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対馬奪還作戦 第二話

 南米とアフリカにおける魔族軍、こと、妖魔との戦闘は、人類の戦争の概念を大きく変えてしまった。


 基本的に航空戦力が出て、制空権の奪い合いとなった後、機甲部隊が前進し、随伴した歩兵部隊が土地を確保する。


 結局、戦争とは護るべき土地か、戦い続ける力のいずれかを失った方が負ける椅子取りゲームのようなもの。


 それまでの戦争とは、そんなものだった。


 これに対して、魔族軍との戦争は、よく表現して防衛戦。悪く言えば負けばかりを強制された戦いだった。


 電子装備を破壊し、レーダーを使い物にしなくなる厄介者、狩野粒子の影響と、対空ミサイル並の命中率を誇る魔族軍弓兵の防空網は、単に魔族軍の飽和攻撃以前に、人類を十分苦しめた。

 ミサイルは使い物にならず、航空戦力は戦域に到着する前に墜落する。

 高度1万メートルからの高々度爆撃のみが可能だが、それでも損害率は4割が相場。

 精密爆撃は一切不可能。

 その現実の前に、制空権という概念は早々に各国軍司令部の脳内から消えた。

 

 翼も目も知恵も、全てを奪われた人類に残されたのは、大砲と機関銃だけ。

 大地を覆う程の数で攻めてくる魔族軍相手に、人類はほとんど生身で戦うしかない。

 そう言い切っても過言ではなかった。

 こうなればもう、陣地を掘って、敵を死に物狂いで凌ぎ、陣地を護り続けることが出来れば、それだけで十分な勝ち戦と言い切る―――いや、言うしかなかったのだ。


 しかも、


 十分な。


 ではない。


 奇跡に近い勝利。


 ―――こちらの方が表現としては正しい。


 だからこそ、戦争中期までは、この防衛陣地確保さえ叶わず、常に退きながらも、軍は前進していると言う、奇妙な表現が当たり前のように使われていたのだ。


 この流れを変えたのがメサイアだ。


 メサイアの量産が可能となった戦争中期からは、メサイアが前進して妖魔達をなぎ倒し、機甲部隊が、メサイアの踵によって描かれたラインを確保する。

 ラインはそのまま新しい防衛線として規定され、メサイアは再び前へと出ては新たなラインを描く。

 機甲部隊は新たなラインの確保に動き―――


 そんな戦いが可能になったのは事実だ。

 そうでなければ、いつまで経っても戦争は終わらなかったろう。


 肝心なことは、人類にとって二つの大陸における戦争は、基本的に侵略的な意味での戦争ではなかったということだ。


 そう。


 攻めるより守ることが基本。


 戦争運営の基本は、防衛が中心。


 機甲部隊が華々しく前進し、妖魔をなぎ倒して土地を奪還するなんてことは基本的にやらないし、やれる余裕は誰にもなかった。


 部隊を失いたくなければ、まず、陣地構築に適切な土地をメサイアで確保し、Wの字型の陣地を構築。

 機甲部隊で妖魔の群を待ち伏せし、V字の谷間に誘い込んだ所を十字砲火で撃破する。

 目的は、その地域の妖魔を少しでも減らすこと。

 数を減らしさえすれば、その分、魔族軍の攻撃は弱まっていく。

 魔族軍の妖魔の数を、ある程度減らしたところで、次の陣地構築に適した土地に狙いを定め、メサイアを前進させる。

 そこが確保されて、妖魔の数が減ったら再び―――


 これが人類の戦法の基本だ。


 この戦法においては、対機甲部隊戦を前提に開発された最新型の戦闘車両を必要としなかった。

 M1やチャレンジャーなんて、戦争初期の段階で役立たずのレッテルを貼られて戦場から消えた。

 アパッチ攻撃ヘリなんて見たことのある者はいない。

 狩野粒子の影響で電子装備は使い物にならず、エンジンを電子制御にしようとすれば、確実にエンジンすら使い物にならない。

 さらに、弓矢で戦車の正面装甲を貫通力するという、非常識なまでに強力な魔族軍を前に、戦車砲から身を守るための装甲なんて気休めに過ぎないという絶望的な意味での現実があったからだ。

 

 戦車の装甲というものが、この時代程、軽んじられた時代もそうはなかったろう。


 全ての軍で共通していたのは、装甲で魔族軍の攻撃を止めることは出来ないという認識だけ。


 ならどうする?

 いたずらに撃破されろと?

