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沖縄の戦い 第二話

「“帝刃ていば”隊はコントロールをMCメサイアコントローラーに委譲、各MCメサイアコントローラーは騎体を散開させろ!」

 魯大佐は怒鳴った。

「“赤兎せきと”隊は突撃するっ!敵騎を“帝刃ていば”達に近づけるな!」

「了解っ!」

 “帝刃ていば”達が一斉に散開し、“赤兎せきと”達は密集突撃陣形を形成する。

 MCメサイアコントローラーが告げた。

「ガルガンチュア隊、反撃を開始しますっ!」


「“帝刃ていば”35騎に“赤兎せきと”15騎」

 美奈代の目の前。

 戦術モニター上で、敵がほぼ二手に分かれた。

 “帝刃ていば”は残らず散開。“赤兎せきと”は突撃のために陣形を組む。

「“赤兎せきと”の突撃を“帝刃ていば”が支援するというところですね」

 中華帝国軍の実情を知らない美奈代は、“帝刃ていば”の散開をそう判断した。

 そして―――

「前衛全騎へっ!」

 美奈代は号令した。

「斬り込めっ!」

「了解っ!」



「敵、突撃っ!」

 MCメサイアコントローラーの報告に魯大佐は舌打ちした。

 何の躊躇もなく圧倒的な数を誇る我々に向け、少数で斬り込んできた。

 敵ながら見事なまでの思い切りの良さだ。

 こちらが密集突撃をかけて、吹き飛ばす前に斬り込んできた。

 直感と決断力が少しでも欠けていれば早々出来ない決断だ。

「敵ながら見事だ!」

 魯大佐は何故か不思議な嬉しささえ感じながら部下に命じた。

「迎え撃てっ!」


 魯大佐の目の前。

 白いメサイアが振り下ろした長剣が、“赤兎せきと”が真っ二つに切断したのは、その時だった。


 ―――日本軍は、新型の刀剣を採用した。

 ―――かなりの破壊力を持つらしい。


 魯大佐はそれを噂で聞いてはいた。

 あくまで噂だ。

 まさか、目の前の敵が“それ”を持っているとは考えなかっただけだ。


「ば、馬鹿なっ!」

 騎士達が驚愕の声を残して消えて逝く。

 日本軍のメサイアが装備するのは長大な剣。

 その剣を受け止めようと、“赤兎せきと”が構えた斧。

 剣は、斧を易々と“赤兎せきと”ごと叩き斬ってしまう。


 一瞬にして4騎が仕留められた。


「よしっ!」

 第一突撃で4騎を仕留めた。

 残り11騎。

 約2倍まで数を減らせた。

 美奈代が何としても早く敵騎の数を減らしたいと願う―――いや、焦るのは、後方で砲撃を続ける2騎の存在だ。


 小清水騎と平野騎は近接戦闘装備がない。


 敵に攻め込まれたら終わりなのだ。


「―――そこっ!」

 美奈代は、3騎が立ちはだかるまっただ中へと騎体を飛び込ませた。

 シールドで1騎を突き飛ばし、斬艦刀の切っ先を1騎の喉元に突き刺す。

 生き残った1騎が襲いかかろうとするのを、シールドのエッジを叩き付ける“エッジアタック”で仕留める。


 この間、わずか3秒。


「……お見事」

 牧野中尉は戦果に舌を巻くしかない。


「宗像っ!」


「問題ない」

 宗像騎の斬艦刀が“赤兎せきと”の両脚を薙ぎ払い、そのまま振り下ろされた。

 頭部から胸部に至るまで、装甲を真っ二つに割られた“赤兎せきと”が動きを止めた。

 その横では、美晴騎の薙刀と早瀬騎の槍、山崎騎の斧が、それぞれに獲物を仕留めていた。

「都築は?」



「くそっ!」

 ガンッ!

