第二章 第三話 因縁
再び相対したピンク髪の少女。未だ冷めぬ熱の上昇気流に髪をなびかせ手呆然と立っている。そして変貌しきった穂村の姿に驚きを隠せず、声を震わせて問いかける。
「……あんた、何やったのさ」
「何って言われてもな……相手の予測を上回る火力で一気に焼きつくしてやった、といえば正解か?」
もはや穂村自身でも理解が追い付くのがやっとといった様子であり、自分の存在を、力を確かめるかのように右手をグーパーと開いたり閉じたりしている。
「……その調子だと勢い余って相手を殺しちゃった感じ?」
「こっちは殺す気でやったが……逃げられた」
こちらは感覚で理解できる。長年この焔と付き合ってきた穂村には、相手が自分の炎で焼かれたかどうか分かりきっている。しかしながら流石は炎熱系最強能力者と言われているだけあってか、あれだけの破壊力を持った爆発ですら逃げのびている所には賞賛の言葉を送らざるを得ない。
「そりゃ残念」
逃げられたという穂村の言葉にどこかホッとしたところでもあったのだろうか、少女は軽口を叩きながらやれやれといった動作でクレーターの端から穂村を見下している。
「それでだ。わざわざここまで野次馬に来てもらって、タダで帰ってもらうワケにはいかねぇよなぁ?」
「押し売りならお断りなんだけど」
とは口で言いつつも今の穂村から逃げられないことを知ってか知らずか、少女は一歩一歩とクレーターの内側へと足を進めていくと――
「――おっと、そろそろ漁夫れると思ったのに」
「ざんねーん、エス達で狩れると思ったのにー」
「……なんだお前等か」
恐らく同じ考えを少女も胸の内に秘めているであろう。フードを目深に被った二人組――片方は先ほど穂村と拳を交えた少年と、もう片方は本来の相方であろうか、声色からして中学生程と思わしき少女が穂村とピンク髪の少女を見下ろしている。
そしてこの双子とも思わしき人物が均衡警備隊が誇る精鋭二人組、エス&エムであることなど、既に連戦で興奮状態の穂村にとってはどうでもよかった。
「相手はヤる気満々みたいだけど、どうする姉さん?」
「どうするも何も、ヤるしかないでしょ」
姉さんと呼ばれた方――エスは得物である大鎌を振るいながら、フードの奥でクスクスと笑い越えを漏らしている。そして蛍光職のメイクが二人の不敵な口元を妖しく照らしながら、会話の内容を明らかにしている。
「姉さんどっちがいい? 僕はあのおねーさんとやりたいなぁ」
「だったら私があの強そうなおにーさんの方とヤればいいのかな?」
「御託はいいからさっさとこいよ」
「ふーん……」
あくまで穂村の挑発には一切乗らず、エスは不敵に笑みを浮かべるばかりかと思いきや――
「……――片鱗よ、その――を以て、……に力を示せ――」
「ん? ぶつぶつと呟いて、どういう――」
「異重――」
――擂球。
「ッ――」
エスがその手に持つ大きな鎌を振るうと突如として黒球が発生し、一直線に穂村の方へと向かう。
「ッ、避けろ!!」
「んだと!?」
ピンク髪の男の様な口調に驚きながらも穂村はとっさにその場から引いて黒球の道を開ける。すると黒球は元いた場所からすぐそばを通過し、そのまま地面をまっすぐに貫通していく。そしてビルにあたって粉砕するかと思いきや、ビルにすら風穴を開けて突き進んでいった。
「あーあ、もう少しで巻き込まれて死ねたのに」
「あの力……リュエルと同じか!?」
「……もしかして、『動』と同じ力……?」
「おぉー、よく知ってるね」
少女の口ぶりからして、通過する軌道上の一切合財を擂り潰すブラックホール級の重力球体が、たった今エスの手から放たれたということになる。
「えっと、つまりどういう事? エスも重力を操る能力者――」
「チッチッチ、違うよおねーさん」
年下から小ばかにされるのに慣れていないのか、ピンク髪の少女はこめかみを苛立ちでゆがめている。しかしそんな事も露知らずといった様子で、弟は得意げに姉の力についての解説を始める。
