カールズバッド攻略戦 第二話
死体の山が、歩兵達の射線を塞ぐ。
これが、妖魔達の狙いなのではないか?
兵士達は幾度となくそう思った。
塹壕前に積み上げられた妖魔の死体が邪魔で、兵士達は塹壕から出るしかない。
塹壕から出る以上、妖魔は“エサ”を見つけやすくなる。
“エサ”をみつけた妖魔達がさらに勇んで襲ってくる以上、兵士達の損害は上昇する。
砲兵部隊は、こうなる前にあらゆる砲弾を斜面に叩き込んで妖魔を阻止するべきでは?
そう考えるだろう。
だが―――砲の数より圧倒的に妖魔の数が多すぎるのだ。
戦車部隊が後退を開始した。
前進するより後退する方が、絶対に速い。
エンジンとギアはイタリア製だと囁かれるが、その後退速度の速さは、反論を許さないほど速い。
戦車という守護神に見放された歩兵達の指揮官は、各個の判断でそう叫ぶ。
「第一防衛線を放棄っ!」
陸軍から歩兵B小隊を預かったセイレーン少尉は、目の前に転がった白い肌を持つ妖魔の死体が、ついに自分達の射界を奪ったと判断して怒鳴った。
「第二防衛線へ下がれっ!」
横にいた兵士の肩を叩いた。
こんな状況で、塹壕に潜んでいても、妖魔に喰い殺されるだけだ。
この塹壕の後ろ。
100メートルほど下がった所に第二線の塹壕がある。
あそこまで下がれば、まだ戦える。
セイレーンは、マガジンを交換すると、飛び出し始めた兵士達の尻を叩き、先を促した。
指揮官として、合衆国軍人としして、敵に背を向けて真っ先に下がることは、セイレーンには、発想すらない。
最後の一人が塹壕を出たのを確認したセイレーンもまた、塹壕から飛び出した。
「少尉っ!」
自分の後退を助けようというのか。
先を走っていた部下のマイクが、悲鳴をあげて急に立ち止まり、こちらに銃口を向けようとした。
セイレーンは、その意味がとっさにはわからなかった。
マイクが銃を構えてこちらめがけて発砲した。
ブンッ!
ヘルメットが吹き飛んだ程の激しい風圧を受け、セイレーンは横に吹き飛ばされた。
全身に走る痛みを、歯を食いしばって堪えたセイレーンは、横にころがった小銃を構えた。
その目の前には、六本足の小型妖魔がいた。
四つ足で歩いて、長い前足をムチのように振り回す。
その足をまともに喰らったら、人間なんて文字通り粉砕されるし、セイレーンは、部下の末路として、その破壊力を目の当たりにした一人だ。
「くそっ!」
照準もあわせずに発砲。関節部に集中した射撃が、小型妖魔の左腕を砕く。
妖魔がひるんだ隙をみて、マガジンを交換し、再びトリガーに指をかけた。
セイレーンは、その時、自分が二つの致命的過ちを犯したことを悟った。
一つは、こういう時は、全力で逃げること。
もう一つは、マガジンを交換したら、チャージングハンドルを引いてチャンバーに銃弾を装填しなくてはいけないこと。
マガジンを装填しただけで弾丸が撃てるはずがない。
そんな単純なことさえ、セイレーンは失念していた。
訓練ではない。
失念―――
その対価は―――高すぎた。
弾が出ない!
