第2話 物理的に自由人
「……チッ」
「どうしたんや? さっきから舌打ちしかしとらんで?」
「うるせぇ。関係ねぇだろうが」
休み明けの最初の授業だというのに、穂村はいまいち授業に身が入らない。いつものごとく話しかけてくる伽賀の言葉にすら、はねっかえすような返事しかできずにいる。
これまで通り家に二人を留守番させてはいるものの、昨日の今日でイルミナの奴等が家に来ないとも限らない。
「……クソ!」
考えれば考えるほどよくないことしか思いつかない。あまりの苛立ちに思わずシャープペンを握る手にも力が入り過ぎてしまい、授業中だというのに穂村は自分のお気に入りだったペンをパキリと折ってしまった。
「あーあ、授業中に筆記具折るとかアホちゃうか?」
「うるせぇよ……」
穂村は代わりに書くものが無いかと筆箱に手を伸ばし、閉じられていたチャックを開いたが――
「……ハァ? 筆箱にボールペンすらねぇんだけど!?」
◆ ◆ ◆
――ちなみにそのころ家では。
「おおー、おねぇちゃんそれは何の絵だ?」
「…………」
「それ、しょうたろーなのか! すごいな、わたしには分からなかったぞ!」
しゅんとしょぼくれるオウギをよそに、イノは借家であるということなどお構いなしに部屋の壁に落書きをしている。
「ここに、くま五郎を書けば……できた!」
イノが自信満々にフンと鼻を鳴らした時には、子どもによくあるぐちゃぐちゃとした絵が壁一面に広がっている。
「これでしょうたろーも褒めてくれるぞ!」
題名は『しょうたろーとわたしとおねぇちゃん!』。本人にとって、会心の出来栄えであった。
「おねぇちゃんもいっぱい書くと、しょうたろーに褒められるぞ!」
「えぇー……それは無いと思うけどなぁ」
予想外の返答にイノが驚いた表情で部屋の窓の外を見ると、細身で長身の男がベランダで折りたたんだコートを片手にニヤついている。
「流石にダメやろ、借家の壁に落書きは」
「だ、誰だお前は!?」
流石のイノですら、五階建てのマンションに突如現れた謎の男が不審者だというくらいはすぐに察した。
「そんなに警戒すんなって。まだ俺が不審人物か決まっとらんやろ」
とりあえず今はまだ窓の外。それに加えてこの力帝都市の特別ルールにより、イノ達はまだ起きてから一歩も自宅を出ていない。
安全圏内だと確認してから、イノ達は堂々と外の男に問いかける。
「じゃあ誰だおまえは!」
「俺か? 不審者」
「おねぇちゃん! しょうたろーに電話するぞ!」
オウギは既に家にある置き電話の方に手を伸ばしている。
「ちょちょちょ、ちょっと待て! ウソやウソ! 今の無かった事にして!」
「うるさい! 知らない人について行くなってしょうたろーが言っていたぞ!」
「不審者の話を聞くなとは言われてないやろ!?」
男の言葉を聞いてイノはしばらく考え込み、そして呼び出し中の電話を切る。
苦し紛れの言葉であったが、男の言い分は何とか通ったようだ。
「……一体何の用だ? しょうたろーなら今がっこーとかいうところにいるぞ」
「知っとる知っとる。そやけん今来たんや」
「わたしとおねぇちゃんに何の用だ!」
「いやー、用件と言っても大したことやないんやけどな、ちょっとお兄さんについて来て欲しいんやけど」
「やだ」
イノはそう言って一言で切り捨てると、ベランダの向こう側の男を無視して壁の落書きに更なる芸術を付け加えていく。
「だぁー!? ちょっとくらいよかろうもん!?」
「知らない人について行くなってしょうたろーが言ってた!」
「だぁから、俺は不審者って名乗ったから知らない人やないやろ!? ほ、ほら、飴玉やるからこっちに来い――ッ!」
男は最後まで喋る前に、ベランダから自ら身を投げ落ちて行く。
「む? あの男落ちてったぞ? どういうことだ?」
「…………」
