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部隊、全滅 第一話

 富士見町防衛線。

 山梨と長野の県境。

 山間のとるに足らないのどかな地が、今では戦場だ。

 農地には、巨大な波上のコンクリートブロックが数百メートルに渡って、大型妖魔用の阻止構造物として敷き詰められている。

 その後方には、コンクリートと分厚い複合装甲を幾重にも重ねた防御壁。

 防御壁手前はクリークになっており、大型妖魔の突撃を阻止可能、さらに壁はUの字型に構築され、必要によっては十字砲火攻撃でさえ可能な作りになっている。

 美奈代達はその防御壁に開けられた銃眼から砲口を出し、迫り来る妖魔達の阻止にあたる。

 それが任務だ。


「和泉!」

「了解!」

 127ミリ機動速射野砲がうなりをあげ、“サイ”の群れを吹き飛ばす。

「下!小型妖魔多数!クリークを越えてくる!」

 観測所から美奈代達に警報が入る。

「数は!?」

 目の前で残弾数を示すカウンターがダンスする中、照準を合わせるので手一杯だ。

「一々数えてられるかよ!」

 観測所もいろいろ手一杯らしい。

「山崎、美晴!広域火焔掃射装置スイーパーズフレイム!」

「了解!」

「はいっ!」

 美奈代達が使う銃眼のかなり下。

 地面から5メートルほどの所に設置されたシャッターが開かれ、広域火焔掃射装置スイーパーズフレイムのノズルが突っ込まれる。

 そして―――


 ゴウッ!


