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Fly ruler

30分後。


 被害復旧の進む“鈴谷すずや”の甲板に降り立ったのは美奈代達ではない。

 3騎の異形のメサイア達だ。

 長大な砲と手足のない戦闘機じみたフォルムを持つ、メサイアらしくないメサイア。


 近衛軍の開発した高々度戦域支配メサイア、Fly ruler(フライ・ルーラー)だ。


 収容作業が完了し、甲板から引き出された固定ワイヤーに拘束されたFly ruler(フライ・ルーラー)のハッチが開いた。

 整備兵がラッタルをハッチにひっかけ、それを伝わってMCメサイアコントローラー達が降りてきた。

「へえ?」

 感心した声をあげたのは、それを見物していたさつきだ。

「騎士一人にMCメサイアコントローラーが2人?」

Fly ruler(フライ・ルーラー)は」

 二宮が言った。

「先の改造で、バリアを強化した関係で、MCメサイアコントローラーが一人では処理出来なくなったそうだ」

「バリア?―――うわ。ゼータクな騎体」

「バリア……欲しいですね」

「柏。気持ちはわかるが……騎士が降りてきたぞ?」



 甲板に降り立ったMCメサイアコントローラー達はまだいい。

 問題は、そこに並んだ三人の騎士だ。

「せ、整列っ!」

 緊張した声は、恐ろしくあどけない。

 小学生が戦闘服を着ているようにしか、美夜には見えなかった。

 それだけじゃない。

 騎士達は、三人が三人。同じ顔をしているのだから余計タチが悪い。

「名札を用意しろ」

 美夜は横に立つ副長にそう命じたのも無理はないし、その方がありがたかった。

「く、クローンですかね」

「ありえるか」

 そんなやりとりをする美夜と高木の前で、一人が声を張り上げた。

「し、申告しますっ!葉月実検センター所属第7特務隊ラグエル隊隊長、神城一葉少尉。着艦の許可願いますっ!」




「都築っち、サイダー!」

「パシリ。私、あんパン」

「私両方っ!」

 食堂にそんな声が響く。

 その度に都築が駆け回り、恨めしそうな視線でも向けようものなら無言で階級章を指さされる。

 階級万能の軍隊で、階級の違い一つがどれほど大きいか、少なくとも都築はこの三人にコキ使われることで思い知らされた。



「ひっさしぶりだねぇ!」

「ホントだよぉ!」

 食堂で和気藹々とした会話が花咲く。

 神城三姉妹は、美奈代達と苦楽を共にした大切な同期生だ。

 同じ顔をした三人の少女は、ほぼ同時に頷いた。

“神城一葉 長女”と書かれたネームプレートの少女が言った。

「それにしても」

 宗像が呆れた。といわんばかりの顔で三姉妹を見た。

「よくもまぁ……あんな騎体を与えられたものだ」

「Fly rulerはね?」

 一葉が自信満々に言った。

「“ラグエルシステム”っていう、三騎連携の電子戦闘装備を持ってるの。三騎の連携が取りやすければ取りやすいほど、戦力が上がる仕組み」

「……成る程?それで三姉妹のお前達が抜擢された」

「元のテストパイロット。訳ありで二人が降りちゃって、三人募集していたんだよ。で、開発部の希望が、“三つ子”だったの」

「ああ……三つ子なら意志の疎通がしやすいって?」

「そう。ほら。騎士って、遺伝子弱いから子供出来づらいじゃない。双子でも数百万分の一なのに、三つ子っていうと、数億分の一の確率なんだって」

