祷子vs機動部隊
「ちいっ!俺達ゃオマケか?それともゴミか!?」
瀬音は、次々と敵に突破され、まともにぶつかることがないことに毒づきながら怒鳴った。
「後藤さんよ!そっちの護衛に回るぞ!全騎、続けっ!」
第一分隊はブースターを開き、宙に舞った。
「気をつけろ!」
瀬音は部下に命じた。
「艦相手に下手に背を向けると撃たれるぞ!」
「了解!」
「くそっ!」
さつきは3騎目を仕留めたところでビームライフルから手を放し、槍を手にせざるを得なかった。
「これ、肩にマウントさせた方がいいっ!」
ビームライフルは右足に取り付けたホルスターに突っ込むことでマウント出来る。だが、長物を扱うさつきにとっては、ビームライフルと槍が干渉しないか気になって仕方ない。
接近する“帝刃”が剣を抜いて接近する。
さつきは鋭い槍の一撃を“帝刃”の喉元に突き立て、“帝刃”を擱座させた。
「4騎目!―――次っ!」
連続した突き技を“帝刃”達の装甲の隙間に正確に突き入れ、次々と“帝刃”を倒す。
もう亜音速と言っていいほどの速度で移動中の空中戦だ。
体勢を崩して地面に墜落すれば、それだけで騎体は無事ではすまない。
“帝刃”達は騎体の構造物をバラバラにまきちらし、地面を何度もバウンドしながら派手な回転を見せ、そして爆発した。
「接近させなきゃいいんでしょ!?」
「そういうことだ!」
紅葉に頼み込んで作ってもらった短めの斬艦刀を振るい、そう叫んだのは宗像だ。
一撃をわざと大降りに振り、敵が回避したところを見計らって蹴り飛ばし、あるいはシールドのエッジを叩き付け、とにかく敵を地面に叩き付けることに専念する戦法を採る。
剣による撃破を狙っていては、この多数相手では圧倒的に不利。
そう判断した、機動戦闘に優れた宗像ならではの技が光る。
その隙間を狙うように、二宮達がビームライフルによる射撃を繰り返しつつ、飛来する砲弾からTACとベルゲをガードする。
「ええいっ!」
南沙級飛行空母ネームシップ「南沙」の艦橋で苛立たしそうに舌打ちしたのは、中華帝国軍第3機動飛行艦隊司令官の毛提督だ。
「どういうことだ!」
提督は怒鳴った。
「敵は二手に分かれる。一つは日本軍だとわかったが、その日本軍が敵対した部隊は所属不明だと!?」
「全く、データにないタイプです」
メサイア担当の参謀が報告した。
「ただし、そいつらが日本軍と交戦したのは事実」
「どっちにしろ、敵だろうが!」
提督の視線の先、壁に吊された戦況スクリーンには、オレンジ色のメサイアと戦う部隊の様子が映し出されている。
20騎を向かわせて、今でも生き残っているのはわずか2騎。
いや、今、2騎共やられたから全滅だ。
「砲撃を!」
提督は反応消滅を前に、椅子を蹴った。
「後衛の第102小隊を後退させろ!こちらからの砲撃の邪魔だ!空母護衛隊を102小隊と合流させて、あのオレンジ色のメサイアを仕留める!」
「了解!」
提督指揮下の各艦からML砲と実体弾がオレンジ色のメサイア―――アーコット達めがけて放たれる。
艦橋にいても鼓膜が破れそうなほどの射撃音と、靴越しにしびれを残すほどの振動が提督達を襲う。
「魔法探索、感有!」
魔法探索担当士官が怒鳴ったのは。その時だ。
「どこだ!」
提督は彼の元へ駆け寄った。
「艦隊上空!」
士官は告げた。
「ML反応―――来ますっ!」
「どこだ!?どこを狙う!?―――ええいっ!FGF戦闘展開!」
飛行艦は魔法の反作用で浮揚、航行する。
その反作用の有効範囲を、FGF《フリー・グラビティ・フィールド》と呼ぶ。
言い換えれば、FGFが作り出す力場という擬似的な海に浮かぶのが飛行艦。
力場は出力をあげれば容易にバリアとなる。
このことから、大型戦闘艦艇は、バリアとしてFGFを展開することがある。
無論、飛行空母という艦の性格からすれば、航空機やメサイアの離発艦を不可能にするFGFのバリア展開は本当に非常手段なのだ。
だが、提督の判断は遅すぎた。
提督の目の前。
飛行空母「南沙」の横を航行する南沙級二番艦「海南」の甲板に光の柱が突き刺さったのは、その命令が発せられた直後だった。
光の柱は5本。
艦橋に1本。機関部に2本、主カタパルトに2本。
見事に配分されていた。
「なっ!」
ズンッ!
