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白雷 初陣

米軍陣地ゴールまであと1500!」

 ビームライフルのエネルギーパックを交換。

 充填が確認され次第、撃つ。

 美奈代の放った一撃を頭部にまともに喰らった“帝刃ていば”が黒煙を上げながらジャングルに墜落していく。

「エネルギーパックは!」

「残り2つ!」

 さくらが美奈代に告げる。

「終わったら内蔵ML(マジックレーザー)を!」

 “帝刃ていば”達から放たれるML(マジックレーザー)が騎体をかすめる。

「ちっ!了解した!」

「第一分隊より第二!」

 瀬音の怒鳴り声が耳を打つ。

「ビームライフルを乱射するな!こっちが近づけない!」

「そんなこと言ったって!」

 美奈代の目の前一杯に、剣を振りかざした“帝刃ていば”が映し出される。

 その背後にも一騎。

 剣を振りかざす一騎をビームライフルで仕留めても、もう一騎を回避出来ない。

 そして、背後にはTACタクティカル・エア・カーゴがいる。回避すら出来ない。

 出来ない尽くしだ。

「くそっ!」

 美奈代は、“帝刃ていば”からの一撃をかろうじてかわし、弾避けに構えていたシールドで“帝刃ていば”の胸部装甲を力任せに殴りつけた。

 ガィンッ!

 鈍い音を立て、装甲の破片を巻き散らかしながら、“帝刃ていば”が後ろにはじき飛ばされ、その背後に潜むもう一騎の“帝刃ていば”とモロに衝突した。

「そこっ!」




「敵、半数が脱落」

中華帝国軍やっこさん達のフネは全滅したのに、よくやる」

 通信オペレーターの後ろに立つ後藤は戦況モニターから視線を外さない。

「後は……背後の豪州軍か」

 戦況モニター上の豪州軍は接近することをやめない。

 上空は爆撃機の大編隊。

 その下を数十騎のメサイアが固める。

 さらに後方には数隻の巡航艦だ。

「……こりゃ、本当に戦争だ」

「どうなさいます?」

 先程、後藤のタバコに火をつけた女性オペレーターが後藤に訊ねた。

 胸のネームプレートには三枝と書かれていたのを、後藤は気づいていない。

「前門の虎は排除しつつありますが、後門の狼は」

「門の内側にいるのが味方か敵かわかんないのにねぇ……」

 後藤はそっとタバコを三枝の前に出した。

「いただきます」

 三枝は一本を受け取ると、ライターで火をつけた。

「禁煙、じゃなかったの?」

「験担ぎです」

 三枝は紫煙と共にそんな言葉を紡ぎ出した。

「悪いですか?」

「いえいえ……さて。門の内側を味方につけるか」

 後藤は、おや?という顔になった。

「中佐?」

「――通信」



 その通信を傍受したのは、ランカスター爆撃隊の爆撃先導機に搭乗する通信士官だ。

 発信先は日本軍。

 全回線解放、しかも平文で発信されていた。

 通話は爆撃隊にも筒抜けだろうことは、発信される通信の強さからも明らかだ。

 通信はたった一文。


「貴軍に感謝する。これより貴軍陣地に向かう」


 貴軍―――つまり、米軍だ。

 日本軍が米軍陣地に逃げ込む。

 米軍はそれを受け入れた。

 そう、判断して構わない内容だ。


 通信士官の報告は、即座に爆撃隊隊長機の通信士官経由で、後方の司令部に通報され、爆撃隊はすぐに新たな指示を受け取った。


「当該戦域に展開すると思われる日本軍に協力する米軍陣地を攻撃せよ」


 爆撃先導機の通信士官は、これを当然だと思った。

 米軍は戦闘を停止したと宣言したが、実際はどうだ?

 日本軍を自国陣地へと導いているではないか。

 これが利敵行為でなくてなんだ?

 裏切りでなくてなんだ?