「姉さんは僕と違って、魔法使いだから」
「あぁー! もうネタばらししちゃう?」
姉が不満げに頬を膨らませているが、ネタ晴らしされたからといって穂村達にとっては何の有利にも働いていないことは間違いないだろう。
「ケッ、魔法使いだったら何でも有りな分更にこっちが不利なだけだ」
既にラシェル、そしてリュエルというAランクSランクの魔法使いと戦った経験のある穂村にとって、相手が魔法使いであるということは好ましい情報では無かった。
そんな事を知ってか知らずか、ピンク髪の少女は敢えて穂村に魔法使いであるエスの相手を押し付けてくる。
「てことで、あんたがあっちの相手をしてよね」
「ハァ? なんでだよ」
穂村にとっては一度戦ったことのある方とやりあう方が楽であり、かつ魔法使いのような力でごり押しの効かない面倒な相手などしたくはない。しかし少女はあくまで相手からの指名を受けていることを理由にエスとの戦いを拒んでくる。
「相手はあたしと戦うって言ってるのよ?」
「そんなの知るかよ」
こうなっては面倒だ――穂村はこれまでやってきたことの経験を振り返り、少女の方へと右手を差し出してとある提案を投げかける。
「……何その手」
少女は怪訝そうな顔をしたが、穂村はまっすぐとした視線で少女を見つめ返す。
「一時休戦だ。まずは共通の敵を倒した方が楽だろ?」
「えぇ……別に勝手にすればいいじゃん?」
――ここが少女と少年との意識の差であろうか。力を合わせて敵を乗り越えるのではなく、あくまで自分一人の力でもって戦う。それは過去の穂村の考えと相違ない。
そして穂村は、そう言った人間がそう簡単に変わることができないことを身をもって知っている。
「そうか。ならもういい」
「――ッ!?」
返答に対してあっさりとした返事を返すと、穂村は空高く舞い上がってその身に改めて紅い炎を宿し始める。
「だったら全員が敵だ。この場にいる奴らで――」
――バトルロワイヤルといこうじゃねぇか。
突然の真反対の提案に対し、少女は予想外といった様子で場を取り繕おうとした。
「ちょっと待って別に敵対するとは一言も――」
「燗灼玉ッ!!」
しかし時すでに遅く、穂村の両手に握られたいくつのもの火球が、流星群の如く地上へと降り注がれる。
「うわっと!?」
「チッ、火加減を間違えたか」
威嚇のつもりであったが、先ほどよりも更に火力が上がっている。このままどこまで己の内に秘められた能力が強くなっていくのか、穂村は期待というよりも不安に駆られていた。
――『アイツ』とは違う。だが確実に自分の中で何かが膨れ上がっている。『苛立ち』が、まるで風船のように膨れ上がって、内側から外へと破裂しようとしている。そして中身が飛び出した時にどうなるのか、どんな事になるのか。
「……チッ!」
かんしゃく玉サイズの火球から、直径一メートルほどの爆発。その恐ろしくも力強い炎を前に、穂村は眉間にしわを寄せた。
「アハッ、おにーさんこわぁい」
そんな穂村の眉間のしわをさらに増やすような発言が飛び出した時、普段の穂村であれば言い返す程度の挑発が、今の穂村にとっては火に油を注ぐような言葉に聞こえる。
「この期に及んで挑発ってぇことは、もっと火力を上げてもいいってことだよなァ!?」
挑発に乗った穂村は更に火力を上げて燃え上がり、辺り一面を煉獄へと変えようとしていた。
それは比喩的な表現ではなく、本当の意味で火の海に沈めようとしている。
「F.F.F――」
それまで穂村の右腕を覆っていた炎が全て、右手の五本の指先へと集約されていく。
そして――
「爆炎塔!!」
右手を地面に叩きつけると同時に、五つの炎柱が打ち上がる。それもその一度限りではなく、エスの方へと向かっていくかのように更にいくつもの炎の柱が次々と打ち上がっていく。
「おっとこれはヤバい!」
