そして、次の瞬間―――


 ガスッ!

 ドカッ!


 牧野中尉のいるMCRメサイア・コントローラー・ルームから、そんな鈍い音がした。

 美奈代は、何か恐ろしくイヤな予感がした。

 不意に、エネルギーゲージが戻った。

 牧野中尉が意識を回復した証拠だ。

 普通なら喜ぶべきだろうが、背筋が寒い。


「テメェ、よくもやりやがったな!?」


 ドカバキグシャッ!!


 聞き取れないほどの牧野中尉の怒鳴り声がコクピットに響き渡り、ドスンバタンと激しい揺れが伝わってくる。時折、“さくら”の悲鳴と命乞いが混じっている。

「―――お待たせしました」

 牧野中尉が通信モニターに現れたのはそれからすぐのことだ。

 両方の頬が真っ赤に腫れ、右目に痣が出来ていた。

「あの……“さくら”は?」

「ちょっと、足下で“勉強”してもらっています。大丈夫です」

 牧野中尉は堅い表情に残酷な笑みを浮かべて頷いた。

「“さくら”にも、オトナの仁義と礼儀ってモノを教えてあげなくてはいけないと思っていた所でしたから」

「あ、あの?映像、見せてもらっても……」

「子供が見ていいものではありません。それより」

 牧野中尉は言った。

「艦内に、かなりの妖魔が侵入しているようです」

広域火焔掃射装置スイーパーズフレイムはもう危険ですよね」

 美奈代騎の装備する広域火焔掃射装置スイーパーズフレイムは、文字通り広範囲の敵を焼き殺す兵器であり、こんな狭い場所、しかも友軍の艦内で使用してよい代物ではない。

「歩兵隊が持っている火炎放射器の方が有効ですが……」

 牧野中尉が顔をしかめたのは、床に転がっている兵器の残骸だ。

 ハンガーデッキの床には機動速射砲の潰れたマガジンや砲弾が散乱している。光を反射するのは、メサイアや機材からあふれたオイルだろう。広域火焔掃射装置スイーパーズフレイムのリキッドだったらシャレにもならない。

