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南方戦線

ギュインッ!


 本当に一瞬にして、米兵達の頭上を、木々を揺らしながら、青い迷彩塗装を施された、得体の知れない飛行物体が3機編隊でフライパスしていく。


「何だ?」

「ジャップのメサイアです」

「そうか―――びっくりさせやがる」

 海兵隊のメルグ少尉は、もう一度空を見上げた。

 熱帯地方特有の抜けるような青空が広がっている。

 視線を戻した地上。

 家が燃え、人間だった死骸が転がり、あちこちで散発的に銃声が響く。

「メルグ少尉!」

 粗末な小屋の陰から軍曹が顔を出した。

「こっちへ」

 少尉が小屋の陰で見たのは、一カ所に集められている男達。地面に座らされ、おびえた目をしていた。

「村人か?」

「ここの村人なら、あっちの穴の中ですよ」

「じゃ、こいつら何だ?」

「中国兵ですよ―――ヤバくなったからって、村人の残した服を着ているんです」

「ヤン、通訳しろ―――まずは所属だ」

「はい」

 ヤンと呼ばれた目の細いアジア系の部下が近くにいた男に声をかけた。

 少尉には何を言っているのかわからないが、妙に甲高い声のやりとりが、少尉の神経に触れた。

「陸軍の第802歩兵師団だと言っています」

「師団司令部は」

「―――自分達に死守命令を出して、後退したそうです」

「後退する先は」

「―――聞かされていないといっています」

「村人をどうした」

「―――老人は命令で殺した。女は強姦して、男と一緒に奴隷として3日前に後送した」

「……子供は」

「―――殺した。赤ん坊まで全部」

「軍曹」

「はい」

「こいつらに穴を掘らせろ。それから、新兵を集めておけ」

 男達と会話していたヤンが突然、男の一人を銃尻で殴り始めた。

 男が頭を割られて動かなくなってもなお、ヤンは殴るのをやめようとしない。

「ヤン」

 少尉は潰れた頭めがけてそれでもなお、銃尻を叩き付けようとするヤンの肩を掴んだ。

「どうした」

「こいつら、腹立ったんですよ」

 死体となった男を蹴りつけたヤンが言った。

「銃剣を何本、赤ん坊に突き刺すことが出来るか賭けていたそうです」

「?」

「何本の銃剣で刺されてそれでも生きているか、商品は、母親の体だったそうです」

「母親の目の前で?」

「そう言っていました」

「軍曹」

「はっ」

「穴を掘らせろ―――ヤン」

「自分は、アメリカ人です」

 ヤンは言った。

「自分は、こんな国の連中とは違います」

「ああ。そうだ」

 少尉は力強く、何度もヤンの肩を叩いた。

「お前は文明国、アメリカの国民だ―――俺達の仲間だ」

「はい」



 30分後、穴が掘られた。

 穴の縁には蜂の巣になった死体が転がっていた。

「どうした?」

 実戦に出たばかりで、満足に戦闘に参加していなかった若い兵士達が少尉の後に続く。

「スコップを貸した途端、襲いかかってきたんですよ」

 軍曹が死体の頭を踏みつける。

「無駄に手間をかけさせる」

 どういう運命が待っているのか。

 男達は青くなっていた。

「ヤン。通訳しろ―――穴を埋める位はやってやると」

「はっ」

 甲高い声で喚く男達だが、後ろ手に縛られて身動きがとれない。

新兵ルーキー

 少尉は、後ろに並ぶ兵士達に訊ねた。

「こいつらは何だ?」

「中国人です。サー」

「中国人とは何か?」

「人類の裏切った豚共です。俺の兄貴は、こいつらのせいで!」

「なら、どうする?」

「殺します」

「よろしい―――構えろ」



「司令部。こちらラグエル1」

 青い宝石を敷き詰めたような海。

 緑の絨毯のような森。

 白い雲。

 自然を作り上げた神の御技に感謝したくなる世界を駆けるFly ruler。

 その1号騎を駆るのが一葉だ。

「エリア25の制圧に成功。当該地域に残存するメサイア、戦車の類は確認できず」

「司令部了解―――そのままエリア28侵入中のメサイアにかかってくれ」

 エリア28は基地のあるエリア21とはほぼ正反対。

「えーっ?」

 一葉は、騎体をバンクさせ、妹達を導く。

 強い日差しを受け、青迷彩が施された騎体、特にハッチ横にびっちりと書かれたキルマークが輝く。

「仕方ねえだろ?ベトナム方面から8騎、海越えで飛来して来た。エリア28はEUの機械化歩兵部隊しかいねえ」

「EU軍も、メサイア連れてこいって言ってくださいよ」

「インドだなんだでそんな余裕はねぇんだよ―――ほら。キルマークつける絶好の機会だぜ?」

「了解―――エリア28、敵メサイアは8、撃墜します」

「司令部了解―――御武運を」


「双葉、光葉!またゴミが血迷ったって」

「エリア28でしょう?何騎叩き落とされれば気が済むの?」

「昨日だけで3騎だよ?」

 Fly ruler編隊が高度を上げる。

「あっちのエライ人、アタマ悪すぎなんだよ」

 一葉は言った。

「机の上の数字だけで戦争するからこうなる」

「ははっ。誰の受け売り?」

「でも、正しいよ?」

「お姉、光葉!レーダーに感!」

 ピーッ!

 三騎のセンサーを連動させることで、驚異的なまでの索敵能力を誇るFly rulerのコクピットに警告音が響く。

 Fly rulerの索敵から電子戦までをこなす情報システム、ラグエル・システムから逃れることは出来ない。

「ゴミは8、司令部の言ったとおりよ」

「そうだね」

 すでにFCSは敵を捕捉、MCメサイアコントローラーがFly rulerから突き出している戦艦主砲並の大口径ML(マジックレーザー)砲のパワー調整してくれる。

 後はターゲットをロックオンするだけだ。

 トリガーを弄びながら、光葉が優しげに言った。

「……心配しなくていいよ?Fly ruler隊わたしたちが、瞬殺してあげる」

 ピンッ!

