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対馬奪還作戦 第六話

 和多都美神社の拝殿の奥には本殿がある。

 その本殿の横。

 そこにフィアは立っている。

 焦点の定まらない目で見つめる先にあるのは、不思議な鳥居だった。

 上から見れば三角形に組まれた鳥居。

 三柱鳥居。

 三本の柱で結界を張っているような錯覚さえ覚えさせる中には、石が奉られている。


「あれが?」

 サイベルはそっとユギオに訊ねた。

「あんなんじゃ、わかんないよねぇ」

 ユギオは感心した様子で腕を組んだ。

「あれが扉だとしたら、世界中の岩を探さなくちゃいけないもんなぁ」


 スッ。

 ユギオ達の前で、フィアの白い腕がそっと伸ばされる。

 ビンッ!

 弓で矢を放ったような、空気をつんざく音がしたかと思うと、三柱鳥居が一瞬にして吹き飛んだ。

 まるで、邪魔者が消えたと言わんばかりのフィアは、石に向かって手をかざした。


 不意に、フィアの手から光が放たれ、その光が石の一部を照らし出す。

 光を受けた石は、卵の殻が砕けるように風化した外部の石がパリパリと割れ始め、そして、石の中からは魔法陣が現れた。


「見つけた!」

 ユギオが呻くように言った。

「あれが―――扉だ!」



 フィアの手から放たれる光を魔法陣全体がその光を吸い込みつくしたのか、魔法陣そのものが青白い強い光を発し始める。

 広げられていたフィアの手が握られたのはその時だ。

 フッ。

 フィアの手から光が消え、魔法陣だけが光を放っている中、その親指と人差し指が何かをつまむように曲げられた。

 クイッ

 そのまま、フィアの手首が動いた。

 すると―――


「おおっ!」

 ユギオ達が声を挙げたの無理はない。

 その目の前で、魔法陣が真っ二つに開いたのだ。

 開かれた魔法陣から、辺りを真っ白に染め上げるほどの強い光がほとばしる。

「扉が開いた!」

 ユギオは思わず身を乗り出した。

「これでヴォルトモード卿が復活する!」

 ユギオの瞳が歪んだ希望に妖しく輝く。

「これで、私の勝ちだ!」


 しかし―――


 扉から現れたのは、彼が期待するモノではなかった。


「な……なんだ?これは」





「ア゛ーッ!」

 監視モニターの前でスゴイ絶叫が響き渡った。

「思い出したぁぁぁぁぁっっっ!!」


「お、お師匠様?ぼ、僕、耳がキーンってしてる……」


「シルフィーネに引き継がないで、そのまま封印かけちゃったんだぁぁぁぁっっ!」

 グイッ!

 力一杯、その細い腕で目の前の少女の胸ぐらを掴むと激しく揺すりまくった。

 ぐぇぇぇっ

 少女は蛙が潰されたような声を挙げるが、その手が止まることない。

「誰よ、こんな初歩的ミスやらかしたのぉっ!―――って、悠理っ!?この私を指さしてる指の意味は何っ!」

 グキッ!

 ミギャァァァッ!

 今度は、猫が尻尾を踏まれたような声があがった。





「……成る程?」

 ユギオの前。

 正確には、フィアの前に現れたのは、光り輝く文字の列だった。


 人類には読むことの出来ない文字の列。


 ユギオは、それを満足そうに眺めると、部下に命じた。


「急げ。画像として保存しろっ!」

「は、はいっ!」

「今回は、直接の扉ではなかったが、これ自体が重大な“鍵”となるだろう」

 ユギオはカメラを構える部下の前で嬉しそうな顔を浮かべたまま、フィアに近づくと、乱暴に抱き寄せた。

 意識があるのか疑わしいフィアは、ユギオの胸の中に顔を埋めた。

「よくやったぞ―――玩具の分際では上等だ。褒美をくれてやろう」

 グイッ

 ユギオはフィアの顎を掴むと、乱暴に唇を奪った。

「―――どうだ?身に余る栄誉だろう?」

 唇を離したユギオは、値踏みするようにフィアの端正な顔をしげしげと見つめた後、フィアを乱暴に突き飛ばした。

「用済みだから、すぐ消してやろうと思ったが、やめた」

 携帯電話を取りだしたユギオの眼中にフィアはもう存在しない。

「運が良ければ、生き残るだろうな―――サイベル」

「ん?」

「合図をしたら、さっきの人間を起こせ。

 ―――ああ。私ですよ。

 お元気でしたか?

 おやおや、そちらは涼しいですか?

 こっちはそろそろ暑くなり始めてましてねぇ。

 いや、羨ましい。

 ……え?ああ。ヴォルトモード卿の封印ですか?