思考が一瞬、凍り付いた直後、セイレーンは腰から腹にかけて鈍い痛みを覚えた。
体が宙を舞った。
セイレーンは確かに、この陣地を、鳥の視点から見ることが出来た。
数十メートルの高さに舞い上げられたその体は―――地面に叩き付けられた。
グシャッ
嫌な音が自分の体からしたのを聞いた。
意識だけははっきりしているが、指一本動かすことが出来ない。
口から血を噴き出して止まらない。
内蔵や体がどうなってるかなんて、考えたくさえない。
「ギ……ガハッ……っ」
妖魔の腕に吹き飛ばされたんだと、理解出来たのは、それから少し後だった。
彼女の部下は、誰も彼女を助けようとはしない。
すでに、先程の塹壕を突破し、後方の塹壕に迫り来る小型妖魔達相手に、彼女の部下達は自分自身を護ることに精一杯。
先程のマイクはすでに妖魔に踏みつぶされ、地面の肥やしになっている。
彼女の周辺では、四肢をもがれ、あるいは内蔵を引き出され、皆が最後を迎えようとしていた。
遠ざかっていく意識の中。
彼女は確かにつんざくような鋭い音を聞いた。
―――メサイアだ。
意識は遠のく一方だが、何か希望の光を、見た気がした。
「遅いのよ……バカ……」
口元に笑みを浮かべ、セイレーンは神の元へ召された。
その頬には、一筋の涙が、光っていた。
「状況最悪っ!」
ヘルガは怒鳴った。
「敵と味方が入り乱れて、掃射が出来ないっ!」
「第二防衛線の後ろへ布陣するっ!」
味方を踏みつぶしかねない危険なハードライディングをかけ、エレナは部隊をセイレーンが向かおうとしていた第二防衛線の後ろに着陸させた。
すでに妖魔達との交戦距離は50メートルとない。
「撃って撃って撃ちまくれっ!」
エレナは怒鳴りながら、チェーンガンのトリガーを引いた。
「畜生っ!馬鹿野郎めっ!考えて撃ちやがれっ!」
そんな文句をわめかれようと、エレナには、歩兵の頭上に空薬莢が落ちることなんて気にしているヒマはない。
シールドを地面に突き刺して左手を開ける。
チェーンガンと、肩部にマウントされたロケットランチャーで、第一防衛線の死体に群がる妖魔達を文字通り吹き飛ばす。
それでも、だ。
妖魔はひるむという言葉を知らない。
目の前にエサがあれば、それに群がるだけ。
あるのは、食欲を満たしたい本能だけだ。
第二防衛線の兵士達は、彼等にとっては―――エサでしかない。
「後方より妖魔が出現っ!」
コクピットに警報が鳴り響き、ヘルガが怒鳴る。
「前に出てるじゃないっ!」
「違うっ!」
ヘルガは悲鳴に近い声で言った。
「砲兵陣地の真横っ!」
「なっ!?」
“後ろ”
それを、エレナは前方の妖魔が出現した孔だと思った。
だが、実際には自分達の後方、砲兵陣地横に出現した孔だった。
「防衛線は!?」
「後詰めの1個中隊だけ。歩兵隊と機甲部隊が回るけど」
ヘルガは唸るように言った。
「……間に合わない」
「なんとかするしかないでしょう!?中隊へ支援要請出して!」
「通るワケが!」
「無視されようとなんだろうと!」
ドンッ!
第二防衛線の後ろへと後退しかかったM4中戦車の装甲に、中型妖魔のツメがめり込んだ。
弾薬が誘爆したのか、戦車は砲塔を宙に巻き上げ、中型妖魔もろとも吹き飛んだ。
「―――貴重な戦車を!」
ひとしきり唸った後、エレナは左手に散弾砲を掴んで発砲した。
「小隊全騎、機甲部隊の後退支援最優先っ!砲兵陣地へ機甲部隊を回すっ!」
「エレナっ!」
エレナ騎の横に立つルナ騎が手榴弾を投擲しながら言った。
「後方へ誰か回す!?」
「回している余裕がある!?4騎しかいないのに、半分になったら仲良く全滅するわよ!?」
「中隊から増援は!?」
「ダメっ!中隊も全力で戦闘中。予備部隊がないから―――」
頭上を編隊が通過していったのは、その時だ。
白い騎体―――日本軍だ。
「ラッキーっ!」
エレナは歓声をあげた。
「助けが来たっ!」
「違うっ!」
「ち……が?」
「そのまま通過する!あいつらは、私達の増援じゃないっ!」
「ど……どうして」
エレナは呆然として空を見上げた。
編隊を組んだまま、日本軍騎は遠ざかってく。
大地では自分達と米軍兵士が血まみれになって戦っているのに―――どうしてその上を飛んでいくことが出来るの?
