カールズバッド攻略戦 第一話
「妖魔達については考えなくて良い」
後藤は言った。
「連中は、おいしいエサを求めて移動中だ」
「エサ?」
「ああ。俺なら汚染が恐くて食えんがね」
「それってまさか」
美奈代は目を見開いた。
「ち、中国人のことですか?」
「他に何がある?奴らのお仲間は、ヒューストンへむけて移動中だ」
「で、ですけど!」
「考えなくていい―――そう言ったんだ」
後藤の声は、反論を許さないほど鋭い。
「……はい」
「俺達は、カールズバッドの鍾乳洞へ侵入し、敵の群を突破。地下格納庫から反応弾をちょろまかした後、与えられた任務につけばいい―――それ以外は、すべて“余計なこと”だ。いいな?」
「……」
美奈代達は、無言で頷いた。
「不安だろ?
だから教えておく。
妖魔はいくつかの集団になって動いている。
小型と中型妖魔の群が3つ4つ一緒になった、最大級の集団―――仮に本隊と呼ぼうか?
これが、飛行型の小型妖魔の群を追う格好で移動中。
この飛行型の小型妖魔の群は―――吸血型だ」
「吸血?」
「そう。人間や家畜の血を吸う。中華帝国軍の歩兵部隊からの無線傍受によると、外見は、骨と皮ばかりに痩せた体と、目ばかりがぎょろりとした姿をしているから、一見人間だが、動きは機敏。こいつ等に抱きつかれたら最後。全身の血を吸い取られて死ぬ。中華帝国軍は、こいつらを“蚊”と呼んでいるよ」
「うへぇ……」
「……まぁ」
後藤はため息混じりに言った。
「これからのことは、あくまで俺の推測だがね?
こいつらが誘い水になって、妖魔の群は動いている。
蚊は、他の奴らにとってもエサなんだろう。
となれば、現在の状況は、エサがエサを呼んでいるってワケさ。
人間が蚊を呼んで、蚊が妖魔を呼ぶ」
「あながち、外れてないようですね」
美奈代は、妖魔達の移動する様子が映し出された戦況モニターを見ながら絞り出すような声で言った。
ヒューストンへ向けて、小さないくつもの反応―――妖魔の群があって、それを追うように大型の反応が動いている。
小型の反応が、一体、何を狙っているのか―――それを考えることは、あまり勧められることではない。
敵とはいえ、それはあまりに無惨だ。
「……中華帝国軍の反応は?」
「ヒューストン方面からメサイア部隊が前進しているが……あの飛鼠は確認されていない」
「あいつらが一番……」
言いかけて、美奈代はサラマンダー相手に満足な抵抗もせずに撃破されていった飛鼠達の姿を思い浮かべた。
「……成る程?」
「わかるか?」
「あいつらは、対妖魔戦には作られていない……あいつらは、対メサイア戦専用の兵器。それがわかっているから投入しない」
「多分ね……飛鼠を東海岸に送り込んで、その代わりに東海岸のメサイア部隊が引き抜かれる動きを見せている。理由としては、そのヘンだろうね」
「……連中は、そうして集めたメサイアで防衛線を?」
「残念ながら、蚊の相手は歩兵達の仕事だ」
「まさか!」
「何しろ数が多い。チマチマとMLで狙撃しているってワケにもいかん。小銃弾で仕留められるのは―――歩兵連中にとって幸いなのか、それとも不幸なのか……どう思う?」
「敵に同情したくないのですが……」
美奈代は答えた。
「これは例外です」
「メサイア部隊―――赤兎だと思われる部隊がいくつか、妖魔本隊の前に布陣して、散発的に打って出て、頭数を減らす攻撃に出ているが、さすがに分が悪い。連中のメサイア部隊本陣と妖魔の本隊とのぶつかり合いの結果如何だろうか……」
「本隊同士の交戦はいつ頃?」
「まだ2、3日ある。うまくすれば、高みの見物としゃれ込めるさ。帰ってくる楽しみはあるだろう?」
「非人道的な楽しみもあったものですが……」
「まぁ、そう言うな。鍾乳洞方面の状況は、事前に説明した通り。本隊がすでに移動を済ませた後だから、かなり手薄ではあるが、それでも妖魔はかなり存在する。
このため、ドイツ軍が本隊後方への妖魔の流れを止める意味も兼ねて、鍾乳洞周辺の制圧戦を実施する。
我々は、このどさくさまぎれに鍾乳洞内部へ突入。
ドイツ軍を助けない代わりに、我々自身、ドイツ軍に助けを求めることは出来ない。
意味を正しく理解しろ」
「……」
「例えドイツ軍でも、たかが20騎たらずの部隊で出来ることなんて言えば、この程度さ。
