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敵のモノは私のモノ

 大地を揺さぶる大型妖魔達の突撃。

 それは、これまでの戦いにおいて全てをなぎ倒してきた絶対的な破壊。

 小高い丘に設営された司令指揮所に立つ魔族側指揮官オーツ大佐は、突撃して行く大型妖魔エディ達の後ろ姿を頼もしげに見つめた。

 体長30メートル前後。体重は100トン以上。

 現在、ヴォルトモード軍が保有する大型妖魔の中では中堅サイズの存在で、新潟コロニーで生まれたばかりの新顔だ。

 まだ若いことを示すシワのない皮膚装甲が黒く、頼もしげに陽光を反射する。

「大隊指揮官」

 近づいてきた副官が、バツの悪そうな顔で言った。

「弓兵による弾幕応射、開始されます」

「中尉」

「……15分です」

「何がだね?」

「敵の砲撃を受けてから、です」

「最初から弓兵を適切に配置して、弾幕応射任務に就かせていたら、第一波の損害のかなりは免れた―――そうは思わないか?」

「……し、しかし……かくも全てが混乱した状況では」

「それを何とかするのが君の役目だろう」

「も、申し訳……」

「人類の武装が、我々の予想を遙かに超えたレベルであることは、作戦参謀として理解していたんだろうな」

「返す言葉も……ございません」

 副官は悔しそうに俯いた。

 オーツ大佐自身、副官の言い分もわかるし、むしろ慰めの言葉の一つもかけてやりたいのが本音だ。

 いくつもの司令部や、かなりの数の指揮官があの爆発で消し炭になった後だ。

 指揮官を失い、混乱する兵達を兵科ごとに収容するだけでも大佐自身、泣きたくなるほどの苦渋を味わったのは確かだ。

 末端の部隊の指揮命令系統が未だ破壊されたまま、軍としての体勢が十分な回復を見せているとは言い難い状況の中で、ここまで体勢を復活させた副官の努力は賞賛されるべきだということは、上官である彼自身が認めるところだ。


 だが、それはあくまで指揮命令系統の復活という点に限定しての話だ。


 戦闘陣形を形勢する上で、対空防御の要である弓兵の配置を忘れた挙げ句、味方に少なくない損害を与えたことは、むしろ罰せられるべき失態だ。


 ―――かなり、疲れているな。


 長年、生死を共にしてきた関係が、普段の副官らしからぬミスの理由を教えてくれる。

 指揮命令系統に心血を注ぎすぎた挙げ句が、肝心の布陣に神経が回らなくなったのだ。

 そして何より、その布陣に許可を与えた、決裁権者である彼自身の失態であることは否定のしようがない。

 とはいえ、攻撃を受けて部下を失ってはじめて自分の失態に気づいたことは、指揮官として隠しておきたい。

 安易に欠陥のある布陣を許可した指揮官の失態ではなく、作戦上のエラーとして、彼に泥をかぶってもらう。

 そして、ここは、適当に慰めの言葉の一つもかけて貸しを作っておくことにしようか。

 それが、全ての世界における“適切な”上下関係というものだ。


 そう決めたオーツ大佐が副官に振り返り、何事かを言おうと口を開いた瞬間だ。


 ズドォォォォォン

 ズズゥゥゥゥゥン


 鈍い粘つくような爆発音が連続して発生。

 オーツ大佐はとっさに身をかがめた。


「何だ!?」

「エディ達の進路で爆発!」

 副官が怒鳴った。

「エディ達に被害が!」

「なっ!?」

 バカな!

 オーツ大佐は副官の言葉を疑った。

 ついさっきまで、あれほど勇壮な突撃を見せてくれていたではないか!

 ―――だが、


 ギャォォォォォッ!

 ヒーアァァァァッ!


