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対馬奪還作戦 第四話

「……さて」

 針路を固定した宗像が呟いた。

「フネは行く行く煙は残る。残る煙が―――ん?どうした?和泉」

「……いや」

 なぜか、美奈代は憮然とした顔だ。

「ふと、理不尽だと思って」

「自分の存在が?」

「何だと?」

「何だ?せっかく眼福モノの光景を見たばかりだろう?」

「……どうして、同じ作戦行動中なのに、あの時は怒られて、今はいいんだろうって」

「説明が必要か?」

「わかってはいる」

 美奈代は言った。

「ただ、感情的に納得出来ない」

「世の中はそんなものさ」

 宗像は哀れむような声で、

「理不尽ばかりがまかり通る―――それで世の中回ってるのさ」

 そう言った。

「そのとばっちりを受けやすいのが和泉みたいなタイプというワケさ」

「バカにしてるのか?」

「笑って欲しいならお望み通りにしてやるが?」

「―――結構だ」

 わざとらしい咳払いの後、美奈代は言った。

「編隊全騎へ。大和の攻撃が成功するかどうかは、我々にかかっている」

 美奈代達の前方には、どんよりとした雲が一面を覆っている。

「我々が敵を引きつける間に連中が斬り込む。戦闘機や攻撃機相手なら周辺の防空担当艦で十分だが」


 美奈代は、一列に進む大和達の周囲を固めた駆逐艦を思い出した。

 秋月級防空駆逐艦と大淀級イージス艦。

 本来の海軍における水上部隊の花形達だ。

 普通の戦場において、大淀級イージス艦一隻で大和級4隻を仕留めることは不可能ではない。

 大和級も近接防御用のCIWSを備えてはいるが、あくまで対地砲撃支援を目的として建造された戦闘砲撃支援艦という分類名が示す通り、対艦戦なんて、二の次どころか使用目的の中に基本的に入っていない。


 現代の対水上艦艇戦で使われるカードは基本が対艦ミサイル。

 砲弾は攻撃手段ではなく、防御手段の内に分類されてしまう。


 対艦ミサイルが主役武装となる、現代の駆逐艦と、艦艇を攻撃目標としない砲が主力武装の戦艦は、戦う土俵が元から違う以上、この二つを競わせること自体に無理がある。


 そしてそれは、韓国軍の保有するイージス艦や対艦ミサイルを装備する全ての兵器に言えることだ。


 対艦ミサイルに狙われたら、大和は危険な立場に立たされる。


 敵はすべて引きつける位の覚悟がなければ、数千名の将兵をムダな危険にさらすことになる。


 数千の命。


 自分は近衛の軍人であって、海軍の面倒まで責任がとれるか。


 そう言い切って、逃げたい位だ。


 数千名の将兵の命なんて―――私は将軍じゃない!


 コントロールユニットを握る手が妙に汗ばんで、指を開いたままでいいのかさえ分からない。


「―――焦るなよ」

 諭すような宗像の声が、不思議と心に染み渡る。

「世界の未来が自分の双肩にかかっているなんて、そんなのはバカな政治屋か、ケツの青い子供にでも思わせておけばいい」

「私は期待されていないってことか?」

「―――そう思うことで、肩の力が抜けるなら、そう思うことだ」

「そうは言うが……しくじったら……そう思うとな」

「海軍だってバカじゃないし、きっとあっちはあっちで艦隊護衛がつくはずだ。後藤隊長が言っていたろう?福岡から増援があると」

「そ……そうか!」

「そうだ」

「そうだな―――丸腰で敵陣に斬り込ませるほど、海軍も近衛もバカじゃないよな。ははっ。私、何考えてるんだろう」

「―――そういうことだ」

「ありがとう宗像。いいことに気付かせてくれた。全騎、すまない。引きつけられる限り、我々が引きつければいい。我々は島の中央部に攻め込む。第一目標は対馬空港。空港制圧後、下島へ移動を開始する。敵は発見次第、片っ端から殺せ」

「本当にいいんですか?」

「いい」

 心配そうな美晴に、美奈代は言い切った。

「歩兵だって対空ミサイルで武装している可能性がある。下手に見逃せば、それだけで数百人を危険にさらすことになる。後衛は広域火焔掃射装置スイーパーズフレイム装備。全てを焼き払え」