 だから、米軍はやっぱり敵なんだ。

 通信士官はそう判断すると、通信文を機長へと送った。




 度肝を抜かれたのは、ステラ達米軍だ。

 突然、ジャングルの向こうから戦闘しつつ、こちらに向かってくる一団が現れたのだ。

 白いメサイア。

 そして―――中華帝国軍。

 あらぬ方角からは爆音を轟かせて爆撃機の大編隊だ。

「な、何だ!?」

 狼狽する米兵達。

 その間近に、流れ弾が着弾、トラックが数台吹き飛ばされた。

「敵だ!」

「総員、騎乗!」

 サイレンが鳴り響き、兵士達が持ち場に向けて駆け出す中、ステラも座っていた椅子を蹴り、愛騎へとむかって駆けだした。

 コクピットめがけて地面を蹴った時、丁度、イルマがMCLメサイア・コントローラー・ルームに乗り込むところだった。

「イルマ、行けるわね!?」

 コントロールユニットを引き出しながら、ステラがイルマに怒鳴る。

「システムはすべてアイドル―――コンバットモード引き上げ!」

「さっすが私の女房!」

「どうも―――各騎、順次、起動開始!」

「よし!部隊全騎、起動終了騎から戦闘態勢に移行!続けっ!」



「よしっ!」

 “帝刃ていば”を一刀のもとに切り捨てた瀬音が歓声を上げた。

「寝床が見えたぞ!」

 接近する米軍陣地。

 ジャングルを切り開き、土嚢を積んだ粗末な陣地だが、そこに立つグレイファントム部隊が、何だか心強い。

「後は一気に行けっ!」

「はいっ!」



「司令部、どうするんだ!?」

「とりあえず威嚇射撃しろ。陣地に近づけるな!現在、ムスタング部隊が上空支援のため発進している!」

「了解!―――各騎、イエローデビルを狙え!共に戦ったよしみだ、ジャップに当てるな!?」

「ま、待て!ステラ!全部だ全部!」

「だから、イエローデビル全部を近づけなきゃいいんでしょう!?」






「よしっ!そのまま突っ切れ!」

 後藤の率いる部隊は、米軍陣地を飛び越え、その裏手に強行着陸した。

 ザザザッ!