とにかく、帰り道のことは考えるな。
お前達は、鍾乳洞の奥へ奥へと進めばいい。それだけだ」
「……はい」
美奈代は、無言で、足下に駐機しているTACを見た。
中には津島中佐達が乗っている。
これを護衛しながら鍾乳洞を移動するというのは、ちょっとした至難な技だ。
「TACは簡単なバリアシステムが展開できるが、気休め程度だ。TACがやられたら帰ることも出来ないぞ」
「……難しい注文を」
「給料分の仕事だ―――これより作戦を開始する。幸運を祈る」
「和泉了解―――いいか?宗像。涼」
「……了解だ。前衛全騎、これより鍾乳洞へ向かう。途中の敵は基本無視。TACに脅威と判断した場合のみ迎撃しろ」
「狙撃部隊了解。洞窟突入まで、発砲は最小限に。残弾に注意して」
「天儀、我々は前衛より前に出て、別ルート上にて陽動につく。なるべく多くを引きつけないと、宗像達の負担が大きすぎる。ルート間違えるなよ?」
「了解です」
「よし―――中隊、移動開始」
敵の本拠地はカールスパッド鍾乳洞。
我々は、その周辺部を制圧することにより、ヒューストン方面へ進行中の魔族軍部隊の後方を遮断する。
残存する妖魔達は、統率がとれていない“はぐれ妖魔”達。
我々は、それを“掃除”する。
エレナ達が受けた命令は、そんなものだ。
ヘルガ達が布陣したのは、中華帝国軍が放棄した陣地跡。
メサイアが入るだけの高さのある窪地を上手く使った天然の陣地だ。
その後方には、米軍の歩兵と砲兵が展開し、砲撃支援を約束してくれている。
「お掃除の準備はまぁ、万端ってワケよ」
「掃除って」
エレナは、デュミナスの持つ狙撃砲を一瞥した。
「いつから大砲でやるようになったのよ」
「文句言わないの―――偵察部隊からの情報は入ってるわね?掃除機がまず出るから、私達は、このモップで、掃除機が始末に困る粗大ゴミを掃除する。いいわね?」
「掃除機扱いって……雷神様が泣くわね。その名前からすれば」
「―――同感。“ミョルニル”が後方より接近。上空を通過する」
エレナは、モニターに映し出された大型TACを見た。
キャタピラのない戦車のようなデザインのそれは、機関砲やロケットランチャーを満載した武装TAC《タクティカル・エア・カーゴ》だ。
輸送ヘリUH-1から武装ヘリAH-1が生まれたように、元来、輸送を目的として開発されたTAC-4をベースに、武装強襲、そして制圧を目的として開発されたのが、TAA-4“ミョルニル”。
世界的には、“ガンシップ”と呼ばれる対地攻撃専用機だ。
トール神の槌の名を持つTAA-4の武装は以下の通りだ。
20ミリバルカン砲2門
40ミリ機関砲2門
ハイドラ70ロケット弾ランチャー8門
105ミリ連装砲塔1門
この他にも爆弾やミサイルを搭載可能。
全長27メートルという巨大なボディをものともせず、空では攻撃ヘリと同等以上の機動性をもって戦場を駆け回る。
そして、あらゆる敵に圧倒的な火砲を叩き付けるその存在は、“空飛ぶ砲兵”と呼ばれ、敵味方共に畏敬の存在となっている。
ドイツ軍をはじめ、世界各国で攻撃ヘリが普及しない最大の理由が、TAA4のような“ガンシップ”にある。
歩兵からは“虐殺兵器”とまで罵られる濃緑色に塗られた機体が、音もなく前方に出ていく。
エレナは、この仕事が早く終わりそうだなと、そう思った。
ガンシップの群を率いるのは、ノルディン大尉。
死の翼を広げる仲間達が、陽光を受けて鈍い輝きを見せるのを満足げに眺めた彼は、無線機に喋った。
「“シュトルム21”航空をご利用いただきましてありがとうございます。こちらは機長兼編隊長のノルディンです。本日のサービスは、前菜に20ミリ機関砲弾。続いてメインコースは妖魔達の食べ放題。お楽しみに」
「……大尉」
ヘルナンデスが笑いをかみ殺しながら言った。
「なんですかそれは」
「不満か?気合いが足りないぞ」
「気合いは十分ですよ。ガンナーはお任せしますか?」
「やらせてやる。お前の腕では不安だ―――編隊長より全機通達、エサを前にヨダレたらしてる“黒狼”様からエサをブンどる!上品な陸軍様の意地を見せてやれっ!」
「「了解っ!」」
「照準合わせ次第、各個に撃てっ!」
グォォォォッッ!!
