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沖縄の戦い 第三話

 ズズンッ!


 魯大佐騎が大地に倒れる。


「やったか!?」

「―――ああ」

 宗像の歓声に近い声に、美奈代は頷いた。

「都築のカタキは討ってやった」

「部隊葬は立派にやってやろうな」

「……そうだな」

「テメエ等っ!」

 通信に割り込んできたのは都築だ。

「人を勝手に殺すな!」

「何だ、生きていたのか?」

「悪かったな!」

 都築は言った。

「コクピットブロックのフレームカウル一枚で助かった!」

「坂城整備班長に何て言われるか、覚悟は出来てるんだな?」

「―――今、戦死したくなった」

「後で回収してやる。それまで無様にひっくりかえっていろ」

 宗像は言った。

「奥手の君にはお似合いだ」

「くそっ!どういう意味だ!?」

「和泉の唇はいただいたぞ」

「―――は?」


「ぜ、全騎っ!」

 明らかに狼狽した声の美奈代が怒鳴った。

「“赤兎せきと”の掃除は終わった!“帝刃ていば”狩りに移行―――」

「大尉っ!」

 牧野中尉が言った。

「“帝刃ていば”、後退しますっ!」

「何っ!?」

 驚いた美奈代の目の前。

 海岸周辺に散開していた“帝刃ていば”達が、次々と離陸。海岸を離れようとしていた。




 沖縄に侵攻したガルガンチュアは、正式には、中華帝国軍正式名称“撃滅4型”の改良型というか、東南アジア戦線各地で産み出された破損騎を流用した、“撃滅4型”の簡易版だ。


 戦時急造型“撃滅4型M2”がその呼称だ。


 “撃滅4型”の主砲が300ミリなのに対し、こちらは海軍の130ミリ速射砲4門を両肩に搭載し、砲単体の破壊力の低下を砲撃スピードの向上で補っている。

 副砲や近接防御用火器も豊富に搭載しており、MCメサイアコントローラーが管理する火器管制システムに支えられた打撃力は、《純粋に打撃力だけなら》他国のメサイアの比ではない。


 このタイプが現在の沖縄に50騎近く配備され、その全てが丘の上で上陸阻止砲撃を試みる2騎の“白雷はくらい”に火力を叩き込んでいた。


 一方、叩き込まれた方はたまったものではなかった。


 一発撃てば百発撃ち返すとはよく使われる言葉だが、ガルガンチュアの反撃は、まさにそれを地でいく。

 丘は130ミリ砲弾の雨を受け、穴だらけにされた。

 “白雷はくらい”とハイメガカノンの最強タッグとはいえ、砲を叩き込まれている間は、顔をあげることさえ出来ない。


 丘に張り付いて命中弾が出ないようにお祈りするのが精一杯だ。


 涼の目の前で砲撃の度に丘が面白いように削れていく。

「い、一体、どれだけ弾持ってるのよ!」

 機動性を完全に無視したガルガンチュアの背後はそれ自体が弾薬庫だということを、涼は知らない。

「た、大尉達は!?」

「“赤兎せきと”隊は全滅、“帝刃ていば”隊が後退」

 MCメサイアコントローラーの高良中尉がそう答えた。

「て、撤退ですか!?」

「違います」

 MCメサイアコントローラーは答えた。

「海岸全域を砲撃対象にするためです」

「か、海岸は中華帝国軍の上陸部隊が!」

「敵の第一波上陸は成功。つまり」

 高良中尉が言葉を詰まらせた。

「我々の上陸阻止が失敗したんです」

「……」

 どだい無理だったんだ。

 涼は唇をかみしめた。

 たった8騎でどうやって万の単位で襲いかかる敵を阻止出来るというんだ。

 私達は神様じゃない!

 もし、こんな少数で勝てるなら、私達はパナマであんなことには―――

 涼の脳裏を、戦死した仲間の顔がよぎる。

 面倒見のいい、物静かな女の子だった。

 あのパナマ運河撤退支援の際、魔族軍の攻撃がFly rulerのコクピットハッチを貫通。

 コクピット内部で発生した爆発で、無残な最後を迎えたあの娘。


 もし、ここで敵の阻止が出来るなら、あの子は死なずに済んだはずだ―――!!