「……っ」

「何なら」

 言葉を詰まらせ、顔をしかめた美晴に、美奈代は言った。

「斬り込みと変わろうか?」

「……いえ!」

 美晴はきっぱりと答えた。

「私達がやるのは殺しです。一人と百人。数は違っても、やってることは変わりませんし、何より」

「何より?」

「―――後衛の方が楽ですから」

「……そうか」

 美奈代は頷くだけに留めた。

「斬り込みは私と宗像、そして都築でやる。後衛は美晴と山崎がつけ」

「了解」

「ちょっと!」

 通信に割り込んできたのはフィアだ。

「私達は!?私とかおるに涼は!さつきだっていないじゃない!」

「涼」

 美奈代はフィアを公然と無視して言った。

「足手まといの護衛を頼む」

「なっ!?」

殲龍せんりゅうの電波妨害で、戦域の情報網を全て制圧する。フィア?お前の敵は目の前でドンパチやる連中じゃない。目に見えない、敵の電波だ」

「……それ、違う」

 怒りに震えるフィアは首を横に振った。

「私の敵は、いつだってあんたよ」

「ああ。そう―――早瀬、第四種装備の涼達に接近戦は無理だ。お前の槍が頼りになる。心細いかもしれないが、二人の命は預ける」

「了解」

 さつきは意地の悪い笑顔を浮かべながら頷いた。

「任されて♪涼、かおる?私達は海の上でフィアちゃんを護ることが仕事よ?近づく敵は片っ端から撃墜なさい」

「で、ですけど」

 かおるが困惑気味に答えた。

「私達、メサイアですよ?」

「砲撃支援主体のあんた達は、逆に空の上の方が有利なのよ?わかんない?」

「―――あっ!」

「そう。目立つから敵はひきつけられる。電波妨害は空の方がかけやすい。格闘戦に入る前から片っ端から打ち落とせる」

 さつきは楽しそうに笑いながらビームライフルを装備した。

「私達の戦闘は、ワン・サイド・ゲームよ。美奈代に感謝しなさい?あんた達に背中を任せなかったんじゃなくて、命あずけてるんだから。滅多にないわよ?何も言わずに部下に命運預けることの出来る指揮官って」

「そ、そうですね」

 涼は驚きながらも頷いた。

 HMCハイ・メガ・カノンの扱いには自信がある。

 近づくだけでメサイアを撃ち落とせるはずだ。

 一騎でも多く撃ち落としてやれば、それだけみんなの危険が減る。

 私達にしか出来ないことだ!

かおる!頑張ろうっ!」

「うんっ!」


「……はぁっ」

 二人で熱をあげるのを後目に、ため息をついたのはさつきだ。

「っとにもう。美奈代ってものよ」

 ぽりぽりとさつきは頭を掻いた。

「人選も展開も間違って無いどころじゃないのに、言葉ってものが足りてないのよねぇ……私達のフォローがなければ、まだ指揮官としては甘いよねぇ」

 ぼやくさつきの前で、美奈代達が高度を下げ始めた。

「敵、レーダーコンタクト。こちらをみつけた模様」

 MCメサイア・コントローラーからの報告が入ったのは、美奈代達が海面で水平飛行に入った時だ。

 敵のグレイファントムか?それとも戦闘機か?

「機種は?それと、美奈代が見つかった可能性は?」

「対馬空港を離陸した偵察機。斬り込み部隊が発見された可能性はネガティブ

「フィア?」

「―――やってるわよ」

 フィアは余裕の表情で答えた。

「私達は指向性のマジック・レーザー通信でしか通信できない。固定周波数をのぞいて全部潰しにかかってる。島の半分以上―――下島の8割はもう電波通信が飛んでいない。だから」

「やるじゃない。ところで、だからって、その続きは?」

「さっさと斬り込まないと危ないって事」

「へ?」

「……はぁっ。さつき?美奈代並って言われたい?」

「どういう意味?」

「バカって意味。電波妨害なんてかけたら、“これから襲いかかりますよ”ってわざわざ敵に教えてるのと同じだって事!戦場で通信が出来なければ、何か起きるって警戒するのが普通でしょう?“よーいドン”で襲ったって変わんないわ。あのバカの発想はいつだって幼稚なんだから!」

