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沼津会戦 第二話


「―――えっ?」

 美奈代は、目の前で起きた事態が理解出来なかった。

 ただ、光の壁が走った。

 そうとしか思えなかった。

「な……なに?」

 強い光に対する補正が間に合わないのか、未だ白くモニターに残像が残っている。

 それまで真横に広がっていた建物群が、一瞬にして消滅していた。

「准尉っ!」

 美奈代を現実に引き戻したのは、彼女より少しだけ冷静でいられた牧野中尉だ。

「前方11時方向、距離3500から大規模ML(マジックレーザー)攻撃!」

「―――っ!!」

 ハッとなった美奈代は、すぐに“白雷はくらい”を移動させた。

 もし、敵の攻撃が自分達を狙ったものなら、動かなくては!

「宗像っ!」

 右後方へ跳躍移動させ、傾きかけたビルの残骸を楯にする。宗像騎は美奈代の騎のすぐ間近。跳躍する前と全く変わらない距離へと着地した。

「い、今のは、一体?」

 “白雷はくらい”の中でも、教官騎を除けば唯一指揮官騎仕様の宗像騎は、情報収集・分析能力が一般騎と比較して倍近い。しかも、宗像騎のMCメサイアコントローラーである桜庭優さくらば・ゆうは、元々が情報分析機関に配属されていた程の、いわば情報戦のプロだ。

 普段、女の子の情報収集にしか使われないとはいえ、いざという時、この二人の判断力ははっきりスゴい。

 宗像と桜庭のコンビによる分析能力に幾度と無く救われた経験のある美奈代は、宗像の判断を仰ごうというのも無理はない。

「凄まじいなんともんじゃないぞ……」

 ゴクッ。

 レシーバー越しに宗像が唾を飲み込む音がした。

 宗像がこの音を立てるのは、おそらく本人も自覚がないだろうが、二通りしかない。

 性的に欲情する程の美人に出会った時《特に天儀祷子》

 理解出来ないほど危険な立場に立った時。

 共通項は、“興奮した時”だ。

「信濃の艦砲……いや、あの“サイ”を上回る攻撃だと?」

「被害は?」

「直径100メートル、直線距離に換算して約2キロが消滅」

「し―――」

 ピーッ!

ML(マジックレーザー)反応!」

 二騎は同時に後方跳躍、攻撃を回避した。

「敵にロックされていますっ!」

 牧野中尉が絶望的なことを言ってくる。

「教官達は?」

「被害はないが、小型妖魔達を阻止するのが精一杯だ。しかも」

 ズンッ!

 民家を踏みつぶし、二騎が着地する。

 普段なら一発投獄モノだが、言っている場合じゃない。

「敵は教官達に関心を払っていない」

「何?」

「教官達は我々より前にいるにもかかわらず、敵は我々を攻撃している」

「さっき、私を狙ったヤツは?」

「祷子が出た。交戦中」

 美奈代はチラと戦況モニターを見た。

 2時方向、小型妖魔達がまだ展開していない地点に、天儀騎の反応がある。

 そして、その天儀騎の間近の反応は―――敵。

 しかも、

「これって」

「そうだ」

 宗像は頷いた。

「あの東南アジア戦線で、祷子と一対一サシで渡り合った、あの騎だ」




「くっ!」

 しくじった!

