『アイドル』は認めない
バスケをやっている人にとってはマイケル・ジョーダン、サッカーはロナウジーニョ、F1ならセナやシューマッハ、歌の世界にはたくさんいるが、女性で言えば例えばノラ・ジョーンズ、セレーナゴメス、マドンナなどがいるだろう。彼ら、彼女ら達は、『アイコン』と呼ばれたりすぐが、いわゆる、アイドルだ。
そういった類のアイドルと、日本でいう『アイドル』とは随分違う。優れた一芸によって、その世界をけん引するのが外国的なアイドルだが、日本の場合は、『アイドル』という職業があることになっている。だが私は、『アイドル』は職業ではないし、それを職業と認めるべきでは無いと思う。
なぜかというと、これは考えてみてほしいのだが、日本的なアイドルを職業とした時に、ではその仕事は、何だろうかと考える。楽しませること? いや、違うと私は思う。日本的なアイドルは、ファンの理想を演じ、媚びることが仕事だ。『媚びる』なんて言い方意地悪かもしれないが、あえてそう言おうと思う。
ジャニーズ事務所がスマイルアップと名前を変えたあの一連のニュースは未だ話題になっているが、性被害・加害ということばかりに注目が集まって、その奥にある問題には、ほとんど誰も、突っ込んでいない。すなわち、若者を商品として(ロクに学校にも行かせず、健康にも配慮せず)売り込むというそのシステムについてだ。
つまるところ日本のアイドルは、大人の商売に使う商品に過ぎない。でもそう言ってしまっては体裁が立たないから、『夢』だとか何とか、そういったことと『アイドル』を結び付けようとする。そうして若者は、まだ世間も知らないし、人間だれしもが持つであろう承認欲求や金銭欲、野心の類に導かれて、運の良い(あるいは悪い)子はその世界に入ってしまう。
職業アイドルというようなものを肯定的にとらえる社会を、私は恐ろしく感じている。「若者に対する搾取」と言えば問題になるのに、「アイドル」と言葉を変えれば、問題にならないどころかポジティブに受け入れられる。商売としては、アイドルという職業を生み出し、新しい需要と供給を作ったことは成功かもしれないが、やっていることは下衆だと私は思う。若い子の「有名になりたい」「もてはやされたい」「金が欲しい」といった欲求・欲望を(それをこの国では「夢」というらしいが)眼前に吊るして、暗闇の中を、あるいは、大衆の恐ろしい視線の中を走らせるピエロに仕立て上げているのだから。
アイドルは職業だ、それを認めないなんて許せない、という声があるのは承知している。しかし、アイドルを職業であると、その存在をしっかりしたものだと認めることは、結局、そのアイドルで稼いでいる若い子たちを縛り付け、苦しめることになるだろう。そしてその苦しみと搾取のシステムはずっと、「夢」だとか何とか、そういった耳あたりの良い言葉の裏側で、残忍に動き続けるのだ。