あなた達は一体―――
「一体、何なのよっ!」
「エレナっ!」
一瞬、トリガーを引くことを忘れたエレナに鋭い叱責が飛ぶ。
「くそっ!」
舌打ち一つ、エレナはすぐに接近する妖魔達に再びトリガーを引いた。
「増援っ!」
その声が聞こえてきたのは、それから数分後のこと。
背部のラックに格納されたチェーンガンの残弾は限りなくゼロに近い。
メサイアが手に提げて移動する“オカモチ”と呼ばれるウェポンラックからベルトリンクにつながった弾薬を直接チェーンガンに装填して、やっと弾を確保している。
その残弾でさえ心許ない。
機甲部隊も歩兵部隊も、自分達に正面の防衛を任せて砲兵陣地への救援に向かっている。 砲兵陣地付近には弾薬集積所もある。
あそこを叩かれたら終わりだ。
機甲部隊も歩兵も、指揮官達は全体を理解している証拠だと、エレナは何となしにわかった。
その耳に、ヘルガの歓声が聞こえた。
「今度こそ増援が来たっ!」
「何が来たの!?」
「ガンシップ!それから米軍のスカイレーダー隊!弾薬の補給が終わって戦線復帰!この戦域全体へ投入されるっ!」
「遅いっ!」
「文句言わないの!」
「接触までは!?」
「15分!」
「間に合うかっ!」
エレナは爆発した。
「残弾は3分持たないっ!」
「マラネリ部隊が2分で合流可能っ!」
「先に言えっ!」
「何だか……」
有珠は、浮かない顔で言った。
「ものすっごく、悪いことしてる気がするんですけど」
「これも仕事だ」
月城が顔をしかめた。
「万人から称えられることなんてあり得るか」
「そりゃもう、そうですね」
はぁっ。
ため息一つ、有珠は頷いた。
「恨まれても、これも仕事ですよね!」
「時々、お前の割り切りの良さが羨ましい」
「若いですから!」
「……」
「あれ?大尉?どうしたんですか?私、若いから、何か間違えました!?」
「……」
「ほら、大尉?私、とっても若いですから、すごく若いが故の……若さ故の過ちというものが」
「大尉っ!」
月城騎のMC、竜胆中尉が悲鳴をあげた。
「何してるんですか!こんな所で斬艦刀引っこ抜いて、何しようっていうんですか!」
「……おい、鵜来」
それまでのやりとりを聞いていた宗像が、呆れたような、それでいて感心したような声で言った。
「それ、地でやっていたら、褒めてやるぞ」
「……だそうですが?」
笑いをかみ殺す牧野中尉の声を前に、頭を抱えるのは美奈代だ。
「帰還後、後藤隊長のお説教は覚悟しておいた方がいいんじゃないかな……と」
「もう好きにしてください……何で私ばっかり」
「それが指揮官ですよ?」
「はぁっ……全騎へ」
美奈代はすべてを振り切った様子で、冷たく言った。
「やる気がやめてしまえ」
「うっ」
「鵜来?漫才がやりたかったら退役して芸人でも目指せ。月城大尉?お年が気になるから、寿除隊でもして下さい。今は戦争中です」
「……す、すみません」
「……わ、悪い」
「はぁっ。……私にこんなこと言わせないでください。宗像?前衛はこの二人に任せろ。バツゲームには相応しいと思うが?」
「悪くないな」
クックックッ……宗像は喉で笑った。
「前衛指揮官は私。中隊前線指揮官はお前……」
「そうだ。二人の生殺与奪は私達の胸先三部だ」
「いい参謀になれるよ。和泉は―――前衛全騎。洞窟突入時点でのフォーメーションは楔。前衛は月城、鵜来の二騎、中衛は私とフィア。後衛に山崎と柏が入れ」
「前衛指揮官殿に質問」
有珠だ。
「前方に飛び出した友軍を誤射した場合は、許していただけますか?」
「あ、それ大切」
何故か、フィアがすぐにその言葉に飛びついた。
「のこのこ射線に出てきたら、相手が悪いですよね?」
「……後始末は責任持てよ?
