第一章 第四話 天より来る来訪者
週一投降なのに遅れが出てしまい申し訳ないです(´・ω・`)。
「えっ? 緋山さんにも見えたんですか?」
「ああ。今のお前にはどうだ? 見えるか?」
「うーん、今は見えないっすねぇ」
お昼時の上等学院高校の屋上を占拠できる者は誰かと聞かれたら、そこに通う学生の百人中百人が緋山励二という少年の名前をあげるだろう。上等学院高校、ひいては力帝都市でも最強格が居座っているというのであれば、並大抵の高校生ならばわざわざ彼の機嫌を損ねにそこへ行くことはない。ましてやそれがDランクであればなおさら。
しかし今回そこで緋山と一緒に昼食をとっているのは、その一番あり得る筈のないはずの一般人。
「今のお前で見えていないってことは、ランクで見えるか見えないかが区切られているって事か……?」
「そもそも見えたところで俺は行く気なんて無いですよ。俺にとっては第一区画なんていい思い出が一個もない場所なんで」
上等学院高校一年生。Dランクの凡人、榊真琴。一見して大人しそうで暗そうな、確かに何の力も持たない一般人にとっては、Aランク以上が日々戦いを重ねている場所などろくなイメージが無いであろう。しかしこうして交流を持つ仲である緋山にとっても、共感できるものがあった。
「確かにあそこで穂村と戦ったが為に面倒な縁ができちまった訳だし、俺もあんまりいい思い出はねぇな」
「でしょ? ただでさえ面倒ごとに巻き込まれがちなんですし、その訳の分からない塔なんて無視すれば――」
「無視しようものならその内巻き込まれて死ぬことになるがいいのかぁー? クヒャハッ!」
「ゲッ! でたよ魔人……」
口から思わず「ゲッ!」という単語が出るあたり、彼もまた魔人の事を知っていることが伺える。
一般人の彼がどうして魔人と知り合いなのかそれはさておき、魔人はそんな彼がいようが特にお構いなしといった様子で緋山の方を振り向くと、それまで二人の間で話題となっていたものについて話を語り始める。
「榊真琴は置いておくとしてだ。緋山励二、テメェも遂に“塔”が見えるようになったか」
「塔が見えるって……いや、見えないって事にしておきてぇがそういう訳にもいかねぇんだろうな」
一瞬は無かったことにしようとした緋山だったが、それをしてしまえばそれ以上の面倒事に巻き込まれるのは間違いない。それを知っているが故に緋山は諦めた様子で話に耳を傾けようとしていたが、今回は魔人がというよりも成り行きとして絶対にそれは立ち塞がるといったニュアンスでの話題のようであった。
「あの塔についてこの世界の誰よりも知っているオレが特別にレクチャーしてやる」
「あのー、俺は特に関係なさそうなのでこの辺で――」
「テメェも残れ榊真琴。場合によってはテメェ等二人がかりでも余裕で手に余る案件だ」
「えぇー……」
なんとなく身の危険を察知した榊はあくまで自分は外野として関わる気など一切なかったが、今回はそれも魔人によって封じられてしまう。
「……説明――というより、もう遅いか。体験した方が早い」
「えっ? 体験って――」
――真昼の空ですら白く染め上げる稲光が、鼓膜を突き破るような雷鳴を携えて上等学院高校屋上へと突き刺さる。
「っ!?」
榊真琴は思わず耳を塞ぎ、目を閉じた。緋山励二は雷の着弾と同時に全身を砂にしてとっさにそれの着地点から大きく体を退けた。魔人はその懐かしい音と光を前に、ニヤリと不敵に笑みを浮かべていた。
ある者はそれをこれまでにない災害と認識し、ある者はそれをこれまでで最大の強敵と認識し、ある者は生涯で一番のライバルと認識した。
「――遂に見つけたぞ、このイカレ魔人が」
「ククククク……ヒャーハハハハッ!! オレの方こそ、随分と待たせてくれたじゃねぇかァ!? アァ!?」
元は実家で八百屋を手伝っていただけのただの男。パッと見ただけではエプロン姿にバンダナを目深に被った目つきの悪い男でしかないが、その身体の表面には絶えず青白いスパークがひた走り、纏わりついている。