 ―――違う。


 答えは二つに分かれた。


 そらすか―――諦めるか。


 矢を逸らすために曲線を多用した戦車を開発した国もあるし、あるいは命中したら諦めろと開き直った国もあるということだ。

 前者の中心がアメリカやイギリスで、後者が日本やドイツだ《実際には、日本やドイツ軍の方が、戦車単体での装甲は厚い。あくまで彼等が諦めたのは弓兵戦闘上の防御力だけ》


 いざという時、従来の機甲戦闘で魔族軍を圧倒し、逆に機動性と、その数で押し切ってやろうという、都合のいい概念を捨てられなかった米英は、かつての主力戦車M48パットンをベースとした戦車を大量生産し、戦場に送り込んだ。


 これに対して、陣地防衛のための移動砲台やトーチカ程度の役割しか戦車に与えなかった日独は、パンターやヤークトパンターをベースにした八式戦車シリーズ、あるいはレオパルトやカノーネンヤークトパンツァーをベースにした戦車を送り込んだ。


 両勢力の機甲部隊運用概念の違いは、機動戦と防衛戦のいずれを重視するか―――そして、戦車の形状という目に見える差異となって現れた点では、極めて興味深いものがある。


 どちらの判断が正しかったか?


 それを判断する明確な基準はない。

 損害で判断するか、或いは、撃破した妖魔の数か。

 論者によって勝敗は様々であり、論議は尽きることはないだろう。


 しかし、この概念の違いにおいて特筆すべきは、日独が奇しくも同じタイプの戦車を送り込んだことだ。


 駆逐戦車。


 砲塔を持たず、その分、装弾数や砲を大型化させた戦車達。


 あくまで機動性重視の米英軍に対して、待ち伏せ戦術における火力を重視した日独軍の性格の違いというしかない。


 戦争後期においてはメサイアと随伴する英国軍が、その機動性故に他国を随分出し抜いて広い領土を確保出来たことは間違いない。

 ただし、その損害たるや、《対弓兵戦では》装甲を無視したドイツ軍の3倍。

 新領土と呼ばれるアフリカの植民地が、一部の者から“血肉の土地”と呼ばれるのは、そのためだ。


 ―――話を戻す。


 駆逐戦車は、敵戦車の撃破を目的とした、固定式戦闘室に対戦車砲と重装甲を有する対戦車自走砲を表す。

 厳密には戦車ではない。防衛戦に投入されることが多く、機動性を生かして攻撃的に運用する戦車とはその役割が異なるのだ。

 主砲を半ば固定しているため、戦闘正面の転換に際しては敏捷性に欠け、砲の範囲外を指向する際に車体ごと旋回する必要があり、結果として変速機、足回りの負担が強く、信頼性に問題があるのが、そんな使い方をされる理由だ。


 日本軍とドイツ軍は、機動戦をほとんど考えていなかったので、これで十分だった。


 相手は魔族軍―――妖魔―――バケモノ―――人間では、ない。


 駆逐戦車は、そんなバケモノ相手に使うことを前提に作られている。


 それが、人間相手に使われたらどうなるか。


 九州での戦いは、まさにそれが試された。


 新井中佐達は、本人達にとっては不本意だろうが、まさにそんな実験に立ち会っていると言える。

 川の土手をうまく使った壕が掘られ、駆逐戦車もそこに巨体を埋めている。

 地形的に、壕は侵攻してくる側からはほとんど見えない。

 侵攻してきた中華帝国軍の戦車部隊は、川の向こうに敵がいるとは思っていなかった。

 突然、川を渡りきった辺りで直撃を受けて、先を進む戦車の砲塔が吹き飛んで、初めて自分達の目の前に何がいるかを知った。


 気付いた時には遅すぎた。


「よしっ!次発装填っ!」

 こちらに向かってくる戦車に直撃だ。

 砲塔基部に命中して小さい爆発が見えた。

 間違いなく、装甲を抜けて中で炸裂したはずだ。

 実際に戦車相手に実弾を発砲した事が初めての新井中佐は、映画のように、すぐに戦車の砲塔が吹き飛ぶ派手な光景が見られると思った。

 しかし、戦車はそのまま走り続けてくる。

「馬鹿なっ、あ、あれでか?」

 こっちは直撃させたんだ。

 それでどうして―――

「……ん?」

 新井は、驚きのあまり目を離したスコープをもう一度、食い入るように見つめた。

 走ってくる戦車から徐々に煙が上がっている。

 砲塔がバコバコと音を立てて上下している。

 ―――なんだ?

