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涼と芳

●鈴谷ブリーフィングルーム

「まぁ……これで俺達独立愚連隊も、一端のチームになったわけだ」

 美奈代達を前に、後藤はやる気の疑わしい声で続けた。

「前衛は宗像と早瀬、それと都築。中衛に山崎に柏。中衛指揮を和泉、後衛を小清水、平野っと―――後衛騎は現在、追加武装の装着作業中。ブリーフィング終了したらすぐに訓練プログラム入ってくれ」

「了解」

「了解―――あの?」

 芳が敬礼しつつ、首を傾げた。

「追加武装って?」

「いいモンだよぉ?」

 後藤はニンマリしながら言った。

「アニメで言えば無敵モードさ」



「うっわぁ!」

 ハンガーデッキで歓声をあげたのは芳だ。

「すっごぉ!」

 そこに立つのは二騎のメサイア。

 自分達の“白雷はくらい”だが―――最早別物となっていた。

 どちらかと言えば、優美なデザインに属するその騎体は、今や無骨な重装甲によって包まれているのだ。

「フルアーマーだ!」

「制作者の趣味丸出しね……さすが津島中佐」

「“白雷はくらい”第四種装備だ」

 背後からの声に驚いて振り向くと、坂城が立っていた。

「一部のアーマーは各関節部の最大可動域に影響しないフローティング装甲だ。機体の駆動性に最大限配慮した設計はもう芸術のレベルさ。

 しかも、多重空間装甲の上にAMLCアンチ・マジックレーザー・コーティングの最新型を施しているから、大口径のML(マジックレーザー)の直撃にも5秒間耐えられるオマケ付きだ」

「うわ―――スゴッ」

 手元の端末でデータを見たさつきが驚きの声をあげたのも無理はない。

「ねえ、坂城さん。これって私の騎体には?」

「無茶言うなよ」

 坂城は肩をすくめた。

「こりゃ全部、HMC(ハイ・メガ・カノン)ぶっ放すためだけのシロモノだ」

「へ?」

「つまり―――嬢ちゃんの足りねぇアタマでもわかるように話すとだな?この追加武装の全部は、大型の大砲を撃つための安全装置なんだ」

「で、でも」さつきは不満げに言った。

「加速性能が加わっているし、これ装備したらシールドいらないわけで」

「万一の時の逃げ足確保してるってだけさ。いいか?こんな重装備だ。肩だの関節だの、あっちこっちに負荷がかかりまくる。常時負荷状態ってヤツだ。そんな状態で格闘戦なんてやって見ろ。すぐに関節異常過負荷、各部破損、機能停止のオンパレードだ。何より」

 ビーッ!

 ビーッ!

