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パワー・オブ・ワールド  作者: ふくあき
―データ争奪内乱編 前編―
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第二章 第四話 ファミリー

「――何そのカード。何も書かれてないし真っ白じゃない」

「査定中だからだってよ。ランクも再審査し直しらしいからとりあえずで渡されたんだよ」


 それは市長に一発喰らわせてから翌日すぐに、穂村正太郎に渡された一枚のカードだった。説教も一区切り(?)といったところで、上手いところ話題を変えようとタイミングを見計らって穂村が懐から取り出した代物である。曰く季節に似合わないような黒のスーツ上下に銀縁めがねの男から渡されたということであった。


「それってもしかして黒烏頭くろうずさんかもしれないですね」

「黒烏頭? って誰だ?」

「ハァ!? アンタ散々ランクとか気にしてた癖に知らないの!?」

「そこはBランク以下に情報が通ってないから仕方ないだろう」


 守矢四姉妹の次女、和美が何も知らない穂村を擁護していると、同席している緋山がそれに乗っかるように話を続ける。


「そりゃそうだな。この中だと俺と守矢四姉妹の長女のあんたぐらいしか直接受け取ったりしてねぇしな」


 そもそも力帝都市に数少ないとされるSランクが普通一般のファミレスに二人も居ること自体がとてもレアケースであったが、それ以上のレアケースが今穂村の手に握られている。


「それにしてもそんな真っ白なカード見たことねぇな。Aランクが赤でSランクが黒だろ? そもそも査定中っていっても査定自体そもそも一瞬で終わる筈だろ。さかきですらすぐにSランク認定されてカード貰っていたらしいしよ」

「そういえばマコちゃんもそうだったね。DランクからSランクって今考えたら聞いたことないしあり得ないって思っちゃう」


 どうやら前例のない例外は他にもあるようだが、今の話題としてはこの目の前の真っ白なカードについてである。


「ランク変動だから少なくともBランク以上にはなるんだろうけどよ……一応市長に一発ぶちかましたのもあるのか」

「市長をぶっ飛ばしただと!?」

「それってほんとなの……?」


 既にある程度の経緯を知っている守矢四姉妹および時田等を除いて、この力帝都市における市長という存在の意味を知っている緋山と澄田は驚きを隠せなかった。


「流石に嘘だろ? あの市長に一撃ぶっ込める可能性のある奴なんて一人しか知らねぇぞ俺は」

「でもそれならこの真っ白カードも納得じゃない? だってBランクが市長さんに手を出せたって前代未聞だよね」


 二人のように口には出さないにしても、時田達も内心は同じ考えを未だに持っている。しかし子乃坂がそれを目撃した証人として今も生きていて、本来ならばこのようなことを知ってはならないことから力帝都市から外へと出ることを制限されていることが事実を裏付けている。


「……まっ、どうでもいいけどよ」

「どうでもいいとか言わないの! 約束でしょ!」

「あっ……あぁ、そうだったな」


 どうでもいい――他人どころか自分の身に何が起きようが特に興味を示さない。そんな本来の穂村の口癖である「どうでもいい」がでてくるが、それはこれまで強敵に会えて立ち向かってきた穂村が吐くような言葉とは真反対であることは言わずもがな。


「……なんか、本当に今までのアンタとは違うのね」

「そりゃそうだろ。今までの俺の方が良かったってか?」

「別に、そういうつもりはないけど」


 とはいえ、今更また入れ替われと言ったところで穂村に変わる気などさらさら無い上、もし入れ替わったとなれば今度は子乃坂が悲しむことになるだろう。そしてそれを察することができない時田でもない。


「だが、そうだとしたら炎熱系最強も分からなくなってきたな」


 それまでは一切戦うつもりなど無かった。しかし目の前でこうも実力を秘めているような雰囲気を醸し出されて、力帝都市で挑発と受け取らないのもまた難しい話である。


「……だったら炎熱系最強の看板をかけて、一発殴り合いでもしてみるってのは面白くねぇか?」


 元々女難から逃れる為の方便、それがそのままどちらが強いかという話につなげられるというのであれば願ってもない話。

 しかしながら、相変わらず緋山の方はやる気が全くなく、少しでも早くデートに戻りたいという苛立ちを露わにしている。


「炎熱系最強とか、それこそどうでもいいだろ。ギルティサバイバルでてめぇと戦った分で十分だ」

「それで決着ついてねぇから提案してんだろ? 喧嘩売ってんだろォ!?」


 わざとらしく声を荒げてみせるが、それが演技だと言うことが既に緋山にはバレてしまっている。


「……まっ、そうやって何とかして現場をごまかそうとするのはつまらねぇ男のやることだぜ」

「なッ!?」

「ほーむーらーくーん……」

「流石に無理があるわよアンタ。一目観れば分かるレベル」


 そしてごまかしなど効かない二人がここで穂村を囲い込みに入る。


「子乃坂! 時田! そんなつもりじゃ――」

「そんなつもりがないにしても、後で戦えばいいでしょ? さっ、尋問を続けるわよ」


 結局話題は穂村の女癖の悪さ(?)へと逆戻りしてしまい、それまで何とか引っ張られていた緋山もまたこれ幸いとその場を去ろうと立ち上がる。


「悪いがこれ以上てめぇの時間稼ぎに付き合ってる暇なんざねぇ。この後ライブにも連れて行かなくちゃいけねぇからな」

「ライブ!? 励二、それどういうこと?」

「チッ、本当ならサプライズしたかったんだがこの場を離れる理由にはなるだろ」


 緋山は密かに予約していたライブコンサートのチケットを取り出すと、それを免罪符のように見せつけてそのまま澄田へと一枚手渡しをする。


「東京で流行ってるアイドルグループだそうだ。無駄に世話焼きな知り合いがデートで使えってうるせぇから貰っておいた」

「へぇー、日本で大人気のアイドル、力帝都市に電撃初上陸! だってー」

「一応力帝都市も国土的には日本の筈なんだけど……」


 澄田が読み上げた文章に時田の冷静なツッコミが入るが、それよりそもそも世間から隔絶された絶海の人工島にわざわざ何のメリットがあってコンサートを開催しようと考えたのであろうかという疑問が同時に湧いてくる。