 そう思った途端、戦車からマグマのような粘っこい光が噴き出した。

 まるで、首を切られた人間から噴き出す血のように、強い光が辺りに撒き散らかされる。

 新井中佐は、南部鉄器を作る実家の工場を思い出した。

 そう。

 あの光は、溶鉱炉で溶かされた鉄そのものだ。

 つまり―――

「うわっ?」

 操縦手が奇妙な声を上げた。

「何だ?奴ら、中にドラゴン花火でも入れていたのか?」

 ―――成る程?

 若い連中にはそう見えるか。

 噴き出す炎が戦車を包み込んでいく。

 あれでは乗組員の脱出は不可能だ。

 一瞬で炭にでもなったんだろう。

「―――次っ!」

 初撃破の感慨は何もなかった。

 きっと雄叫びくらい上げるだろうと思っていたのに、炎上する戦車に何の感慨もわかなかった。

 訓練通り、次の獲物に新井中佐はトリガーを引く。

 それだけだった。




  「佐賀県での戦況は―――」

 明日に出撃を控えた美奈代達を前に、後藤は言った。

「上々だ」

 黒板には、佐賀県での戦況報告が張り付けられている。

「佐賀県内のテレポートシステムから出現した中華帝国軍は、佐賀県や熊本県方面へと侵出を開始しているが、各地にて防衛線を構築した陸軍と海軍がその前進を阻止。

 熊本で大量生産されていた駆逐戦車が工場から引っ張り出されて、自分達に襲ってくるなんて、中国人共も思いもしなかったろうなぁ」

「数的には、かなりなのですよね?」

「ああ。戦車がダメとなった途端、歩兵による飽和攻撃に切り替えてきたよ」

 何が起きたかは、後藤の顔でわかる。

 こういう話する時、この人は本当に楽しそうだな。と美奈代は思った。

「よせばいいのに、機甲部隊相手に集団突撃だよ。旗翻してラッパや銅鑼ならして“わーっ!”だなんて、いつの時代の戦い方してるんだろうねぇ」

「しかし」

 美晴が訊ねた。

「駆逐戦車がいるってことは、対戦車陣地ですよね?なら、逆に数に勝れば歩兵が陣地に浸透、陣地を内部から破壊することは?」

「さすがによくご存じだと思いたいが、柏の発想は、陸軍の教本通りに過ぎない。言い換えれば、中華帝国軍の指揮官の発想だ」

「?」

「元から敵の集団突撃―――飽和攻撃に備えた陣地を構築していた―――とでも言っておこうか?日本軍の想定は、人間じゃなくて妖魔に対するそれだ」

「まさか!」

 美晴が目を剥いた。

「まさか、人間相手に妖魔だなんて!歩兵相手に対戦車戦を想定してるようなものじゃ!」

「―――和泉」

 後藤は美晴を無視するように訊ねた。

「お前ならど思う?」

「……」

 しばらく考えた後、美奈代は答えた。

「柏には悪いが、いい発想だと思います」

「み、美奈代さん?」

「小銃でも相手が出来る小型妖魔の代わりに人間。大型妖魔の代わりに戦車―――ただ、それだけのことでしょう?」

「……そう思うか?」

「ただ、隊長?」

「ん?」

「アフリカでの教訓。ただそれだけと判断すべきですか?それとも」

 美奈代は冷たい目で後藤を見据えたまま、言った。

「これは、何かの事態を想定した演習なのでしょうか?」

「……演習?」

「そうです」

 美奈代は頷いた。

「陸軍の動きが、あまりにも整然としすぎています。混乱や齟齬が生じたという情報はない。戦力の配置から陣地構築までが、どうしてこうもスムース過ぎるのですか?私には、前々からこうなることがわかっていたようにも見えます」