 強行着陸の振動がTACタクティカル・エア・カーゴを揺るがす。

 振動が終わっても、誰一人として声をあげる者はいない。

 ただ、目を固くつむって黙りこくる者達がいるだけだ。

「ふぅっ」

 後藤でさえ、ため息一つつくのに気の遠くなるような時間が必要だった気がした。

「艇長、機体の損害は?」

「損傷なし。オールグリーン」

「よし……各騎のステータスは?」

「第一、第二、共に戦闘可能……ただし」

 オペレーターが震える声で報告した。

「第三は……反応なし。シグナル途絶状態」

「……わかった」

 ようやく自らの任務に戻りつつあるオペレーター達の背後で、後藤は言った。

「米軍はどう動いている?瀬音少佐、見えるか?」


「すごいことになってますよ」

 その光景を前に、瀬音はそう言うしかなかった。


 体勢を低くしてシールドを構える瀬音達の目の前は文字通り凄いことになっていた。


 グレイファントム部隊と“帝刃ていば”や“帝剣ていけん、さらに“ロンゴミアント”が入り乱れての大乱戦。

 上空からはランカスター爆撃機が爆弾を投下し、どこから飛んできたのかP-51 ムスタングとモスキートが空中戦を繰り広げている。


 地上ではロボット同士が戦い、レシプロが宙を舞う。


 出来る悪いB級SF映画でさえやらないだろう無茶苦茶な光景としか言い様がない。


「はらぁ……」

 瀬音騎の“眼”から送られてくる映像を前にしては、さすがに後藤もコメントをつけることさえ出来なかった。

「まぁ―――ここまでやるとは思ってなかったけどね」

「後藤中佐」

 通信オペレーターが報告した。

「米軍が支援を求めています」

「俺達に?」

場所代しょばだい払えと」

「成る程?」

 米軍陣地からは歩兵や負傷兵を満載したTACタクティカル・エア・カーゴ達が続々と超低空飛行でこちらに逃げてくる。

「ま、考え方によっちゃ、俺達が蒔いた種だもんなぁ」

「それ以外に、この状況をどうとれと?」

 三枝はあきれ顔だ。

「いいでしょう?」

 後藤はいたずらっぽくウィンクまでした。

「米軍の戦闘停止放棄と引き替えは帝国にとっても大歓迎だからね?」

「まぁ……それは」

「艇長、米軍に紛れる格好で移動する。部隊全騎、戦闘許可。喰いまくれ」



「っしゃあっ!」

 歓声をあげたのは都築だ。

「四方八方敵ばっかり!食い放題だ!―――隊長っ!」

 斬艦刀を抜いた都築は命令を待つ。

「そうがっつくなよ」

 対する瀬音は冷静さを崩さない。

「真理、中豪どっちからやる?」

「両方敵です」

「じゃ、手当たり次第、いきますか」

「そういうことで―――各騎、行けるな?」

「はいっ!」

「よし―――全騎、続けっ!」



 ガインッ!

「何だっ!?」

 突然の衝撃に、転倒を避けるのがやっとだった“帝刃ていば”の騎士は、驚いて騎体を見回した。

 気づけば左腕が吹き飛ばされ、腕の根本からこぼれるオイルが火花に引火し、燃え始めていた。

 周囲には、同様の攻撃を受けたらしい僚騎が2、3騎、倒れていた。

「ば、ばかな!?」


 “帝刃ていば”のシールドや装甲は、反応弾攻撃でさえ防ぐ。


 彼自身、オーバーだと思うが、上官達は口々にそう言って胸を張っていたし、これまでの戦闘でも、戦車砲の直撃でさえしのいでくれた。

 それが、たった一撃で腕ごと粉砕されたのだ。


 とても信じられない。


「いっ、一体?……何だ?」


 煙を上げる左腕損傷を告げる警告がひっきりなしに鳴り響く中、騎士は事態を把握しようと必死になって周囲を見回した。

「被害は!」

「左腕、肩部付近から脱落!損傷大!」

「何の攻撃だ!」

ML(マジックレーザー)です!」

「馬鹿なっ!どこの誰からだ!?」

 動く右腕で青龍刀を構え、新たな攻撃には備える。

「10時方向!出力から推定して大型巡航艦の主砲、300ミリ級!」

「300!?巡航艦どころか、軽戦艦並だぞ!?―――こちら張!左腕大破、後退するぞ!」

「攻撃、来ますっ!」

「なっ!?」


 ドンッ!


 喉元に命中した一撃は、“帝刃ていば”の胸から上を吹き飛ばした。


「張騎被弾っ!」

「ひっ、飛行戦艦でも持ち込んだのか!?」

 

 居合わせた中華帝国騎士達には、原因がわからない。

 

 “帝刃ていば”を一撃で葬り去ったのは間違いなくML(マジックレーザー)攻撃。

 だが、そんな破壊力のある大口径ML(マジックレーザー)砲は、飛行戦艦の主砲程度のはずだ。

 なら、張は何にやられた?

 飛行戦艦?

 違う。

 攻撃は、正面からほぼ水平に飛んで来た。


 その彼らの前に、新たなML(マジックレーザー)攻撃を放ちながら突撃してきたのは、彼ら中華帝国軍騎士の誰も見たことのない、白いメサイア達。


 

 美奈代達だ。



 白いメサイア―――“白雷はくらい”達の中で最も先陣を切ったのは、美晴とさつきの2騎を従えた神谷騎だった。

 長物を構え、すばやく敵の配置を確認。

「柏、早瀬―――食い放題だ」

「太ってもいいですよね♪」

「美晴。山崎に嫌われるよ?」

 3騎により初の犠牲者に選ばれたのは、三騎トライアングルフォーメーションで迎撃体勢に入った“帝刃ていば”達だ。

 神谷は、3騎の真ん中に“白雷はくらい”を飛び込ませると、

「しゃあっ!」

 奇妙な声と共に薙刀を一閃した。

 ブンッ!