ズズンッ!
連続した鈍い音を立て、それまで雄姿を示していた「海南」は炎に包まれ、高度を落としていった。
「ば、馬鹿な!」
愕然としつつ、提督は思った。
く、空母が一瞬で撃沈だと!?
あ、あり得ない。
思わず後ずさった提督が救いを求めるように視線を送ったのは、同じ南沙級空母三番艦「東沙」だったが―――
ドドンッ!
弾薬庫が誘爆したのだろう。
全長400メートルの巨体が真っ二つにへし折れ、そのまま墜落していった。
「く、空母が!」
「攻撃、来ますっ!」
「回避いっ!」
提督は死にものぐるいで叫んだ。
「何としても回避しろっ!艦隊が、俺の艦隊が!」
全滅する!
名誉ある中華帝国軍艦隊を率いる提督として、その一言を口にすることなく死ねたのは、むしろ提督にとって唯一の救いだったかもしれない。
直後、艦橋を抉ったビームライフルの一撃は、提督他、艦隊司令部全員を、艦橋ごとこの世界から抹殺してのけたのだから。
南沙が煙を上げながら、重々しく沈み始める光景を目の当たりにした中華帝国軍は、各個の判断で空母を仕留めた敵に立ち向かわざるを得なかった。
撤退命令も何も発信することなく、艦隊司令部は全滅。
この事態を受け、寧波級で構成された第401巡航戦隊司令部は、艦隊指揮権の移管を宣言。
前面に出たメサイア部隊に後退を下命。艦隊護衛に当たるよう指示、オレンジ色のメサイア達にむかった艦隊護衛部隊にも同様の命令を発した。
さもなければ艦隊が全滅する。
死ぬ。
それだけは、彼らもまた、避けようとしたのだ。
だが、それさえ遅すぎた。
艦隊に襲いかかったのは、“D-SEED”だ。
その手に持つビームライフルは、恐ろしいほどの正確さで寧波級の機関部と艦橋を次々と撃ち抜いた。
爆沈する寧波級達の間をすり抜けるようにして、艦隊護衛の“帝刃”達が敵めがけて殺到する。
その“帝刃”達でさえ、“D-SEED”は逃しはしない。
寧波の横をすり抜けようとした“帝刃”2騎が一瞬で撃墜された。
敵めがけて、“帝刃”達があらゆる射撃系兵器をたたき込もうとする。
襲い来る弾の雨を前に、“D-SEED”は全く速度を落とすこともなく、騎体を軽くひねって回避すると、反撃に打って出る。
“D-SEED”を駆るのは、当然、祷子だ。
目の前に広がる炎の地獄を前に、祷子は顔色一つ変えずに騎体を駆り、敵の攻撃をかわし、敵を葬り続ける。
微塵の躊躇も、容赦も、そこにはない。
“D-SEED”が、“帝刃”2騎を前に突然、ビームライフルを放すと、腰にマウントされた光剣を抜きはなった。
すれ違い様の一撃。
わずか2秒に満たない攻撃。
“帝刃”達は、その攻撃により、騎体をバラバラに切断され、爆発の炎に変えられた。
対する祷子は、光剣を腰に戻すと、宙を落下するビームライフルを掴み、エネルギーを確認する。
直後、“D-SEED”が艦隊の下に出た所で、祷子はブースター全開で制動をかけ、残存する寧波めがけてビームライフルを放った。
艦隊が全滅したのは、それから1分後のこと。
任務達成と判断した祷子は、いまだしつこく追撃の手を止めない中華帝国軍メサイア部隊との交戦を続ける本隊と合流すべく、米軍が展開する方角へと向け、“D-SEED”のブースターを開いた。




