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封印、解除 第一話

「部隊そのまま!各MCメサイア・コントローラーは、周辺警戒っ!」

 地面に転がる住民達を冷たく見つめる魔族軍の視線。

 美奈代は時折、威嚇するように彼等を睨みながら、住民達に近づこうとした。

「お姉さま、私も!」

HMC(ハイ・メガ・カノン)に火を入れておけ。スモーク即時待機。いざという時は、“死乃天使”を回収して逃げろ」

「で、ですけど!」

「お前にしか頼めないことだ」

「は、はい」

 ヘッドレシーバー越しに涼と会話しつつ、美奈代は手に持ったメディカルボックスをちらりと見た。

 考えてみたら、医療知識がほとんどない自分が、こんなもの一つで、何が出来るというんだろう。

 勢いだけで動いたことを心底後悔しつつ、美奈代はそっと、銀髪の女の子に近づいた。

 銀髪の女の子は、美奈代の存在に気付かないのか。それとも完璧に無視しているのか、美奈代の方を向こうともしない。


 銀髪の女の子は、武器を構える魔族軍の兵士達に何事かを語りかける。

 すると、魔族軍の兵士の一人が、大声でそれに答え、持っている武器の筒先を下げた。

 少女は頷くと、遠巻きに情勢をうかがっていた住民達に、よく通る透き通った声で何事かを語りかけた。

 最初は恐る恐る、しかし、その数が集まると、住民達は一斉に負傷者を担ぎ上げ、或いは板に載せてその場を離れた。



 