「それにしても部屋が熱くなってきたぞ……おねぇちゃ――しょうたろー! どうしてここにいるのだ?」
イノのすぐ後ろに立っていたのは、息を切らしつつも右腕に炎を宿らせ、明らかに今消えた相手に対する怒りを露わにしている穂村であった。
「ゼェ、お前が俺の携帯に途中で切れた着信履歴残したから、飛んで帰ってきたんだよ、ったく」
それにしても今の一瞬であったが、穂村と外の男とで視線がぶつかり、互いにどう動くか探り合いが行われていた。そんな中で穂村は相手が敵と理解すると一瞬で激昂し、男は一瞬で状況を判断してその場から離脱。ほんの一瞬の差で穂村は敵を取り逃がし、男は命拾いをした。
「くっ……今のは誰だ」
「なんか不審者って言っていたぞ」
「不審者なら相手をするなよ!」
「しょうたろーは不審者の話を聞くなとは言っていなかったではないか!」
穂村はイノのアホさ加減に頭を抱えながらベランダの方へと向かい、そして窓を開けて下の方を確認する。
「……まだいやがるのか」
「おーおー、怖い怖い」
穂村の目線の先に、こちらの姿を見てニヤつく男が立っている。
――地面に切り立った壁に垂直にではあるが。
「……何の力だ」
「ハイどーぞと教えるほどお人好しやないぞ俺は」
九州弁の男はまるで地面を歩くかのように平然と壁を降りて行き、そして地面にすっと降り立つと真上を向いてこう言った。
「俺は諦めんぞー。どこぞのチンケな『詐欺師』と違って、俺は正面以外からもどこからでも踏み入ってくるからなー」
「一歩でも俺達の懐に踏み入ってみろ。全身大火傷をすることになるぞ」
「おおー、怖い怖い。でも――」
――俺を一歩でも懐に入れた時点で、お前の負けやぞ。
「……だったら念の為に今からブッ潰しに行ってやるよ」
「おっと、それは怖いからさっさと逃げるわ」
男はニヤけ面で小瓶を叩き割って空間に異空間への穴を空け、その場から立ち去っていく。
「チッ、やはり来やがったか……」
これでもう家に二人だけで置いておくことはできない。これからどうやってかくまって行くべきかを考えなければならない。
穂村は今日の午後の授業を休むことを電話越しに担任に伝え終えると、本来ならひとまず午後からどう動くかを考えなければならなかったが――
「――まずお前らに聞きたい、これは何だ?」
穂村は本来言うべきことを心の内に抑え、声を震わせながら壁の方を見ている。
「何って、しょうたろーの絵をかいていたのだ! どうだ! すごいだろ!」
イノがどうだと言わんばかりに壁の前に立っている。それに対して穂村は子どもが知らずにしてしまったことだと、ぐっと怒りをこらえている。
だがそれを知ってか知らずか、イノは更に増長するかのように一つ一つ絵の紹介までし始める。
「これがしょうたろーで、これがわたし! ここにいるのがおねぇちゃんで、これがくま五郎!」
「……イノ」
「どうしたのだ? しょうたろー、嬉しくて震えているのか?」
純粋な子どもの絵を前に、大人げも無く怒ることも難しい。
幸いなことに水性インクのボールペンのため、消すのはたやすい。
何とか内に湧き出る怒りをなだめ、穂村は大きく息を吐いてイノに注意を促す。
「……っ、次からは壁に描くなよ。今度からはちゃんとお絵かき用の紙とペンをやるから」
「壁に書いちゃダメなのか?」
「この家は借りたものなんだ。お前だって貸しといた自分のものに勝手に色々されていたら嫌だろ?」
納得させるのは難しいが、穂村はそう言って回りくどくイノを諭す。
「……ダメなのか」
明らかにイノは怒られていることにしょげているが、穂村としてもここで言っておかなければならない。
「……午後から買い物に行く時にお絵かきセットくらい買ってやるよ。だから今後は壁とか床に絵をかくのは止めろ。いいな?」
「……しょうたろーがそういうなら分かったぞ。おねぇちゃんもごめんなさいって」
