朴二等兵の戦争 第二話
ドンッ!
彼我のシールドがぶつかり合い、メサイアの脚が地面にめり込んだ。
彼我の戦力差は5倍。
染谷達は5倍の兵力を持つ敵の突撃を食い止めたのだ。
「パワー最大っ!押せっ!」
地面にめり込んだ足が、徐々に後ろへと下がって行く。
関節への負荷を知らせる警告がひっきりなしに鳴り響く中、染谷は叫んだ。
「押し返せぇっ!」
フレーム越しに伝わってくる振動と甲高い音が、メサイアのエンジンがフルパワーに入ったことを教えてくれる。
「この程度が、近衛騎士団の力かっ!」
その声に反応したかのように、“征龍改”達は、メサイア同士が押し合う中、ついに攻撃を開始した。
シールドの隙間から槍を突きだし、前衛部隊を滅多差しにした。
そして、各騎が敵をシールドで押し返す。
敵がそのパワーに負け、体勢を崩した所に鋭い槍の一撃を喰らわせる。
40騎が集中しているのが災いし、敵は前衛を倒されたことで対応に乱れが出た。
再び襲いかかろうと戦斧を振りかざすグレイファントム達は、槍の餌食になっていった。
胸部を貫通するほどの鋭い槍を喰らったグレイファントムが崩れ落ち、或いは腹から脊椎を貫かれ、滅茶苦茶なまでに破壊されていった。
攻撃を可能にしたのは、武器の長さと破壊力だ。
敵メサイアから奪った槍は、30メートル近い長さを誇る。
この槍で作られる槍襖と全身を覆うサイズの楯が邪魔で、斧中心の韓国軍メサイアでは、有効な攻撃が出来ない。
対する染谷隊は、槍という武器の長さを活かして攻撃が出来る。
その違いだ。
そして何より染谷隊の出色は―――シールドの使い方と騎体同士の連携の巧みさだ。
敵に対する攻撃には槍襖を展開。
反撃に対しては、一斉にシールドを展開し防御。
一糸乱れぬ見事なまでの機動がなし得る芸術的動きがそこにはあった。
楯と楯の間から繰り出された槍の一撃が、次々と前衛に出たグレイファントムの装甲を貫き、一騎、また一騎と倒していく。
対するグレイファントム達は、何とか戦斧をもって反撃に出るが、攻撃を弾かれる度に繰り出される槍の一撃から逃れられない。
戦闘開始からわずか2分足らず。
グレイファントム達はその戦力を半減させていた。
「やるぞっ!」
ドンッ!
ついに染谷隊が前進を開始した。
擱座したグレイファントム達が次々と槍でとどめを刺されていく。
単純だが、その連携された動きは、確実に敵を仕留めていく戦法に、グレイファントム達は為す術がない。
「押せっ!」
「応っ!」
いかにグレイファントムが斧でかかろうが、一糸乱れぬ連携された楯の動きの前に、それはあまりに無力だった。
グレイファントムが数騎、斧で染谷騎に襲いかかる。
“征龍改”達の楯は、一斉に壁となってその前に立ちはだかり、敵が再度斧を振り上げたタイミングで動き、槍を繰り出す。
楯と槍の連携の前に、グレイファントム側は太刀打ちする術もなく、ただひたすら撃破されていくだけ。
一方的なまでの戦いが、繰り広げられた。
「前へっ!」
染谷隊は、グレイファントム達を踏みつけながら前進する。
楯と槍。
リーチというものを熟知した騎士達の繰り出す攻撃は、まるで敵を嘲り笑うかのように、残虐に、しかし、確実に敵を仕留め続ける。
確実に。
元から数がない。
確実に仕留めなければ、どんな反撃を受けるかわからない。
当初、14騎で編成された部隊が8騎まで減った背景には、倒したはずの敵からの、予想外の攻撃による犠牲がある。