「じゃ、やめる?」

「まさか!反応弾搭載型のミサイルがあるのよ?涼、かおる?最悪の場合―――出来る?」

「その時は電波妨害をカットしてください」

 かおるが言った。

「ミサイルの推進装置だけ狙います―――後は」

「後は?」

「お祈りでもして下さい」

「―――心強いお言葉で」



「第一打撃戦隊より入電!」

 牧野中尉が怒鳴った。

 フィアの電波妨害の直前で通信が拾えたのは幸いだったが、耳がキーンとなるジャミングのひどさに通信のボリュームを下げるしかなかった。

 耳がおかしくなったのか。大声を出さないと自分でも自分の声が聞き取れない。

「砲撃開始っ!目標は上島方面っ!」

「早いっ!」

 美奈代は目を丸くした。

「いくら何でも早すぎるっ!砲弾が届くんですか?」

「GPS誘導砲弾の射程は対艦ミサイル並ですからね」

 耳をトントン叩きながら牧野中尉は平然と答えた。

「80キロで誤差10メートルないですよ?」

「そんなに?」

「ええ。狙いは上島―――私達が上島に橋頭堡を確保しようとしている。敵は大和級投入の狙いをそう見るでしょう。そうすれば」

「そうすれば?」

「下島にいるメサイア部隊が動いて、対馬空港辺りが主戦場になるでしょう」

「……って」

 美奈代は、牧野中尉の言葉の意味が分かって少し思考をフリーズさせた。

「1時間後には、歩兵を乗せた航空便が届く」

「正確には52分32秒です。既に第一便は空港でタキシングに入ってる時刻ですよ?」

「中止は」

「権限あります?」

「……斬り込むしかない、ですね」

「そういうことです。陸に乗り上げれば、敵も海に戦力を回す余裕はないはずですし」

「私達が囮ですね」

「そのために斬り込み部隊を編成したんでしょう?」

「そうですけど」

 美奈代は呻いた。

「ううっ……言うは易し行うは……」

「自業自得―――命、預けますよ?」

「……了解」


 美奈代の目が、陸を捉えた。

 航空機用の誘導灯が光っている。

 間違いない。

 対馬空港だ。

 そして―――



目標視認イン・サイトっ!全騎っ!かかるぞっ!」





  「来るぞっ!」

 サイレンが鳴り響き、韓国軍の騎士達がグレイファントムに乗り込む。

「バカがっ!」

 機動シークエンスを開始しながら、騎士の一人が吐き捨てるように言った。

「俺達が何のためにここにいるかわかってるのか!?倭人め!」


 彼等が対馬に送り込まれた背景に、実は日本軍なんて存在しない。

 真相としては中華帝国軍が、アニエス達によって壊滅的な損害を被った穴埋めとして派遣されてきたに過ぎないのだ。

 自分達で対処出来なかった敵に、“赤兎より性能的に劣る”グレイファントムKAで対応させようという辺りが、上位指揮権を持つ中華帝国軍司令部の認識を物語っている。


 よく言って天壇に対する備え。

 悪く言えば捨て駒だ。


 ところが、メンツを重んじる韓国軍司令部は、騎士達にこう告げた。

 “中華帝国軍のメサイアでは対抗できないため、貴様等の出陣が求められている”

