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攻防戦 

 宗像騎擱座。


 都築、美奈代、そして祷子は、たった1騎を相手に交戦中。

 狙撃犯と護衛の山崎達は、山脈の反対側から接近する中華帝国軍のメサイアを阻止するのに手一杯。

 肝心のSASの突入を支援したのは、実はさつきのたった1騎だった。



「敵がヘリから降下中!」

「撃ち殺せっ!」

 ヘリから降下したSAS隊員達だったが、中華帝国軍も負けてはいない。

 自動小銃を構えた兵士達が窓という窓からSAS隊員達めがけて引き金を引く。

「対空砲はどうした!?」

「邱、屋上のガトリング砲を使え!段、白!お前達は弾を運べ!」

「RPG、持ってきました!」

「よしっ!敵の所属は不明だが、容赦はするな!弾薬をケチるな!大盤振る舞いで出迎えてやれ!」

「了解っ!


「ワッチッ!」

 突然、足下に走った銃撃に、SAS隊員達はとっさに遮蔽物の影に飛び込み、応戦を開始する。

 ほんの数十メートル挟んだ建物との間で火力の応酬。

 そう言いたいが―――


「畜生っ!火力が違いすぎらぁ!」

 SAS隊員達は、雨霰と降り注ぐ銃弾の雨に反撃どころの騒ぎではない。

「くそったれめ!メサイアはどうした!?」


 時間が経つにつれて確実に戦闘態勢を整える中華帝国軍に対して、SAS隊員達は圧倒的に不利に陥っていく。


 奇襲攻撃は時間との勝負だ。


 守り側の体勢が整った後では奇襲は奇襲でなくなる。


 そういう意味では、もうSAS隊員達は奇襲に失敗していた。

 予想外のバリアとメースの存在に時間を食われたのが原因だ。


 決して、SAS隊員達の責任ではない。


 だが、その責任は彼等がとらされることになる。


 建物の屋上に設置された対空機関砲が空と地上めがけて火を噴く。

 機関砲のすぐ近くに積まれた土嚢と土嚢の隙間に突っ込まれた機関銃を何とかしてもらおうと、航空支援を試みたヘリ部隊だったが、濃厚な弾幕を前に近づくことさえ出来ない。

 命からがらの撤退を余儀なくされても、SAS隊員達は文句もいえない。

 むしろ、撃ち落とされなかったことを感謝すべき立場にいた。

 建物の屋上には続々と中華帝国軍の兵士達が銃口を並べつつある。

 対空砲まで持ち出した中華帝国軍は、容赦なくSAS隊員達が頼みとする遮蔽物さえも粉々に砕く。

 その破壊力を前に、小銃と手榴弾が頼みのSAS隊員達は、物陰に一塊りになってしまうのがやっとだ。


「聞いていた情報と違うぞ!」

 降り注ぐ砲弾の破片を浴びる隊員達の中から、困惑の声があがる。

「ここにこんな大部隊がいるなんて、聞いていない!」

「黙れっ!」

 部隊指揮官のマクミラン大尉は、銃声と部下の声に負けじと大声で怒鳴った。

「経験から何を学んでいた!?あの情報部の情報が当たっていたことが、今の今まであったのか!?」

「大尉っ!」

 マクミラン大尉の横にいた兵士が怒鳴る。

「屋上、RPGっ!」

 マクミラン大尉は、通信装置に怒鳴った。

「ウィスキー中隊、メサイア共!誰でもいい!支援をくれっ!」



「こちらウィスキー4」

 さつきは通信装置越しにマクミラン大尉に言った。

「近くにいる。これから支援に向かいたい……けど……」

 さつきは、MCメサイア・コントローラー、春日中尉にこっそり訊ねた。

「支援って……何するんです?」

「……まぁ」

 春日中尉は、唐突な質問に面食らった顔に、困惑気味の笑みを浮かべ、答えた。

「イギリスさんのご要望を伺ってみたら?」

「そうします」




「何して欲しいかって!?」

 一瞬、絶句したマクミラン大尉は、顔を真っ赤にして通信装置に怒鳴った。

「正気かてめぇ!」


 キーンッと鳴る耳に顔をしかめながらさつきは怒鳴り返した。

「そんなに怒んないでよ!やったことないんだから!」


「やって欲しいこと!?敵の排除に決まってるだろうが!」


「だからどこの!」


「目玉ついているか!?D棟、目の前だ!」


「建物吹き飛ばすけど、いいの!?」


「ちょっと位、ぶっ壊してもかまうもんか!てめえの脳みそ並に吹っ飛ばせ!」


「ムカッ……火炎放射攻撃でもいい?派手にいくよ?」