 衝撃波に近い音を立て、薙刀が3騎を襲う。

 無謀とも言えるたった一撃だが、効果は絶大だった。

 美晴騎を取り囲む“帝刃ていば”達が装甲をたたき割られ、文字通り吹き飛ばされた。

「さすがに―――やるっ!」

 神谷騎のすぐ横に展開したのはさつきだ。

 槍のリーチを活かした連続した突き技を繰り出し、ほぼ同時に“帝刃ていば”2騎を仕留めていた。

「私もっ!」

 ギンッ!

 背後から襲いかかる“帝刃ていば”から振り下ろされた青龍刀をかわし、美晴はためらわずにシールドのエッジを叩き付けた。

 ザンッ!

 エッジを脇腹に喰らい、体勢を崩した“帝刃ていば”の胸部装甲の隙間に、さつきの放った槍の穂先が根本まで突き刺さった。

 “帝刃ていば”の動きが止まり、その場に崩れ落ちた。

「7時からっ!」

 MCメサイアコントローラーの警告に、美晴は舌打ちした。

「さすがに戦慣れしているっての!?」

 振り返った背後には、斧を振りかぶった“帝刃ていば”がいた。

「―――くっ!」

 とっさにシールドを構えた美晴の目の前で、“帝刃ていば”の胴体が何かに真っ二つにされた。“帝刃ていば”の上半身が、切断された勢いで宙を回転し、地面に落下した。

「大丈夫ですか?」

「山崎君っ!」

「美晴さん、背後が薄いですから、注意してください!」

「了解っ―――!!」

 美晴はとっさに薙刀を投擲した。

 薙刀は、山崎騎の横をかすめ、その背後に迫る“帝刃ていば”の頭部に命中した。

 山崎騎の斧がその“帝刃ていば”の両脚を薙ぎ払ったのはその直後だ。

「……人のこと言えないね」

「……すみません」

「お互い、背中護りながらでいい?」

「……はい」

 山崎はバツが悪い思いでそう返答した。

「山崎君?」

「……はい?」

 美晴は笑顔で言った。

「さっきの、カッコよかったよ?」



「和泉っ!」

「ああ、いくぞっ!」

 神谷達が開いた突破口をくぐり、都築と美奈代は、斬艦刀を構えたまま“帝刃ていば”の群れに襲いかかった。

「11騎の大集団だ、無茶するなよ!?攪乱するだけでいい!」

「ああ。和泉こそ気を付けろよ!?―――喰らえっ!」 

 ギィンッ!

 上段から振り下ろされた都築騎からの一撃を、“帝刃ていば”がかろうじて受け止めたが、

「ぐうっ!?」

 “帝刃ていば”の騎士は驚いて目を見張った。

 剣の一撃が信じられない程重い。

 いや、重すぎる!

 ズガンッ!

 ギャンッ!

 ビビビビビビビビッ!

 ビーッ!ビーッ!

 脚が地面にめり込み、関節が一斉に悲鳴を上げ、コクピットをアラームが鳴り響く。

「ば、バカなっ!」

 相手は日本製だ。

 信頼性が低く、模造品しか作れない劣等民族の作るものなんて、みんな駄作だ。

 駄作だから、我が祖国ではどこにも売っていない。

 彼はそう教わってきたし、日本製品なんて見たことさえなかった。

 なぜなら、それは日本人が、光輝ある中国臣民が使うに足る価値のある物を作れないから―――。

 そんな日本人の作った欠陥メサイアなんて恐るるに足らないはず……。

 彼は、それを信じたかった。


 だが―――

 その“欠陥メサイア”相手に栄光ある“帝刃ていば”が押されている!

 中華至上主義を叩き込まれて来た彼には、目の前で起きている事態が信じられない。

 否、受け入れられなかった。

「あ、あってはならんことだぞ!?う……ウソだ!こ、こんなのはウソだ!」

 彼は恐怖に叫んだ。

「し、小日本シャオリーベンが……こんな!こんなバケモノを!?」

 ギギッ!