皆、それで死んでいった仲間を見ている。
仲間が死をもって教えてくれた教訓を、彼らは決して無駄にしないだけだ。
「早期警戒機より警告入りますっ!」
MCが言ったのは、5倍の数を誇った敵が同数まで減った時だった。
「洋上、玄海島上空で敵メサイア部隊が戦闘編成中―――数60!」
「大盤振る舞いだな……さすがというか……機種はグレイファントムか?」
「“赤兎”と思われますが―――」
MCは首を傾げた。
「問題は、そこに接近中の部隊です。数20。全くのアン・ノウン騎」
「進行方向は」
染谷は槍を繰り出しながら訊ねた。
「竹島方面から」
「竹島?」
染谷は少し考えてから言った。
「上田、東っ!」
「はいっ!」
「生きてますっ!」
「―――残りを仕留めろっ!」
「福岡に上陸したメサイア隊が壊滅!」
「馬鹿なっ!」
対馬に設置された上陸軍司令部は、その報告に青くなった。
韓国軍のグレイファントムKAで編成されるメサイア部隊は、米国製グレイファントムが素体である以上、ロシア製“スターリン”を素体とする中華帝国軍の“赤兎”や“帝刃”よりも基本性能的には上だ。
そのグレイファントムが40騎、一度に喪失したなど、にわかには信じられない。
「相手は日本軍だぞ!?他、上陸部隊の被害は!?」
上陸軍司令官黄大将の声に参謀長が答えた。
「日本軍の砲撃及び航空攻撃が激しく、各部隊に甚大な被害が生じています」
その手にした指示棒が地図の上で動く。
「韓国軍第一派のうち、上陸に成功したものは2割程度。洋上の艦隊は壊滅しており」
「属国の被害なんてどうでもいいっ!“我が軍”の被害を知らせろ!」
「……大将」
苦々しげな声で黄大将と参謀長の会話に割り込んできたのは、大韓帝国軍側司令官ペ中将だ。
「我が大韓帝国軍も、合同軍である以上―――その、“我が軍”の範疇に」
「黙れっ!ロクに戦果もあげずに犬死する属国の兵と、栄光ある中華帝国軍を同列に扱うつもりか!?思い上がりも大概にしろっ!」
「―――っ!」
「貴様等は、黙って私の命令を聞いていればいい、それ以外、何もするな!この場にいられるだけでも這い蹲って感謝すべきだと何故わからんっ!」
「なっ!?」
「参謀長、日本海側から侵入する部隊があると言ったな―――参謀長」
殺意に満ちあふれた、ペ中将の視線を無視した黄大将の問いに、参謀長が頷いた。
「はい。詳細不明ですが―――おそらく友軍と思われます。後衛として待機中の“赤兎”部隊と合同で」
「閣下!」
オペレーターが悲鳴を上げた。
「敵軍、対馬に上陸!待機中のメサイア隊、攻撃を受けていますっ!」
「何っ!?」
「だ、誰かぁ!」
「助けてくださいっ!」
通信を悲鳴が支配する。
「“赤兎”隊は前面へ出ろっ!“帝刃”各騎は後方へ下がれっ!」
李大佐は“赤兎”を駆りながら真っ青になっていた。
“赤兎”を日本側に配置し、“帝刃”を後方に配置していた。
敵が日本側から来るという判断からだった。
ところが、敵が後ろから来た。
「愛鈴っ!敵は一体!?」
「不明っ!」
李大佐騎のMCが悲鳴に近い声で答える。
「騎種不明、フレーム、エンジンノイズ、ライブラリーに該当なしっ!」
「日本軍か!?」
「わかりませんっ!」
その目の前で、逃げまどう“帝刃”達が次々となぎ倒されていく。
「―――ちいっ!」
李大佐は叫んだ。
「“赤兎”隊、突撃っ!ヒヨコをこれ以上殺らせるなっ!」
対馬に強行着陸した銀色のメースが剣を振るう。
ギンッ!