「俺達を殺すつもりか!」


「そんなモノしかないんだもん!」


「もう少しソフトなのが欲しい!俺達はデリケートなんだ!少なくとも俺達に被害のないようなシロモノを要求する!」


「んなこと言っても……後は」


 さつきはシールドの背部に固定していた35ミリガドリング砲を引き出した。

「こんな物騒なシロモノしかないんだからさぁ!」



「前方、メサイア来るっ!」

 シールドを構えつつ、ガドリング砲を装備したメサイアが接近してくる。

 中華帝国軍の指揮官達は、その敵を前に、命令することは何もなかった。

 兵士達は、誰に言われるまでもなく、当面、倒すべき敵をメサイアと断定したのだ。

 機銃座に据えられた重機関銃が火を噴き、歩兵携帯用対戦車砲が構えられる。

 それまでSAS隊員達めがけて放たれていた火線が、すべてそのメサイアめがけて集中する。


「メサイア接近!」

「撃てっ!接近を止めろ!」

 メサイアの破壊力は知っているし、何よりその巨体が接近することは、生身の歩兵の立場からすればたまったものではない。

 機関砲から拳銃まで、兵士達は狂ったようにトリガーを引き続けた。


 すべては、銃火を目の前の巨人に叩き付けるために。


 そうしなければ、


 自分達が殺されることがわかっているのだ。


 そのための死に物狂いの攻撃。


 だが―――


 ブンッ!


 中華帝国兵士、そしてSAS隊員達の前で、さつき騎は一瞬にして飛び来る火線をかわしてのけ、反撃に出た。


 35ミリ機関砲弾が建物に容赦なく浴びせられ、建物を構成していたあらゆるものが、その場に居合わせた不運な兵士と共に、文字通り引きちぎられ、粉砕されていく。


 その攻撃は、あまりに一方的すぎる。


 中華帝国軍で反撃する者はいない。


 否


 生きている者はほとんどいない。


「建物内部、三階階段付近に微弱な生命反応あり。サーチ完了。建物から地下施設へと侵入が可能です」


「どれくらい仕留めました?」


 目の前の四階建ての建物は、今や爆撃でも受けたような、無惨な姿をさらしていた。

 壁は35ミリ機関砲の攻撃で穴だらけ。窓ガラスは一枚も残っていない。

 外からビルの中身が丸見え。

 屋上の対空機関砲は攻撃で吹き飛ばされ、ビルの下、駐車場に無惨な残骸を転がせている。

 あちこちから煙が上がる中、SAS隊員達が建物の中へと続々と入り込んでいく。


「10や20で聞くと思います?35ミリ砲弾なんて、間近をかすっただけで挽肉です」

「うっわぁ」

 人間が挽肉になるのを想像して、さつきは顔をしかめた。

「近づきたくない。絶対吐くわ」

「……撃った人がそれを言いますか?」

 ピピピッ

 あきれ顔の春日中尉は、MCRメサイア・コントローラー・ルームの中に響いた、その音に反応して、視線をモニターに向けた。

「―――新たな反応?」




 目の前で岩場を超えようとした中華帝国軍の“グーク”。

 その胴体にHMCの一撃が命中して爆発。

 “グーク”の上半身が、まるで打ち出されたロケットのように上空に吹き飛ばされた。

「8騎め!」

 涼騎の持つHMCから使用済みのパワーセルが吐き出される。

 巨大な薬莢が地面に弾け、山の斜面を転がっていく。




 一体、何なんだ?

 やつら、一体何者だ?


 遮蔽物の影から、その光景を睨んでいたのは、中華帝国軍メース中隊の王少佐は、混乱する頭を酷使して事態を把握しようとした。

 インド戦線へ向かう途中、ここを通りかかった所で、突然、攻撃を受けた。


 第二砲兵隊最重要指定区域。


 地図上に示されたそんな場所に、自分達が迷い込んだことを知ったのは、この攻撃を受けてからだ。


 禁止区域に侵入したため、警告発砲された。


 王少佐は当初、本気でそう思った。

 だから、全チャンネル解放で相手に呼びかけたが、返答はなかった。


 結局、彼が目の前の存在が敵であると断定した理由は一つ。


 その攻撃があまりに強力すぎたから。

 少なくとも、騎体を真っ二つにする魔法攻撃兵器を、中華帝国軍は保有していないし、もし仮に、あれが友軍だったとしても、国内を移動する部隊に、警告もなしに発砲が許されるほど、中華帝国軍の軍規はいい加減ではない。