エスはとっさに鎌を振るって即座に魔法陣を描くとその場から消え、穂村の死角から再び姿を現そうとしている。
「今度はこっちの番――」
「端からてめぇの番なんざねぇんだよォ!」
火柱を回避し、穂村正太郎を死角から襲撃――のはずが、穂村の姿はエスの目の前から陽炎のように消え去り、その場には揺らめく人型の炎だけが残されている。
声に気づいた時――その時には既に穂村はエスの更に背後を取っていた。そして穂村は後ろからエスの背中に右の手のひらを向ける。
そしてこれから行われるのは蒼の焔による破壊活動ではなく、あくまで赤色の衝撃であることを忘れてはいけない。
「――炙装煉成崩壊ッ!!」
幾重にも重なる爆炎の炸裂。そしてそれらが今回エスのいる方角へと一直線に爆発が突き貫いていく。爆発ははるか彼方まで連鎖して炸裂し、そして遠くで囲っている防護壁の場所まで爆発は続いていった。
「……やっべー」
ピンク髪の少女は、この時力帝都市の目は節穴なのではないかと心の中で呟いた。それほどまでにBランクという枠を超えた一撃なのであったのだが、穂村は今の一撃でエスを仕留めきれていないことに舌打ちをして更なる火力を己自身に籠め始める。
「チッ、逃げやがったかあのガキ……さっさと出てこいよ!! 次は完璧にブチ殺してやるからよォ!! アァ!?」
穂村の口がどんどん悪くなっていく最中、それまで外野で観戦をしていた少年と少女との間にもついに戦いを始まる。
「ッ!」
「余所見をしたらダメだよおねーさん」
「っ、あんたもねっ!」
「えっ? うわっと!?」
開幕レーザーを放ったエムのすぐそばを、巨大な炎の火柱が打ち上がっていく。もはや穂村にとっては無差別バトルと形容した方が正しいのかもしれない――というよりも、当初穂村が言っていた通りのバトルロワイヤルと化している。
「これはあたしも本気でやらないとマズいってことかな」
「最初から本気でやろうよー」
少女もエムも戦いに向けて構えを取れば、その場に戦う気の無いものなど誰一人いなくなった。
◆ ◆ ◆
――爆風と爆炎に支配された戦場で誰がまともに戦えるであろうか。
「爆走烈脚!!」
両足からバーナーのように噴出する炎で加速し――
「火炎放射ァ!!」
――そこから蹴りと同時に一直線に前方へと炎の渦が一直線に突き抜けていく。こうなれば誰しもが彼をBランク程度などでは評価をしないであろう。
その場を支配するは紅き焔。しかしこれをよしとしない者もその場にいる。
「ただ、そろそろ大人しくしてもらわないとこっちもまともに動けないからね」
ピンク髪の少女――後に『反転』という能力検体名のSランクだと知ることになるこの少女は、その場に散らばる火の粉を対象にとあることをしでかそうとしている。
「炎の反対……まっ、単純に考えたらこれしかないよね」
少女は静かに指を鳴らし、そしてたからかに口を動かしてこう言った。
「反転」
――炎の海がそのまま水の塊、海となって波を打ってクレーターを満たしにかかる。
「ッ!? どこから水がッ!?」
「えぇっ!? 今度は何が起きたの!?」
戦闘一時中断。両足のバーナーを吹かして空を飛ぶ穂村と、大鎌を箒に見立てて空へと飛びあがるエス。
「さて、と……」
足元に広がる巨大な湖――否、クレーターを満たす水を前にして、穂村は眉間にしわを寄せながら、先ほどから奇術ともいえるような力を振るう少女を――水面上に降り立つ少女を睨みつけた。
「……やっぱりてめぇか」
「いやー、盛り上がってるところ悪いけどあたし達もいるからね。その辺考えて戦ってもらえるかな?」
それまで標的としてエスだけを見据えていた穂村であったが、完全に狙いは少女の方に定まっていた。
戦闘における優先順位の変更。エスよりもエムよりも、危険な存在。穂村は現状を冷静に判断するだけの理性を残していた。
「……チッ、それだけの水分は流石に一発で蒸発させるのは無理か」
「出来たらあんた、Sランクにでもなれるわよ」