 天壇から襲ってきた謎のメサイア達は、“赤兎で対応できない”から、“赤兎より性能で勝る”グレイファントムKAを駆る自分達が、中華帝国軍から求められた。

 そこに騎士達は満足していた。

 本気で自分達より格上として振る舞う中華帝国軍将兵の鼻をあかしてやろう。相手が誰だろうと、“世界最強のグレイファントムKA”で殲滅してやるんだ。と、力んでいた。


 ところが、実際に攻めてきたのは、何と日本軍。


 拍子抜けどころではない。


 “自分達より圧倒的に格下”な日本軍なんて、戦った所で勝って当然。そんな弱い奴らと戦うだけ無駄だ。 

「倭人共も思い上がりやがって!」

「俺達相手に勝負になると思ってるのか?」

 騎士達の間にあるのは、そんな怒りにも似た心境だけ。

 日本軍相手に勝ったと宣伝しても、自慢にもならない。


「日本軍はどこに来ているんだ?」

 対馬高校の校庭で起動を終えた騎士がMCメサイア・コントローラーに訊ねた。

「情報をくれ!日本軍はどこに上陸した?どこの部隊が接触した!?」

「日本軍は空港付近に上陸。すでに空港防衛隊は全滅」

「奇襲攻撃か」

「それもありますが……全く歯が立たなかったというべきでしょう。戦闘開始から全滅まで2分とかかっていません」

「冗談だろう?」

 騎士は苦笑いを浮かべるしかなかった。

「空港防衛には2個小隊、10騎が送り込まれたはずだぞ?」

「双方の部隊、シグナルはすでにロスト」

「第6小隊!」

 彼は通信装置に怒鳴った。

「聞こえているな!?空港へ向かうぞ!」


 指揮官騎が戦斧を指揮棒代わりに振るい、それに追い立てられるようにグレイファントム達が空に舞い上がる。

 一般的な電波とは異なる、魔法科学技術の粋をこらしたマジック・レーダーをどうやって妨害しているのかはわからない。

 とにかく、敵がどこにいて、前方にどんな障害があるのか全く不明。

 障害物を避けるために彼等は無意識に高度を上げ、海に出た。

 空港は海岸に面している。

 方向さえ間違わなければ、海岸線をたどっていけば間違いなくたどり着ける。

 彼等の動きの背景には、そんな理屈があったのだが―――


 ドンッ!

 ズンッ!


 海岸線に入った途端、彼等を待ち受けていたのは―――圧倒的な破壊でしかなかった。


「2騎っ!」

「1騎目っ!」

 HMC(ハイ・メガ・カノン)から空となったエネルギーカートリッジが排出される。

 その音さえ爽快に聞こえてくるから不思議だ。

「2騎同時キルは、何度やっても嬉しいねぇ」

 かおるは満足げに、騎体をこちらに向けた新たな獲物に狙いを定めた。

「真面目にやんなさいよ」

 射線上に2騎が重なるタイミングを予測してそこめがけて砲撃を加えるなんて神業じみた芸当、私にはマネ出来ないな。と、涼はちょっとだけ悔しそうに顔をしかめた。

「とにかく、空港へは行かせないで!こっちで食い止めるわよ!?」

「了解っ!」


「宗像、“あれ”は引き受ける。空港制圧に動け!」

「わかった!」

 海岸線から空港の滑走路に飛び込んだ美奈代は、滑走路脇に立っていたグレイファントム2騎に狙いを定めた。

 相手もこちらを視認したのは間違いない。

 手にした戦斧をしっかりと構え、迎撃に備えている。

 飛行速度が速いせいで、敵がまるでズームアップしたようにグングンと近づいてくる。

「そこぉっ!」

 右腕で斬艦刀を突き出し、右の騎を串刺しにしてのけるのと、ほぼ同時にシールドのエッジで左の騎をぶん殴った。

 騎体のスピードに武器の破壊力が上乗せされたのだからたまらない。

 装甲を吹き飛ばされ、美奈代騎の左右でグレイファントム2騎が吹き飛んだ。

 右の騎は斬艦刀で頭を断ち切られ、左の騎は右胸部装甲が大きくへしゃげたまま、大地にひっくりかえった。

 美奈代は戦果を確認することもなく宗像達に合流すべく騎体を操った。

「中尉っ!広域火焔掃射装置スイーパーズフレイムを!残り時間何分ですか!?」

「この調子なら」

 広域火焔掃射装置スイーパーズフレイムのノズルを準備しながら牧野中尉は言った。

「歓迎パーティの飾り付けまで出来るんじゃないですか?」

「これが」

 滑走路脇を地獄の炎で掃射しながら美奈代は怒鳴った。

「歓迎ですか?」

 炎に巻かれた兵士達が滑走路の脇でのたうち回って、そのうち動かなくなる。

「手荒いですねぇ」

「仕方ないじゃないですか―――それで?」

「空港設備は宗像中尉達が制圧にかかっています。空港設備は今後の勝敗にモロに影響しますからね」

「揚陸部隊もあるんでしょう?」

 振り向き様に、火炎放射の範囲を最大に広げた。

 ゴウッ!