だがイノとオウギは素直に謝ってくれたことで、穂村の方も自然と鬱憤が収まる。
「……次から気を付ければいいんだよ」
◆ ◆ ◆
「――気を付ければいいといったが、おもちゃを買い過ぎていいとは言ってねぇぞ!」
「えぇー、あの偉そうな女はいっぱい服を買ってくれたぞ」
「Aランクのヤツと経済力を一緒にするなよ……」
買い物の為に前回同様ショッピングモールにきたはいいものの、イノに加えてオウギも連れているからか、穂村は買い物の量が倍増している気がした。
穂村は最初の約束通り、買い物かごからお絵かきセットのみを選別して残りをイノ達に元の場所へと戻すようにいいつける。
「しょうたろーのケチ!」
「ケチで結構。我慢する方が大事だ」
穂村はそう言って、いつも通りイノ達に各自で元に戻させようと思っていた。だが――
「……ちょっと待て。今日は俺も一緒に行く」
「どうしてだ?」
「チッ……」
どこかで舌打ちが聞こえたような気がした。穂村はやはりといった様子で周りをぐるりと見回すと、オウギの手を引きイノを足元に引き寄せる。
「今日はお前達が行く方向に用事もあるからついでだ」
「そうなのか?」
「そうだよ」
本当なら何もないはずだが、まだイノ達を保護する手立てをそろえていない今、手元から離すのは明らかに悪手。穂村はそう考えての行動である。
「クソッ、せめて時田さえいれば……」
現在こちら側にいる中で最大戦力として扱えるのはどう考えても時田ただ一人。早く放課後にならないかなどと思いつつ、穂村はおもちゃを元の棚に直し始めようと棚に手を伸ばそうとした。
その時だった。
「……げっ!?」
「ん? あっ! お前は!」
穂村の姿を見るなり怯える姿勢を見せているのは、あのラシェル=ルシアンヌであった。とんがり帽子に魔女服という服装では無いものの、相変わらず可愛らしさに媚びるような口元が、彼女だという何よりの証拠だ。彼女こそが穂村を一度瀕死に追いやり、そして『アイツ』を表に顕現させた張本人である。
「……な、なんであんたがここにいるのよ……」
「お前こそ、どうして一人でオモチャ屋なんかにいんだよ……」
「あ、あんたに関係ないでしょ!」
だからその手に隠し持っているつもりの魔法少女もののステッキは何だとツッコみを入れたかったが、人の好みには個人差があると思った穂村は敢えて黙ってそっとしておくことに。
「……大体お前、俺と同じ年くらいだろ? 学校はどうしたんだよ?」
「ハ、ハァッ!? か、関係ないでしょあんたに、バーカ!」
その言葉にカチンとくるものがあったが、穂村はまたもぐっと我慢してラシェルから情報を聞き出そうとする。
「……チッ! ったく、そういえばお前もイルミナだったよな?」
「何よ、もう足は洗ったわ」
「だったらもう奴等の情報をぽろっとこぼしてしまっても大丈夫ってことだよな?」
「……何が言いたいの?」
穂村はひとまず場所を移そうと、同じモールにあるフードコートの方へとラシェルを連れて行った。
◆ ◆ ◆
「――ふーん、つまりまだイルミナの別の奴等がイノちゃんとオウギちゃんを狙っているってワケ?」
「そういう事だ。それに今も恐らくつけられているつけられている」
「ほんとに? 大変だねー」
ラシェルはまるで他人事であるかのようにそう言って、テーブルの上にのせられている豪勢なイチゴパフェにスプーンを突き刺す。
「……お前真剣に聞いているか?」
「聞いてるよー」
ラシェルはスプーンの上に乗ったクリームを舐めながら返事を返しているが、穂村としてはその応対がいまいち真剣に思えずにいる。
「そのイチゴパフェ誰が奢ってやってると思ってんだよ……」
「はいはい、分かったわよ。ちゃんと話を聞けばいいんでしょ」
イノとオウギからは羨ましそうな目で見られたラシェルは残ったパフェを二人へと引き渡し、改めて穂村の方へと向きなおす。