 カヤノは本気でそう後悔していた。

 敵の前衛を攪乱する任務を引き受けた時点で、失敗だったんだ。

 最初こそよかったけど、4騎目がまずかったんだ。

 ザルドフォラスの砲撃で開いた大穴に潜んでいたメース2騎。

 背中の箱には火薬が詰まっている。

 そう判断して、箱を狙った。

 狙いは良かった。

 箱は大爆発。

 でも、メースは逃した。

 攻撃の時、チラッと見ただけだったけど、ヤバいとは思ったんだ。


 メースは、あの南方で戦ったアレの仲間だった。


 やっぱり、朝の星占いは外れていない。


 今日の私の星回りは最悪。


 アレに出会いたくないと思ったから、後方へ跳躍したら、なんと目の前にアレがいた。


 私は、アレが潜んでいた所に降りてしまったんだ。


 厄介ごとの尻尾を踏んだ私が、厄介ごとに狙われるのは当然のことだ。


 今日は、ツいていない。

 カヤノは心底、そう思っていた。


 カヤノの駆るヤクトエッジに、祷子のD-SEEDが迫る。

 シールドを構えながら繰り出される突き技は、前に戦った時より鋭くなった気がした。

「くっ!」

 シールドの曲面を利用し、剣の切っ先を逸らし、反撃の機会を待つ。

 数度の突きがシールドを削り、最後の突き技が大きく出された。

 敵騎の右肘が延びきろうとしている。

「そこっ!」

 鈍い音を上げ、ヤクトエッジの左脚がD-SEEDの右腕を蹴り上げる。

 関節部こそ外したが、D-SEEDは衝撃に剣を落とした。

 途端に、D-SEEDの各部に仕込まれたML(マジックレーザー)が火を噴き、ヤクトエッジによるそれ以上の反撃を阻止する。

「―――やるっ!」



「右腕に軽度のダメージ。戦闘継続に支障なし」

 MCLメサイア・コントローラー・ルームからの報告に、祷子は軽く舌打ちした。

 水城中尉は声こそ平坦だが、コクピット内部にいくつも現れる情報スクリーンは、「この下手クソ!」だの「再訓練だ!」だのと、罵詈雑言の限りを尽くしている。

 「ML(マジックレーザー)のサポート、感謝します」とだけは言っておくことにしたものの、


 ―――声とスクリーンと、どっちが本心なのですか?


 そう、祷子は一度聞いてみたい気がした。

 「決まってるじゃないですか」

 中尉の性格からして、にこりとそう言うだろう。

 問題はその次だ。

 「スクリーンです」

 そう、答えられた後、中尉とコンビを組んでいられる自信は、ちょっとなかった。



「だからコイツは!」

 カヤノは肩部に仕込んだML(マジックレーザー)を発砲した。

 弾幕を張るほどの速射性はないが、一発の威力と命中精度が高さが売りだ。

 とはいえ、最初から命中は諦めていた。

 これが命中する相手なら、最初から苦労はしていない。

 案の定、D-SEEDが数騎に分離したような回避運動が展開され、D-SEEDの背後のビルが吹き飛ぶ。

「やっぱりね!」

 残像を残すほどのスピードで回避されても、カヤノは驚かなかった。

「ちっ!」

 接近して来るD-SEED。

 カヤノはヤクトエッジ腰部から何かをD-SEEDの前に放り投げると、急速後退した。


 ズンッ!


 凄まじい爆発音が辺りに響き渡り、D-SEEDの周辺が一瞬にして吹き飛ぶ。

 魔族軍のメース用の手榴弾が炸裂したのだ。


 その爆発音を、カヤノはヤクトエッジをビルの影に潜ませながら聞いた。


「とにかく……アレを近づけないようにしなくちゃ」

 カヤノはカラカラになった喉に無理矢理、唾液を送り込んだ。

 喉が張り付くように痛い。

「最悪……あの子の初陣にこんなのがいるなんて」

 ビルに爆発時の破片がパラパラと当たる音かする。

 今の爆発でアレが遠ざかるか、後退してくれればいい。

 このまま前進させるようなことだけは避けたい。

 何しろ、この敵を呼び起こしたのは、自分なんだから。


 ピーッ!


 鋭い警告音がコクピットに響く。


「しつこいっ!」


 ビルをブチ抜いて襲いかかってきたD-SEEDに、カヤノはそう毒づくと、襲い来る剣をかわし、右腕を押さえ、そして膝蹴りの一撃を容赦なくその腹部にたたき込んだ。


 グガンッ!


 凄まじい音がしてD-SEEDの脚が宙に浮いた。


「これでっ!」

 さらにもう一発膝蹴りを加えると、今度はその背に肘の一撃だ。

 装甲がどんなに厚くても、内部の機器にこの衝撃はかなりのダメージになる。

「出直してこいっ!」

 回し蹴りの一撃が見事にD-SEEDの胸部装甲を捉え、D-SEEDは吹き飛ばされた。

 テナントビルいくつかをなぎ払ってスライディング。ようやく止まったD-SEEDはピクリとも動かない。

 あれだけの衝撃だ。

 パイロットも無事では済んでいないだろう。


 トドメ?