「別にSランクが目的っつぅワケじゃねぇんだけどな」
つい先ほどまで緋山と戦っていた人間がそれを言えるであろうか――と、テレビの向こう側で突っ込む人間がいることを穂村は知らない。そして穂村は首をゴキリと鳴らすと、足元に広がる湖と、その上に降り立つ少女を睨みつけてこう付け加える。
「だが、ここで生き残るにはてめぇ等くらいはブチのめせるくらい強くねぇとな」
「それもそうかもだけど……後悔先に立たずってことかな」
「どうでもいいが、かかってくるならこいよ」
「……あっそう」
少女は簡単に返事を返して静かに両手を目の前に掲げると、本来ならば集まるはずのない水をその両手の間に球体として集約させていく。
「このまま断裂激流でぶった斬ってもいいんだろうけど、その前に回避されたら困るわね…………面白い事考えた」
少女は両手を広げたままより大きな水の球体を作り上げると、そのまま自分の体ごと水の中へと飛び込む。
「ハァ? バカかあいつ。あのままだと窒息する――」
次の瞬間の出来事を、一体誰が予測できたであろうか。
「――交換」
「――ッ!?」
次の瞬間少女と穂村の位置が入れ替わり、立場と状況が逆転する。
「ゴボガッ!?」
水。全てが水泡に包まれる。自慢の炎も一瞬にして鎮火し、それどころか息ができずにいる状況から窒息という単語が穂村の脳裏をよぎる。
「さて、炎にもなる事が出来ないあんたがその中で一分持つかどうか――」
「一分も持たせる訳ないじゃん」
「ありがとうおねーさん。これで安心して穂村を殺せるよ」
このただでさえ危機的状況の中、更に予想外の出来事。エスとエム、どちらも水泡に囚われた穂村に狙いを定め、引き金を引き、魔法を発動させようとしている。
――だがこれだけの状況の中で、この場合であればいい意味で平静を保つことができる穂村では無かった。
「――ふざけんじゃねぇぞクソ共がァアアアアアアアアアアアア!!」
またも蒼い焔がその場に顕現し、それまで穂村を包み込んでいた水を一瞬にして水蒸気へと変えていく。
「ッ……!」
一度に大量の水が水蒸気と化したせいで、一時期その場をサウナよりもひどい湿気を纏った爆風が広がっていく。
そして水蒸気が晴れたその先に、蒼い焔を纏った怪物が降臨している。
「そんなにオレを怒らせてぇんなら、望みどおりブチ切れてやるよォ!!」
「沸点下がってるけど温度はあがってる感じかな? なんて、余裕もはけない感じ?」
少女は余裕を吐いていたが、その表情に余裕はなくなっていた。
「消し飛べ……!」
「これは避けた方がいい感じかなぁーっとぉ!!」
決め台詞と共に穂村の指先から放たれたのは、妖怪話に出てきそうなほどの弱弱しげな青い火の玉。しかしこれの威力は先ほどの対『粉化』戦で既に判明しきっている。
そして――
「これを避けるとは勘がいいじゃねぇか」
「ッ! そりゃそうでしょうよ」
蒼い太陽が、再びその場に出現する。少女は直感的に逃げた事で結果的に回避したものの、追撃の手を緩めない穂村の両足の青いブースターが再び点火され始める。
「逃 げ 回 っ て ん じ ゃ ね ぇ よ ォ!」
「ひぃっ!?」
超高速で接近する穂村であるが、少女もまたそれに追いつかれない様な驚異的な身体能力でビル群の間を駆け抜けていく。
「さっきからチョロチョロと回避ばっかしやがって……!」
「残念ながら逃げないと消し炭にされることは分かっちゃってるからね!!」
「だったらここまで予測しておけよ!」
少女が回避した眼前で穂村は反対側に炎を噴射し、急ブレーキをかけてそのまま少女の方へと回転蹴りを繰り出す。
「いっ!?」
「蒼鎌脚!!」
その攻撃範囲は通常の蹴りの範囲ではなく、足+バーナーという通常の二倍以上の範囲となっている。
「ッ、交換!!」
「ッ!? なんだと!?」
回転する足に突如として炎の代わりに同じ体積の氷が氷つき、穂村は重さのあまり途中で蹴りの速度を失速させてしまう。