 熱風が壁を走り、速射野砲を揺るがす。



「射撃終了まで後1分!」

 司令部から通信が入る。

「小隊、突撃準備!」

「了解」

 美奈代は戦況モニターを一瞬だけ確かめる。


 場所は山間部をくの字に抜ける地形。大型妖魔達の魔法攻撃は、その地形故に発揮出来ない。

 野砲で叩けるだけ叩き、がむしゃらに突撃し、魔法攻撃を放とうとする大型妖魔を仕留める。仕留められる前に、仕留める。

 美奈代達はここ数日、そうやって生き延びてきた。

 だが―――


「―――よし」

 美奈代は命じた。

「第一分隊各騎、ロケット発射と同時に跳躍、斬り込むぞ」

「了解―――やってやろうじゃねぇか」

「かかれっ!」



「ふぇぇぇっ。お疲れ」

 コクピットから降りてきた都築に声をかけられ、美奈代は軽く頷いた。

「ご苦労」

「ハァッ……今日も弾薬届かなかったな」

「ああ。今日と同じ規模の攻撃を受けたら、後数日しかもたない」

「物資不足か……」

 都築はため息混じりに言った。

「こんな派手な建築物造ったって、肝心のタマがないんじゃ、ハナシにならんぜ」

「鬼の洗濯板というそうだ」

「へえ?」

 何故か都築は、美奈代の体を舐めるように見た。

「な……なんだ?」

「成る程―――納得した」

「……ちょっと待て。どういうことだ?」

「つまり」

 都築の指が美奈代の胸の当たりで止まり、そのまま体のラインをなぞるように下へと下がる。

「こういうことだ」

「……わからん」

「鬼の洗濯板」



「いい加減にしろと、何度言えばわかる!」

 目の前で小さくなる二人に、二宮は怒鳴った。

「ここは小学校じゃないんだぞ!」

「で、ですが」

 美奈代は恨めしそうに言った。

「都築が……その」

「いかなる理由があろうと、仲間めがけて発砲することはあるまい」

「……はい」

「都築もだ。いい加減、和泉に甘えすぎだ」

「……はぁ」

「ったく、こっちは弾薬不足で頭抱えているというのに」

「教官」美奈代が訊ねた。

「何だ?」

「弾薬は、何故届かないんですか?」

「中華に備えた九州方面へ優先的に回されている。生産ラインはフル回転してもらっているが、こっちに回す余裕がない」

「我々に全滅しろというのですか?」

「言わせるものか」

 二宮はコーヒーメーカーに手を伸ばしながら言った。

「我々の背後、白州を抑えられたら、今度こそ近衛は終わる―――意味はわかるな?」

「白州は、国内最大規模の魔晶石の産地です」

「そうだ。質的に言えば世界最高といってもいい。ここを抑えられれば、メサイアも、飛行艦も、帝国が必要とする魔法兵器の全てが生産不能に陥る」

「なら!」

 美奈代は強い口調で二宮に言った。

「どうしてその最前線に弾薬が届かないのですか!?」

「後方の連中だって、死にものぐるいでやってくれているさ」

 二宮はコーヒーを紙コップに注ぐと、美奈代達に手渡した。

「何にだって限界はある。弾薬製造に必要な資源が、国内に残り少ない」

「……」

「緊急輸入している。だが、連中だって足りていないんだ」

 美奈代は、腹の中にわき上がるやり場のない思いを、歯を食いしばって処理した。

「魔族相手に使わねばならない貴重な資源を、何に使わざるを得ないか、一々、口に出す必要はないな?」

「……っ」

「ここでの戦いでは、全ての弾薬は貴重な存在だ。無駄弾は一発も撃てない。認めない」

「無茶ですよ」

 都築は言った。

「戦車が対大型妖魔戦において、有効な兵器足り得ないのは、毎分10発ちょっとの、その発射速度の遅さからだって、そう言ったのは教官ですよ?」

「都築。私の話を、きちんと聞いていなかったようだな」

「えっ?」

「戦車で大型妖魔相手に一対一サシで渡り合うことは、不可能ではない。FCS、こと、レーザー等の照準装置が有効で、急所に命中させることが出来ればな」

「……この状況では」

「モノは同じだ。急所に命中させることが出来れば、戦車でも相手になる。状況は関係ない」

「つまり」美奈代は言った。

「一発必殺―――メサイアによる照準なら不可能ではない」

「そうだ。ついでに、私の方で、津島中佐にはかなり無茶を言って作ってもらったモノがある」

「モノ?」

ML(マジックレーザー)砲だ」

「メサイアに搭載されていますが?」

「メサイアのパワーがとられて、いざというときにパワー不足になる恐れがあるし、大型妖魔相手には威力不足だ。だから、外部から出力をとるタイプを手配した。

 あの“鈴谷すずや”に試験的に配備されていたのより数段出力が高いモデルだ」

「それでは、魔晶石エンジンが」

「ああ。開発局の倉庫に眠っていた艦艇用エンジンをここに輸送してもらい、それをつなげる。艦艇用なら何とかなる」

「艦艇搭載用のML(マジックレーザー)砲を流用した兵器?」

「そうだ」

 二宮は、何でもないという顔で頷いた。

「ビームバズーカというそうだ。弾薬がなくても、レーザーなら何とかなる。安心しろ。近衛で以前、試作型を作って、そのままお蔵入りした実績が」

「なぜ、お蔵入りを?」

「爆発したんだ」

「は?」

「砲塔内で暴発して……いや、あの時2ヶ月入院した」

 過去を懐かしむように何度も二宮は頷くが、美奈代達は青くなるどころか白くなった。

「……そんな恐ろしいシロモノを、我々に使えと?」

「津島中佐が改良している。私の時は原因不明だったが、中佐のアタマなら何とかなると思ってな。ま、面倒くさいとかいろいろゴネられたが」

「津島中佐、よく引き受けましたね」

「交渉次第だな」

「試射は?」

「平野艦長がやってくれた」

「平野艦長、騎士だったんですか!?」

「ああ」

 二宮は少し考えて、怪訝そうな顔をした。

「知らなかったのか?」

「聞かされていません」

「そうか」

 二宮は感心したように頷いた。

「候補生として私とは同期だ。向こうは生徒隊長だ。バリバリのエリートで面倒見がいい、頼れるというか―――出来れば近づきたくないカタブツ殿だったよ」

 そこまで語った後、二宮は顔を曇らせた。

「ところが、ある日の演習で事故を起こした。コクピットが完全に潰れるほどの事故だった。コクピットから救出されるまでに3時間以上。回収された美夜だったが、全身骨折に数カ所の内臓破裂。医者から“あと少し放っておけ。勝手に死ぬ”とまで言われたと聞く」