「何でも宣伝力を測るのがひとつの理由らしい」

「宣伝力だぁ? それこそどうでもいいだろ」

「いやいや、アイドルやる人にとっては大事だと思うけど。それよりどのグループが来るの――って、えぇ!? よくチケットとれたね!」


 今ひとつどころか今二つほど理解ができていない周りに対して、一人驚きと興奮の声を挙げる子乃坂。それもそのはずで、ほんの数日前まで彼女は東京で過ごしていた身であり、最近の流行りなど知っていて当然である。


「『でゅあるがーるずっ!』って言えば日本で今人気急上昇中のアイドル二人だよ!? ライブチケットも一年前から予約するレベルの!」

「たかがライブに一年前予約って……凄ぇな」

「くっそどうでもいいんだが」


 完全にアイドルというものに興味を示さない男性陣二人であったが、澄田と時田の方はそれなりに興味を持ったのか、子乃坂に対していくつかの質問を投げかける。


「そんなに人気なんだ、このグループ。変な格好してるのに」

「アイドルって大体こんな派手な服を着るものなんですよ」

「ねぇちとせちゃん、この人達ってどんな歌歌うの?」

「それは確か……こんな感じの曲です」


 そう言って端末にイヤホンをさして澄田に曲を聴かせる子乃坂であったが、澄田の方も曲に耳を傾けては今の流行りはこんなものなんだという感動を覚えている。


「うん、良い曲だね。励まされるような、元気が出るような曲だね!」

「それにしてもいいなー、私も行きたかったなぁ」

「そんなに連れて行って欲しいならチケットやるよ」

「えっ? うわわわっ!?」


 突然としてファミリーレストランのテーブルの上に中腰で座る一人の男。本来ならば老いの象徴である筈の白髪を携えていながらもその見た目には決して老いという言葉が似合わない青年がそこにいる。その瞳は淀んだ深紫色をしているが、決して死んでおらずむしろ狂気にギラついているかのようにも感じることができる。

 そんな男がどうして突然この場に現れたのであろうか。しかしそんなことなどどうでもいい。穂村にとっては子乃坂を脅かしかねない存在の出現という情報だけで十分だった。


「テメェ、今すぐ子乃坂から離れねぇとブチのめすぞ……!」

「アァン? んだとコラやんのか?」


 力帝都市の戦い――というよりは、路地裏のヤンキーの喧嘩といった方が正しいであろうか。互いに口汚く罵り合う様はまさにそれとしか言い様がない。


「ちょっとツラ貸せ」

「クヒャハッ! 上等だ、表出ろやゴラァ!!」


 名前を聞くまでも無く目の前の相手は敵だと認識した穂村にとって、子乃坂に危険を及ぼす存在だと認識した穂村にとって、戦うだけの理由は既に揃っている。店の出口に顔をクイッと向けて挑発する穂村に対して、相手の男も待っていましたといわんばかりに笑い飛ばしてテーブルから降り立つ。


「ちょっと『魔人』さん!? その人は――」

「別に大丈夫だろ。流石にすぐ殺す程バカじゃねぇし」

「緋山励二、テメェもデートの後でシゴいてやるから覚悟しとけ」

「うへぇ……」


 何故か思わぬ飛び火にげんなりとする檜山であったが、そもそもこの男が一体何ものなのか、知っているのは先ほど声をかけられた緋山と澄田だけのようである。


「一体なんだったんでしょう……」

「ただならぬ気配を感じたが……」


 恐らく普通の人間では無いことは誰の目から見ても分かるだろう。しかし彼が本当の意味で普通の人間では無いということを理解したのは、姿をよく観ていた時田ただ一人だけである。


「……ねえ、アンタ」

「何だ?」


 それは、本来ならば本人に対してぶつけるべき質問であろう。しかしあえて時田はこの場で唯一あの男について知っている緋山に問いを投げかける。


「……アイツ、『普通の人間』じゃないでしょ」

「……ああ、そうだよ。あいつは――」


 ――正真正銘、人外の『魔人』だ。




「外に出てやったのはいいが……おっと」

「……んだと?」


 かたやランク審査中であるが、市長をぶっ飛ばすだけの実力を秘めた少年。ならばもう片方はどれほどの実力を持つのであろうか。

 それは上位ランカー同士の戦いで発生する区画封鎖が、ある程度保証してくれているだろう。


「……テメェ、ランクは?」

「オレか? オレはランクなんてくだらねぇもんに括られてねぇんだよ。どうしてかって? それはオレ自身が――」


 ――市長とガチで殺し合ってる仲だからなァ!!

 はい、ということでチェンジ・オブ・ワールドを読んでいただいている方ならお気づきでしょうが、あの問題児の登場です(´・ω・`)

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