この世のモノとは思えない銃砲の低いうなり声が辺りを支配する。
ガンシップから放たれる火線が、地上を逃げまどう妖魔達を血肉の塊に変える。
片足を105ミリ砲弾の破片に引きちぎられた妖魔が、足掻きながら逃げようとする。
その頭が40ミリ機関砲弾の直撃を受けて四散した。
小型妖魔達の群が、叫び声をあげながら四方に逃げまどい、上空からの機関砲弾の雨が容赦なく彼等を叩き殺していく。
「好きになれないわ」
エレナは、吐き捨てるように言った。
「こんなの……戦争じゃないわ」
「強いて言えば」
ヘルガはため息と共に答えた。
「狩り、かしらね」
「イヤな趣味ね」
「狩りって、貴族様の道楽でしょ?」
「我が一族は」
エレナは狙撃砲の調整パネルを叩きながら言った。
「狩りなんてやらない。お父様もおじいさまもやってるの見たことない」
「ないの?」
「銃を握ってやるのは戦争だけ―――それが一族の誇り」
「へぇ?」
「一方的な殺しが狩り。同等の立場で、対等に殺し合うのが戦争。貴族がやるのは戦争。対等に戦い、そして勝つべし。そんな家訓がある」
「貴族ってのは、私にはよくわかんないわ」
ズンッ
鈍い音をレシーバーが捉え、苦笑いするヘルガの目の前で、強い光が走った。
「ガンシップ被弾っ!」
モニターの端。
ガンシップが一機、白い煙を上げ、よろめきながら待避行動に移った。
片側のエンジンに直撃でも受けたらしい。白煙を吐き出す元からは盛大な火花が出ている。
「だ、大丈夫なの?」
「航空燃料は搭載していないから誘爆はないはずだけど」
ヘルガがそこまで言った。
次の瞬間。
ドンッ!!
鼓膜に響く、粘っこい音を立てて、ガンシップが吹き飛んだ。
「……弾薬が誘爆したわね」
慣性が働いているのか、未だに上昇を続けるエンジン。
そこから落下する部品の中から、ヒューヒューと音を立てて、次々と四方八方へと飛び出すのは、ガンシップが搭載していた機関砲弾だ。
「パイロットは無事なの?」
「脱出は確認されていない」
ヘルガはデュミナスのFCSを確認しながら言った。
「お祈りしてあげたら?」
「そうする―――ヘルガが地獄に堕ちますように」
「……ありがと。中隊司令部より入電。ガンシップが後退する。後方に対空攻撃能力を持つ妖魔の出現が確認された。中隊前衛が前進する。その前に、狙撃部隊が前進の障害となる大型妖魔を排除する。司令部よりマーカー転送。小隊へ射撃命令下った」
「了解―――エルフ小隊全騎へ。司令部のマーカー指示通りに射撃。タイミングは任意。訓練の成果を見せろっ!」
「「了解っ!」」
「割り当てマーカーむけて射撃開始―――選定は私でよろし?」
「任す」
「了解。マーカー368の順で」
「エルフ小隊全騎、交戦状態突入」
ドンッ!
ドンッ!