「……さぁね」

 後藤は肩をすくめた。

「何が言いたいんだ?」

「国内での対妖魔戦闘を予め想定していた」

 美奈代は答えた。

「今回は、その想定ケースを、対中華帝国軍に適用することで場をしのぐことが出来た。その意味では、この戦果は単なるケガの功名……とか」

「……国内で」

 後藤は頷いた。

「対妖魔戦闘を想定するのは、アフリカや南米を見たヤツなら誰でも考える。陸軍は、国内のどこだって戦場になった場合のことを考えて、模擬戦やってるさ」

「……」

 宗像は、ちらりと美奈代を見た。

 口のあたりがモゴモゴしている。

 何か言いたいが、上手くまとまっていない時の美奈代のクセが出ていた。



「―――隊長、それはつまり」

 そっと、宗像は挙手した。

「“あくまで仮想”であって、妖魔が日本に現れるという“決定された未来”に備えたことではない。そういうことですか?」

「……」

 宗像は、すぐに後藤が否定すると思った。

 何か皮肉の一つでも言って煙に巻くだろうと、そう思っていた。

 だが、後藤はまるで豆鉄砲を喰らった鳩のように目を丸くした後、わざとらしい咳払いをした。

「……ああ。そいつは」

「……」

「あくまで仮想―――だ」

「本当ですね?」

「当たり前でしょう?俺は予言者じゃないし、占い師でもない。そんなことが出来るなら、俺は今頃、大もうけしてるか刑務所だ」

「後者を進んでいただきたかったものですが―――いえ、何でもありません」

「ヒデえ言い方だが、とにかくだ」

 パンッ

 後藤は黒板の戦況報告を指示棒で叩いた。

「陣地側面に迂回。歩兵による飽和攻撃を試みた中華帝国軍だったが―――残念だったねぇ。日本軍からすれば、そこは迂回出来るポイントじゃなくて、十字砲火の交差地点だったんだよ」

「そこまでバカなんですか?中国人って」

「アタマがいいヤツは、お前の100万倍いいだろうさ。都築」

「俺、褒められたんですか?」

「そう思いなさい。人間以上を相手に屍山血河を築いて戦術を磨いた国相手にするにゃ、連中はあまりに幼稚にすぎた」

「……具体的には?」

「駆逐戦車ってのは、移動トーチカでしかない。妖魔の飽和攻撃に対処するためにぶっ放したのは、お前達の使う散弾砲と同じキャニスター弾だ」

「あんなものを!?」

 都築が思わず席を蹴った。

「軍は、あんなものを、人めがけてぶっ放したんですか!?」

「落ち着けよ都築―――もともと、あいつは人めがけてぶっ放すために開発されたシロモノだ」

「……」

 都築は、無言で椅子に座り直した。

「中国軍が行うであろう、人海戦術に対抗するために米軍で開発されたのがM1028 キャニスター弾……日本軍は、その有効性というか、“こういう事態”に備えて独自に開発はしていたんだよ。感謝しなさいよ?その技術が、お前達の散弾砲の技術につながって、おかげで今まで助かってるヤツだっているんだろうから」

「……」

「兵器の善悪なんて、誰も語る権利はないさ……とにかく、散弾の十字砲火を受けた連中はその場でミンチさ。生き残っても、火炎放射装置や対人地雷が待っている。

 中華帝国軍の攻撃は、一回で壊滅的な打撃を受けておしまいさ。

 無論、侵攻した中華帝国軍そのものが崩壊すんぜんだからねぇ」

「どういうことです?」

「出現した場所が悪すぎたよ。テレポートシステム付近に対する集中攻撃が始まった。国鉄の誇る列車砲と陸軍のロケットランチャーに自走砲、さらにゃ、烈風改や飛鳥の集中爆撃だろう?後は」