 ロックオンの表示と同時に、大口径ML(マジックレーザー)砲を発射。

「敵3消滅―――敵5、左右に展開」

「こっち見つけてる?」

「レーダー波、感知せず」

「双葉、光葉」

「お姉、どうする?」

「いつも通り、早い者勝ちで」

「うん―――照準急いで、今度は、この光葉ちゃんが冥土に送ってあげるんだから」

「了解。接近戦になる前に片づけます」

「了解!―――っ!」

 光葉はFly rulerの高度を一気に落とした。

 急激なGとは明らかに別な振動と、陽光とは異なる光がFly rulerをかすめる。

ML(マジックレーザー)!?」

「敵、寧波級巡航艦1」

「よくやる!」

「ラグエル・システムを上回るほどの索敵を?」

「違います」

 MCメサイアコントローラーは言った。

「射撃軸推測攻撃です」

「射撃?」

「単に、こちらからのML(マジックレーザー)の射撃軸から騎位を割り出し、そこめがけて射撃してきただけです」

「あてずっぽうってこと?」

「そうです。その証拠に、次の攻撃がまだ」

「そっか」

 光葉はわかった。

 二発目がこないってことは、敵はこっちを完全に見つけていないってことだ。

 なら―――

「ターゲットをロックオンしたら、すぐに移動するよ?」

「正解です」

「普通のメサイアならともかく、Fly rulerの機動性なら―――やれるっ!」

 光葉はコントロールユニットを掴む。

「右から来ます!ロックオン、どうぞ!」

「いけっ!」

 トリガーを引くのと同時に、垂直上昇。

 2秒の間隔を開いて、発射時の機動をなぞる格好でML(マジックレーザー)が襲ってくる。

「敵1、大破―――洋上に墜落、反応消滅!」

「次!」

「ロック!」

「撃って―――っ!」

 今度は右斜め下への急旋回。

 やっぱり、2秒後にMLマジックレーザーが飛んできた。

「正確だけど―――」

 光葉は無理矢理唾を飲み込んだ。

「遅いっ!」

「双葉、光葉!」

 一葉から通信が入ったのは、3騎目をロックオンした時だ。

「何!?」

 トリガーを引いて急旋回。

「飛行艦を叩くよ?」

「マジ!?」

「大物だよ!?」

「れっきとした司令部命令。数は3。後ろの輸送艦6もね」

「……スゴ」

 光葉は、モードを切り替えつつ、驚きを隠せない。

「歴史に残るんじゃない?私達」


「全騎、対艦攻撃モード切替、バリア全開、最大推力で突入、一撃で仕留める。FGFフリー・グラビティ・フィールドに注意して」


「了解―――いける?」

「勿論」

 MCメサイアコントローラーは答えた。

「艦載エンジンを改装したこの子の心臓なら、空は任せてください」

「地上戦は無理だって言われてるしね」

「この子は、空駆ける天使なんですよ?」

「鳥は空に、獣は地に―――」

「詩人なんですね」

「へへっ……じゃ、行きますか」

「はい♪」



 光葉達に立ちはだかるのは、メサイア部隊向けの支援物資を満載した輸送艦を護衛する任務にあった寧波級巡航艦3隻。

 ロシアから売却された旧式飛行艦を参考に開発された艦。

 艦体後方から流線型の支柱が伸び、その下から左右斜め下方にエンジンがつくという、ロシアの独特なデザインが特徴的な艦だ。