“神城双葉 次女”と書かれたネームプレートの少女が続けた。

「お父さん達には“宝くじに当たった方がよかった”とか言われたことがある」

“神城光葉 三女”は最後に、

「でも、娘三人同時に近衛入りって、地元の新聞載ったんだよ?」

「ね~っ」《×3》

「へえ?」

 美奈代は改めて目の前の三姉妹を見た。

 本当にそっくりすぎて、鏡でも見ているようだ。

 正直、三つ子なる存在を初めて見た美奈代は、“同じ母胎から生まれれば、こんなに似るものか”としきりに感心するしかない。

 その目の前で、三姉妹はしゃべりまくる。

 ただ、美奈代達が気になるのはたった一つ。


 戦闘服に縫いつけられた階級章だ。

 少尉。

 階級章が、三姉妹がすでに任官を受けていることを示していた。


「ほらよ」

 ドンッ。

 都築が三姉妹の前にサイダーを置いた。

「金」

 一葉達は、無言で階級章を指さした。

「階級を無銭飲食に使うんじゃねぇ」

「ふふん?なぁに?」

「何でもありません!少尉殿っ!」

「よろしい♪都築っち、私もう一つあんパン。お金払っておいて」

 そう言って、双葉は続けた。

「さっき、言ったみたいに、Fly ruler(フライ・ルーラー)、初陣で一騎大破してパイロットが死んじゃって」

「戦死したの?」

 美奈代は思わず顔を見合わせてしまった。

「うん―――コクピットブロックを魔族軍の攻撃に撃ち抜かれて戦死」

 双葉が俯きながら言った。

「女の子だったって」

「……」

「でね?他のパイロットも異動希望出すし、いろいろあって私達がパイロットになったわけ」

「それじゃ、ここに来たのも実験の一環」

「ううん?母艦は“最上もがみ”」

 あんパンにかじりついていた光葉が言った。

「トラックから出る艦隊に参加するの。

 “鈴谷すずや”交戦中って聞いたタコ艦長が“お前等も行ってこい。んで、副司令のヨメに貸しを作ってこい”って。

 それで私達、送り出されたんだよ」




「ごちそうさまでしたぁ!」

 三姉妹が笑顔を残して“鈴谷すずや”を離れたのはそれから1時間後のことだ。

「二度と来るなっ!」

 発艦後、遠ざかっていくFly ruler(フライ・ルーラー)に、都築が中指を立てながらそう怒鳴った。

「―――で」

 美奈代は二宮に訊ねた。

「私達、どうなるんですか?」




「“鈴谷すずや”の被害は半端じゃない」

 艦内で火災があったせいで、きな臭い臭いがする通路。

 機材を持った乗組員が行き来する中、二宮は美奈代に言った。

「甲板はカタパルト使用不能。メサイアの格納庫こそ被害は免れたが、あるカ所に致命的ダメージを受けた」

「どこです?」

「被弾は二発。共に厄介なことになっている。

 メインの真水タンクと、発電施設だ。

 発電施設をやられたおかげで艦のほとんどの電子装備がダウン。さらにそこに、破損した真水タンクから漏れだした水が襲った。

 配電系統がかなりショートして、交換するしかないそうだ。

 それと、真水の備蓄は、飲み水だけで2日分しかない」

「……」

「平野艦長は戦闘継続不能を宣言。間近で修復可能なトラックも海軍艦艇の修復で手一杯。“鈴谷すずや”はもう内地まで下がるしかない」

「じゃあっ!」

「―――もし、何かあって出撃するなら、我々の代わりに出るのは」

 ぱっと明るい顔になった美奈代に、二宮は冷たく言った。

「染谷達だ」

「……」




 ―――内地に帰れる!