 美奈代は、その後に続いた。




「ね、ねぇ」

 言葉が通じるかわからない。

 しかし、その服装からして人間じゃないか。

 そう思った美奈代は、住民達の間をぬって、銀髪の女の子の後ろから語りかけた。

「ねぇ、君。言葉、わかる?」

「何?」

 間近で振り返った少女は、足を止めることもなく、ちらりと美奈代を見た。

 背は低い。

 多分、小学生だろうと見当をつけた美奈代に声をかけられた少女が言葉が通じることに安堵した美奈代は訊ねた。

「君、人間だよね?どうしてこんな所にいるの?」

「仕事」

「仕事?」

「お姉さん、後藤さんの狗……じゃなくて」

 少女は、うんっと。と、視線を泳がせてから言った。

「部下でしょ?」

「後藤ってことは―――君、近衛の関係者?」

「似たようなもの」

「いくつ?」

「十四」

「そんな子供が」

 ふと立ち止まった少女が、負傷者達が並べられた広場の入り口で立ち止まる。

 鉄の臭いに近い、血特有のイヤな臭いが辺りに立ちこめ、うめき声やすすり泣きが耳をいたぶる。

 頑丈そうな男達だけではない。

 逃げ遅れたのだろう。老人から子供までが集められていた。


「おい」

 背後から声をかけられた美奈代は、ハッ。となって後ろを見た。

 魔族の兵士がそこにいた。

「翻訳装置を持ってきた。これを耳に付けろ」

 美奈代が渡されたのは、マイク付きのヘッドレシーバーだった。

「人類の使っているものに合わせてある。使い方は感覚でわかるはずだ」

 兵士が同じものをつけているのに気付いたのは、その時だった。

「ありがとう―――で」

 美奈代は礼を言うと、レシーバーを代え、部隊通信用のレシーバーを首に下げた。

 音を耳が拾ってくれるのを祈るしかない。

「魔族軍は、どう動く?」

「教える義務はない」

 そう答えたが、負傷者をバツの悪そうに一瞥した兵士は、ポツリと言った。

「事故だよ―――俺の部下は、今回が初陣なヤツがほとんどなんだ。ビビっちまって」

「……」

「後でぶん殴っておく。民間人に誤射なんて誇り高き獄族軍にとっちゃ恥だ―――俺達の動きは、今のところは待機だ。安心しろ。本気でお前達とやり合うつもりはない」

「そう願おう」

「ああ……おい。それより」

 辺りを気にしながら、兵士はそっと美奈代に訊ねた。

「何で、ここに天界軍がいるんだ?奴らは中立宣言を出したはずだ」

「天界軍?」

 翻訳装置の凄まじい性能に感服しつつ、美奈代は耳慣れない言葉に首を傾げるしかない。

「知らなきゃ教えてやろう」

 兵士が指さしたのは、少女の腕。

 そこには腕章があった。

 緑の生地に見慣れない金色の刺繍があった。

 何だか得体の知れない模様は、何を意味するのか全く美奈代には想像さえ出来ない。

「あれは、天界軍、神族で編成される軍隊の中でも医療部隊に属していることを意味する国際標だ。俺達でも、あれをつけている者を攻撃することは出来ない」

「でもさっき」

「事故は例外さ」

 兵士は肩をすくめた。

「反面、防御以外の自衛手段は医療部隊にも認められていないがね。とにかく、連中を攻撃したとなれば、重罪だ。だから、俺はさっきから事故だって言ってるんだ」

「……成る程」

「あいつにゃ、そう言っておいてくれ?それにしても、人間と行動を共にする神族ってのは珍しいな」

「そうなのか?所で」

「ん?」

「あなた、今、自分を何と言った?あなたは、魔族じゃないのか?」

「バカ言うな」

 兵士はムッとした顔になった。

「俺達は獄族だ」



 天界

 神族

 獄族


 意味がわからない。

 住民達からの報復を恐れているのだろう。

 言うだけ言った兵士は、一目散に走り出して美奈代の元を去った。


「……何がどうなってるのよ」

 銀髪の女の子は、負傷者の中でも特に容態が悪化している一人の男の前に跪いた。

 腹部に数発、攻撃を受けた男の顔色はすでに白い。

 周りには人々が集まって泣き出している。


 このままなら助からない。


 不思議と美奈代はそう思った。

 女の子は、不安げに見守る住民達の前で、両手を合わせた。

 住民達の顔からして、皆が少女に対して何か疑いを持っているのは事実だろうと、美奈代は見当をつけた。

 実際、美奈代自身、この子が何でここにいるのかさえわからない。


 少女の手を合わせた理由だって―――


 南無阿弥陀仏?

 

 ―――まさか!


