第三話 怪しい者同士
「――つぅワケで、何か手伝う事はねぇか?」
「何じゃい来て早々に彼氏面をしたかと思えば、今度は手伝うじゃと?」
「一応これでも、島になじむ努力ぐらいはするつもりだからな」
穂村は自分の右手に炎を宿しながら、あくまで能力者でありつつもこの島の住民と友好関係を築き上げたいというアピールをしているつもりである。
「手伝うっていっても今日は漁は休みじゃからのう……」
「じゃあ明日手伝ってやるよ。どうせ四日間はここにいるんだからな」
「四日もここにいるのか! はぁー! マキナはともかく、お前は炎を扱うというからな、この島は木造が多いから気が気でならんわい!」
「だったら能力使わなければいいだろうが」
元々炎の能力だけでなく、その腕っぷしでも上がってきたつもりの穂村は、腕力もそれなりだという自信もあった。しかしここにはできる仕事は無いようで、時田の祖父もどうしようもないという雰囲気を醸し出している。
「とにかくここにはもういらん。他を当たれ」
「他を当たれって……俺がこの島じゃそんなに気軽に動き回れねぇって分かってんだろ?」
「フン、どうせこの島で役に立てば認めてもらえるとか思っとるんじゃろ?」
老人には穂村の考えなどお見通しといった様子で、この島で能力者を受け入れてもらおうなどという浅はかな考えなど無駄だとでも言いたげな様子である。
「……そうだよ。だからどうした」
穂村の目に宿る決意の固さに老人は辟易としたが、その前に一つ聞いておくべきことがあるとばかりに穂村を問いただす。
「……言っておくがわしの孫のマキナですら、いまだに認めようとしない輩はこの島にいっぱいいる。それを一日二日でどうにかできるとでも?」
「やる前から無理とか考えている時点で無理なんだよ。俺は力帝都市で、それを嫌というほど学習しているからな」
「……そうか」
無理難題と言われようが現状をどうにかしようという穂村の意志に心を動かされたのか、老人は静かに認めたように小さく呟くと、その場を去ろうとする穂村の背中に向かってこう言葉を投げた。
「どうしてもというなら、まずは船着き場周りの町をまわってみろ! 店の手伝いくらいなら誰かおるかもしれんぞ!」
「ありがとよ、爺さん」
「ちょっとアンタどこ行くのよ!」
「言っただろ? ちょっと手伝いに行ってくるだけだ。イノとオウギは頼んだぞ」
穂村は背中を向けたまま手だけを振ると、老人の助言の通りに街の方へと向かっていくこととなった。
◆◆◆
「――しまった」
手伝いをしてこの島で認めてもらうと意気込み勇んだものの、どうやってその困っている人や手伝いを求めている人を見つけるのであろうか。穂村は何のプランもオタないまま、町を無駄にふらついている。そしてその様子を見て、周りの者はどうのであろうか。
「あの人、確か時田さんとこの――」
「そうそう、何か怖いわよね。目つきも悪いし」
「ったく、あんなガラの悪い兄ちゃんに店の前うろつかれちゃ、商売できねぇよ」
「…………」
内心これは逆効果なのではないかと、穂村は冷や汗をかき始めた。
無意味に歩き続ければそれだけ不審人物として、能力者として怪しまれてしまう。しかし歩かなければ、何もできずに終わってしまう。
「……イノやオウギを連れてこなくて正解だったな」
あの二人までこの視線にさらさずに済んだ。被るのなら、自分だけが汚泥を被ればいい。穂村はそうやって気を引き締めながら、更に町を歩いていく。
すると――
「おい、そこの!」
「ん?」
「お前以外に誰がおるんだ!」
声のかけられた方を見ると、そこには白髪の上に頭頂部が寂しげな、ゴーグルをつけた怪しい男が立っている。
「お前だお前! そこの暇そうにしているお前だ!」
怪しい者同士引かれるものでもあったのだろうか。穂村は萬屋アガタという怪しげな看板の下で、それこそ怪しい機械をいじりまわしている老人と出会う事となる。
そしてこれが穂村にとって数奇な運命を動かす最初の歯車となり、そして島全体を揺るがす大事件を起こすきっかけとなるのであるのであった。