陽光を浴び、金色に輝く剣が一閃するたびに、“帝刃”の装甲がたたき割られ、胴体と脚部が泣き別れる。
真っ二つに切断された“帝刃”の胴が宙を舞う間に、銀色のメースは次のエモノに食らいつく。
戦闘開始からたった1分。
いかに奇襲を受けたとはいえ、中華帝国軍メサイア隊はあからさまな混乱に陥っていた。
無理もない。
実情を知れば、誰もがそう思うだろう。
「だ、誰かっ!」
“帝刃”から悲鳴が上がる。
千鳥足になりながら逃げようとする騎がある。
ひっくり返ったままもがき続ける騎もいる。
皆が、自らの乗る騎を満足にコントロール出来ないのだ。
「おとなしく操縦権を放棄しろっ!」
「な、何をどうするんですかっ!」
「スイッチを押せっ!右下の黄色いヤツだ!」
“帝刃”各騎のMCLでは、パニックに陥った騎士から操縦権を奪ったMCが騎の姿勢を取り戻そうと対応に追われている。
騎によっては、操縦権を巡り、騎士とMCが対立することさえあり、MCが、騎士が錯乱したなど、やむを得ない場合に発動する「強制制御権」発動を宣言、ようやく騎士から操縦権を奪取する。
しかし、それは多くの場合、遅すぎる判断だった。
「だ、誰か助けてっ!」
目の前で仲間の騎が吹き飛ばされたのを直視し、パニックに陥った騎士がコクピットで泣き叫ぶ。
「戦えっ!」
MCが怒鳴る。
「貴様は騎士だろうが!」
その叱責に騎士は答えない。
意味不明な言葉をさかんに口走り、コントロールユニットを滅茶苦茶に操作する。
直立することも出来ず、“帝刃”はその場にひっくり返った。
騎士はそれでも“帝刃”の手足をばたつかせることをやめない。
「くそっ!」
―――冗談じゃない!
MCはコンソールの横。鍵付きの透明なカバーを開いた。
―――今回だけ、こいつの鍵が最初から外されているのはこのためか!
カバーを開くと、警告文のシールが貼られたボタンが現れた。
コクピット内で錯乱、もしくは暴走した騎士鎮圧装置装置の作動ボタンだ。
押せばスタンガンが作動し、騎士は一瞬で気絶―――もしくは高い確率で即死する。
それでも、
―――俺が死ぬわけじゃない。
―――こいつのバカに巻き込まれてたまるか!
MCは何の躊躇もなく、そのボタンを押した。
ピーッ!!
短いアラームが鳴り響き、
ビクンッ!
“帝刃”が強く痙攣した後、動きを止めた。
そして、MCの前に「操縦権限委譲完了」の表示が現れた。
騎士の脳波と心拍数に異常が発生している警告が合わせて表示された。
スタンガンを受けた騎士が極めて危険な状態であることは明白だ。
「パニックになれば死ぬって教わらなかったのか!」
MCは、“帝刃”をひっくり返った姿勢からようやく立ち直ることに成功した。
騎士がメサイアの運動神経を司るなら、頭脳を司るのがMCだ。
頭脳が体を制御出来るのは当たり前のことだ。
MCが考える通りに、“帝刃”は無駄のない動作で動き出す。
「よしっ!」
騎体バランス良好。
被害軽微。
―――やれる!
MCは通信装置に怒鳴った。
「こちら“帝刃”2031号騎!騎士戦闘不能により離脱する!」
ピーッ!!
後方警戒装置が作動した。
「何っ!?」
MCは、騎体を振り向かせようとして、そこで意識を失った。
背後から接近する銀色のメサイアの振るった剣を騎の頭部に受け、MCLごと切断されたことを、彼は最後まで理解出来ずに、その一生を終えた。
「何だいこいつらっ!」
背中を見せた敵騎に剣を突き立てた銀色のメサイア―――魔族軍メース“ヴィーズ”を駆るアニエスはあきれ顔になった。
敵を目の前にして露骨に背中を見せる騎がほとんど。
そんな馬鹿な。
やる気がないのか?
友軍騎が倒されたというのに、満足な応戦さえしてこないなんて。
「こんな敵相手にするためにっ!」
その惰弱ぶりにカッとなったアニエスはコントローラーに力を込めた。
「アタシゃ、連日徹夜でコイツを整備したっていうのかいっ!」
その剣が、背中を見せた“帝刃”の胸部装甲を貫通した。
「姉御っ!」
横に降り立ったヴィーズから通信が入る。
「何なんですかコイツ等!」
「知るかい!アンタは何騎やった?」
「俺一騎で6騎でさぁ!弱い弱いっ!」
「全くつまらない話さね!」
“帝刃”を唐竹割で真っ二つにしたアニエスは思いついたように言った。
「スリハレ、弓状列島にむかったトヒラに戻るように言いな。こんな連中相手じゃ、エネルギーの無駄だ」
「へいっ!」
ガインッ!!