 こんな世界の住民に仏教が通じるはずがない。

 通じるなら、世界共通で僧侶はすべてハゲだ。


 美奈代が、そんなくだらないことを思い抱いたその眼前で、


 ポウッ


 少女の掌が輝きだした。


 ―――これ、まさか。





 驚く美奈代や住民の前で、少女は掌に生じた光を、男の傷口に押しつけた。

 光を押しけていた時間は、ほんの10秒程度。

 だが、その間に白かった男の血色は、元来そうだったのだろう健康そうな血色のよい肌にすぐに戻っていった。

 20秒とせず、半分死人だった男は、腹を押さえながらだがよろよろと起きあがり、自分に何が起きているのかわからない。といわんばかりの顔で回りに語り始めた。

 とたんに、枕元にいた女が歓声を上げて男に縋り付き、泣き叫び始めた。

 どうやら妻だと見当をつけた美奈代の前で、少女は言った。

「しばらく寝込むけど、傷口はふさがっているから」

 翻訳装置が、少女の声を拾った。

「内臓が強い負担を受けている。一週間は、消化の良いものを食べさせて。間違っても、お肉やお酒は駄目だよ?次は?」


 そうか。

 美奈代は、それで合点がいった。


 この子―――療法魔導師だ。


 療法魔導師。


 大抵のケガや病気ならすぐに直すことが出来る治癒魔法の使い手のこと。

 腕がもげた程度なら、十数分の治癒魔法を受けたら翌日には退院できる。

 傷跡さえ残すこともない。

 俗説だが、首と心臓だけ残っていれば、いつでも五体満足に戻る事が出来るとさえ信じられている存在。

 “医者殺し”とも言われ、忌み嫌われる医療界でも、(彼等医師としては不本意だろうが)万能選手と認知はされている。

 その反面、そのあまりの数の少なさから、国際法上で厳重な保護を受けられる特権的存在でもある。


 さっきの獄族という連中にとっても、その辺の事情は同じなんだろうと、美奈代は見当をつけた。


「ウチの息子を!」

「だめよ!娘の方が先っ!」

 男の施術結果を見た住民達がこぞって少女の周りに集まる。

「とにかく、端からやっていく。諦めるなって励ましていて。お姉さん」

 少女は、美奈代を見ることなく言った。

 その手はすでに療法魔法を発動させている。

「そこの女の子。出血がひどいから、先に止血だけしておいて。それと、そこの男の人、火傷の薬を塗ってあげて。体の構造は同じだから、メディカルキットの薬には意味はある」

「き、効くの?」

「毒にはならないから安心して」

 信じるしかない。

 美奈代が跪いたのは、真っ赤に染まった腕を抑える少女の前。

 その横ではその娘の母親だろう老いた女性が、縋るような顔で美奈代を見た。

「止血します。手をどけてください―――涼、聞こえるか?」

 美奈代はメディカルキットを開きながら通信装置に言った。

「“鈴谷すずや”から医療班を送ってくれ。負傷者多数。療法魔導師がすぐに必要だ」

 いいつつ、少女が血に染まった手をどけ、そして現れた傷口に卒倒しそうになったのは美奈代の方だった。

 血がドクドクと流れる傷口は、攻撃が腕を貫通した痕だった。

 深くえぐれてどす黒い肉が盛り上がっている。

 骨も神経も血管もかなりのダメージを受けているのは、素人の美奈代にもわかる。


 ―――こんなの、直るの?


 目を背けたいのを必死に堪え、少なくとも表面上は感情を殺した美奈代は、マニュアルにある通り、傷口に消毒済みのガーゼに魔法薬を当て、止血パッドで抑えた。


「痛いっ!」

 少女が悲鳴を上げる。

「薬がすぐに効くから、我慢しなさい」

 美奈代がとっさに言った。

「血が止まれば助かるわ」

 美奈代は、傷口より上、心臓に近い方を付属のゴムバンドで縛りながら言った。

「傷口も、すぐ直してもらえるから。少しの辛抱よ」

 すでに何人かの治療を終えた、あの少女の背中を一瞥した美奈代は、笑って見せた。

 泣きべそをかきながら、それでも傷を負った少女も無理に笑い返した。

 ―――助かる。

 ―――あなた、助かるから。

 美奈代は頷くと、その横で腕を押さえている、若い男の横に移った。



 “鈴谷すずや”から発艦したTACタクティカル・エア・カーゴが上空に到着。療法魔導師と医療部隊による医療活動が始まったのは、それからすぐのことだった。



 それにしても。

 全員の施術が終わったのを見届けた美奈代は、今更ながら住民達を見て驚いた。


 長く尖った耳。

 人類なら尾てい骨のあるあたりから伸びる狐のような長い尻尾。


 そんなものをつけた人間なんて見たことがない。

 この人達は一体?

 首を傾げつつ、美奈代は銀髪の女の子に近づいた。

 この子なら、何か知っているかもしれない。

 そう思うから。

 美奈代が、少女の肩に手を触れたのと、村長むらおさを名乗る老人が語りかけたのは、同時だった。




「レダ族といいます」 

 ダユーは、フェルミ博士に答えた。

「人類創造の話は、先程の件でお分かりいただけたかと?」


「第三の人類……」


「そう。第一の“アダム”と第二の“イヴ”は、互いの欠陥を補正するために掛け合わされて消滅しました。それがあなた方のご先祖のプロトタイプ。この辺もよろしいですね?」


「了承している。それ以外、つまり、第三の人類として試作された“リリス”の末裔が、この島の住民“レダ族”だと」


「そうです。独自の自然崇拝を持ち、自然と共に生きる。自然を壊すことを忌み嫌い、自然の中にこそ神を求める―――自然の守り手としての人間の有り様を示した、獄族たる我らの提示したタイプです」