太鼓を叩いたような音が、各所で聞こえ始めた。
「接近する大型妖魔の群、足が止まりました。前縁の距離4000」
「ブリュンヒルデ、私と来い。
ケルヒャー、私達が囮になり、進行中の別大型妖魔部隊を引きつける。
アインツと共に前衛の指揮を任せる。側面から」
「砲兵陣地司令部より緊急電!地下より小型妖魔多数出現、現在交戦中。至急、救援求む!」
イリスが、その動きを止めた。
「大隊司令部は、何をしているんだ!」
部隊内で困惑した声が挙がりだした。
「大隊は妖魔部隊本隊と交戦中のはずだ!」
「忙しいってか!?どうせ、バーのシートでも暖めるのが忙しいんだよ!」
「そうだ!何でもかんでも、俺達ばかりに仕事寄こしやがって!」
「俺達ばかり、仕事が多すぎるっ!」
「―――文句を言うな」
ドスの効いたフォイルナーの声が通信機に入った途端、全ての声が沈黙した。
「命令は命令だ。我々グリュックシュヴァインは、困難な局面にこそ投入される部隊。その自覚について一々、語らせるつもりか?」
「……エルフ小隊に射撃中止命令。砲兵陣地救援へ向かわせろ。補給所へ通達。対小型妖魔掃討用兵装準備。エルフ小隊は、補給所にて装備受領を」
「了解―――補給所、聞こえますか?」
「後は手はず通りだ。ブリュンヒルデ、ケルヒャー」
「少佐は私達に何か恨みでもあるのかしら」
エレナはすっかりむくれながらも、補給所で対小型妖魔戦用装備として、30ミリチェーンガンと散弾砲を装備する手を止めることはない。
太股のウェポンラックに散弾砲を装着、狙撃砲は背面の左側ウェポンラックに固定。
予備弾倉を腰部スカートのラッチに次々と引っかけていく。
対メサイア戦を想定した戦斧は腰部。
すぐには対応出来ない位置にマウントしたのは、その戦闘が想定外だという証拠のようなものだ。
あくまで敵は中・小型妖魔。
その雲霞の如き攻めに対抗するために必要なものは、頭数と弾数だ。
シミュレーションで、そのことをイヤという位叩き込まれているエレナ達は、たった6騎で妖魔部隊の掃討を命じられ、表面的にはともかく、内心ではかなり鬱な気分だった。
「死ねって、ストレートに言ってくれた方が気楽なのに」
「仕方ないでしょう?」
戦闘モードを切り替えながら、エレナは言った。
「大型妖魔を掃除した後は、私達は後詰めに入る予定だった。その貴重な後詰めを他に回すってことは、少佐達も相当なリスクだもの」
「言われればわかるけどさぁ」
ハァッ
ヘルガはため息一つ、言った。
「個人的に心配しているって、そんな一言を言われれば、それでいいの?」
「―――そっ、それは」
エレナの頬が赤くなった。
「……その」
「つーかさ」
その意味が分からないほど、ヘルガは鈍感ではない。
「私も不思議なんだけどさぁ……あんた、かなり少佐のおメガネにかなっているっていうか、認められているんじゃない?」
「……私が?」
エレナは、バカみたいに自分を指さした。
「そう」
ヘルガは頷きかえした。
「少佐、何かっていうと、あんたコキ使うけど、あの人は無能は使わない。いの一番であんたがご指名でしょ?」
「そ……」
しばらく考えたエレナは、晴れやかに、満面の笑顔を浮かべていった。
「そっかぁっ!わ、私って……そっかぁ!」
「……単純」
ヘルガのぼやきなんて聞こえていない。
「やだぁ……少佐ったらぁ。そんなに信じていただいているなら、私……ベッドの中でもぉ」
「体をくねらせるな。気味が悪い。装備の装着遅れてるわよ?」
「ご、ごめんっ!」
「歩兵隊はスコップと銃剣で妖魔相手に渡り合ってる。遅れたら妖魔の次に敵扱いされるのは、私達よ?」
大地は得体の知れない青や紫色に染まっていた。
妖魔の血の色だ。
機関砲や小銃弾に砕かれたその肉片が、視界一杯に広がっている光景は、一度見たら地獄の果てまで逝っても忘れられないだろう。