アニエスの駆るヴィーズ。
その剣が、“赤兎”が振り下ろした斧を止めた。
李大佐の騎だ。
「これ以上好き勝手させるか!」
李大佐が力任せに押す。
エンジン出力が一気にレッドゾーンに叩き込まれた。
しかし―――
「ほうっ!?」
アニエスは少しだけ驚いた顔をした。
「ちょっとは骨があるか!」
面白い。
アニエスは頷くと、斧を一気に押し返し、李大佐騎の腹を蹴りつけた。
「パワーが違うんだよ!」
李大佐騎が吹き飛ばされ、“帝刃”の残骸の上に落ちた。
“帝刃”と“赤兎”の破片が巻き上がる中、それでも李大佐は自らの騎を起きあがらせようと足掻いた。
コクピット内に損傷を告げるアラームが鳴り響く。
「くっ……“赤兎”各騎に告げる!」
李大佐は通信機に怒鳴った。
「“帝刃”各騎後退っ!“赤兎”隊は“帝刃”残存騎の後退を支援しろっ!この場に踏みとどまれっ!」
騎がようやく起きあがった。
李大佐自身、腹に恐ろしいほどの痛みが走る。
何が自分の体に起きているのか、正直、知りたくない。
「ヒヨコ共を逃がすんだ!」
李大佐は自らの愛騎に斧を握りなおさせた。
目の前に立つ銀色のメサイアが接近しつつある。
ヒヨコを食い荒らす蛇。
その鱗のような嫌悪感を感じる騎体色。
いや。
蛇そのものだ。
李大佐は斧を振り上げ、“蛇”に立ち向かった。
「この毒蛇がぁっ!」
突き出されたヴィーズの剣が腹部正面から胸部背面装甲までを貫通。
李大佐騎は、斧を振り上げた姿勢で動きを止めた。
「―――間合いってものを知らないのかい」
ペッ。
アニエスは、唾を吐くと、ヴィーズの剣を目の前の敵から引き抜いた。
ズズンッ
土煙をあげながら倒した敵騎が倒れるのを、アニエスは背中で聞いた。
―――まったく!
アニエスは心底面白くなかった。
敵が弱すぎる。
神族軍のメース隊が見せた強さが微塵もない。
あいつらと比べれば、大人と子供の差どころではない。
―――弱すぎるっ!
強い敵と戦う。
その願望が乾きにも似た欲望となってアニエスを襲う。
彼女は、それから逃れるように叫んだ。
「ヘボにこれ以上つきあうな!さっさと皆殺しにしちまいなっ!」
上陸軍が司令部を置く対馬が魔族軍の奇襲を受けた。
それは、中韓連合軍上陸部隊にとてつもない悲劇をもたらすことになる。
対馬が奇襲を受けた時点で、すでに前線指揮官達は後退もしくは降伏の許可を司令部に申請していたのだ。
ところが、その結果を知らせる前にメサイア同士の戦闘に巻き込まれた司令部が機能を停止したということは、つまり、前線は撤退も降伏も出来ないまま、戦闘を継続せざるをえない立場に追い込まれたことに他ならない。
本来なら撤退すべきなのは誰の目にも明らかだった。
だが、止まることのない狂った歯車が兵士達を地獄へと導き続けた。
福岡海岸に戦車揚陸船団がたどり着いた。
阻止砲撃で満身創痍の072型戦車揚陸艦前面のランプが開き、59式戦車がエンジン音をまき散らしながら砂浜をゆっくりと走り出す。
そして百メートルもいかない所で、
ドンッ!
