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パワー・オブ・ワールド  作者: ふくあき
ー蘇る焔編ー
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第八話 復元

 途中頭痛を訴えながらも、穂村はいつもの雰囲気でもって時田とイノ、そしてオウギを引き連れて第十四区画の荒れた道路を歩いていた。


「正直ギルティサバイバルであのクソ野郎と戦ってからのまともな記憶がねぇんだよ」

「クソ野郎って……アンタ一体誰と戦ったワケ?」


 他愛のないことのように尋ねる時田であったが、穂村は思い出すだけでも忌々しいといったような、苦虫をかみつぶすような表情を浮かべて言葉を濁らせる。


「……とにかく、口に出すのも反吐が出るほどのクズ野郎だ」


 ――思い出すだけで穂村に蒼い焔を纏わせかねないほどの憎悪の対象。今まで耳にした事はあれど、実物を見た途端にあれだけの憎しみ、怒り、殺意をもたらすことができるのはたった一人だけ。

ただの少年と侮ること無かれ。それが『この世で最もつよい暴君』こと、『暴君の心(ブロークンハート)』であり、穂村正太郎にとっても忌み嫌う存在であった。


「へぇー……それで放送中止になったってことがありえるのかしら」

「テレビ中継されてなかったのか?」

「アンタが『粉化イラプション』と戦い始めた辺りだから、結構最初らへんで放送中止入っちゃったわよ」

「そうか、残念だったな。俺が勝ってるところが見れたのによ」

「アタシに勝てないのにSランクに勝てるはずないでしょ」


 事実今回の戦いにおいて外部の者が見ることができた戦いは非常に限られ、そして非常に偏向的な内容のものであった。恐らくはAランク以下の者達であろう犯罪者たちを、圧倒的な力で蹂躙を行うAランクの『エクスキューショナーズ』と、均衡警備隊バウンサーの最高司令官であるヴァーナード=アルシュトルムという大男の活躍がほとんどで、肝心のSランクの戦いはあまり放映されなかったようである。

 無論ネット上では様々な憶測が飛び交い、一説によればここ最近の治安悪化を抑える為に均衡警備隊バウンサーの力を誇示する予定だったのではということもある。

 しかしそれに反論するかのような市長の最後の一言が、この力帝都市を混乱へと陥れていることは事実である。そしてそれを後押しするかのごとく野に放たれた凶悪な犯罪者達が、この都市の何処かで跳梁跋扈している。

 表向きではいつもと同じ力帝都市に見えるかもしれない。しかし必ずどこかで、穂村が知らないところで変かは確実に起きている。


「そういえば俺がいない間、時田がイノとオウギを預かってくれたのか?」

「あっ! そう言えば思い出した!! この子二人を面倒みるのにかかったお金、キッチリと払ってもらうからね!」

「ぐっ……言うんじゃなかったぜ」


 そうして何度目になるであろうか、穂村は守矢四姉妹が根城としている寂れた古いマンションの階段を、カンカンと軽快な金属音を鳴らして上がっていく。

 そうして一行は守矢四姉妹が住んでいる筈の階まで到着したが、ドアが蹴り破られているのか中にいる四姉妹の姿が丸見えである。


「チッ、そういえば『アイツ』が蹴っ飛ばしたんだっけか」

「あら? 記憶があるの?」

「……主導権は『アイツ』だが、記憶の共有くらいできる」


 ドアが無い以上ノックも何もできず、かといってずかずかと入れずにいる状況で穂村がドアの前でウロウロとしていると、その姿を偶然にも目にした子乃坂が部屋の中から声をかける。


「あっ、穂村君。朝いなくなっていたから心配したんだよ」

「帰ってきたか、あの阿呆が」

「悪いな。ちょっと夜風に当たりたくて外に出ちまったんだ」


 『アイツ』のことには触れようとせずそう言ってサラリと問いを受け流した穂村。言わずもがな俺は俺だとでも言いたげな様子であったが――それとは違う、夜風にあたっただけでは決して起こりえない変化を子乃坂は感じ取っていた。