「和泉大尉達が下がります。“鈴谷すずや”の艦砲支援、入ります」

「陸軍の砲兵は?」

「敵の的を増やしてあげるだけです」

 高良中尉はそっけなくそう言う。

「ガルガンチュアの火器管制は、私達、MCメサイアコントローラーがやっていることをお忘れなく」

「ハッキングはダメですか?」

「東南アジア戦線の教訓が活かされていますね……と言いたいんですが」

 ククッ。

 通信装置が、高良中尉の苦笑を伝える。

「データリンクシステムが搭載されていないらしいです。多分、ガルガンチュアに改装された時、外されたんでしょう」

「単独射撃しか出来ない?」

「そうです。おかげでこっちからの介入が出来ないんです」


 砲撃が一段落した。

 朦々と立ち上る白煙の中、頭上を美奈代達が通過していった。

 擱座かくざした都築騎を2騎で担ぎ、その周囲をシールドを構えた騎が護衛する。

 美奈代達が着陸したのは、涼達が頑張る丘からかなり後ろに下がった場所だ。

「山崎は都築騎を“鈴谷すずや”へ移せ。ここに置いておくわけにはいかん」

 美奈代の声が通信機に入る。

「都築の処遇は艦長と坂城さんに任せる。山崎、せっかくの所、ベルゲの代わりをやらせてすまん」

「いえ」

 山崎は答えた。

「何か、持ってくるモノはありますか?」

「予備シールドがあれば有り難いが……」

 美奈代は思いついたように“鈴谷すずや”に通信をつないだ。

「司令部」



「はいこちら後藤」

 後藤は通信に答えた。

「ご苦労さん。いや、和泉は強いねぇ」

「冗談言ってる場合じゃなくて」

「一時的な後退を許可してくれ。“鈴谷すずや”の砲撃でガルガンチュアを叩いている間に。そういいたいんだろ?」

「はい」

「大の字つけて却下」

 後藤は却下と言う言葉に力を込めた。

「何考えてんの。“帝刃ていば”がまだわんさか残ってるんでしょ?」

「し、しかし」

「いい?“帝刃ていば”は撤退のために後退したんじゃない。砲撃の邪魔になるから後退しただけ。その意味分かってる?」

「は……はい」

 美奈代はどもりながら頷いた。

「で……でも」

「ここでお前達が後退したら、敵を勢いづかせるだけだ。認められないよ」

「……」

 美奈代は何故か、戦況モニターを何度もチラチラと見た後で、どうしても説明出来ない。という顔で頷いた。

「わかりました。敵の撃破に努めます」

「そういうこと―――ま、頑張れや」

 後藤は頷くと通信を切った。

「……っ」

 美奈代は悔しそうに唇をかみしめるだけだ。

「おい……和泉?」

「……すまん」

 宗像に美奈代は答えた。

「上手く言えなかった。それに、私もこれでいいのか全く自信がない」

「現在の我々の位置が嘉手納で、“帝刃ていば”達は読谷村付近に展開している。上陸部隊は嘉手納海軍航空隊基地をすでに制圧」

「……ああ」

 宗像の状況確認に、美奈代は律儀に頷いた。

「そのまま敵は嘉手納を通過し、宜野湾、普天間の制圧へ動くだろう」

 美奈代騎の戦況モニターとリンクした宗像騎の戦況モニター上で、美奈代の操作するペンが中華帝国軍の予想針路を描く。

「つまり、敵が我々が後退したと判断してくれる動きを見せつつ、途中で潜んでいれば」

「いれば?」

「我々は進撃する敵の背後から襲いかかることが出来る」

「……お前は」

 宗像は心底情けない。という顔で言った。

「後藤隊長に、それが言いたかったんじゃないのか?」

「……そ、そうだ」


 つまり、後藤と美奈代では敵に襲いかかるタイミングに完全な違いがある。

 後藤は即座に進撃を阻止しろという。

 沖縄に配置されている部隊の規模からすれば当然だ。


 対する美奈代は、敵を有る程度進撃させた後に、その背後から攻撃したいというのだ。


 こちらはこちらで当然なのだ。

 正面からまともにぶつかりたい規模ではない。