「あんたが脅してきた時と、同様の答えを返すわ。あたしは下っ端だから何も知らない。まだあの『趣味の悪い詐欺師』の方が何か知っているんじゃないの?」
「之喜原の野郎か……確かに、あいつからは昼飯代も回収しなければならねぇだろうしな……」
「昼飯代……?」
「あいつ、俺にこの事を教える代わりに食い逃げしやがったんだよ」
あれを思えばいまだにはらわたが煮えくり返るが、穂村はぐっとこらえて話を戻す。
「とにかく、あいつは確かに知っている素振りを見せていた。お前の言う通りいずれは話をつけなきゃな」
「お昼の件については御愁傷様……まっ、せいぜい頑張ることねー。いざとなったら私を倒した力をつかえば? あんたは十分Aランク級に強いと思うし」
ラシェルはイノとオウギにパフェが美味しかったかを聞いた後に席を立ち、その場を立ち去ろうと穂村に背を向ける。
「それじゃわたしはこれで――」
「ちょっと待て。まだ話は終わっちゃいねぇ、むしろここからだ」
ラシェルは不満げにむくれながらも、渋々穂村の前に座りなおす。
「……何よ」
「お前、俺に雇われる気はないか?」
「は?」
「さっきも言っただろうが。俺は昼間学校で家にいられねぇ。そこでお前が俺の家にいることで敵をけん制できるだろ? 仮にも相手はBランクの俺にビビって撤退したんだ。Aランクのお前なら何とでもできるだろ」
「え、ちょっと待ちなさいよ! 何で私が巻き込まれなきゃならないのよ!?」
組織を抜けた身として、ラシェルはこれ以上厄介ごとに首を突っ込む気はなかった。
「でもお前、俺の金でパフェ食ったんだんだろ? まさかタダで帰れるってワケじゃねぇもよな?」
そしてそれを見据えた上で、穂村はある引っ掛けを用意していた。穂村の考えなど知る由もないラシェルは、怒った雰囲気でパフェ代くらい払い戻してやると意気込んでいる。
「それくらい払うわよ! 払えばいいんでしょ! ったく……」
ラシェルはそう言って壁に掲げられている各レストランのメニュー表の方を見ると――
「……えっ? はぁっ!? 五千円とか馬鹿じゃないのあんた!?」
「別に。俺はそれくらいの待遇でお前を雇うつもりだってことの意思表示だ。もちろんこれとは別に依頼料は別途で払う。どうだ?」
穂村は自分の財布が一瞬にして薄くなったことに内心苦痛にもがき苦しんでいるが、それを何とか顔には出さずに普通の対応を何とかこなしている。
それにしても高校生の依頼にしては破格にも思える待遇だが、ラシェルとしては具体的な金額を聞くまで信用はできない。
「……いくらよ?」
「とりあえず一ヶ月と考えて……そうだな、五十万でどうだ?」
「五、五十万!?」
「しょうたろー、お金持っているのか?」
「ああ、用意できる」
均衡警備隊の賞金首にある意味預けている――とは言えなかったが、ラシェルはこの待遇について二つ返事でオッケーを出しても良い雰囲気を出している。
「……で、でも、本当にそれだけ? 何かヤバい敵が既にいるってワケじゃないわよね?」
「ああ。それだけだ。敵は今の所、ニヤつきながら垂直な壁を歩く変な男だけのようだからな」
穂村が軽い気持ちで敵の特徴を述べた瞬間、ラシェルの依頼を受けようという気持ちに濁りが生じ始めた。
「…………ちょっとその男について、もう少し調べてから依頼を受けるわ」
「……どういう意味だ?」
穂村はラシェルの口調からして、敵の一人を知っていることに疑問を抱いた。
敵はそれほどに有名なのだろうか。
「もしかしたらあんたの言っている男が、有名な『人さらい屋』かもしれないからよ」
◆ ◆ ◆
「――結局ここに来ることになるのか」
「え? あんたもここに用があったの?」
あの後ラシェルは穂村達を連れ、地区の近くにある均衡警備隊支部へと顔を出していた。