 ええ。遂に情報をつかみました。天界軍が用いたSS級暗号電文と同じ文法です。分析すれば封印地点を割り出せます。

 そうですね……いや、さすがに読みが早い。そうです。そっちの“エモノ”を、ここめがけて一発ぶち込んで欲しいんですよ。人類に情報を渡したくないんで。……いや、喜んでなんて嬉しいなぁ。射撃は一応、規定通りにお願いしますよ?人類どころか、天界の蛆虫どもにも分かるように。はい。では」

 律儀に携帯電話を手にして一礼したユギオは、頭を下げた姿勢のまま携帯電話を胸のポケットにしまい込んだ。

「もうここに用はない。撤退開始だ」

「しかし」

 サイベルは訊ねた。

「ここはどうするんだ?俺の立場上、あの情報は何かは聞かないが、人類に知れたら問題ではないのか?」

「ああ。その通り」

 ユギオは平然と頷いた。

「これはゲームだよ」

「ゲーム?」

「もう我々の勝ちが決まった出来レースだがね」




「何だ?あれは」

 その光景は、“鈴谷すずや”の艦橋からも確認出来た。

 空から走る赤い光。

 まるで、対馬から天に伸びる赤い柱のようにさえ見える。

「CIC、情報は?」

ネガティブ。この艦の分析能力を超えています」

「……ん?」

 プルルッ

 不意に艦橋で呼び出し音を立てたのは、後藤の携帯電話だった。

「……」

 後藤は、液晶に表示された名前を見てギョッとした後、急いで携帯電話を開いた。

「―――後藤です」


 戦闘行動中の戦闘艦の中で携帯電話というのも珍しい話だし、乗組員としては後藤の振る舞いは常軌を逸していると言っても良い。

 ただ、携帯電話をとる後藤の顔は真剣そのものだ。

「……はい。了解しました。海軍の艦艇には、撤退命令を出したのですね?……わかりました。メサイア隊を至急、引き上げさせます。情報に感謝いたします……では」

 携帯電話を閉じ、ポケットにしまい込んだ後藤の顔は、艦長席に座る美夜には、直接は見ることが出来ない。

 ただ、その背中が発するオーラは並大抵のものではない。

「後藤さん」

 それでも、美夜は立場上、言った。

「戦闘中ですよ?」

「艦長」

「はい?」

「……メサイア隊に緊急撤収命令。可及的かつ、速やかに上島周辺から離れるように指示を。それと、“鈴谷すずや”は全周囲バリア展開、衝撃に備えてください」

「はい?」

 美夜はきょとん。とした顔になったが、それを後藤は無視した。

「通信、全チャンネル解放。和泉達に対馬から離れるように命じろ」

「ご、後藤さん?」

「断っておきますが」

 そこで初めて後藤は振り向いた。

 美夜が見たのは、いつもの昼行灯然とした後藤ではない。

 カミソリだった。

「これは、勅諚ちょくじょうです」

「なっ!」

「あの光は、魔族軍の警告です。しかも、対馬に対して砲撃を加えるというね」

「まさか!」

「“あるルート”から、陛下の元へ情報が走った。警告発信時間は10分……すでに7分が経過……間に合うかな」

「陸軍は!」

「下島は衝撃波が走る程度でしょうかね……山とリアス式の地形が上手く被害をそらしてくれることを祈るしかないですな」



「あーっ。畜生!」

 フィアを背負いながら、都築は愛騎の掌に乗った。

 神社が壊れるのも構わずメサイアを前進させたMCメサイア・コントローラーの判断の後ろにあるのは、ただごとではない。

 それだけは都築にも察しが付いた。

「痛たたっ……何が起きたってんだ畜生め」


「急いでください!」

 同じようにコクピットに潜り込んださつきを青山中尉がせかした。

殲龍せんりゅうをかかえたまま、ここから逃げますよ!」

「はっ?っていうか!」

 メインスクリーン上に映し出される辺りを照らし出す赤い光。

 さつきは、おろおろしながら訊ねるのが精一杯だ。

「この光はなんですか!?」

「魔族軍の攻撃が来ますっ!着弾まであと1分っ!」

「急いでっ!」

「そっちの被害無視で緊急脱出かけますっ!祈ってくださいっ!」



●大英帝国 ロンドン ダウニング街10番地

「ミラー衛星?」

「はい」

 ボンド卿が、ヒースの前で写真を広げる。

「発射装置そのものはチベット高原に設置されたビーム兵器です」

「……ふむ」

 ヒースは、苦々しげな顔で写真を手にした。

「地上から発射された光線を、衛星軌道上にある衛星のミラーにより、自在に標的へ命中させることが可能。ミラーを増やせば、地表から衛星軌道に至るまで、死角が無く射撃が可能です」