「そ……そんな」

「療法魔導師がいなければ死んでいたろう……文字通り、九死に一生で助かったが、騎士としての力は失ったも同然だった。近衛からお払い箱にされるはずだったが」

 二宮は、そこで自分の頭を軽くつついた。

「あいつはここがいい。指揮官としての才能を買われて艦隊乗り組みになったんだ」



 魔晶石。


 魔力を持つ石のこと。


 水晶の一種と考えられているが、詳細は一切不明。


 天然の魔力発生装置マジック・ジェネレーター・システムであると共に、人類が唯一保有する魔力動力源でもある。


 混じりけのない無色透明が最高級とされ、大型結晶の多くは魔晶石エンジンの基幹部に、米粒ほどの小型結晶でさえ、様々な利用が行われている。

 この貴重性故に、鉱物としての扱いはウラン並で、個人が保有することは認められていない。

 日本国内で有名な産地は山梨県白州。

 ここにある皇室資産の一つに数えられる鉱山からは、安定した品質の大型結晶が産出されることで知られ、その質と産出量をもって、世界最優良の鉱山とまで言われる。


 魔晶石の供給源、白州。


 近衛にとっては意地でも守らねばならない生命線。


 当然、そこは魔族のねらい目でもあった。


 すでに数次にわたる大型妖魔主体の攻略がなされたが、山間部を抜けるという大型妖魔にとって困難な地形条件により、攻略は全て失敗。

 魔族軍側は深刻な損害を余儀なくされている。


「八ヶ岳を抜けるルートは」

 ズルドがいらだった声をあげた。

「たかがデミ・メースが10騎足らず、それにこうも足止め喰らうなぞ!」

「あってはならんことではある」

 ガムロは能面のような顔を崩さずに頷いた。

「魔力攻撃手段まで投じてきたとなれば、さらに問題だ」

「俺が出る!」

 ズルドは背負った剣の柄を握った。

「デミ・メース風情、この俺が!」

「血気にはやっても勝てんぞ?ズルド」

「しかし、兄貴……」

「敵の防衛網はかなり厳重だ。八ヶ岳方面からの攻略も、大型妖魔達に山越えをさせる点ですでに困難極まりない」

「このまま黙ってやられろというのか!?」

「メースにやらせる。いい訓練にもなろう」

「八ヶ岳で何騎殺られたと思ってる!正気か兄貴!」

「デミ・メース人間共の言うメサイアについて、情報もかなり入っている。連中にとって最強の駒がメサイアというなら、我々も我々も最強の駒を当てるのは当然だ」

「鉱山なんざ吹き飛ばせ!」

「魔晶石が鉱脈として暴走して見ろ、地形が一変する程度ではすまん。あの辺が火山地帯だということを忘れるな」

「どうせなら、人類を火山爆発で」

「神族と交わした交戦規定は未だ健在だ。次の敵は人類ではなく、神族になるぞ?」

「ちっ!」

「えり抜きの部隊が白州を防衛する部隊と交戦する。結果に期待しよう」



 魔族軍陣地から発進したメースは12騎。


 すでに戦線に大量投入され、人類から「魔族軍のメサイア」と認識されている“ツヴァイ”とは違う。

 甲冑を思わせる重装甲を纏い、左肩にスパイクのついたシールド、右肩にもシールドがつく。


 “サライマ”