 ―――ううん?


 カヤノは抜いた剣を止めた。


 カヤノの頭の中で、何か早鐘のような振動が響く。


 ―――何か、おかしい。


 違う。


 ―――危険だ。


 カヤノは迷った。


 そして、決意した。


 後退のため、ヤクトエッジのブースターに火が入った途端、


 D-SEEDが突然起きあがり、ヤクトエッジに斬りかかってきた。

 装甲があちこちへしゃげてはいるが、戦闘の意志だけは露骨なまでに現れている。


「しつこいって言ってるでしょう!?」


 おそらく、ブースターを全開にしているのだろう。騎体の推進スピードまで加わった鋭い突きを前に、カヤノは顔を真っ赤にして怒鳴った。


「せっかく、見逃してあげたのにっ!」


 ザンッ!


 D-SEEDの剣がヤクトエッジのシールドに根本まで突き刺さる。

 そのタイミングにあわせ、カヤノはシールドをひねった。そのひねりに剣を奪われたD-SEEDを、肩部のMLマジックレーザーが襲う。


「なっ!?」

 超至近距離から放たれた一撃を、D-SEEDはあっさりと回避、シールドによるエッジアタックを仕掛けてきた。

 騎体をひねって胴体周辺への命中こそ避けたが、肩部根本に命中した一撃は、ヤクトエッジの右腕を根本から切断。右腕が吹き飛ばされた。

 右腕が吹き飛ばされた衝撃で、コクピットのハッチが吹き飛び、カヤノは危うく外に放り出される所だった。

「きゃあっ!」

 騎体損害が痛みとしてカヤノに伝わるわけはない。

 だが、カヤノはとっさに右肩を押さえ、悲鳴を上げた。

「よくも―――よくもおっ!」

 警報が鳴り響く中、剣が突き刺さったままのシールドをパージし、カヤノはヤクトエッジの左腕でD-SEEDに殴りかかった。

「よくもやったなぁっ!?」

 滅茶苦茶に殴り、倒れたD-SEEDに馬乗りになると、ヤクトエッジの左手部構造物が飛び散ってもカヤノは殴り続けた。

「このぉっ!」

 ガンッ!

 何発目かで、D-SEEDの胸部ハッチが吹き飛んだ。

 凄まじいパワーで起きあがろうとするD-SEEDと、それを押さえつけようと、ヤクトエッジが押す。

「とどめっ!」

 左腕部使用警告にパワー警告まで加わったヤクトエッジのコクピットで、カヤノはハッチの中、つまり、敵のメースのコクピットに左の一撃をたたき込もうとした。

 いくら何でも、生身の人間に、メースの一撃が耐えられるはずはないのだ。


 だが―――


「っ!?」

 カヤノは、驚愕せざるをえなかった。

 コクピットの中。

 そこには、一人の女性がいた。

「お……女の人?」

 ―――コクピット内でおびえる無様な男。

 そんな敵を想像していたカヤノにとって、それは意外どころの話ではなかった。

 人類も、ついに女が戦いに出るようになったのか?

