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27:アディ

「くそっ。結界が邪魔で通り抜けられねえじゃねえか」


 大神官のじーさんが言うように、神殿内の結界に引っかかったみたいだな。


「よお。そんなに慌てて、どこへ行こうってんだ?」

「ひっ! ア、アディルッ」

「そんなに怯えるこたぁねえだろ?」

「だ、黙れっこの裏切者! 貴様、ギルドから依頼を受けていながら、殺さないどころかターゲットを守るとは。ギルドを敵に回すってことだよなぁ?」

「否定はしねえが、お前だって人のこたぁ言えねえだろ」


 ギルドが受けたセシリア暗殺の依頼主は、元侯爵夫人だ。

 先日馴染みの奴に確認を取ったが、ギルドはこの件から手を引いたと。


「ギルドが手を引いたってのに、お前がここにいるのは何故だ? ギルドを介さない依頼を受けるこたぁ、禁止されてるはずだが」

「うるさいっ。貴様は俺のかわいい悪魔を、二体も殺しやがっただろう!」

「なんだ。悪魔の敵討ちか? どこまで悪魔に心酔してんだてめぇはよ」


 個人的な恨みか。

 生かしておけばまたあいつを狙うかもしれない。


「お前、さっき言ったよな。俺の弱点はあいつだって」

「おうとも。あの小娘を生贄に、新しい悪魔と契約してやる。くひひひひひ。まずは肉体を犯し、それか――」


 胸糞が悪い。

 これ以上、奴の言葉を聞く気にはなれなかった。

 だから黙らせた。永遠に。


 宙を舞う奴の顔を見ながら改めて思う。

 俺は――人を殺すことになんの躊躇いも持っていない。

 そんな俺が……


「そうだ。血塗られた貴様が、女神の聖女の隣に立てる訳ないだろう」


 ごろんっと地面に転がるカオスの野郎が、そう言っているように聞こえた。

 俺が……俺が女神に辞退を願えばそれで済む。

 それで済むんだ……ん?


 俺の目の前で、カオスの体が靄に包まれていく。

 まだ何か隠し持っていたのか!?


 警戒したが……どうやら違うらしい。


 靄から獣の腕が伸び、地面に転がった奴の頭部を掴む。

 そのままぐしゃりと握りつぶすと、今度は胴体を靄が飲み込んだ。


「愛する悪魔にその身を捧げたか……奴にとって本望だろうな」


 靄はそのまま渦を巻いて消えた。

 奴との契約だったんだろう。奴が死んだらその肉体を差し出すとか、そんなところだろうな。


 これで暗殺ギルドの件は完全に片付くだろう。

 今回の襲撃で、浄化の旅への出発も遅れるかもしれねぇ。


 聖騎士候補との対面で、あいつが誰を選ぶのか――いや、誰も選ばない選択肢だってあるんだ。

 

「あぁ、クソッ。俺はいったい何を期待しているんだ」


 俺じゃダメなんだ。

 俺じゃ……。


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