「……穂村君、だよね……?」

「いやそうだけど……なんだよ急に、どうしたんだ?」


 『アイツ』とは違う、『アイツ』はもはやこの場にはいないでもいわんばかりに振る舞ったが、その様子に違和感を覚えたのはもう一人の『穂村アッシュ』を知る四姉妹であり、そして一番不信感をあらわにしたのは他の誰でもない声を掛けられた子乃坂であった。


「……本当に私が知っている穂村君……?」

「ハァ? 何言ってんだお前は。二年もたてば人間変わるもんだろ」


 子乃坂の突拍子のない質問に首を傾げる穂村であったが、この二人の会話、互いに辻褄が合っているように見えてその実全くあっていない。そしてそれに気が付いたのはこの場で唯一穂村と同じ、内に秘められし『衝動』を飼っている少女、守矢小晴だけであった。


「……子乃坂さん」

「はい?」

「貴方の知っている穂村正太郎は、『どちら側』ですか?」

「っ! ……質問の意味がよく分からないです」


 子乃坂はあくまでしらを切るつもりでとぼけたが、その前の一瞬の躊躇いを小晴は見逃さなかった。そしてそれ以上の詮索を行わず、小晴はそれまで表情を露わにしてこなかった少女の顔に初めて哀しみが宿るのを、唯々見つめていた。


「……まさか、ね」


 そしてもう一人。今の会話を耳にし穂村の不自然な振る舞いを観てきた上で、今まで見てきた穂村の内側の『衝動アイツ』とは違う、辻褄の合わなさを察した少女が一人。


「もしそうだとしたら……『趣味が悪い詐欺師』なんて目じゃないレベルの相当なウソつきじゃない」




 ――自分すら騙しているって、相当頭がおかしくないとできないわよ。


「…………」

「……ん? どうした時田。俺の顔に何かついてたか?」


 しかしながら時田の知る穂村正太郎は、今まさに目の前に立つ黒髪の少年である。瞳は何故か赤いままであるものの、『アイツ』のような横暴な姿勢など無く至って平常運転の少年の姿がそこにある。


「いえ、何でもないわ」


 きっとこの予測は違う。今はそう信じるしかない。


「それより正太郎さん、朝ご飯はもう外で食べられたのですか?」

「あっ、そうだ! 朝飯どうすっかなぁ」


 話題が切り替わってすきっ腹をさする穂村の前に差し出されたのは、既に朝食を済ませていた和美が作り置きをしていたパンと目玉焼きがのせられたプレートである。


「そういえばアタシも何も食べてなかったわ……」

「悪いが『観測者ウォッチャー』もいるとは聞いていないから無いぞ」

「別にアンタ達にたかりに来た訳じゃないわよ。わざわざ嫌味言う必要ないじゃない」


 時田の分など無いと言われた時点で自動的にイノとオウギまでもが朝食抜きとなり、自然と穂村の周りで二人の幼い少女がお腹を鳴らしている。


「しょうたろー、お腹すいたぞ」

「ん……」


 幼い少女二人からせがまれるも穂村は椅子に座った状態のままパンをかじりながら皿を上へと掲げる。しかし肝心のパンを齧った状態のまま椅子の上によじ登られた穂村は、そのまま齧っている部分以外全てをイノとオウギに引き千切られ、そのまま胃の中へと収められてしまう。


「おいおい、マジで他に何もねぇのかよ!」

「無い。買い物に出かけなければならないな」


 まるで他人事のように振る舞う和美に対して不満が募る穂村であったが、気持ちを切り替えてこれから先の予定について提案を行う。


「どっちにしても俺がギルティサバイバルに出て以降、買い物も何もしてねぇからな。どうせなら一緒に買い物に行こうぜ」

「わ、私も一緒に行くのか!?」


 まさかの誘いに動揺する和美であったが、二人だけで行くという訳では無い様である。


「ちょっと遠いが第三区画まで出かけるか。子乃坂も行ったこと無いだろうし」

「え、ええ……」


 強引な穂村に戸惑う子乃坂であったが、当の本人は既に気持ちは買い物へと向けられている。


「じゃ、飯食ってからさっさと行くか」

「アンタの飯待ちなんだけどね」

「ぐっ、悪かったな……」

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