 警報が鳴り響く中、ウィンチで吊された異様にデカい砲が“白雷はくらい”に装着されようとしていた。

「あれがHMC(ハイ・メガ・カノン)―――近衛でもこの2騎にしか装備されちゃいねぇ」

「津島中佐のビームバズーカとは違うんですか?」

「魔族軍のML(マジックレーザー)と同じ理論でこのサイズだそうだ。VTRは見たが、破壊力が段違いだ。まともに食らえば戦車を蒸発させられる」

 整備兵がHMC(ハイ・メガ・カノン)を肩にマウントする作業を見守りつつ、坂城は肩をすくめた。

「捕獲したのはいいが、完璧にコピーするには紅葉のアタマでも無理らしい」

「ふぅん?あの天才児でも、無理はあるんだぁ」

「あのぉ……」

 話から置き去りにされた芳が手を挙げた。

「誰ですか?その紅葉って人」

「開発局の天才児だ。この“白雷はくらい”やFly rulerの開発者さ」

「へぇ?」

 芳がちらりと涼の顔を伺うが、涼も首を横に振った。

「ん?Fly rulerの初陣を担当したんだろう?出会わなかったのか?」

「大尉、開発担当として私達がお会いしたのは白石技術大尉です」

「……そっちの方が誰だか忘れかけていたな」

「和泉、誰だ?」

「宗像、お前はオトコのことはすぐに忘れるな。津島中佐の奴隷というか腰巾着というか―――とにかくそんなヤツいたろう?ほら、白衣を着た」

「……お前もかなりヒドいこと言ってるぞ」

 マウントが終了。各部接続が開始されるのを見守りつつ、宗像は訊ねた。

「―――こうして見ると、“白雷はくらい”とはまるで別物としかいいようがないですが」

「そうだな。華奢な女が“白雷はくらい”なら、こいつはまるで相撲取りだ」

 サングラスに隠れた坂城の眉が歪んだ。

「……ったく、こんな分厚い装甲が吹き飛んでミサイルが飛び出すとか、ロケットパンチを繰り出すくらいのギミックは欲しいもんだぜ」

「あの?坂城班長?」

「……ブツブツ……いつになったら司令部はマ***ーZを作ってくれるんだ」

「だから!」

 不満げに口元ほとがらせたのはさつきだ。

「どうしてこのカッチョイイのが、この二人のだけなんですか?」

「鉄人はもうちょっとパスしてぇしなぁ……ありゃヒドすぎだ……だから……このHMC(ハイ・メガ・カノン)をぶっ放すためだって」

「……坂城班長?」

 ようやく、その意味に行き当たったのは涼だ。

「それってつまり」

「そうだ」

 坂城は気の毒そうな声で頷いた。

「まじめな話、この重武装は、正確には敵からの攻撃に備えたもんじゃねぇ」

 全員の視線が“白雷はくらい”にむけられる。

「―――エモノが爆発した時の保険だ」

「……」

「ついでに、これはマジメな話だから覚えておけ」

「……」

「装甲の付け方というか、一番命中しやすい場所という関係で、胸部装甲は異様に分厚い。そのせいというか……俺は絶対、設計ミスだと思うが……とにかく、装甲の緊急射出が効かない上に、騎体本体も重量増加分を補うために、余計なパーツを外している。たとえば―――コクピット射出装置とかな」

「……あの?」

「ハッチ塞ぐ装甲が飛ばない以上、射出装置なんて意味ねぇだろう?整備班のよしみで、コクピットの裏にバーナーとレンチを置いてやる。もしもの時は、それ使って、蒸し焼きか丸焼きにされねえウチに逃げろや」


「整備班長」

 真っ青になってコクピットに向かう涼達を前に、美奈代が坂城に言った。

「いくらなんでも……冗談がすぎます」

「半分はあたりさ」坂城は答えた。

HMC(ハイ・メガ・カノン)は素材の関係で連射まで時間がかかるしジェネレーターの耐久性能にも問題がある―――暴発の可能性は、あのビームライフルやビームバズーカとは一ケタ違う」

「そんなに危険なものを実戦配備するなんて」

「安心しろ」

 坂城は美奈代の頭を撫でた。

「万一の際は排除してビームライフルに切り替え可能だから、絶対に死にゃしねえよ」

「何故、それをあの子達に教えないのです?」

「そりゃお前」

 坂城は肩をすくめた。

「自分で知るもんさ―――それと」

「はい?」

「昨日の模擬戦以降、面白いことがわかった」

「面白いこと?」

「ああ」

 坂城の顔は厳しい。

「小清水の同調率が一気に下がった。たった一晩で、な」




「ははっ……ホントに射出装置、外されてるよぉ……」

 ぐすっ。と鼻をすすりながら、自らのコクピットの背後から顔を出したのは涼だ。

「私……ようするに死ねって言われてるのかなぁ……」

 ひょこっ。

 コクピットを守る装甲カウルの間から顔を出したのは、小さな顔―――この騎の精霊体“とき”だ。

 製造年次が新しいせいか、顔立ちが恐ろしくあどけない。

 “時”は、何か涼に言いたげだが―――

「邪魔」

 肝心の涼が全く取り合おうとしない。

「……」

 ハッチから出ていく涼を後ろ姿を、時はさみしげに見送るしかない……。



「ちょっと、芳?―――なっ!」

 なぜか閉まっていた隣の平野騎のコクピットを手動開放マニュアルオープンした涼は、コクピットから響く大音量に思わず耳を塞いでしまった。

「ちょっ―――か、芳っ?」

「あれ?涼?どしたの?」

 驚く涼の前で、コクピットに入った芳が首を傾げていた。

「じゃなくて……あ、あんたコクピットで何やってんのよ」

「へ?」

 涼が驚いたのも無理はない。

 コクピット内部にはいつの間にかベタベタとアニメの切り抜きやシールが貼り付けられ、モニターでは傍若無人ヒロインが嫌がる巨乳の子の服を脱がそうとしていた。

 そして、コントロールユニットにちょこんと座る格好で、精霊体が興味津々という顔でモニターに魅入っているのだ。

「アニメの鑑賞会」

「一人で?」

「ううん?“静夜しずや”と」

 指を指された精霊体はぺこんと頭を下げた。

「あ……あんた、精霊体に何見せてんのよ」

「へ?“静夜しずや”はアニメ大好きだよ?」

 芳は言った。

「いやぁ。前のマスターがアニメ大好きだったらしくて、びっくりしたよ?ガンダムはファーストから全部知ってるし」

「……」

「でね?深夜アニメで面白いのやってるって言ったら、見たいっていうから、昨日のうちに録画したのを見せてあげてるんだ」

「絶対、怒られるよ?そんなことしたら」

「どうして?」

 芳は平然と言った。

「コミュニケーションの一環じゃん」

「あの……ねぇ」

「だめだよ?精霊体をモノ扱いしちゃ―――喜怒哀楽あるんだし、戦場じゃMCメサイアコントローラーさん達と同じくらい、一蓮托生の間柄なんだから」

「……」

「こんなにカワイイのに―――ねぇ?静夜しずや”」

「……」

 芳と、抱きしめられはしゃぐ“静夜しずや”を前に、涼は何故か冷めた顔を崩さなかった。






----用語解説----------

第四種装備

・イメージはFAZZ、もしくはフルアーマーZZ



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