「関節部、危険領域!」

 関節部の監視センサーが一斉に警告をあげ、MCメサイアコントローラーが叫ぶ。

「このままでは関節が破壊されます!」

 MCメサイアコントローラーが怒鳴るが、騎士にとって問題は、首もとまで近づいてくる剣の方だ。

「作れるはずがないっ!作ってはならないんだっ!」

 コントロールユニットを力任せに操作するが、剣そのものが破壊されようとしているのが目の前に映し出される。

 特殊セラミック製の青龍刀にヒビが入り、その刃が崩れ始める。

「青龍刀が!?な……なんてパワーだ!」



「新型か!?」

「パワー出力他、“ロンゴミアント”とは違いますっ!」

 皆が目の前に立ちはだかる重装甲を張られた騎体の正体を知らない。

 見たことすらなかった。


 豪州が中華帝国経由で入手したロシア軍旗騎“ローマイヤ”のデータを元に、宗主国である大英帝国に無断で開発したのが“ロンゴミアントOO(ダブル・オー)

 ダブル・オーはシャチの学術名であるOrcinus Orca―――「冥界よりの魔物」がその開発コード。

 いわば、英国の保有する技術《無論、この中には米国の技術も含まれる》によって改良された“ローマイヤ”と言える。

 そんな厄介者と自分達がぶつかっていることを、誰一人として知らないのだ。


「長野、瀬音、戦況は!?」

「3騎撃破」

 一刀の元に“OOダブルオー”を仕留めた長野は、泰然とした声で答えた。

「損傷なし」

「こっちも3騎」

 “OOダブルオー”の喉部に剣の切っ先を突き立てた瀬音も同様。

「神谷」

「問題ありません」

 複数の“OOダブルオー”を相手に、シールドと薙刀だけで渡り合う神谷中尉は冷たく答える。

「敵は―――雑魚です」

 槍を振り回しながら接近する“OOダブルオー”達の一撃をシールドで防ぎ、刹那の瞬間をもって薙刀を敵騎の装甲の薄い部分に突き刺す。

 右下胸部装甲の継ぎ目―――脇の下から入った薙刀の切っ先が、左肩の装甲を内部から突き破った。

 神谷は、ほんの一瞬、薙刀の切っ先に伝わった鈍い感触で、コクピットの騎士を潰したことを理解した。

「ちっ……薙刀がさびる」

 “OOダブルオー”は、“白雷はくらい”の薙刀につり上げられる格好で、脚が地面から浮いたままだ。

 舌打ちした神谷の脳裏に、“OOダブルオー”の頭部―――MCLメサイア・コントローラー・ルームMLマジックレーザーで潰そうという考えがよぎったが、やめた。

 自分の美学に反する。

 それだけの理由だ。

 軽く首をふった神谷は、二宮に言った。

「ついでに、搭乗者はオージーではなく、チンクだと思います」

「チンク?」

 襲いかかる槍を難なくかわし、“OOダブルオー”の懐に飛び込むと、斬艦刀で胴をなぎ払った二宮が神谷の言葉をわかりやすい言葉に翻訳した。

「中国人が?」

「そうです」

 神谷は、“OOダブルオー”が突き刺さったままの薙刀を振り回し、未だ戦いを諦めようとしない残存の“OOダブルオー”達めがけて、“OOダブルオー”の残骸を投げつけた。

 仲間の残骸を叩き付けられた“OOダブルオー”達が狼狽しているのは、その動きから明らかだ。

「後でコクピットを確認してください。私の経験では、中華帝国軍皇帝親衛軍の槍術部隊と動きがそっくりすぎます」

「オージー共が教えてもらったとは?」

「ありえません」

 神谷は言った。

「槍の動きは一朝一夕で得られた動きではありません」

「……了解」

 足下に転がる“OOダブルオー”の残骸。

 その装甲の隙間からは煙が立ち上っている。

 内蔵した冷却系機器を破壊され、熱暴走が始まっている証拠だ。

 こうなればコクピットの断熱効果なんて無いに等しい。

 コクピットにあるのがオーストラリア産か中国産か。ハッチを開けば、いずれかの人間の丸焼きが出てくることになる。

 戦場で幾度見ても慣れることの出来なかった死体達を思い出し、二宮は眉をひそめた。

 戦況モニター上。

 後ろから“帝刃ていば”達を相手にしていた教え子達が合流しつつある。

 グレイファントム達も、包囲網を広げつつある。

 退路をふさがれつつある敵は目の前。


 その敵に、


 ―――逃げろ。


 二宮は内心で念じた。


 ―――お前達はよくやった。

 ―――これ以上は無駄死にだ。

 ―――だから、逃げろ。


 煙幕弾スモークと、攪乱弾ジャマーを展開して遁走する。

 それでいい。

 そうするんだ。


 二宮はそう願ったが―――


 ピーッ!