 後藤は、ニヤリと笑った。

「これからの俺達にとっての守護天使様達の手の届く所にいたからねぇ」




「―――大和だよ」

 休憩室に入った所で、コーヒー片手に都築は言った。

「有明海に大和を展開させたんだ」

「大和?」

「46センチ砲搭載艦だ。50口径に延長した主砲の射程距離は45キロ。有明海なら、佐賀のほとんどに届く。あいつらの艦砲射撃なんて喰らったら、無事で済むはずがない」

「佐賀県ねぇ」

 コーヒーを飲みながら、かおるがぼやいた。

「佐賀県なんて、みかん位しか知らないけど」

「おいしいですよね。佐賀のみかん」

「和歌山だって、負けてませんよ」

「ああそうか。大ちゃんって、和歌山だっけ」

「はい。実家でも栽培してるんですよ?」

「覚えておかなくちゃね♪」

「はいはい。ごちそうさま」

 フィアが面白そうに笑って言った。

「ところでさ?みかんって―――何?」



●“鈴谷すずや” 艦橋

「子供達の準備は終わりましたよ?」

「ご苦労」

 メインスクリーンから視線を外さないまま、美夜が小さく頷いた。

「状況は?」

「上々―――そう、言うべきでしょうね」

 メインスクリーンには、九州周辺の日中両軍の展開状況が示されている。

 九州に布陣した中華帝国軍を示す勢力は、佐賀県の数カ所に小さく表示されているだけだ。

 総攻撃が始まったのは昼過ぎのはずだ。

「福岡と熊本方面に機甲部隊を引きつけて、有明海から叩くってのは知っていましたけど」

 後藤が艦橋を離れたのは総攻撃が開始される少し前。

 その時の中華帝国軍の勢力は少なくともこの数倍はあったはずだ。

「陸海軍の総攻撃で、どんだけ始末したんですか?」

「推定3個師団。大和級4隻の集中砲火です。1隻あたり砲兵1個師団に匹敵するとさえ言われています。艦砲射撃に頭を押さえられたまま、上空から飛鳥の絨毯爆撃を受けたなんて言えば、壊滅は避けられないでしょうね」

「念入りというべきか、税金の無駄使いというべきか」

「日本人の死人が出るよりマシでしょう」

「……ごもっとも」

「福岡の支援のためとはいえ、戦艦部隊の中でも最悪の奴らが長崎に待機していたのは、敵にとっては悪夢でしたね」

「……大和と武蔵」

 後藤は指を折りながら訊ねた。

「他、何でしたっけ?」

「越後と紀伊です」

「羨ましいですか?」

「……そりゃ」

 美夜は肩をすくめて小さく笑った。

「大和武蔵は日本の誇りなんて詩を聞きながら育った世代ですからね」

「……ああ、そうか。艦長はその世代でしたね」

「言っておきますけど、私の世代の大和は、戦闘支援艦の方ですからね?」

「もちろん。アフリカ沿岸での軍事貢献で、大和の果たした功績は、他国に戦艦建造ラッシュを引き起こしたほどですからねぇ」

「あの頃は、大和に憧れた若い世代が海軍に入営するなんて、羨ましい副産物もありましたし」

「そりゃ、今でもでしょう?海軍のCMにゃ、よく出てる」

「そうですね―――こんな四角いブロックみたいな飛行艦より、あっちの方がお客を呼べますからね」

「拗ねないでくださいよ。そのうち、大和だって飛行艦型が建造されるかもしれませんよ?」

「そうなったら面白いことになるでしょうね―――ところで?」

「大和級は有明海から離れつつあります。予定通り、長崎沖にて補給の後、対島へ」

「問題は」

 美夜が睨むのは、対馬の沖合に浮かぶ小さな島。

 あの天壇だ。

「魔族軍がどう動くか―――ですね」

「福岡侵攻の時は、対馬にちょっかい出したそうで」

「対馬に配備されていたメサイア部隊に壊滅的打撃を与えたのは事実です。問題は、私達が攻め込んだ時、連中がどう動いて、どちらに味方してくれるか―――かと」

 美夜は、後藤の顔に眉をひそめた。

「どうしたんです?」

「は?」

「何か、浮かない顔してますけど」

「そうですか?」

 後藤は、わざとらしく顔を手で叩いた。

「自分じゃわかんないものですね」

「……子供達に何かあったのですか?」

「……まぁ、艦長ならいいか」

「?」

「宗像が―――あいつにしては他意はなかったでしょうけど、奇妙なこと言いましてね?」

「奇妙なこと?」

「ええ―――妖魔が現れることは、“決定された未来じゃないか”って」

「決定された―――未来?」

「そう。すでに決まっていること……とでもいいましょうか?」

「まさか」

 美夜はぷっと噴き出した。

「そんなことが」

「―――考えると」

 対する後藤は真顔だ。

「最近の全てが納得できるんですよ」


「最近……の?」

「中華帝国軍の日本侵攻は、極めて奇襲に近いほどのスピードで行われた。にもかかわらず、陸海軍、そして近衛は事前にわかっていたかのように部隊を配備……いや」


 後藤は首を横に振った。

 その顔―――否、眼光の鋭い光は、美夜でさえ居すくむほど。

 つまり、後藤は真剣に話しをしていることは、美夜にも分かる。


「もっと前だ―――ずっと前。そう20年前だ……軍需系企業の生産拠点分散の動きが活発化した頃。

 あれ以降、戦車や戦闘機の生産は四国や九州地方で行われるようになった。

 重火器や弾薬の生産もかなりを瀬戸内海の企業が行っている」


「……」


「かつては長野県や静岡が中心だった武器生産拠点は、言ってみれば日本の中心にあった。

それを西へと移動させた。

 米や食料の生産拠点の開拓も九州、東北、そして北海道にシフトする政策が打ち出されたのも、北海道に世界最大級の食料生産プラントが建造したあのプランも20年前」


 



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