「ここで火器を使うのは、自殺行為ですね」

「どうします?」

「小口径の火器で対処するしかありません」

 牧野中尉は言った。

「陸戦隊の仕事ですね。要請しましょう―――“さくら”?お尻と前のソレ、誰が抜いていいって言ったの?」



 メサイア輸送艦“伊吹”。


 “入間”級2L級補給艦2番艦として建造され、後にメサイア輸送艦に改造された。

 艦の大半を占める左右の大型コンテナブロックがその名残だ。


 撃沈された時点での乗組員は、メサイア整備部隊まで含めて721名。

 生還者はたった106名。

 艦司令部は艦長以下、総員戦死。


 犠牲者の大半は整備部隊。


 ハンガーデッキの惨状から容易に想像できる通り、彼らが犠牲者の大半を占める。

 艦司令部を除く機関部要員など、メサイアに関係しない部門の生還率が高かったのは、彼らの大半が配置されていたのが機関ブロックだったためだ。


 これは、“伊吹”のみならず、“鈴谷すずや”も含む補給艦や輸送艦の構造的な理由による。


 飛行艦における補給艦や輸送艦は、外見上の巨体の大半はコンテナブロック。


 輸送艦=空飛ぶコンテナ。


 そう呼ばれる由縁でもある。

 つまり、艦の構造物の大半は、本当にコンテナでしかないのだ。

 それだけに、あれほどの巨体を持ちながら、乗員はわずかしか乗り込むことない。

 艦そのものは最悪、SCシップ・コントローラー一人だけでも動かせる程度の代物なのだ。

 だから本来的に、乗組員の居住に必要な設備はすべて艦の心臓部である機関部に付随する形で十分事足りる。

 “伊吹”の場合、コンテナブロックはすべてメサイアの運用にのみ必要な設備に割り当てられており、艦本来の運用に必要な施設は存在しない。


 この構造が、兵種ごとの乗員の命運を分けた。


 不時着の際、このコンテナブロックの左半分が衝撃と火災に陥り、最終的には弾火薬庫が誘爆。

 左舷コンテナブロックはこの誘爆により、内部に配置されていたメサイアや整備兵、そして候補生達と共に吹き飛んだ。

 二宮達にとって割り切れないのは、この誘爆が不時着から数時間後に発生していることだ。

 通信記録から、左舷コンテナブロックにいて生き残った相当数が、何とか火を消そうとして艦内にとどまり、結局助からなかったのは明白だ。

 司令部がすぐに救援命令さえ出してくれれば、かなりの数は助かったろうことは容易に想像できる。


 今、二宮達の目の前には、その爆発の傷跡が口を開けている。


 250メートルのコンテナブロックが吹き飛ばされた傷跡は、とてもこれが艦の残骸とは思えないほどの無惨な光景だった。

 高価なメサイア整備用機材が得体の知れない残骸になり果てている。

「機関部は無事なのね?」

 二宮は通信モニターに映る美夜に訊ねた。

「ええ」

 美夜はモニターの中で頷いた。

「着脱レールがゆがんでなくてよかったわ。アレがやられていたら、無理矢理ドッキングブロック壊して、機関部だけで日本まで戻ってもらう必要があるからね」

「出来るの?」

「機関の規格は一緒だから簡単よ。“鈴谷すずや”のレールが錆びてなければね」


 飛行艦における輸送艦は任務によってコンテナを交換させる必要がある場合が予想される。

 そのため、コンテナの後ろには20メートルほどの長く太いL字形のレールがせり出している。

 ここに飛行艦の機関部を乗せ、コンテナ本体とドッキングさせたあと、爆破ボルトで固定。輸送艦としてコンテナを運ぶ。

 輸送艦は皆、機関部にも同様のレールがあり、必要に応じて機関部を増設することが出来る対策が予めなされている。

 “重連”と呼ばれる措置だ。

 これにより、機関部出力が上がり、かなりの重量物を輸送することが出来るようになる。

 美夜がやろうとしているのは、まさにそれだった。


「機関部に立てこもっていた候補生や整備兵の生き残りは回収を進めている。それと」

 美夜は、手にした命令文を握りつぶした。

「御真影もね」


「ああ……あったんだ」


「ええ。海で沈んだ艦の分は、さすがに諦めたらしいけど」


 “伊吹発見セリ”