突然、戦車の真下で爆発が発生した。
それまで背筋をピンと伸ばして車外に上半身を出していた戦車長が倒れ伏した。
走り続ける戦車からは煙が立ち上り始めたかと思うと、砲塔と車体の隙間から盛んに炎が吹き出し始め、そして最後には砲塔そのものが吹き飛んだ。
海岸に埋められていた対戦車地雷が爆発したのだ。
擱座た戦車を避けるようにして後続の戦車達が揚陸艇を離れるが、次々と地雷に接触、炎に包まれた戦車兵達がハッチから転がり出てくる。
戦車に続く兵員輸送車両が地雷に触れようものなら、見るも無惨な地獄絵図が生じる。
それでも揚陸艦達は戦車や装甲車を吐きだし続けた。
結果、海岸線は戦車と歩兵、そして死体で埋め尽くされようとしている。
高祖山に設けられた近衛軍司令部からはその光景がはっきりと見える。
「あのタイプの揚陸艦は10隻建造されただけのはずだから」
双眼鏡で海岸を覗き込んでいたのは、黒髪の女性士官。
饗庭樟葉だ。
「それが8隻……」
「それだけ戦力を投入しているんですよ」
副官の守屋が言った。
「戦車揚陸部隊は揚陸を完了。福岡市街地前面に展開された陸軍防衛隊にむかって殺到しています」
「騎士の動きは?」
「戦力を温存しているのかもしれません。上陸部隊には確認されていません」
「陸軍は韓国軍を海岸線に貼り付けている。我々の出番はないか?」
「そう願いますが」
守屋は三式装甲服をガチャガチャ鳴らせながら頷いた。
「世論が許さないでしょうな」
「うん……後退した染谷隊には、広域火焔掃射装置を装備させろ」
「独断で後退した判断は処罰対象ですよ?」
「適切な判断だ」
樟葉は言った。
「Uターンしたとはいえ、魔族軍メサイア部隊が接近。自分達が呼び水になっていると一瞬で判断したが故に、部隊を後退させた。染谷のその判断がなければ、今頃、この辺りまで魔族軍に制圧されているぞ?」
「軍事法廷は避けられませんよ?」
「弁護人に私が立つ」
樟葉は言った。
「規則や軍規ばかり前面に押し立てると、兵が萎縮する。それでは勝てる戦も勝てない」
その声は冷たいというより、秘めた怒りに震えていた。
「現場の判断がそんなに信じられないのか!そんなヤツは、部下を使う資格はないっ!」
「……法務部隊には戦況の特殊性故の不可避の判断と見なすよう、要請しておきます」
「頼む―――大体」
ズンッ!
海岸線で、信じられないような大爆発が発生したのは、その瞬間だった。
「―――後退しなければ、“アレ”が撃てないだろうが」
「近衛がメサイアを後退させた!?」
福岡市街地前に張られた防衛線で、通信兵からの受けた報告に、歩兵小隊を率いる仙石少尉は顔を引きつらせた。
「あの無駄飯ぐらいが!こういう時くらい、役に立てっ!」
市街地付近に放置されていたトラックや車両を並べ、土嚢と共に構築されたバリゲードの中から顔を出せない。
敵からの攻撃は凄まじい。
1発撃てば100発打ち返してくる。
そんな言葉を地で行くほど、中華帝国軍は容赦がない。
先程まで相手にしていた韓国軍とは同じ人類かと疑いたくなる程、レベルが違う。
すでに2両の90式戦車が歩兵携帯用ロケットRPG7により撃破され、無惨な姿を仙石達の前に晒している。
穴埋めに回されてきた八式対空戦車がガドリング砲の弾幕で敵を阻止しているにすぎない。
戦車が出たらアウトだ。
「小隊長!」
通信兵が怒鳴った。
「航空支援が入りますっ!」
すでに戦車が出ていることは、その砲声から明らかだ。
元来、海岸上陸阻止に用意されていたA-10攻撃部隊が上空を通過した。
―――やってくれよ?
仙石の祈りに答えるように、特有のガドリング砲の咆哮と同じくして連続した爆発が繰り返される。
「やったか!?」
黒煙が幕のように立ち上る。
ばらまいたのはナパーム弾とクラスター爆弾のカクテル。
灼熱の炎に焼かれれば、戦車部隊も無事では済むまいし、クラスター爆弾なら歩兵は挽肉だ。
少しでも敵が減ったことはありがたいが―――
「小隊長!」
兵士が指さす先、攻撃に参加したA-10がエンジンから煙を吐き出しながら引き返していった。
A-10は頑丈さが売りだ。
エンジン1基失った程度で―――
A-10の損傷を、我が事のようにさえ思う仙石は歯を食いしばって空を睨む。
「……畜生」
仙石はうめく。
なにがメサイアだ。A-10の方が様々だ。
あの近衛の無駄飯ぐらい。
名ばかりの騎士様が何してくれたっていうんだ!
その彼に通信兵が怒鳴った。
「小隊長!砲撃警告ですっ!」