皆が、妖魔の死骸から臭う死臭に鼻がバカになっていた。
友軍の死体がその辺に転がっている。
屍鬼化することを恐れ、頭部か心臓に一発食らわせた後、死体袋へ放り込む作業が続いている。
嗅覚が完全にマヒしたことが影響したのか、死体とはいえ、仲間に弾を撃ち込むこさとさえ何とも思わない。
何か、大切なところで自分が鈍くなったと、そう思う兵士がここには無数にいた。
「前方1000、小型タイプ200以上、また来ました!」
M42ダスター自走高射機関砲の、屋根のないオープントップの砲塔に乗った見張りが、双眼鏡を構えたままで怒鳴る。
66口径40mm連装対空機関砲M2A1を装備する、対空レーダーもない“対空戦車”がこの戦線での守り神だ。
砲塔に陣取る照準手を兼ねる見張りと、射撃手、給弾手二名が血走った目で正面を睨んでいる。
“砲兵陣地の護衛”
任務はそんなものだった。
志願兵ばかりで編成された新編の歩兵部隊と、狩野粒子下でも“使い物になる”装備を与えられた機甲部隊が配置されたのも、理由としてはその任務の簡単さからだ。
だから、双方共に求められていたことは子供並のこと。
曰く―――
歩兵達は、完全装備により行軍しきること。
機甲部隊は、“キャタピラを外さずに”移動が出来ること。
共に、防衛ラインまでは事故もなくやり通し、負傷により前線勤務が不可能になった指揮官達を安堵させた。
へたばった兵士達を蹴飛ばしてテントを組み上げさせた歩兵大隊指揮官、マーベリック中佐は45歳。中華帝国軍との戦闘で左腕を肘の根本から失ったし、M41軽戦車の車掌席に陣取るクウォーツ少佐は右足が義足だ。
共に負傷を理由に勲章を胸に再就職を探すことも、あるいは軍に残留して後方任務につくことも出来るべき立場だが、戦況も世情も、彼等には残酷だった。
軍に残って、前線勤務が出来る。それだけで大抵の負傷兵の羨望を受けることが、どういうことかを考えてみればいい。
―――もう一本、失いたくなかったら……。
彼等は自虐的なジョークを飛ばしつつ、次に飛ぶのがその“一本”では済まないだろう事を十分に自覚していた。
M41とその車体をベースにした“ハンマー・ブルドック”対戦車自走砲が壕で砲の照準をつけている。
前方は川を挟んだ、やや急な丘陵。妖魔達がそこを乗り越えてくる限り、妖魔達はその長めの腹を彼等の前に曝すことになる。
砲兵が布陣できる適当な場所を選んだ意外な副産物だが、これが防衛線を展開する部隊にとっては神の恩寵ともいうべき効果をもたらしていた。
丘に陣取っていた観測班が死に物狂いで逃げてきたから何事かと思ったら、丘の向こうに孔が開いて、そこから妖魔が飛び出してきたと聞いた時は、皆が肝を冷やした。
そして、一時は陣地内まで侵入されて無惨な白兵戦が展開された。
その時こそ、撃退はしたものの、妖魔達は再び、彼等めがけて襲いかかってきた。
兵士達が塹壕に飛び込み、M2重機関銃に弾丸が装填され、兵士達は銃剣を装着したM14やM2002を掴んだ。
妖魔達の動きは早い。
まるでトラックが集団で突撃してきたかのような錯覚さえ覚える。
「撃てぇっ!」
丘を越えれば、すべて小銃の有効射程だ。後方からは砲兵の支援が得られる。
勝てない戦いではない。
兵士達が死に物狂いでトリガーを引き続ける。
対空戦車や戦車達が、丘の斜面めがけて砲弾を容赦なく叩き込む。
“エサ”を目の前にした小型妖魔達が、“エサ”を捕食するための触手や腕を小銃弾や機関砲弾に砕かれ、塹壕の前に無惨な死体を転がす。
次から次へとやってくる妖魔達が、死体の山となっていく。
兵士達は、すでに経験から理解している。
この妖魔の死体。
その山こそが、自分達にとって最大の敵なのだ―――と。