 皆が浮かれ騒ぐ中、美奈代は一人、ぽつんと一人、通路にたたずんでいた。

 船窓の向こうはもう真っ暗。

 雲より上を飛んでいるから星だけは見える。

「どうした?」

 偶然、通りかかった宗像が声をかけてきた。

「……うん」

 美奈代は言った。

「私達が内地に帰れる代わりに、何かあったら、染谷候補生達が出陣するらしい」

「……何もなければいいだろう」

 宗像は頷いた。

「それで落ち込んでいたのか」

「……悪いか?」

「悪くはないが」

 クックックッ……。

 宗像は喉で笑って言った。

「何。内地に帰っても、別に遊べるわけじゃない。すぐに我々も出ることになるだろう」

「……それもイヤだけど」

「あれもイヤ。これもイヤ」

 宗像は茶化すような口調で言った。

「そんなわがままを言っていると、いずれ、大きな天罰が下るぞ?」


 宗像のその言葉は、本当になった。



●アフリカ 魔族軍司令部

「特務隊からの報告は以上です」

 居並ぶ将官の前で、その士官は敬礼した。

 中世教会を名乗る組織との連絡を任務とする士官だ。

「……そうか」

 ユギオは思案げに頷いた。

「偶然とはいえ、巡航艦1隻にカプラーヌまで喪失するとはな」

「巡航艦は大破しましたが、南太平洋基地に収容。現在修復中です」

「特務隊の隊長は誰だ?」

「シュナー少佐です」

「この失態はいずれ埋めさせるとしよう。それで?」

 ユギオは、シュナー少佐達のことをそこで斬り捨てた。

「封印の解除は中世協会の方で引き受けてくれるというんだな?」

「はい。あくまで封印解除は人類に実施させると」

「……ふむ」

「ただし、学術部隊からは念を押されています」

「何と?」

「“倉木の封印に、本当にヴォルトモード卿が封印されているか、保証出来ないと”」

「ん?」

 ユギオは、意味が分からなかった。

「ヴォルトモード卿の封印地点は倉木ではないのか?」

「それが……」

 士官は手にした書類をめくりながら言いづらそうな顔で続けた。

「封印に携わった神族側の退役将校の話として、倉木の封印には細工がされていると」

「細工?」

「はい。封印をかける前、情報軍のイツミが直接何か細工していたのを見たというのです」

「細工とは何だ?」

「詳細は一切不明です」

「……待て。封印は一度だけだ。複数の部屋を作ることは出来ない」

「その通りです。ですが閣下、イツミは空間操作のエキスパートです」

 士官は言った。

「倉木山にヴォルトモード閣下を封印するように見せかけ、別な場所に封印した可能性も捨てきれない。それ故に、倉木解放、即、ヴォルトモード閣下の解放とはつながらないのです」

「全ては、倉木の封印を解いてからか」

「はい」

 士官は再び頷いた。

「―――やるしかない」

 ユギオは頷いた。

「すでに我々は24時間以内に弓状列島への侵攻を可能にしている。倉木の封印が解除され次第、ゲートをリンクさせ、弓状列島に兵と物資を送る。協会にはそう伝えろ」

「はっ」

「封印解除決行は一週間後だったな」

「はい」

「それと―――」

「はっ?」

「“鍵”について、最新の情報は?」

「それが……」

「どうした、まさか、見失ったとは言わないだろうな」

「その通りです」

「あんな子供ガキ一人、どこのバカが見失った!」

「それが……」

 士官は言いよどんだ後、意を決した様子で答えた。

「カーメン大佐指揮下の部隊です」

「カーメン?」

 ユギオを思い出すなり、鼻で笑った。

「あの無能め。そこまで使えなかったか。現場の指揮官はまさかエーランド少佐とか言わないだろうな」

「そ、その通りです」

「傑作だ!」

 ユギオは大声で笑い出した。

「無能が死に損ないを使って鍵を探させていた!?それに我らは運命を賭けていただと!?」

「……あの」

「ふざけるのもいい加減にしろっ!」

 とんだとばっちりだが、士官は条件反射同然に背筋を伸ばした。

「鍵の価値を、あのバカは本当にわかっているのか!?」

「存じませんっ!」

「そうだ!あのバカはもういいっ!私が解任してやるっ!で、あの死に損ないのエーランドは、何か言い逃れでも言ってきたか!?」

「は、はいっ!鍵は弓状列島にいると!」

「……ヤツが最後に鍵を見失ったのは?」

「弓状列島ですっ!」

「ヤツの精神年齢は何歳だ!?そんなことは子供でもわかるわ!」

「は、はいっ!それで、エーランド少佐によると、弓状列島の“ある場所”にいると!」

「―――ある場所?」

「少佐は、居場所は把握している。だから、自分にやらせて欲しい。ついては、装備を送ってくれと」

「装備?何だ?」

「こちらです」

 士官は手にしたリストをユギオに手渡した。

「……ふんっ」

 ユギオは一別するなり、リストを突き返した。

「シュナー少佐の部隊の装備をくれてやれ。必要ならシュナー少佐を副官につけろ……いや」

 ユギオは手で士官を制した。

「全てをシュナー少佐に任せろ。人事権はこっちにある」

「それは?」

「無能の仕事を別な無能にくれてやる。その程度のことだ」





-----用語解説---------

MIJβ-408「Fly ruler(フライ・ルーラー)

・超高々度迎撃戦用可変メサイア。

・設計は紅葉。

・開発コンセプトは「空における戦場を支配できる圧倒的な戦闘能力を持ち、あらゆる気象条件下でも、常に最高のポテンシャルを発揮できる騎体」というムチャクチャなもの。

・その為、本機に与えられたカテゴリーも「領域「支配」メサイア」というものであり、一機で戦況を変え得ることを期待された凄まじい騎体だった。。

・このため、主要武装は各種ML砲であり、剣や斧中心のメサイアの概念からは若干ずれる。

・が、その戦闘能力は驚異的なもので、机上試験による計算では単騎をもって100機以上の第4世代戦闘機を相手に戦闘が可能という代物。

・各種センサーも強化され、遠距離からの狙撃能力はメサイアの域を超えている。

・戦争中は武装を軽減し、反面、シールドを追加して超高々度からの爆撃任務につく爆撃機の護衛任務にも従事した。

【ネタバレ】

・イメージは『ファイブスター物語』のスピード・ミラージュ ヴンダーシェッツェ(ドイツ語でヴンダーシェッツェ=「不思議な宝物」の意味)










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