「了解♪」
フィアは楽しそうに殲龍が持つ散弾砲を構えた。
「ショットシェルとスラグショット。どっちがいい?美奈代」
「上官反逆罪で殺されたいか」
「安心して?階級は私の方が上だから」
「ああ言えばこう言うしっ!」
「―――何だか、親子か姉妹喧嘩だねぇ。涼」
「……お、お姉さまの子供なら……私」
「全騎っ!」
美奈代はたまらずに怒鳴った。
「この通信は常にモニターされているっ!もうこれ以上、ことある事にバカにされるのは御免被るっ!」
「美奈代さん達なら、芸人で食べていけますよ。ねぇ?大ちゃん」
「そうですね」
「……鍾乳洞まであと3分!全騎、突入準備怠るなっ!?」
「あ、また逃げた」
「“さくら”っ!」
カールズバッド洞窟の中は、メースがかなりの出力でブーストジャンプしてやっと天井に届くほど広く、天井は高い。
それなりに入り組んではいるが、慣れてしまえばどうということはない。
すでに制圧してから数日間をこの中で過ごした魔族軍のメース使いにとって、鍾乳洞内部は庭のようなものだ。
「……それで?」
米軍司令部が存在していた頃の、応接室兼、緊急時の大統領執務室に指定された、最も豪勢な装飾が施された部屋で、照明に照らし出された美しい金髪が輝いて揺れた。
あのダユーだ。
「門は開放出来ない―――と?」
「はい」
ユギオは楽しそうに頷いた。
「あなたが、手持ちの部隊をつぎ込んで、妖魔達を制圧してくださったというのに、残念なことです」
「全てをご存じの上で、私にムダ足を踏ませたわけですね?」
ダユーは少しだけ顔をしかめた。
「……ずるい」
「ははっ……そうやって口元を尖らせても美しいですよ」
「お世辞をいただいても嬉しくないです」
「そうですか?」
「私のメース隊は、すでに母艦へ引き上げさせていただきましたよ?」
「ええ。私の部隊も撤収させる手順を進めています」
「あら?」
従兵の持ってきた紅茶に伸ばした手を止めた。
「人類を歓迎するのかと思っていましたわ?」
「歓迎式典はやりませんよ」
ユギオは苦笑した。
「本来なら、我々も今朝の時点で撤退。ここはものけのからになるはずたったのです。それが、天界の斥候に入り込まれるわ、爆弾の設置に手間取るわで……」
「天界の斥候?」
「ええ」
ユギオは苦笑をやめ。苦虫をかみ殺したような顔になった。
「間違いなく、人類ではありません。天界の中でも相当、“特殊”な連中です」
「特殊?」
「天界王室に連なる程、高位存在……もしくはそれ以上」
「よくわかりましたね」
「―――そういう連中相手に警戒していた。そういうことにしていただけませんか?」
「あなたの飼い犬の中には」
クスッ。
その笑い声だけで、ユギオは脳みそがとろけそうになる。
ダユーという女の恐ろしいほどの蠱惑さが、ユギオには少し恐い。
「とんでもないのがいるようですね」
「金の力は、主のそれさえ超えますよ」
「……罰当たり」
「あなたには言われたくないですが……」
「くすっ。それで?」
「すでに人類は地上で妖魔相手に戦闘中です。ここに来るのは時間の問題でしょう」
「どうするのですか?」
「貴重なメースが犠牲になるのは、残念ですが」
「貴重な部下が―――ではなく?」
「傭兵は」
ユギオは顔色一つ、変えることなく言った。
「消耗品の代名詞ですよ?」
「……お気の毒に」
「損金です」
「違いますよ」
ダユーは答えた。
「あなたの部下のことです。ホント、お気の毒」
「初仕事は―――上手くいったと思うが」
カールスバッド鍾乳洞制圧任務に就いたユギオの言う傭兵。