 そう答えるダユーはどこか誇らしげだ。


「自然と共に……」


「消耗の効く労働力としての人を、我々は望まなかった。自らの代わりとなって、この美しい、緑あふれる自然を守り続けて欲しい。その願いを託すに足りる存在としての人を求めた」

 

 ダユーは、そっとその白く細い指で緑の葉を茂らせる、名も知らない枝に触れた。

 フェルミ博士は、顔色一つ代えずにその様子を眺めている。


「……少なくとも、人の有り様をどうするか。その点で神族や魔族と、我々獄族は違った」

 クシャッ。

 ダユーの手の中で緑の葉が潰れた。

「自らの欲望の対象とするか、この世界の管理者に相応しい身とするか。挙げ句が」

 パラッ

 潰された葉がダユーの手からこぼれ落ちた。

「……言わなくてもわかるでしょう?」


「……その“自らの代理”に対して、随分な仕打ちですな」


「自らの欲望を満たす労働力としての人だろうと、自らの代理人だろうと」


 言っていることにしかフェルミ博士には聞こえないが、ダユーはそんな心がわかるように、悪戯っぽく言った。


「結局、私達にとって“被造物”に過ぎないのです」


「つまり、どう扱おうが他人からとやかく言われる覚えはない、と?」


「育てた野菜や花を摘み取ることを他人からとやかく言われたら、同じ事言いません?」


「……草木と人間を同格ですか」


「広く、巨大な、それこそ創造主の広い視点に立てば、そうなると思いません?」


「それ程の視点に立つ権利があなた方にはある」


「作り上げたのは私達ですもの。主ではありません」


「その創造主の慈悲すら得られぬ身ですか?我々は」


「―――我々こそがあなた方の創造主だということをお忘れなく。さて、着きましたよ?」



 足を止めたダユー達の前に現れたのは、木立の中に隠れるようにして存在する石造りのドームだった。


「これが?」


「この地下です」

 ダユーは興味もない。という顔で言った。

「ここは住民達独自の祭祀施設。私達の目指すものは、その地下にあります。といってもまぁ」


 ドズゥゥゥム


 鈍い音の後、空気の波が居合わせた者達に襲いかかった。


「壊しちゃった後ですけどね」




もうもうと土煙が立ち上り、周囲にガレキが散乱する中。

 ポッカリと洞窟が黒い口を開けていた。


「住民達の祭祀施設だったというじゃないか」

 ハンカチで口元を抑えながら、フェルミ博士は言った。

「いいのかね?宗教施設を破壊して、統治を長引かせることは難しいぞ?」

「本来なら」

 ダユーは涼しい顔で答えた。

「崇拝されるべきは、創造主たる我々だということをお忘なく」

「……ふむ」

 兵士達が照明を準備して洞窟の中へと入っていく。周辺警護に立つメース達の何体かが、チェーンを用意している音が耳障りだ。

「正論だな」

「その通り」

 ダユーは頷くと、フェルミ博士達を促した。


 機械によって強制的に送り込まれる空気を背中に感じながら、兵士達が一定間隔に壁に据え付けた照明に照らし出された洞窟の中。

 フェルミ博士は、そっと後ろを歩く士官に声をかけた。

「月城大尉」

「―――はっ」

「君は、何を求めて志願した?」

「失礼ですが」

 フェルミ博士の見る月城大尉の目は尋常ではない。

 達観したというより、何かを諦めた。という顔だ。

「博士は?」

「少なくとも金ではない」

「なら、私も同じです」

「ほう?」

「知的好奇心、とでも言っておきましょうか」

「……」

「……」

「……世の中に」

 少しの沈黙の後、フェルミ博士はポツリと言った。

「どうなるか、全く見当が付かないものが二つある。知っているかね?」

「さぁ?」

「男が最初の酒を飲む時。そして……」

 フェルミ博士は意味ありげに月城大尉の顔を見た。

「女が最後の酒を飲む時」

「意味がわかりません」

 月城大尉は答えた。

「私は少なくとも素面しらふです」

「何に酔っているか……だな」