 そう、呼ばれる騎。

 “ツヴァイ”の後継騎にあたる。


「すごいな……」

 そのコクピット。

 目の前の光景を前に、感心した顔でつぶやくのはカヤノだ。

 上田で見せた驚異的な狙撃能力を買われ、魔族軍に配備されたばかりの“サライマ”の一騎を任された。

 任務は狙撃。

 そのため、カヤノの駆る“サライマ”の肩には狙撃用の魔法弾発射筒まほうだんはっしゃとうが搭載されている。

「パワー、装甲、全部が“ツヴァイ”の二倍……ううん。四倍はある」

 パワーゲージの桁が確実に違う。

 肩の魔法弾発射筒まほうだんはっしゃとうだって、パワーがありすぎて“ツヴァイ”が撃ったら、逆に“ツヴァイ”の方が危険なほどだ。

「“ツヴァイ”は扱いやすくて好きだったんだけど」

 “サライマ”は、カヤノが慣れていないせいか、パワーを持て余しているように思えてならない。


 先行した大型妖魔達が疾走する光景が一瞬で通り過ぎた。


「しかたないか」

 カヤノは割り切ることにした。

 兵隊に過ぎない自分は、与えられた兵器で戦うしかないのだ。

「小隊各騎」

 小隊長のアーコットからの通信が入る。

「これより突入する。獲物は食い放題だぞ!」

「了解!」

「大型妖魔達の突入開始後60秒で、我々は敵陣地側面から飛行突入。カヤノは突入開始地点から狙撃だ。しくじるな?」


「くっそぉっ」

 “鬼の洗濯板”監視所で双眼鏡を覗く紅葉が言った。

 双眼鏡の向こう。

 鬼の洗濯板の上には、英帝国軍“ロンゴミアント”と独帝国軍“ノイシア”が列をなして迫り来る敵に備えている。

 EU軍の主力を為す英独連合軍がここに布陣した理由は簡単だ。

 数次にわたって魔族軍の攻撃を退けた難攻不落の要塞。

 ここを支援することで彼らは魔族軍と戦ったことになる。

 その実績ほしさのためだけに、彼らはここに来たのだ。

 彼らがここに布陣することに、戦略的意味なんてない。

 各国が勝手な理由で勝手に戦う。

 それが、この時点における国連軍だということを証明するような事態だ。

 ぺっ。

 そんな“ロンゴミアント”の背を見ながら、紅葉は苦々しげに唾を吐いた。

「紅葉様……ここは軍の施設ですよ?」

 監視兵の一人が紅葉を睨む視線に気づいた白石があわてて紅葉をたしなめる。

「だってさぁ」

 紅葉は不満顔だ。

「こっちが要請してないのに勝手に乗り込んできて、感謝しろといわんばかりじゃない!」

「それはそうですが」

 白石にも紅葉が怒る理由はわかる。

 美奈代達がビームバズーカの初陣を迎えるその直前になって英独軍が飛来、「この先は我々が敵とあたる」だなんて言われてはたまらない。

 ビームバズーカは隠さなければならないし、連中のメサイアが邪魔で撃つことは出来ない。さらに今までの手柄まで、下手すれば連中に持っていかれかねない。

 全てが邪魔なのだ。

「どう戦うかは知らないけど」

 紅葉は双眼鏡から目を離し、警告音を立て続ける魔力探知装置マジックレーダーのスクリーンに目をやった。

「あんな編成で、どうやって戦うのか、とくと拝見させていただきましょうか」

「しかし……連中だって、北部方面では」

「そっちで頑張ってる連中は移動してないわよ」

「えっ!?」

 白石は目を見張った。

「あいつら、北部防衛線から回ってきたんじゃないんですか!?」

「対魔族戦の経験はないと見たわね」

 紅葉は魔力探知装置マジックレーダーに映し出される反応―――妖魔の数を数えながら言い切った。

「一回でも妖魔と戦った経験があるなら、“サイ”相手に密集陣形はとらない」

「あっ、そうですね」

 紅葉がいいたいことはわかる。

 “サイ”もまた密集陣形を組む。

 その理由は、その大規模ML(マジックレーザー)攻撃を有効に使うため。そして、突入時の破壊力を上げるため。

 共に、密集陣形で立ち向かうべき相手でないことを教えていた。

 紅葉が操作するのは、魔力探知装置マジックレーダーの出力装置だ。

「でもね?―――おかしいのよ」

「何がです?」

「D4区画の風力センサーが異常値を示した。なのに反応はない」

「まさか、コンシール?」

「可能性あるわ。交戦開始まで?」

「あと、推定200秒切りました」

「飛行艇25号は緊急発進。後退して―――二宮中佐、私、聞こえている?」




-----用語解説---------

ツヴァイ

・元は魔帝軍配備の6世代重メース。

・堅牢な構造と装甲、そして配備当時は脅威的ともいうべき機動性と戦闘能力で魔界帝室の領土拡大に貢献した。

・脚部に内蔵されたホバーにより高速移動を実現、重装甲なのに高機動が可能。

・ホバー移動しながらの攻撃はかなり迎撃が困難で、戦争中、魔族軍が投入したメースの中で最も古参なのに、人類側メサイア乗りが対応に最も苦労させられた騎として知られている。

・ホバー移動は得意だが、普通に歩くと関節部に負荷がかかるため制限がある。

・また、頭部には特徴的な十文字状のモノアイレールを採用している。

魔法弾発射筒

・バズーカ砲と対戦車ライフルを兼ねたようなシロモノ。

【ネタバレ】

・イメージは、ガンダムの「ドム」。

・したがって、魔法弾発射筒は「ジャイアント・バズ」なワケ。



サライマ

・魔帝軍配備の8世代メース。

・格闘戦に秀でた運用が得意な汎用メースで、この世代で新型操縦システムが採用された関係で、操作性が先代のツヴァイと比べて格段に向上している。

・装甲はツヴァイより薄い反面、出力はかなり上。

・世代交代の関係で民間市場に出回っているため、人間界に送られるメースとしてはツヴァイに次いで多い。

・騎体色はオレンジのため、紅葉から「ミカン」と呼ばれたが、はっきり言って高性能騎。

・性能はさすがに数千年を経たツヴァイでは比べ物にならず、カヤノを驚かせていた。

【ネタバレ】

・イメージはZガンダムの「マラサイ」……もじって「サライマ」。私のネーミングセンスってこんなもん。ううっ……(涙)










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