 背負い式に装備された主砲の連装ML(マジックレーザー)砲3基が火を噴く。

「ダメです!」

 巡航艦の一隻、淮南艦橋にいた士官は、砲術担当士官の悲鳴を聞いた。

「馬鹿者っ!」

 艦長が馬上鞭を振りかざし怒鳴る。

「何をやっているか!」

「敵3、接近中!」

 索敵担当士官が悲鳴に近い声で報告する。

ML(マジックレーザー)反応!」

「何っ!?」

 士官が、艦橋の外に視線を向けた時だ。

 ズンッ!

 鼓膜が破れそうな音と振動、艦橋の中のが彼を炒り豆のように弾いた。

「な、何がっ!?」

 艦橋の床にたたきつけられた彼に青い機械の塊が迫り来る。

 噂に聞く、日本軍のメサイアだ。

 そう思った彼が最後に見たのは、艦橋へ、自分へ向けて襲いかかる光だった。


 至近距離から放たれたFly rulerの主砲は一騎あたり3発。

 すべてが背負い式に配置された寧波級巡航艦の主砲砲塔の正面装甲をたたき割った。

 そして、すれ違い様に展開された、全長30メートルにまで達する大型光剣―――レーザー・バスター・ソード―――が、艦橋を完全に切断してのけた。

 主砲と艦橋を吹き飛ばされた艦に戦闘能力は残されていなかった。

 一瞬の間合いを残し、3隻の巡航艦は炎の球へと変化、進路を海へと向けた。


「無抵抗だけど……戦闘艦艇じゃないけど……」

 飛行艦を仕留めた一葉は、輸送艦に襲いかかった。

 好きでやることじゃない。

 輸送艦なんて沈めても褒められもしない。

 無抵抗な輸送艦なんて、仕留めて楽しいわけがない。

「ここで見逃せば、何人死ぬかわかんない。だから」

 モニターに輸送艦のブリッジが大きく映し出される。

 乗組員の狼狽する姿まで、無慈悲に映し出すモニターに、一葉は囁いた。

「―――ごめんね?」


 ドンッ!


 すれ違い様の一撃は、輸送艦のブリッジではなく、飛行推進システムを正確に撃ち抜いた。

 攻撃後、旋回した双葉は、推進力を失って海面に降下していく6隻の輸送艦の姿を確認した。

 推進システムを破壊しただけだから、すぐには沈まないだろう。

 中身が何かは知らないが、少なくとも乗組員のいくらかは助かる。

 双葉はちょっとだけ安堵のため息をついた。

 他の二人も殺さずにいてくれた。

 それが姉妹としてたとえようもなく嬉しい。


 この交戦により、Fly ruler3騎で構成される一葉達“ラグエル隊”の攻撃を受け不時着水、漂流を開始した中華帝国軍輸送艦隊は、3時間後に接触した帝国海軍第二水雷戦隊に降伏、その管理下に置かれる。

 当初、小銃等による反撃や最悪、自沈を警戒しつつ、水雷戦隊は輸送艦を包囲したが、すぐに異変に気づいた。

 飛行システムを破壊され、不時着水しただけで、艦からは煙一つあがっていない。

 外から見る限り、沈没の恐れはない。

 それなのに、乗組員はこぞってボートに移乗、艦から離れようとしているのだ。

 水雷戦隊はボートを一カ所に集め、臨時編成した陸戦隊を輸送艦に送り込む。

 そこで彼らが目にしたのは、あまりにもショッキングな代物だった。



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