ここは力帝都市における力の関係を保つ役割を持つところである。一般的な警察の業務と同じ犯罪を取り締まる事が普段の業務であるが、この組織全体の力の評価はBと、AやSランクを対象とする犯罪には実力的に手を出しずらい傾向にある。
従ってそのような高ランク犯罪者が出た場合や、均衡警備隊だけでは足取りを掴むのが難しい犯罪者が出た場合、対象に賞金を懸けることがある。
穂村はこの賞金首が狙いで、ここに来るつもりであったのだ。
「……えーっと、『人さらい屋』はどこだったっけ……?」
ラシェルは掲示板に張り出された賞金首の一覧を見ながら、例の『人さらい屋』とやらの詳細を確認しようとしている。
「……あった! あんたもしかしてこいつのことを言っているんじゃないの?」
そう言ってラシェルが指を指しているのは、あの時同様にニヤけ面で写っている男の写真だった。
「……こいつかもしれねぇ。イノも見たよな?」
「ベランダにいたのはこいつだぞ! おねぇちゃんもそう言ってる!」
「確定じゃない……本名不明の男、仕事を受ける際の呼び名は『プロフェッサーK』。能力検体名『縦横無人』。ランクBの能力者ね。噂によれば、さらう対象を人の目の前で消したとか」
ラシェルが素直に依頼を受けないのも頷ける。しかし穂村はこの男の危険度を情報として知った上で、更なる疑問がわいてくる。
「……一つ聞きてぇのは、何でそんなやばい能力なのにランクがBなんだ」
「さあ? 対象に近づかないと意味がないとかなんじゃない?」
両手を開いて能力のルールが全く分からないというポーズをとるラシェルであったが、穂村はその壁を歩く謎の男の言葉を思い出す。
――俺を一歩でも懐に入れた時点で、お前の負けやぞ。
「…………」
「どうしたの? おーい、ほむらー」
「ん? あぁ、いやなんでもねぇ。ただお前の推理は多分当たりだとは思う」
「そう……でもねー、こいつの賞金が倍の百万なのよねー。こいつから一か月間守りきって五十万と、倒して百万ってどっちがいいのかしら?」
「……だったら、こうすればいい」
穂村はラシェルの迷いを解決するある考えが浮かんだようで、ラシェルに対してこう提案した。
「一か月間でお前が御守りをしている間に俺がこいつを倒したとしても、その半分の五十万はお前にそのまま渡す。そしてお前が御守りをしない夜とかに単独でそいつを倒したなら、それを全部持っていった上で俺から更に五十万渡す。どうだ?」
「……少なくともこの子たちの世話をするだけで五十万は手に入るワケね」
「そういう事だ。それ以外の業務で倒した分はお前が丸儲けって仕組みだ」
「ふむ、悪くないわね」
ラシェルはこの人さらい屋のリスクを知ってはいるものの、それを踏まえてのこの報酬の内容に心が揺らがないわけでは無かった。
「……分かったわ。その依頼、受けましょ!」
「よし! ……って、お前学校は――」
快く依頼を受けてくれたのは良かったものの、穂村は自分と同じくらいの年齢の少女に対して学業の心配を思い出す。
それに対し、ラシェルは大きなため息をついて言葉を返す。
「……私、一応この学区の第一魔導大学に通っている大学一年生なんですけど」
ラシェルが言うからには自分は魔導大学という魔法を扱えるでも高等な者しか入れない大学に通っているのだという。
「えっ!? ウソだろ!? どう見ても俺と同年齢にしか見えない――」
「う、うるさい! これでも十九だもん! その気になれば車が運転できる年齢なんだから!」
すると一応見た目は同年代とはいえ今まで年上に対してため口を聞いていたのかと穂村は考えると、それとなく尊敬とよそよそしさを込めた言葉で依頼を頼み直すことに。
「……それじゃ、明日から迷惑をおかけすると思いますけど、よろしくお願いします。ラシェルさん」
「ちょっと! 急に敬語にさん付けは止めて! コラ! 目をそらすなー!」




