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パワー・オブ・ワールド  作者: ふくあき
ー超えていくべきもの編ー
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第一章 第五話 十五年越しの再会

(あり得ない……こんなに、力の差が遠いなんて――)


 それは雷の化身なりの慈悲とでもいうべきか、緋山のように風穴を開けられることもなく、上等学院高校もう一人のSランクの少女は気を失っていく。

 榊マコの能力検体名は『反転(リバース)』。その名前の通り、ありとあらゆる物質、事象を反転させることができる規格外の能力の持ち主であった。

 しかしそれら全てもあくまで認識をしてそしてキチンと脳へと命令信号が送られて成り立つものであって、無敵の能力という訳ではない。確かに無条件の反射といった限定的な防御という力の行使も出来ない訳ではないが、電子の移動方向を反転させたところで電流の向きが変わるだけで、神崎からすれば前から電撃を浴びせるか背後から電撃を浴びせるかの違いでしかない。


「次はもっと電気の事について勉強しとくんやな。電子の移動方向を反転させても、電流は逆向きに流れるだけ。単純な物理の話や」

「クヒャハッ! 勉強もまともにせずに大人になったテメェが言えた話かよ!?」


 すぐ近くではケタケタと笑う魔人の姿があるが、それまで目をかけてきた二人のことなどどうでもいいといった様子で神崎に対して挑発を続けている。


「勉強も何も、()()世界でできた状況か?」

「ククク……まあ、できねぇだろうな」

「ふざけんな、貴様きさんらが引き起こした黙示録ど真ん中で誰が呑気に勉強するっちゅう話や」

「だぁーからあの時から言ってるだろうが。あれはサマエルが糸引いてやがったんだっての。『サタン』にとっても想定外だったから、わざわざオレがテメェ等に力を貸してやったんだろうが」

「その結果がこれやろうが!!」


 そう言って神崎はこれまでと同様、ノーモーションで雷を飛ばして魔人を灰燼へと変えようとした。しかし魔人はそれを喰らって右腕を欠損したところで、顔色一つ変えずに挑発的な笑みを浮かべ続けている。

「何度も言わせるな。誰が“ゼウスの雷霆”をテメェにくれてやったと思ってる」

「押し付けたの間違いやろが。事実こいつを無理矢理取り込まされるときに地獄を見たんやぞ」


 ゼウスの雷霆――またの名を『ケラウノス』。ひとたび放たれたそれは宇宙をも破壊し尽くすとも言われるそれを、神崎剛毅は人間でありながらその身に宿している。


「それとミョルニル。あれどこにやった」

「あれか? あれなら――」


 一筋の光が、真っ直ぐと魔人の頭上から降り落ちる。それはこれまでとは到底比較にならない熱量と光を携えたものだった。

 耳をつんざくような轟音が、校舎内部まで響き渡る。まるで近くで爆弾が爆発したかのような振動が、校内にいる一人の少女を不安にさせる。


「今の、まさか屋上……!?」


 能力を使わずに階段を一段一段とゆっくり登っていた澄田だったが、その屋上で起こっているであろう異常事態を察知して一気に駆け上がり始める。


(屋上には先にマコちゃんもいるし……励二、大丈夫だよね……?)




「――たった今貴様(きさん)に返してやったぞ」

「ハッ! いらねぇよ。まだ持っとけ」


 本来ならば校舎を軽々と突き破って区画一帯など丸ごと消し去っていたであろう一撃を、魔人は欠損したはずの側の腕を上空に掲げ、それを片手で受け止めていた。その足元には受け止められなかった分の衝撃が、屋上いっぱいに広がる亀裂として広がっている。


「これだけの出力をピンポイントで出せるようなら、並大抵の悪魔なんざ消し飛ぶだろうよ」

貴様きさんを消し飛ばせん時点で意味ないわ」


 電熱によって赤くなった金槌の頭の部分を持ちながら、魔人は手から伝わってくる槌に込められた力の大きさに称賛の言葉を並べる。しかし神崎はあくまで魔人を倒すための手段としてのみにしか雷槌ミョルニルの価値を見出していない。


「ケッ、オレが手を貸したからこそあのクソ悪魔をぶちのめせたってのによ」

「その後余計なことをしなければワシも何もせんかったわボケ」


 そうして魔人から放り投げられた槌を手に取り、特に丁重に扱う訳でもなくズボンのポケットへと挿し込んでいく。


「ったく、まだ殺すには力が足りんみたいやな……」

「ハッ! 人間風情がそう簡単に追いつけると思うなよ」

「だぁっとれ! すぐ追いついたる!」


 神崎が悪態をついていると、屋上から校舎内へと続くドアが開く音が聞こえてくる。


「……来たか」

「来たかって、テメェ自分の娘がいるの分かっててそいつぶん投げてたのかよ!?」

貴様きさんやったらあれくらい受け止めて当然やろ。挨拶代わりや」

「えっ、何、これ……?」


 まず澄田と真っ先に目線があったのは魔人だった。そして続いてその隣、まるで自分の事を待っていたかのように両手を腰に当てる男と目が合う。


(あれ、あの人、初めて会う人じゃ、ない……?)


 そんなことが脳裏をよぎる澄田だったが、その足元に転がる二人の姿を前に考えが消し飛ばされる。


「えっ……励二!? マコちゃん!?」

「あぁ? こいつらか。付き合う相手は考えた方がええぞ、詩乃。手ぇ抜いたワシにすら手も足も出んような奴と――」

「っ、誰なんですか貴方は!? 励二に、何をしたんですか!!」


 状況的に目の前の男の仕業だと即座に理解し、敵対心を露わにする。しかし神崎はあくまでそれらも含めて許容する様子で、娘の手を取ろうと手を差し伸べる。


「そいつらはもうどうでもええんや。それより帰るぞ」

「なっ、離してください!」

「おーおー、親離れはとっくに済んでるみたいだぞ神崎剛毅。テメェも子離れしろ」

「できる訳、ないやろが!」


 いやがる娘の手を引っ張り、それまで抱きしめることができなかった分、力強く抱きしめる。


「えっ……?」

「……ワシと一緒に帰るぞ、詩乃。母さんももうすぐこっちに来る」

「……もしかして――」


 ――お父、さん……?


 それまでは魔人が親代わりとなって面倒を見てもらっていた。しかし今目の前にいるのは、正真正銘の澄田詩乃の父親。


「喧嘩ふっかけといて悪いが、暫く二人きりにさせて貰うで」

「アァ? テメェ、この惨状をオレに任せる気――」


 バチィッ!! という電気音と共に、それまで神崎と澄田がいた場所には、真っ黒な焦げ跡だけが残されている。


「……ったく、面倒事をばらまくのはオレの専売特許だろうが……」

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