「発言は明瞭に願います」

 じれたように月城大尉は言った。

「何を言われているのか、わかりません」

「わかろうとしなければ、何もわからんよ」

 フェルミ博士は肩をすくめると、前方で立ち止まったダユーに訊ねた。

「さて?ここに何があるのだね?」

 先を歩いてたダユー達が立っているのが、ホールになっているのに気付いたのは、その時だった。


「……これですわ」

 ダユーがその細いアゴで示したのは、ホールの奥に据えられた、白く輝く水晶の柱だった。

 高さは約3メートル程。

 複雑な模様が描かれた石造りの壇の上に据え付けられた水晶からは、不思議な白い光がぼんやりと放たれ続けている。

「……これは?」

「“封印柱”……やっぱりあのおチビちゃんは、こんなおイタしてたのね?」

「ん?」

「この柱が何かは知らなくて結構。あなた達の仕事は」

 ダユーは、どこからから、紙を二枚、取りだした。

「ここに書かれている言葉を読み上げる。それだけのことです」



「終わったよ?」

 銀髪の女の子が、後藤達の前に戻ってきたのは、丁度、その時だった。

「はい。ごくろうさん」

「後藤さん。ここにいていいの?」

「俺はもう少ししたら」

 後藤はニヤリと楽しげに笑った。

「この艦内じゃお尋ね者さ」

「今でもそうじゃないの?」

 少女は、急須を掴んでお茶の準備を始めた。

「艦内で呼び出しが続いているよ?」

「艦長に放っておいてくれって、そう伝えておいてよ」

「僕までお尋ね者だよ。お師匠様?これ、返しておきますね?」

 少女は、腕から腕章を外した。

「人助けって、気分がいいでしょう?」

「よくわかんないです」

「……そう」

 受け取った相手が、腕章を畳ながら、小さく失望のため息をついたのを、後藤は見逃さなかった。

「で?奴さん達、ついに見つけたってワケですか?」

「そうね―――濃いめでお茶にして」

「はい」

「人類が封印を解くわけだし。私にゃもう、何も出来ない」

「本当に?」

「どういう意味?」

「―――カン、ですかね」

「鋭いわね」




「ったく」

 美奈代は毒づきながらコクピットに潜り込んだ。

「メサイア乗って、初めて人から感謝されたっていうのに」

「メサイア乗りなんて、嫌われてナンボの商売ですよ?」

「ヤクザじゃないんですから」

「あんな奴らよりよっぽど極道な仕事ですから」

「そうですか?」

「町を焼き払った経験がヤクザにあると?」

「……」

「ね?」

 笑顔を見せた牧野中尉は、そこで真顔になった。

「―――さて」

「連中に、どんな動きがあるか。ですね」




「この水晶柱には、封印がされています」

 ダユーは言った。

「その封印を解くために、あなた方を呼んだ。本来なら、私達でも魔族でも、誰でもよいのですけど、一般に認知されている人間が行わなければならない。そういう決まりがあるんです」


「その封印を解く呪文でも?」

 ダユーから紙を受け取りながら、フェルミ博士はそう訊ねた。


「その通り」

 ダユーは微笑んで頷いた。

「封印を解除してさえくれれば、あとの命は保証しましょう」


「拒むなら?」


「あの艦の乗組員全員を順繰りに連れてくるだけです」


「……で?」

 月城大尉は、興味がないといわんばかりの顔で言った。

「この紙に帝国語で書かれた文章を読み上げればいいのか?」


「そう」

 ダユーは頷いた。

「上手くいったら」


「上手くいったら?」


「―――あなた、階級は?」


「……」

 月城大尉は、一瞬だけ顔をしかめた。

 少佐。

 ほんの少し前だったら、胸を張ってそう言えた。

 中佐。

 そう呼ばれるゴール地点だってもう目の前だったはずだ。

 それなのに―――

「……大尉」


「―――ご褒美に、私の元に来ることを許しましょう」







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