「そしてぇー!!」
少女がカウンターで蹴りに蹴りを合わせれば目の前で氷の破片が砕け散り、辺りに光の粒のようにきらきらと散っていく。
「あんたの方こそ、ここまで読めてた?」
「……言うじゃねぇか!!」
穂村は思わずニヤリと笑った。それはこの戦いを愉しみ始めたという合図でもあり、また闘志を固める証拠でもある。両手のブーストで距離を取ると、穂村は次の攻撃のための態勢を形作り始める。
「だったらこれはどうだ……!」
穂村は目の前で両腕を広げ、更に両手のひらを大きく開いて少女の方へと無防備な体制を見せつける。
「……何? 降参?」
「それはこれを見てから言えよ……!」
――それは今までバラ撒いてきた全ての炎を集約する技。赫も蒼も関係無い、無差別に熱量を喰らい、その両手に集約させ解き放つ技。
少女は一瞬で理解した。この技を完成させれば、この第一区画はおろか外の世界まで消し飛ぶと。
「止めないと……」
少女が阻止するための第一歩を踏み出したその瞬間――
「――その『火力』、私が頂こう」
「ッ!?」
突如として割りこむ乱入者。その体躯を前に穂村は少女の姿を見失い、その巨躯を前にして穂村は戦いの邪魔をされたと眉間にしわを寄せ始める。
「ハッ!! 誰だか知らねぇがまとめて吹き飛んじまいなァ!!」
右手に赫。
左手に蒼。
準備は全て整った。後はそれを撃ち放つのみ。
「――二挺式双焔榴弾!!」
両の手が組み合わさり、赫が蒼に呑みこまれていく――
「――爆熱烈火弾ァ!!」
近距離で炸裂する炎のレーザーが、目の前の障害物を一直線に焼き殺していく――
「――アァ?」
「ぬぅううううん……!!」
少女と穂村、二人はほぼ同時に目を疑った。目の前の男が、穂村と同じく自らの体を大の字にして立ち塞がる男が、全ての炎を飲み込んでいくその光景を。
「……どういうことなの」
「……バカな」
穂村正太郎は自らが放った最高の技をいとも簡単に打ち消されたという現実を前に、ただ呆然と立ち尽くすしかなかった。
「……さあ、返そうか」
唖然として動けない穂村に向かって、大男は右手に先ほど吸収した炎を、まるで自分の力であるかのように発生させ始める。
「自らが生み出したその力、受け取るがいい!!」
謎の大男がその右手をまっすぐ前に振り抜いた瞬間――爆音と衝撃波と共に、赤い光が穂村の体を消し飛ばしていく。
「ぐあぁぁぁぁあああああああああああああ!!」
自らの炎に焼かれながら、遥か彼方へと吹き飛ばされていく。穂村はまるで流星のようにそれまで戦っていたエリアの真反対側の地面へとその身を叩きつけれる事になった。
◆ ◆ ◆
「――いってぇ……」
自分の焔。しかしその破壊力は想定していたものとは段違いであることを、穂村は身をもって知った。
「……本当に、俺の体に何があったんだ」
改めて自身の右手を見て、そして左手を見る。そこには紅い焔と蒼い焔が、まだわずかに燻ぶっている。放とうと思えばまだ放つことができると感じる。
「一体何だってんだ……」
「あっ……」
「ん……?」
穂村の耳に、微かな声が届けられる。周囲を見渡すとまだこのエリアでは戦闘行為が行われていないのか、廃ビルが立ち並び、道路はアスファルトがひび割れているだけでクレーター等は見受けられない。
「……誰だ、てめぇ」
そんな中でまるで学校帰りといわんばかりにカッターシャツに黒のズボンを身に着けた、平々凡々の少年がその場に現れた。少年はまるで自身はDランクであるかのように、Aランクの関門である穂村の姿を見るなり怯えている。
「うわ……うわぁ……」
――しかしそれ以上に、少年に対して歪んだ感情をあらわにする少年がいる。
「……テメェ、マジでウゼェ」
紅蓮の焔が一瞬にして蒼く染まり、瞳の色もまた碧く染め上げられていく――
「――テメェだけは殺す……必ず殺す!!」
――ブチ殺してやるよォ! 『暴君の心』ッ!!