 “赤兎せきと”は15騎だったが、“帝刃ていば”は30騎を越えるのだ。

 都築騎を失い、山崎騎を後退させている現状、白兵戦力は自分を含めも4騎しか存在しない。

 1騎で10騎近くを相手にする必要がある。


 現場指揮官としては、無茶としか言い様がないのだ。


 だから、せめて一度後退し、再びタイミングを狙って攻撃をかけたい。


 本当は、美奈代はそう言いたかったのだ。

 だが、美奈代の口べたがそれを許さなかった。

 単に楽がしたい。

 後藤にそう判断され、結局、その誤解を否定出来なかった。

 おかげでこの体たらくだ。


「とにかく、全騎、ECM作動。ここに潜んでいることを、敵に知られるわけにはいかん」

「了解」

 “赤兎せきと”達のサーチから逃れた近衛軍のECM装置が作動する。

 別名で“結界”とも言われるECM装置が産み出す電波妨害は、通常電波から魔法電波まであらゆる探索から騎体を守る優れものだ。

 反面、自分達からの探索も出来ず、通信もつながらなくなる欠点には目をつむるしかない。

「和泉は会話の教室に通った方がいい」

 宗像はため息混じりに呟く。

 心底残念だ。

 美奈代の参謀、参謀としての才能はかなり高い。

 にもかかわらず、全てを台無しにするのは、その口べただ。

 説明能力というか、コミュニケーション能力が恐ろしく欠けている。

 訓練生の頃から、そのおかげで余計な苦労を背負い続けている。

 大尉に昇進してもこの有様だ。


 ―――子供の頃から、何をするにもずっと一人だ。一週間ぐらい、学校と食堂以外で誰とも会話しないのはいつものことだった。


 かつて、美奈代が語ったことがある。


 同じ年頃どころか、大人とさえロクな会話もなく成長した少女。

 誰かから物事を学ぶことなく、ほとんど全てを独学でこなしてきた少女。

 他人と関わらざるを得ない社会での生き方の全てを、知らずに育った少女。

 それが和泉美奈代だ。

 おかげでここまで苦労している。

 普通では考えられない苦労ばかりだ。

 ここまで来れば気の毒しか言い様がない。


「和泉」

 宗像が何かを言おうとしたその時―――


 ズズンッ!

 ―――ギュイイイイインッ!!

 ズズゥゥゥム!!


 丘の向こう側、海岸の方で連続した爆発音が響き渡った。

 着弾と同時に独特な空間干渉音が響き渡る。


 大口径ML(マジックレーザー)砲の着弾音だ。

 砲撃地点は、美奈代達には海岸に思えたが、実際は、嘉手納海軍航空隊基地付近。

 基地に殺到していた中華帝国軍が大打撃を被ったのは言うまでもない。

 ML(マジックレーザー)砲の直撃を受けた戦車が一瞬で蒸発し、着弾の後に解放された魔力が暴走、大爆発を引き起こす。

 その爆風が容赦なく兵士達を挽肉に変え、全てを宙にまき散らす。

 攻撃から逃れようと、中華帝国軍兵士達は航空隊基地の広い滑走路上を逃げまどう。


「和泉」

「……っ」

 美奈代は悔しそうに唇をかみしめた。

 言葉にならない。

「きちんと説明しない後藤隊長も悪い」

 宗像は慰めるように言った。

「“鈴谷すずや”で正面を止める。後ろから叩け―――後藤隊長は、そう言えばよかったんだ」

 結果として、“鈴谷すずや”の攻撃は、中華帝国軍の進撃を止めた。


 とにかくも、中華帝国軍は混乱している。

 今、敵の視線は、甚大な被害の出ている嘉手納海軍航空隊基地に注がれている。

 その意味を、理解出来ない美奈代ではない。

「各騎」

 美奈代は言った。

「ビームライフル装備。もう一度射撃から斬り込むぞ」

「―――了解」

「大尉」

 突然、牧野中尉が言った。

「“帝刃ていば”達が動きます!」




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