「ミラーが耐えられるのか?」

「魔族軍の技術でしょう」

 ボンド卿は肩をすくめた。

「そもそも、地上から衛星に到達可能なレーザー兵器自体が、人類の技術を超えているんです」

「……むぅ……ボンド卿」

「は?」

「これが我々に使用される可能性は?」

「……」

 ボンド卿は、深いため息と共に、瞑目した。

「……まさかとは思うが」

「2時間ほど前です」

 ボンド卿の声には、沈痛な色が含まれていた。

「日本と、そしてカンボジア戦線において、使用が確認されました」

「何だと?」




 ●合衆国 NORAD

「カンボジアとタイの状況は最悪です」

 補佐官は言葉を詰まらせた。

「国土の89%で数千度の熱線が走りました。生存者の可能性は低いはず。全滅と言うより絶滅……そう言った方が良いでしょう」

「……よくもやる」

 ベネット大統領は吐き捨てるように言った。

「連中には人道という概念はないのか?」

「都合のいい相手は人道を語り、悪いと無視するのはどこの国も一緒でしょう」

「それは祖国に対する批判か?」

「何とでも」

「一発目はどこだったかな?」

「日本と韓国の境にある日本領の島、ツシマです」



●“鈴谷すずや”ブリーフィングルーム

「―――よく無事だったわねぇ」

 紅葉が心底感心した。という顔で言った。

「あんた達の悪運には敬意さえ抱くわ」

「……陸軍や海軍は」

 美奈代が皆を代表して訊ねた。

「対馬の地形の関係で、着弾地点からの衝撃波は山の斜面が空へむけてそせらてくれた。だから、あれほどの攻撃でも、下島に展開していた陸軍や海軍には損害らしい損害はない」

「……よかった」

「対馬は最悪だけどね」

 紅葉は言った。

「浅茅湾は地形が変わったわ。神社だっけ?都築達が脱出した地点は完全に消滅。クレーターになって海に没した―――偵察機から撮影したのが、これ」

 航空写真上に映し出された浅茅湾の入り組んだリアス式海岸に、はっきりとわかる円形の痕跡に、美奈代達は言葉もない。

「推定エネルギーは―――難しいけどね?カンボジア戦線でのことを考えると」

 言いかけた紅葉は、美奈代達をジロリと眺めてから咳払いした。

「わかりやすく言うと、艦艇用魔晶石エンジン20隻分から30隻分の全出力を、MLマジックレーザーに変換して発射しているのと同じ」

「撃ったのは、どこですか?」

「世界各国がすでに確認しているけど―――チベットよ」

「チベットって、あのチベットですか?」

「どういうチベットか知らないけど、とりあえず、そこから発射したエネルギー体を、ミラー衛星で軌道修正して、それを対象にぶつけた……よく考えたわ」

「エネルギー体?」

「あんた達の使うMLマジックレーザーと一緒。エネルギーをカプセル状の魔法作用で包み込む。それを撃ち出すだけ。この時のメリットは、大気中の抵抗によってロスするエネルギーはカプセルに使われるエネルギーだけ、目標に命中したカプセル・エネルギーは衝撃で破壊されて、中の純粋なエネルギーが解放されて―――ドンッ」

 紅葉は掌を握って離した。

「放射能を出さない戦略級大型反応弾って思っても良い。まぁ、そんなの顔負けの破壊力だけどね」

「一体、誰が?」

「そんなの」

 紅葉は笑って言った。

「チベットが今、どこの領土か知った上での発言かしら?」




●米国 ホワイトハウス

「次の狙いは、インドか日本、最悪、我が国となる可能性も」

「衛星を破壊することは?」

「情報を鵜呑みにする限り、衛星には魔晶石エンジンが搭載され、常に防御魔法がかけられています。衛星破壊ミサイル程度では蚊が指した程度でしょう」

「……かといって」

「チベットへ反応弾を使用すれば、宣戦布告と同じ意味を生み出すことになります。地理的には海からの侵攻は絶望的。陸上からでは、チベット高原のあらゆる自然環境が牙を剥きます」

「どうしろと?」

「統合参謀本部から作戦が立案されています。大統領」

「……聞こう」

 ベネットは、渋い顔で頷いた。

「破壊するのではなく、乗っ取るのです」

「おいおい」

 ベネットは肩をすくめた。

「ハリウッド映画を見すぎたんじゃないのかい?」

「私は本気で申し上げています」

 補佐官は表情を変えることもなく言った。

「これほどの兵器です。手にしたいというのが参謀本部の本音です」

「……だろうね」

「我々としては、どうあってもこれが欲しい。そのため、この地域に少数精鋭の部隊を送り込み、施設の制圧を試みます」

「中華帝国軍も無能ではあるまい?かなりの防衛部隊がいると言ったのは君達だろう?」

「ですから」

 補佐官は言った。

「我々も精鋭をもって当たります。問題はありますが」

「言いたまえ―――この砲を米国本土に撃ち込まれたら終わりだ。そうならないためには、私も出来る限りの事をしよう」

「閣下にお願いしたいのは、ただの黙認です」

「黙認?

「我が軍は、この作戦に参加しません」

「何だって?」

「参加しない、その理由は、ここで米軍が中華帝国を攻撃したと認識された場合、中華帝国政府をどのように刺激するか推測がつかないからです。従って、リスクを他国にとらせます」

「卑怯なことだ」

「中華帝国軍を刺激して、反応弾搭載型の東風でも撃ち込まれたらアウトです」

 少し多弁になりかけたことを自覚した補佐官は、ややわざとらしく咳払いした。

「相応の見返りは与えます。英国軍、SASに頼るのは、何も我が特殊部隊の面々が、SASに劣るというのではないのです。ご了承下さい。閣下」

「……わかった」






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