 都築が渡り合ったのが魯大佐だったのは、都築としては不運だったろう。

 中華帝国軍有数のメサイア使いであるベテランの魯大佐。

 その腕前の違いは、騎体の性能差を容易に越えた。


 打ち込みがかわされ、そのたびに反撃でダメージを受ける。

 ダメージは常に軽微だが、それでも焦燥感が重くのしかかってくる。

 都築にも、それが敵の策略だとわかりはする。

 わかった上で―――


「くそがぁっ!」


 都築は熱くなった。



「ふんっ!」

 魯大佐は繰り出される長剣の一撃を余裕で見切った。

 まだまだ荒削りだが、筋がいい。

 魯大佐は、自分が敵を品定めしていることに気づき、思わず苦笑した。

 相手は生徒ではない。

 敵なのだ。

「どうも」

 逆袈裟切りの一撃をかわしながら魯大佐は呟いた。

「生徒が多すぎるせいだな」

 そう。

 後ろには生徒達がいる。

 大隊長として、ベテランとして、そろそろいい所を見せておかねばなるまい。


 魯大佐は反撃に転じた。


 ガッ!


 一瞬で間合いを詰めた魯大佐騎が、都築騎の腕を掴んだ。

「長剣を使う時は」

 “赤兎せきと”の拳に装備されたナックルガードが都築騎の頭部に叩き付けられた。

「間合いにもっと神経を使えっ!」

 滅茶苦茶に殴られた都築騎の頭部装甲はかなりのダメージを受けた。

 都築騎から、逃れようとする力が弱まったのを感じた魯大佐は戦斧を振り上げた。

「その重装甲をつけた設計者に―――感謝するんだな!」

 ガンッ!

 都築騎の胸部装甲に戦斧がめり込んだ。

 コクピットブロックを直撃だ。

 重装甲でも騎士が無事ではいまい。


 魯大佐の目の前で都築騎が倒れた。



「た、大佐殿がやったぞ!」

「やったぁ!」

 “帝刃ていば”のコクピットで騎士達が歓声をあげた。

 半分にも満たない数しかない日本軍相手に、半ば一方的に潰されていく“赤兎せきと”隊。

 その光景を前に、真っ青になって震えながら戦況を見守っていた騎士達が初めて見た敵を倒した友軍の姿。

 それは、歴史上のあらゆる武人達をも凌ぐ存在として、騎士達の目に映った。



 一方。

「都築騎大破っ!」

 その報に美奈代達は青くなった。

 都築は技量はそれほど低くない。

 むしろかなり高い。

 それは美奈代も認めている。

 その都築騎がたった一騎に潰された。

「都築達は!?」

「バイタルシグナル受信―――生きてますっ!」

 ホウッ。

 美奈代は自分でも驚いたほどのため息をついて、思わず口元を押さえた。

「あのバカ」

 美奈代は恥ずかしさから逃れようと、悪態をついた。

「貴重な騎体を」

「大尉」

「私が後で坂城さんや艦長にどれほど怒られると」

「大尉ってば!」

「あーっ。もう胃が痛い……」

「大尉っ!」

「マスターっ!」

 牧野中尉とさくらが同時に怒鳴った。

「敵接近中っ!」《×2》

「―――へっ?」


 スクリーン上で、魯大佐騎が大きく迫りつつあった。



 都築騎を仕留めた魯大佐騎が、手近にいた美奈代騎に襲いかかってきた。

 ただそれだけなのだが―――


「うそっ!」


 ブンッ!


 振り下ろされた戦斧をかろうじてかわし、間合いを開く。

 敵騎は間合いが開くのを極端に嫌っているらしく、間合いをすぐにつめてしまう。


「これでは斬艦刀が!」


 美奈代は自分の口から出た言葉で、敵の意図が理解出来た。

 間合いが近すぎれば、斬艦刀のような長剣は威力を振るうことが出来ない。

 敵は、それがわかっているのだ。


「―――くそっ!」

 美奈代は敵の戦斧の攻撃をシールドでそらしながら反撃のチャンスをうかがった。

「“帝刃ていば”に動き有り!」

「宗像っ!」

 美奈代は怒鳴った。

「残りを狩れっ!こいつは私が!」



「ほう?」

 敵がシールドを構えながら、長剣を背部にマウントしたことに、魯大佐は正直に感心した。

「こちらの意図がわかるのか?」

 しかも、友軍騎に助けを求めない。

 むしろ、自分をたった一人で相手にすることで、友軍の攻撃を継続させようとしている。

「―――成る程?」

 魯大佐は頷いた。

「―――お前が指揮官か」



 ズンズンズンズンズン―――ッ!!