「……」

 カヤノが振り上げた拳を止めた。

 殺すのは簡単だが、女を殺したくない。

 カヤノが、一瞬の躊躇を見せた。

 躊躇は、そのままヤクトエッジの動きに反映され、ヤクトエッジはD-SEEDとの力押しに破れた。

「しまっ!」

 ブースターを開き、体勢を整えたカヤノの前で、D-SEEDが立ち上がった。

 カヤノは無意識に、ズームでコクピットの女性の表情を見た。

 色の白い、端正な顔立ち。

 まるでお姫様だ。

 そのお姫様が、全く何一つ諦めない強い意志を秘めた目でこちらを睨んでいた。

「……」

 D-SEEDからML(マジックレーザー)が襲いかかる。

 ヤクトエッジもそれに応戦。互いの騎体の数カ所が吹き飛ぶ。


 ―――まだ、負けたワケじゃない。


 カヤノは自分に言い聞かせた。


 戦場で敵メースの使い手を見る。

 つまり、敵兵を生で見る。

 それは、実戦経験の浅いカヤノにとって、実は初めての経験だった。

 メースは生身の身じゃない。

 だから、“殺しやすい”。

 カヤノはずっとそう思ってきた。

 そのカヤノが初めて見た“殺しにくい”相手。

 それが、目の前の敵。


「カヤノ大尉っ!」

 通信機にバラライトの声が響く。

「救援信号を確認した!救助に行く!」

「―――えっ?」

 カヤノは、それが誰の騎のことかわからないかった。

 まさか―――あの子か?

 戦況を確認しようとしたカヤノの前に現れたスクリーン一杯の文字。



―――騎体損傷:重度 救難信号強制発信中。


 騎体があまりの損傷に、救難信号を勝手に発信した。

 どこのバカが付けた機能かしらないが、余計なマネだ。

「問題有りません!」カヤノは通信機に怒鳴った。


「後退可能。これより後退します。“銀龍”護衛を優先してください!」


 全く、今日はなんて日だ。


 カヤノは残存の煙幕弾とハンドグレネードをばらまくと、ブースター全開で急速後退にかかった。


 厄介な敵とはぶつかる。


 騎体は壊す。


 敵は殺し損ねる。


 守ると言ったあの子の護衛まで割かせた。


 本当に、ついていない。




「騎体ダメージ、大破です」

「無理もないですね……」

「この騎が始まって以来の大破……ヒドいものです」

 祷子は痛む脇腹を押さえながら無理に笑った。

 痺れから肋骨が折れているのは間違いない。

 内蔵に影響が出ていないことを祈るだけだ。

「中尉、お怪我は?」

 そう言うだけでやっとだ。意識がいやにぼんやりしてくる。

「無事です……ちょっと肩骨が折れた程度で」

「……も、申し訳」

「弥生?この騎を失うわけにはいきません。オートパイロット、モード7。後退を」

「はい」

「こちらD-SEED、これより後退。騎体大破、負傷二名。収容願います」

「こちら司令部了解。療法魔導師隊が待機中―――」

 祷子はそう聞いた気がした。

 脇腹の痛みがひどい。

 ―――療法魔導師ならすぐだし、ちょっとラッキーかな。

 

 口元を少しゆるめた後、祷子は意識を失った。



 光が走り、また街が消えた。


「くそっ!」

 “白雷はくらい”の目が、ようやく“敵”を捉えた。

 それだけでいい。

 急激なGでさえ、もうどうでもよくなった。

 宗像は舌打ちし、騎体を着地させた。

 一体、どんなバケモノかと思ったら、思った以上のバケモノがそこにいた。

「データ、とれたか?」

「はいお姉さま」

 宗像のMCメサイアコントローラー、桜庭優は答えた。

「全高約50メートル。推定6500ミリ級ML(マジックレーザー)砲20門他、武装多数」

「何だそれは!?」

 宗像でなくても悲鳴を上げたくなるだろう。

 はっきりバケモノだ。

 戦場で膝をまっすぐにするな。すぐに動けるよう身構えておけ。

 教官である二宮に、メサイアに乗る前から叩き込まれた教訓ではないが、宗像は体勢を低くして次ぎの手を考えた。


 ―――どうする?


 手にした散弾砲ではどうしようもない。

 虎の子のビームライフルを使うか?