 後で軍事裁判になろうとも、戦闘記録さえ保存しておけば、十分勝てるという打算もあるが、何よりも王という指揮官が、部下を殺されて黙ってる程腰抜けではないということだ。


 24騎で構成された彼の部隊は、相手が敵だと決心するまでに7騎が騎体のどこか、下手すれば騎体そのものを吹き飛ばされて大地に転がっている。

 朱と馬が山の麓。敵からは死角になる位置にある窪地への侵入を試みたが、王達の目の前で騎体を吹き飛ばされた。


 相手はたった5騎だ。


 やってやれないはずはない。

 数は圧倒的にこっちが上だ。いつまでもこんなことはしていられない。

 とにかく、敵を倒さなければ話にならない。


 ズンッ!


 まるで誘っているように、強力な魔法攻撃が王騎の間近で炸裂。

 大量の土砂がまき散らされた。


「―――っ!」

 その爆発音を、歯を食いしばって耐えた王は、一度、強く山を睨むと、メサイアのセンサーによって収集した地形図に視線を向けた。

 この地形に勝機を見いださなければ負ける。

 否、死ぬ!


「……」


 勝機は

 勝機は


 何度もその言葉を口にしながら、王は地形図を睨んだ。

 裾野にある大きな窪地。

 そこは山脈を形成する岩場が大きくオーバーハングした地形で、逃げ込むにはもってこいの場所だ。

 問題は―――


 その岩場だ。

 ひさしのように張り出したオーバーハングから上は、ほぼ垂直に近い切り立った崖。

 よじ登ることも出来ない。

 人間が徒歩で登ることの出来る道は、かなり遠い。


 大きく迂回して、分散して攻めるか?


 否。


 最も近い山脈の切れ目そのものだって十分な崖。

 地形も険しく、メサイアで登ることは出来ない。


 王は、そこまで考えが至って初めて疑問に思った。


 ―――敵は、どうやってあそこに陣取った?


 敵の陣取っている場所は、平らに開けた絶妙な場所だ。

 ただ、そこに至るには恐ろしく険しい山を登るしか……。

「あっ!」

 王は自分の考え違いを思い知らされた。


 俺は一体、何を考えているんだ!


 相手はメサイアだ。

 ブースターを吹かせて飛び上がればそれで済むじゃないか。


 なら―――ここで俺達もブースターで?


 否。


 それこそいい的になる。


 だけど―――それしか。



 ズンッ!


 地面が揺れた。


 ズズンッ!


 そんな音がして、部隊の中で悲鳴に近い声が駆け回る。


「どうした!?」


「彭がやられました!」

 田騎から報告が入る。

 田騎が抱きかかえているメサイア。

 その頭部には貫通した穴が開いていた。

 コクピットブロックたる頭部を貫通された以上、パイロットが無事であるはずがない。

「あいつら、ちょっとした隙間でも平気で弾を叩き込んでくる!」

「―――くっ!」


 座して死を待つか?


 否!


 断じて否だ!


 相手は5騎。

 狙撃の力は驚くほど正確だ。


 どうする?

 どうする?


 どうする?を5回呟いた王は、ようやく作戦を思いついた。


「第3、第4小隊の生き残りは機関騎槍を装備しろ!擱座した騎を楯にしろ!」

 王は自らも機関騎槍―――メサイアサイズの自動小銃。を太股もウェポンラックから引き抜いた。

「第1小隊と第2小隊の生き残りは!?」

「孫中尉です!自分を含めて5騎!」

「よし!孫、あの窪地に飛び込む。俺に続け」

「はいっ!」

「第3、第4小隊はここで待機!俺の命令と共に敵へ制圧射撃。ありったけの砲弾をあの陣地へたたき込め!」

「ここは俺達の土地だ!これ以上、誰にもいいようにさせるな!」

 25ミリ機関騎槍マシンガンにマガジンを装填した王は、部下に怒鳴った。

「楊、劉、スモークを!」

「はいっ!」

 王騎の横で王の命令を待っていた楊騎と劉騎が、手榴弾型のスモークグレネードを取り出し、投擲した。

 地面に落下して大きくバウンドしたスモークグレネードからは盛大な煙幕が生まれ、それまでの、はっきりとした景色は真っ白な煙の中へと消えていく。

 王は叫んだ。

「一気にいくぞっ!」

「応っ!」






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