「敵、来ますっ!」


「バカがっ!」

 槍を振りかざしながら迫る敵に、二宮は吐き捨てるように叫んだ。

「死に急ぐのは―――」


 突き出された槍をかいくぐり、左手で脇に挟み込む。

 そのまま突進してくる敵の勢いを借り、斬艦刀を“OOダブルオー”の騎体の根本までたたき込んだ。

 斬艦刀のエルプスが“OOダブルオー”の装甲を融解させ、かつて装甲だった金属が滴となって地面に落ちる。


「愚か者のすることだぞ……バカが」


 ドガンッ!

 斬艦刀から手を放し、“OOダブルオー”をシールドで殴りつける。

 斬艦刀を腹に突き刺されたままの“OOダブルオー”は、そのまま地面に倒れ、動かない。


 斬艦刀を引き抜く時も自分を包んで放さない不思議なむなしさを感じながら、二宮は周囲を見回した。

 長野と瀬音、神谷がそれぞれ“OOダブルオー”を仕留め終えたところだった。

 内蔵された弾薬にでも引火したのだろう。

 “OOダブルオー”の残骸が小さく爆発する。

 先程まで、米軍を脅かしていた“OOダブルオー”達はすべて地に伏している光景を前に、二宮は勝利の喜びを感じられずにいた。

「敵、全滅」

「……よし」

 唯の報告に、二宮は深い安堵のため息をついたが、

「後藤隊長からです」

 その一言に、動きを止めた。

 まだ早い。

 指揮官として気を抜いていいところではないと気づいたからだ。

「うむ」

 襟元を正し、唯の言葉を待つ。

「全騎移動。ポイント7で交戦中の天儀騎の救援に向かえ―――以上です」

「交戦中?」

 二宮はギョッ。となってモニターに映る唯を見た。

「はい」

 唯の操作で戦況モニターが広域のそれに切り替わった。

「ポイント7。ここから60キロの地点で天儀少尉騎が敵と交戦中」

「数は?」

「一騎です」

「天儀が一騎に手こずっている?」

 二宮は驚いて戦況モニターと唯を交互に見た。

「おい真理」

 瀬音から通信が入った。

「お姫様がお困りだ―――こりゃ、ヤバいぜ?」

「瀬音少佐。天儀が手こずる相手とは?」

「はっきり言ってやる」

 瀬音は真顔で言った。

「それだけで―――人間じゃねえ」

 本当に、そう言ってのけた。

「あのお姫様相手に渡り合うなんて、俺か水瀬閣下に麗菜殿下、あとはラムリアースのナターシャ殿下がいいところだ」

「それほどの相手?少佐、心当たりは?」

「俺が二人存在するか、水瀬閣下が魔族のオンナにひっかかったとでも言わない限り、敵ははっきりしてるさ」

「……つまり」

「相手はメースってこと!」

「全騎、集まれ!」

 瀬音の言葉にハッ。となった二宮は、弾かれたように部下達に命じた。

 さすが“白雷はくらい”というべきか。

 ヒヨコたちが成長したというべきか。

 全騎が無傷で二宮の前に集まった。

「天儀を助けに行くぞ」

「天儀が!?」

「と、祷子、やられたんですか!?」

「まだよ!」

 二宮は言った。

「でも、いくら何でも危険すぎる!」

「教官!」

 美奈代が言った。

「行きましょう!」

「ああ!」

 二宮は強く頷き、コントロールユニットを握った。

「全騎、ポイント7へ移動する!続けっ!」




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