「……だっ、誰だよこいつは!?」
既に緋山励二は最大限の警戒でもって、身体の一部を砂に変えていつでも動く体勢を保っている。
それに対してバンダナの男はただ一瞥するだけで、それ以上の相手をする価値もないといった様子で再び魔人へと視線を合わせる。
「……っ、無視してんじゃ――」
「ちょっと黙っとけや」
空気をかき分ける破裂音、というよりも爆発音と言った方が正しいのかもしれない。そしてその音が鳴る前には既に、緋山の足元には巨大な黒い焦げ跡が残されている。
「なっ!?」
「おい、クサレ魔人。約束通り辿り着いてやったんや、ワシの娘を返せ」
「クックック……悪ぃが今はオレのモンじゃねぇんでな。取り返すならそこの彼氏から取り返せよ」
「何じゃと……?」
そこで改めて男は緋山の方を振り向くが、そこには先ほどとは違った明らかな殺意交じりの敵意が込められている。
そしてこの一連のやり取りだけで、緋山はあることを察するとともに、唖然と口を開いてこう言った。
「……ま、まさかあんた……詩乃の――」
再び音を置き去りにした光が、緋山の身体の中心を貫く。そこには砂となって回避を試みた痕跡もあったが、それすらも無視して電熱で焼き尽くされて開けられた大穴が開けられてしまっている。
「……なんじゃ、詩乃の彼氏やしあのクサレ外道が認めとるから強いのかと思ったが……あっけないもんやな」
「あ……が……」
最後まで言葉を吐く間もなく、緋山励二はその場に膝を折って倒れ伏す。そしてその一連の流れを見ていた榊は、何一つ理解できない超常現象を前に言葉を失っている。
「そういえば名前を聞き忘れてたか。けど、まあどうでもいいわ。この程度で死ぬ奴の名前なんぞ覚える気もない」
そう言って男は緋山を瞬殺することで澄田詩乃との関係を白紙に戻し、改めて魔人の方を振りむいてこう言った。
「長い事追う羽目になったが、もう十分やろ……今すぐここで、決着つけるか」
「面白れぇ……と、言いてぇところだが、先にもう一人片付けて貰おうか」
「ん……? 誰や貴様、さっきまでおらんかったやろ」
三度振り向いた先に立つ存在――そこにはピンクの髪色をしながらも、どこかダウナーなイメージを持たせる少女が憎しみを宿した瞳で男を睨みつけている。
「緋山さんを……よくも……!」
「なんじゃ、この緋山とかいうクソガキはワシの娘以外にも手を出しとったんか」
「違う……あたしはそんなんじゃないけど、緋山さんはあたしにとって大切な先輩だ!」
そうして少女はいつの間にか手に持っていた小石を握りしめると、大きく振りかぶって男へと投げつける。
「ふん、そんなしょうもない小石で何をする気か知らんが――」
「小石? あたしには大岩に見えるけど?」
「ッ!?」
瞬きする間もなく、投げつけられた小石は一瞬にして男の頭上に大きな影を落とせるだけの大岩へと変貌していた。そしてそのまま男の身体を圧し潰すかのように、大岩は屋上へと地響きを鳴らして着弾していく。
「これでどうよ!?」
「……なるほど。さっきのクソガキよりかはできるみたいやな」
押しつぶしたはずの男の声が、空気を伝って少女の耳に届けられる。それと同時に目の前で起きているのは、押しつぶされたはずの男が大岩を片手で軽々と横へ押しのけるという異常な光景。
「一応名前を聞いておいてやる。名前は?」
「……榊マコ」
「そうか。じゃあ榊……ワシの名前も教えてやるから、冥途の土産に覚えておけ」
ワシの名は神崎剛毅。詩乃の実の父親や。
ということで、懐かしの「チェンジ・オブ・ワールド」から榊真琴が本格的に参戦&やべー父親登場です(´・ω・`)。
※本作のみでも問題なく読み進めていけますが、同じ世界観の別作品で榊真琴は主人公をやっていますので、もし興味があれば「チェンジ・オブ・ワールド」の方を読んでいただけるとどんなバックボーンがあるのか知ることもできます(`・ω・´)。