 スプレーの様に広がった炎が、背後から迫るグレイファントム達を包み込む。

「くそっ!滑走路が壊れるっ!」

 舌打ち一つ、広域火焔掃射装置スイーパーズフレイムのノズルをマウント位置に戻した美奈代は、斬艦刀を引き抜いた。

「グレイファントム、数12接近中―――先程の攻撃で3を焼却。それと、宗像中尉達も戦闘開始。あちらの数は7、いえ8」

「数が少ない分、代わって欲しい」

「いつだってあなたは貧乏くじを引くみたいですね。つきあう私の身にもなって下さいな」

「す、すみません……」

「謝ればいいってもんじゃないです」

「っていうか!」

 美奈代は騎体を前進させ、すれ違い様に一騎を真っ二つに切り裂いた。

「何で私、怒られなくちゃいけないんですか?」

「さぁ?……あら?」

 牧野中尉が異変に気付いたのは、その時だった。

「電波妨害が」

「はいっ!?」

 左からの戦斧の一撃をシールドでそらし、右の騎に斬艦刀を突き立てるパターンは美奈代の定番のような攻撃方法だが、確実に相手を仕留めることが出来る分、不満はない。

 隙を見せたら殺される。

 美奈代は倒れようとする左騎を蹴り飛ばし、左側からの攻撃を牽制。右側へと斬り込んだ。

「電波妨害が止まりました!」

「それがどうしたっていうんです!」

 戦斧ごとグレイファントムを真っ二つに断ち割り、シールドで殴り倒す。

「ツヴォルフ騎に何か起きた模様!」

「早瀬がいますっ!」

 美奈代は答えた。

「あいつは、私の知っている限り、一番面倒見がいいヤツですから!」

「了解っ!」

 牧野中尉は力強く頷いた。

「仲間を信じましょう―――第一打撃戦隊が、空港周辺への砲撃支援を開始すると宣言!」

 途端に、警報が鳴り響き、戦況モニター上の自分の立ち位置周辺が真っ赤になった。

「大和の艦砲射撃が始まります!」

「後退ですか!?」

「ここで敵を食い止めて下さい!」

「無茶な!」

「艦砲射撃で機甲部隊を叩きます!」

「スコアは減りますけど」

 戦斧をかわし、その背中に斬艦刀を突き立てた美奈代は呟くように言った。

「……任せたい心境ですね」

「ただ、なるべく、急いだ方がいいですね」

「文句は海軍に言って下さい」

「違います」

 牧野中尉は答えた。

「ツヴォルフ騎が上島へ向かって移動を開始」

「フィアが?」




「諸元入力完了」

「砲塔、各部連動よし」

「弾種榴弾―――信管調整高度200で設定」

 対馬沖合を航行する第一打撃戦隊旗艦大和のCICでは、主砲射撃準備が着々と進められていた。

 砲弾の種類は空中炸裂するように設定された榴弾。

 メサイアや装甲戦闘車両にも十分な脅威だ。

「……どうにも」

 CICから出た小沢司令は、昼戦艦橋に急ぎながら呟くしかなかった。

「ワシのようなロートルは、ああいう場所は好かん」

 18で海軍に志願して以来、40年に渡る人生のほとんどを艦と海軍施設で過ごしたという彼は、白いものが目立つようになった頭に制帽をかぶりなおした。

「司令―――対馬への砲撃はすぐですが」

「艦橋で指揮を執る。CICには艦長もいる。コンピューターは若い者に任せて、年寄りは邪魔にならんところにおるとしよう」

 ズンッ!

 通路にいても腹に響く音と衝撃が身体を叩く。

 一瞬、顔をしかめただけで耐え抜いた彼は、艦橋へ通じるラッタルに脚をかけた。

「やれやれ。骨身に染みるわ。コイツの見た目は、ワシと同じ相変わらずのロートルだというのに」

 誰に言うでもなく、小沢の口からポツリと言葉が漏れた。

「……ワシばかりが年老いていくわ」






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