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22/30

22:ひとりで

「んふ。ふふふ」

「先生ー、アデリシアが不気味でーす」


 グレーターデーモンに襲われたあの晩から五日。

 アデリシアがお花畑になった。

 ま、無理もないか。


 聖女がグレーターデーモンに襲われたってことで、急遽アデリシアには聖騎士がつくことになった。

 聖騎士叙任式っていうらしいんだけど、私はその場に立ちあっていない。

 でも彼女が誰を選ぶのかはわかり切っていた。


「ぶ、不気味とはなんですのっ、酷いわ」

「だってアデリシアさ、ずっとニマニマ笑ってんだもん。不気味だよ。みんなもそう思うよね」

「あの、えっと……す、少し、だけ」

「で、でも仕方ありませんよ。アデリシアさんの長年の恋が、叶ったんだもの。ね、アデリシアさん」


 アデリシアがいつも気さくに話しかける平民出身の子たちも、遠慮がちながらそう答える。

 それを聞いたアデリシアの顔が真っ赤になった。

 あと私は見逃さない。

 教室の後ろで顔を真っ赤にしている騎士を。


「はぁ、春だなぁ。十二月だけど」

「春ですねぇ。十二月なんですけど」

「暑いよねぇ。外は寒いんだけど」

「も、もうっ。みなさんからかうのは止めてくださいませっ」


 アデリシア幸せそう。

 幼馴染のお兄さんが護り手に選ばれて、どうやらアデリシアのお父さんが二人のことを認めてくれたみたい。

 そのせいで一日中ずーっとニヤニヤしている。


 そんなアデリシアを見ているせいか、聖女候補のみんながやる気に満ちていた。

 逆に私はやる気が出ない。


 護り手の聖騎士なんていらない。


 アデリシアは言った。

 聖騎士を選ばなければいいんじゃないかって。

 それでもいいなら、それがいい。

 でも選ばないって選択が出来るのかどうか。


「はぁぁ……」

「ちょっと、なにため息なんて吐いてますの? 似合いませんわよ」

「うっさいなぁ、頭お花畑ぇ」

「おはっ!? ふ、ふん。あなただって似たようなものでしょ」


 どこが? 似てないよどっこも。


「はいはい、そこ。授業に集中して。これから浄化の魔法をやってもらうのですよ」

「はーい。セシリアさん、頑張ってくださいましね」

「ぶぅー」


 アデリシアはもう浄化の魔法を使えるから、練習には加わらない。後ろでじぃーって見てくる。

 魔法の練習には呪われたアイテムを使う。瘴気の浄化も呪いの浄化も、同じ魔法だからだってさ。


 ドス黒い紫色の煙をもんもん出してる指輪があって、それを浄化しろって。

 浄化しろと言われても、どうすればいいんだよ。


「はぁ……いたっ」


 手に取ろうと指輪に触れると、ちょっと強めの静電気みたいなのが走った。


「これ、気を付けなさい。命に関わるようなものじゃないけれど、電気が走るから痛みますよ」

「ぐぬぅ、こんにゃろうっ」


 虫の居所も悪かったのもあって、八つ当たり気味に指輪を殴った。

 角に当たって痛い。


 けど、ぷわぁーって緑色の光が広がって――


「なんとっ! セシリア、おめでとう。浄化の魔法、二人目の習得者だよ」


 ――うそん。






「全会一致でセシリアの聖女任命を可決いたします」

「ウィリアン大神官も、ようやく肩の荷が下りますなぁ」

「いえいえ、まだまだですよ」

「しかし殴り聖女とは……他の神の聖女の中にすら、いなかったのでは?」

「武闘派聖女、私はいいと思いますよ。凛とした力強い聖女も、ステキですよ」

「凛としていますかねぇ、あの子が」

「まぁ……そこはこれからですよ。ほほほ」


 大神官のじさまばさまたちが和気あいあいとしている。

 

 その日のうちに、私が二人目の聖女として正式に決まった。

 なんてこった。

 既にじさまばさま、特にばさまたちは、私が誰を聖騎士に選ぶんだろうかって、恋ばなみたく話してる。


 こうなったらアデリシア法で行くしかない。


 聖騎士を選ばない!!


 これだ!!


 ひとりで浄化の旅に出るもん。

 きっとアディが守って……。


「浄化の旅は世界各地を回る旅。もちろんそれぞれの聖女で担当区域を決めるが、何年も掛かる長い旅路だ。楽なものではない」

「えぇ。だからこそ、ようく考えて選ぶのですよ」


 だから選びたくないんじゃん。何年も一緒に旅をするなんて……。

 何年も……。


 アディが守ってくれるって、勝手に期待してるけど。

 でもアディにとって、それが迷惑だったらどうするの?

 こっちの都合でアディをあちこち連れまわすことになるんだもん。アディは嫌かもしれないじゃん。


 私、自分のことしか考えてない。アディの迷惑とか考えてなかった。


 ……よし。

 私ひとりで浄化の旅をしよう!

 そうと決まったら、もっともっと鍛えなきゃ。


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