 その報告に触れた司令部は、最高レベルの暗号、さらに命令文の閲覧後の焼却の厳命付きで、美夜に新たな命令を下した。


 曰く―――御真影と軍艦旗を回収せよ。


 御真影―――天皇の写真のこと。


 海軍と近衛飛行艦隊では、艦の最後において、その安全を確保することは艦長と、彼等を指揮する司令部の義務だとされる。

 司令部が、その回収を命じてきたのは当然だが、司令部が御真影と軍艦旗の回収を当初忘れていたことは、その命令の送り方からして明白だ。

 そんな所に体面を求める司令部の体質が、美夜にはどうにも許し難い。


「機関ブロック。しかもSCRシップコントローラールームにね」

「井上艦長の聡明さかしら?あそこがやられる時は、艦が文字通り最後の時だから」

 二宮はふと気付いたことを訊ねた。

「美夜?“鈴谷すずや”の御真影は?」

「機関部、精霊体エンジンルームの中」

「……そっちもありか」

「そうよ。写真は命令に過ぎないからともかく、乗組員を何人かでも助けられたことは嬉しい事よ」

「不幸中の幸い……」

「離脱作業が始まるわ。こんな時、敵に襲われたらシャレにならないから、警戒よろしく」

「了解している」

 ハンガーデッキから運び出され、“幻龍改げんりゅうかい”とその残骸がストレッチャーに乗せられて“鈴谷すずや”と“伊吹”を往復する。

 機関部の“伊吹”からの分離と“鈴谷すずや”へのドッキングが終わらないと、“鈴谷すずや”は再び地面に降りることが出来ない。

 二宮達は、その間の警戒を怠ることは出来ない。

 今朝から一体、何時間メサイアに乗り続けているのか考えないことにした。

「……そういえば」

 二宮は美夜に訊ねた。

「“あのフネ”にいた生存者は?」

「……それについては」

 美夜が硬い表情で言った。

「後で話す」




「白人の女の子?」

 二宮はその報告を正直、素直には信じられなかった。

「この国に生存者がいたの?」

「考えられないわ」

 横を歩く美夜は、首を横に振った。

「この国が魔族軍の支配地域に落ちぶれて何年経過していると思っているの?その間、一人で生き残るなんてあり得ない」

「どこか地下施設とか」

「名作映画が出来るわね……ところがね?」

 小銃を持つ憲兵が二人、入り口を守るのは艦の奥にある営倉だ。

 憲兵達の敬礼に答え、美夜と二宮は営倉に入った。

 艦で問題を起こした者を押し込めておくための牢屋である営倉。

 通路の両側に並ぶ金属製のドア。

 その一番奥のドアの前に置かれたパイプ椅子に座るのは、憲兵ではない。

 女性看護兵だ。

「小林少尉。ご苦労」

「いえ」

 “衛生”と書かれた腕章をつけた、中年の坂にさしかかりつつある小太りの女性士官が立ち上がって敬礼した。

「かなり警戒していて、何とか身振り手振りで何もしないとわかってもらえた様子ですが」

 ドアの覗き窓を開きながら小林少尉は言った。

「正直、自信がありません」

「説得はしたんだんろう?」

「……それが」

 小林少尉は、ちらりと美夜に目配せした。

「真理……実はね」

 言いつつ、美夜は覗き窓の中を見た。

 ベッドの上で膝を抱え、頭から被っている毛布からこぼれる少女の金髪が、通路の灯りに照らし出され、美しく輝いている。


「まぁ、見てご覧なさい」


「……どれ?」

 彼女を見た時、二宮は本気で驚いた。

 人形か。

 それとも妖精か。

 神の御技がいかに偉大かを、少女はその存在で物語っていた。

 

 だが……その体は、小刻みに震えていた。


 気の毒なほど、震えていた。


「余程のことがあったのか……」

 二宮は見とれながらも、その震えに女として哀れみを感じてしまう。


「というかね」

 美夜は、困った。という顔で言った。 

「日本語は当然だろうけど、帝国語も通じないのよ」


 帝国語。

 この世界の世界共通言語として認められている言語だ。


「英語もフランス語もドイツ語も……どんな地方言語もダメ。言葉は喋ることが出来るけど、なんと言っているのか一切不明」


「……人間なの?」

 二宮は眉をひそめた。

「もしかして―――その」

「食器についた唾液から人間と同じDNAが検出されているわ」

 美夜は言った。

「というか、この艦の分析能力ではこれが精一杯」

「……」

 こちらの視線に気づいたのだろう。

 そっと毛布の下から見えた目が、二宮と視線が合った途端、少女はあわてて毛布を強く被った。

 完全に警戒されている。

 その仕草を見て、二宮はため息をついた。

「……厄介なことになりそうね」



 ズンズンズンズンッ!!

 不意に、外から砲撃音が響き渡った。

「何だ!?」

 思わずその場で首をすくめた二宮達は、それぞれに通信機に怒鳴った。

「二宮だ!誰だ!?誰が撃った!?」

「宗像候補生です。あの艦から小型飛行物体1が発進」

「救命艇か?」

「可能性あり。ただ、反応が早いです……レーダーロスト」

「……すぐに向かう。即時発進待機」






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