その一人が、ティアリュート中尉だ。
「せっかく、与えられたメースだ。ムダに犠牲にすまいと思ったが」
ティアリュート中尉騎の横では、妖魔達との戦闘で中破した別部隊のサライマが修復を受けている。
妖魔の放った一撃をかわし損ねた、メース使いの技量的問題による損傷。
中のメース使いは、その衝撃で内蔵を破損してあの世行き。
ティアリュートにしても、然るべき相手が死んだ以上、それ以上に失態を追求するつもりもないし、権限もない。
ふうっ。
艶やかな長い金髪を軽く掻き上げた後、呼吸を整えたティアリュートは、胸に下げたアミュレットを握りしめた。
新兵の頃、所属していた部隊でやっていた戦死者に対する小さな儀式。
アミュレットを握ったまま、眼をつむって死んでいった者達の冥福を祈る。
それだけのことだ。
何人、何十人にこうして祈りを捧げたかわからない。
祈りの言葉は、そんな経験の中、自然と覚えた。
どんな宗教にも属さない彼女自身の祈り。
主に届くかどうかは知らない。
祈ること。
それは、生き残った者の礼儀にすぎないが、それをルーチンワークとして処理するつもりも、ティアリュートにはなかった。
コクピットの中で、ひっそりと執り行われる彼女だけの儀式。
だが、今となっては、この儀式を知ってる者は、彼女だけとなっている。
祈りの言葉を終え、目を開いたティアリュートは、不思議と誰かの視線を感じた。
閉鎖されたコクピットの中。
その視線は、モニターの向こうからだ。
「ん……?」
前方、斜め前に駐騎しているサライマの頭部コクピットハッチが開き、メース使いがじっとこちらを見つめている。
副官のユースティアが、何事か話したげな顔で、じっとこちらを見つめている。
視線の主は彼女だ。
祈りの最中、通信装置をカットしていたことに気付いたティアリュートは、舌打ちと共にハッチを開いた。
「―――地上で?」
「は、はい」
まだあどけなさを残すユースティアは、おずおずと頷いた。
身長も子供並に小さく、背伸びしてもティアリュート中尉の胸までない。
非番の時に町中で迷子扱いされて、結局、彼女が警察に引き取りに行ったことがあることを、ふと思い出した。
メースに乗せれば鬼神の如き戦いぶりを示すというのに、コクピットから降りればいじめられるのは、この二重人格というべき気の弱さだ。
「地上の観測部隊の通信を傍受しています。すでに地上ではかなりの規模で戦闘が」
「ここを狙ってきているというのか?」
「それは―――わかりませんけど」
「……ユースティア」
「はい」
「他の連中にこのことは言ったか?」
「いえ?」
ユースティアは首を横に振った。
「私の指揮官はテァイリュート様だけです」
「……そうか」
しばらく考え込んだ後、ティアリュートは、ユースティアの肩に手を置いた。
「この傭兵隊で、今や私達はたった二人の部隊にすぎない。」
「……はい」
深刻そうな顔で、ユースティアは頷いた。
「マーフェン少尉で5人目ですね」
「―――言うな」
「……」
「少尉の件は、お前の責任じゃない」
「で、ですけど」
「傭兵は傭兵としての責任の取り方がある。少尉はそういう結果になっただけだ。自分を責めても意味はない」
「……はい」
ユースティアは、ちらりとティアリュートを見た。
「いつか、御主人様が軍に返り咲くために頑張ります」
「……」
何故か、ティアリュートはその言葉が聞こえなかったかのように訊ねた。
「……ユースティア」
「はい?」
「脱出ルートの選定をしておいてくれ。どうにも気になる」