 連続した爆発が丘を襲ったのは、その時だ。

 ガルガンチュア部隊が、丘から狙撃する平野と小清水の2騎を一斉に攻撃し出したのだ。

 一瞬で丘が炎に覆い尽くされるほどの砲撃。

 それは、“空飛ぶ機動砲台”ガルガンチュアの真骨頂たる光景だった。


「まずっ!」

 丘から吹き飛ばされた土砂が雨のように降り注いでくる中、さつきは青くなった。

「あ、あの二人、大丈夫なの!?」

「その前にっ!」

 MCメサイアコントローラー、春日中尉が怒鳴った。

「目の前の敵を!」


 ギィンッ!


 ―――上手いっ!


 美奈代は受けた攻撃に、正直に舌を巻いた。


 何が上手い?


 戦斧の使い方だ。


 一瞬で柄の持つ位置を変えることで攻撃がどこに来るかを惑わせる。

 柄を持つ位置が数メートルも違えば、攻撃を読み切ることはかなり困難になる。

 おかげで美奈代騎のシールドは傷だらけだ。


「―――くそっ!」

 美奈代は言った。

「こういう人材こそ!!」


 惜しい。


 本当にそう思う。


 もし、これほどの騎士が人類同士の殺し合いで失われたなら、


 もし、それが本当なら、


 人類はなんて愚かなんだろう。



「本当に戦うべきは、人間同士じゃないのにっ!」


 だけど―――これが現実だ。


 相手は人間。


 私も人間。


 どちらも魔族では―――ない。


「くそぉっ!」

 美奈代は振り下ろされた戦斧に合わせるように、シールドを突き出した。


 ガンッ!


 シールドに戦斧が深くめり込む。

 今までにない手応えを、美奈代は確かに感じた。

 STRシステムが“白雷はくらい”の腕に響く激しい衝撃を、擬似感覚として伝えてくる。

 骨が折れたかと錯覚するその衝撃に耐えながら、美奈代は怒鳴った。


「さくらっ!シールドパージっ!」


 バンッ!


「しまった!」

 敵のシールドにめり込んだ戦斧を引き抜こうとしたが、敵はシールドそのものを放棄。

 体勢を低くとった。

 戦斧を振り上げようとする腕に、シールドの重量が加わり、魯大佐騎は動きを止めた。

 しかも、シールドが邪魔で敵の動きが読めない。

 魯大佐は、何の躊躇もなく戦斧を放棄。

 背中にマウントしていた予備戦斧を掴むべく右手を動かした。

 シールドを突き破って、魯大佐騎を敵の攻撃が襲ったのは、その時だった。



 シールドが邪魔で目視は出来ないが、コントロールユニット越しに、敵騎に長剣が突き刺さっている感触が伝わる。


 命中は確実だ。


 牧野中尉はもう感心することさえ忘れて、呆然とするしかなかった。

 一体、どういう機転が働けばここまで出来るんだろう。

 本当に、それがわからない。


 敵にわざとシールドに武器をめり込ませ、引き抜こうとする動きをとらせる。

 その動きに合わせるようにシールドを放棄。

 シールドの重量が武器にかかることで動きを鈍らせる間に斬艦刀を装備。

 シールドの影から、シールドごと敵を突き殺す。

 並の発想ではない。

 戦場の追いつめられた中で、これをやってのけたのだ。

 本当に、並のことではない。



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