「……」

 その光景を見たオーツ大佐は言葉を失った。

 脚を吹き飛ばされ、体液をまき散らしたエディ達が悲鳴を上げて地面をのたうち回っている。

 それも1体や2体ではない。

「な……何が?」

「大隊指揮官!」

 副官は己の職務にしがみついた。

「敵の攻撃です!」

「一体、何を使ったというんだ!飛来音は無かったぞ!?」




 突撃してきた大型妖魔達が地雷を踏んで脚を吹き飛ばされる光景は、涼達も目撃した。

「敵16脱落。敵、侵攻速度変わらず」

「地雷原はすぐに?」

「前衛突破まで30秒―――第4射発射します」

「……ちっ」

 次の第4射を撃ったら後退だ。

 “白雷はくらい”が担いだ巨大な砲、HMC(ハイメガカノン)から放たれる光を見ながら涼は舌打ち一つ、ブースターを臨界に入れた。

 キィィィィン―――ズンッ!

 腹に響く重低音を奏でつつ放たれたHMCの一撃は、高良中尉によって狙いを付けられた哀れなエディの額に命中。その真後ろを走っていたエディの頭部から尻尾までを文字通りバラバラにした後に、3体目のエディの胴体半ばを、得体の知れない巨大な肉塊に変えて消滅した。


 それでもエディ達の進撃は止まらない。


「第4射完了!」

 高良中尉が涼に告げた。

「砲身加熱、冷却中。パワーセルNo5装填、敵、接近しすぎています!」

「大尉!」

「小清水、平野、先に下がれ!宗像、早瀬、時間を稼ぐ。ここは我々が!」

「ああ」

「了解っ!」

 ドンッ

 ズンズンズンッ!

 涼の目の前で、それまで塹壕に潜んでいた3騎の“白雷はくらい”が突然立ち上がり、307ミリ散弾砲を乱射に近い速度で射撃する。

 その弾丸は、単なる散弾ではなく、大型妖魔用に開発された一弾である炸裂型のスラグショット弾。

 どこから仕入れたのかは知らないが、紅葉曰く“戦艦の徹甲弾を改造した”その一撃は、つまりは戦艦の徹甲弾を至近距離の水平射撃されたのと同じだ。

 例えエディといえども、まともに食らえばひとたまりもない。

「芳っ!」

「うんっ!」

 エディ達が次々と倒される光景を前に、フルアーマー化された涼と芳の騎のブースターが点火され、一気に後方跳躍。

 稼いだ距離を活かして5射目を放つ。

 涼騎から放たれた一撃が、1体のエディを切断してのけた。


「ポイント65に移動したら備えろ!」

 美奈代は後ろを確認しないで怒鳴る。

「予備弾倉を踏むんじゃないぞ!?」

「わかってます!」

 いいつつ、涼は山積みにされた弾薬を危うく踏みつける所だった。

「あ……危なぁ……」

「マスター……下手」

「わ、悪かったわねっ!」

 ショコラの冷たい視線を浴びつつ、涼は赤面して怒鳴った。

「それよりパワーセル、さっさと装填出来る限り装填して!中尉、ここからでも射撃出来ますか?少しでも大尉達の支援を!」

「ダメです!ここからでは―――」

 ピーッ!