 そんな宗像の頭上を通り過ぎたのは、ドイツ軍のメサイア、ノイシア達だ。

 メサイア同士の通信に使われる近距離通信が混線しているらしい。

 不意にドイツ人達の会話が宗像の耳に入った。


 Ein Ziel ist groß!《エモノはデカいぞ!》

 Eine Dekoration kann sein, bekam, wenn das heruntergedrückt wird!《アレをブッ倒したら勲章モノだぜ!》


 血走った声は、正気とさえ思えない。


 ただ―――


「やめろっ!」

 宗像は通過するノイシアの背中に怒鳴った。

「死にたいのかっ!?」

 モニターの一部で、ノイシア2騎がML(マジックレーザー)砲の集中砲火を浴びて騎体を吹き飛ばされた。

 地上で二本脚で立つ限り、運が良ければ避けられたろうが、空中でブースターに頼る機動では例えメサイアといえど、ML(マジックレーザー)砲の集中砲火を避けることは出来ない。

「……あっ」

 コクピットから投げ出され、落ちていくのは騎士かMCメサイアコントローラー、どちらかはわからない。

 ただ、確実に死ぬことだけははっきり分かる。

 必死に手足をばたつかせ、空を飛ぼうと足掻くその姿は、むしろ滑稽を通り越して哀れでさえあった。


 ―――主よ。の魂に安らぎを与えたまえ


 短く祈りを唱えた宗像は考えた。

 どうする?

 オトリになって、その間に和泉にでも襲わせるか?

 いや。

 和泉では役不足だ。

 こういう時に役立つ非常識なヤツはいなかったか?

「優、祷子は?」

「あっちもお取り込み中です」

「……ちっ」

 ピーッ!

「くそっ!」

「どうします?」

 宗像は、跳躍しながら答えた。

「とりあえず、こっちのエモノが効くか試す!」

「了解―――ビームライフル、装備します」




「姫様」

 コクピットの中に通信が響く。

「お加減はいかがですか?」

「大丈夫です」

 その声は、“ここ”に響くにはあまりに幼すぎた。

「エネルギーチャージ中、あと……15秒」

 モニターに表示されるカウンターを読み上げ、白く細い指が操縦システムとリンクする。

「周辺護衛は、我らメース隊にお任せ下さい。ただし」

 通信機の向こうから念を押す声がした。

「お父上―――ズルド閣下とのお約束を違えませぬよう、くれぐれも」

「ありがとうございます」

 ……えっと。

 周りの大人の言うことを聞く。

 危なくなったら下がる。

 これがお義父様との約束。

 破ったら二度とこのに乗らないと約束した。

 このは好き。

 だから、約束は守る。

「チャージ完了。次はどこですか?」

「とりあえず、先程逃した敵を狙ってください。狙撃のいい練習になります。それが終わり次第、最終テストです」

「はい」



「ちいっ!」

 鼓膜が破れそうな爆音を轟かせ、ML(マジックレーザー)が着弾。エネルギー開放による大爆発が発生した。

 砲撃の度に精度が上がっている。


 近づこうとすれば、あちこちに潜んでいる敵の集中砲火が待っている。

 敵にとりつけない。


 あの巨大な図体はいい的になるはずなのに、その的に近づけない。


 あいつの周辺には、かなりの数の敵が存在している。

 そいつらからの砲火まで加わって対空陣地と化した現状、あいつを狙うのは至難の業だ。


 ―――どうする?


 宗像は思案した。

 戦力は和和泉と自分だけ。

 他の部隊は姿さえロクに見えない。


 ―――どうする?


 心だけが焦る宗像は、戦況モニターに表示されている文字列を見た。

 作戦命令だ。

 そして、気づいた。

 ここでの任務は、“敵を殲滅する”ことじゃない。


 宗像は、その意味の重さを痛感した。


 任務は、“敵の脚を止める”ことだ。


 “敵の脚を止め、帝都方面への進行を阻止する”


 それが命令だ。

 なら、一々、今のように飛び回って、たった一騎の敵を倒すことに苦心する必要はどこにもないのだ。

 では―――下がるか?

 


 否


 宗像はそれを拒む。


 理由は?


 あの敵を倒したい。

 倒して―――手柄にしたい。

 そんな、功名心だ。

 第一、理由は分からないが、こうもしつこく自分達を狙ってくる以上、敵は撤退を許してはくれないだろう。

 敵にとって、自分達が砲撃練習の的にすぎないなんて知ったら死にたくなるだろうが、宗像はそんなことは知らない。


 とにかく、ここからでも出来る攻撃を!


 それが、宗像の打ち出した方針だ。

 

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