 コクピットに警報が響き渡る。

「敵!?バカなっ!」

 一瞬、陽光を遮って通過するものがあった。

 オレンジ色の見慣れない騎体が頭上を通過していった。

「―――ちっ!」

 高良中尉の舌打ちがヘッドユニットのスピーカーに響いた刹那、“白雷はくらい”から放たれたML(マジックレーザー)がオレンジ色の騎体を狙うが、間に合わない。

 芳の騎も射撃を試みるが、やはり相手のスピードが速すぎる。

「騎数4、飛行艇1―――かすることもできないなんて!」

「それ、私が傷つくんですが!?」

 高良中尉のササクレだった声に、涼は思わず口を押さえたが、それこそ後の祭りだった。

「私、射撃管制は、そんなに下手じゃありませんよ!?むしろかなり自信が!」

「だったら当ててくださいっ!」



「ひぇぇぇっ……まさか直交コースだったとはね」

 アーコットはアゴを流れた冷や汗を手の甲で拭った。

 敵の観測網を警戒して地上すれすれの超低空を移動中、突然、敵部隊が後退してきた時には、正直、アーコットも肝を冷やした。

 移動速度をとっさに上げ、敵を強行突破した判断は、決して間違っていなかったと思うが―――

「あれ、あの騎体……?」

 それが、白い独特なデザインの騎だったとなれば、事情が少し違ってくる。

 アーコットはモニターを操作して、やり過ごした敵の画像を取り出した。

 やや無骨な分厚い装甲。

 見たことのない巨大な砲。

 それは、かつて自分が苦汁をなめたあの騎とは違う。

「にのなんとか言うのとは……違う?何だ?あの悪趣味なデザインは」

「隊長っ!」

 部下から通信が入る。

「―――やばっ!」

 巨大な煙突の残骸が急速にズームアップしたように目の前に迫り来る。

 サライマをとっさにひねって回避。

「あ……危な……」

「ご無事で?」

「え、あ、ああ―――ラズリ、さっきの騎を見たか?」

「はい。ただ、先に隊長が交戦した部隊とは、形状がやや違うと思います」

「別部隊かな」

「おそらく」

「じゃ、とりあえず今は―――!」

 焼けこげた大地が終わり、半壊したとはいえ人間の建物が並ぶ光景が目に入ってくる。

 大型の天幕と車が集結している。天幕の付近は様々な大きさの箱が山積みされている。

 こちらに気づいたのだろう。人間達の動きがにわかにあわただしくなった。

 大きな建物の近くに2騎、黒いメースが片膝状態で待機しているが、こちらをやり合うには時間的に間に合うまい。

 アーコットは部下に怒鳴った。

「全騎っ!食い物は後でいい。今は武器を探せ!」

「了解っ!」




「第8補給所が!?」

 涼達と合流、弾薬を補給中の美奈代は、その報告に耳を疑った。

「敵の奇襲を受けました」

 牧野中尉は冷たい声でそう言った。

「ドイツ騎士団の後衛は!司令部は!?」

「防衛隊は全滅。反応ありません。司令部からは何も」

「―――っ!」

「敵の狙いは後方攪乱、もしくは」

「もしくは?」

「―――いえ」

 牧野中尉はそれを否定。

 口の中で呟く程度に抑えた。

「いくら何でも……補給物資を狙ったなんて」




 魔法弾で蜂の巣にされたドイツ軍メサイア“ノイシア”が無惨な残骸を晒す中、アーコット達は補給物資の入ったコンテナを片っ端から物色し、アーコット達が護衛した補給艇から降り立った兵士達が各所で逃げる敵の掃討を開始している。

 アーコットは、目の前で両手を挙げた人類側兵士がオーク兵に真っ二つにされたのを一瞥するに止めた。

 今は、そんなことに構っているヒマはどこにもない。

「これは……何だこれ?おい、あったか!?」

 アーコットはコンテナからこぼれた得体の知れない、金属の塊《メサイアの駆動パーツ》を蹴り飛ばし、部下の戦果を問いかけた。

「あった!」

 簡易倉庫の屋根を引っぺがした“サライマ”から通信が入る。

 その“サライマ”が手にしているのは、アーコットの見る所、どうやら実弾系の発射筒らしい。

「ここに山ほど並んでいる!そこのメースが握ってるのと同じでさ!」

「よくやったマーキー、タマを探せ!それから、他の連中は使えるものは片っ端から奪え!剣、槍、シールド、全てだ!」

「隊長!タマあった、形が似ているから間違いない!」

「よし貸せ!―――多分」

 アーコットは手にしたMG-33ラインメタル製メサイア用汎用機関砲と、“ノイシア”の残骸が手にしたものとを見比べながら、

「これで―――どうだ?」

 自信はなかったが、とりあえず弾丸を装填してみる。

 そして、“ノイシア”の残骸へ向けて引き金を引いた。

 ズガガガガガガッ!

 連続した120ミリ砲の発砲音と反動がアーコット騎を襲い、“ノイシア”が壊れた人形のように踊る。

「反動の割にゃ……大したことないねぇ」

 アーコットは呆れたように銃口から煙を上げるMG-33を見た。

「何だい。人類はこんな程度のシロモノか?」

「隊長、実剣もあったぜ!」

「今のうちだ、いただけるモンは全部もらっちいまな!スーフィ、モーリン、さっさとコイツを持って警戒につきな!」

「応っ!」

「隊長、酒だ!酒があったぞ!」

「最優先で詰め込め!クーリーズ、工兵隊に命じて“例のブツ”をどっかに仕掛けろ!」

「了解!」





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