第十一章 三十話 星の煌き
――まだか、まだなのか。
穂村はこんなもんなのか?
「こいつでどうだァッ!!」
爆炎によって加速させた踵落としが炸裂し、空中に巨大な炎の輪が広がっていく。しかしそこまでの破壊力をもってしても『傲慢』たるもう一人の自分にそれは通用していないのか、普通に片腕で防がれてしまう。
「ケッ、この程度かよ!! こんなんじゃオレ様の足元にも及ばねぇぞ!?」
そうして挑発まで返されてしまえば、今の攻撃は一切聞いていないことの証明となってしまう。
「んだとコラ……!」
――まだだ、まだだ。
俺は、穂村正太郎はまだまだこんなもんじゃねぇぞッ!!
「灼拳――」
今度は大きく振りかぶった右手を拳へと握りしめ、そのうちに炎を閉じ込めていく。
もはやその程度ならばこうげきを邪魔する必要すらないと、『傲慢』は端で笑っていたが――
「ハッ、だぁから言ってんだろ、んなもんが今更効くわけ――ッ!?」
――拳に纏うは赤い焔。それは熱を捨てて破壊へと全ての力を注ぎこんだが故。
手の内に抑え込んでいた太陽が、接触の直前で膨張していく。
「オイオイ、そりゃ――」
「えっ!? マズッ――」
それは近くにいた魔人や熾天使にとっても、思わず声を漏らさなければならないものと化していた。
そして穂村の手に握られていた焔が、太陽となってその場に顕現していく――
「――爆砕ォッ!!」
突如としてその場に出現した小型の太陽が、辺り一面を一瞬にして炎の海へと沈めていく。
「――っとぉ、ヤベェヤベェ。今ので野次馬が何人死んだかぁー? キヒャハッ!」
「残念だけど、ぼくとわたしの力で避難済みだよ」
予定外の死を望まないセラフによって、魔人の予想は覆される。それに対して魔人は特に不機嫌になることもなければセラフの方を一瞥することもなく、ニヤケ顔のまま相変わらず戦いを眺めている。
「……ちょっとは悔しがることぐらいしたらどうかな?」
「別に俺が悔しがる必要もねぇ――おっと!」
天使と魔人の間に向かって、人影がひとつ飛ばされる。すんでのところで両者回避に成功するが、肝心の人影はというと、ビルに大きなクレーターを作った状態で叩きつけられている。
「――んだ、テメェ等? まさかオレ様達の邪魔でもしに来たかよ」
遅れて現れたのは、灰を被ったような髪をした穂村正太郎。つまりたった今今吹き飛ばされた方が、本物の穂村正太郎ということになる。
予定外の観客がいることでただでさえピリついた空気の上に緊張感が高まっていく『傲慢』であったが、魔人の方はというとあくまで格下がじゃれついてきたといわんばかりに、余裕綽々の態度を取り続けている。
「アァ? 邪魔する気なんざねぇよ。さっさとどっちが強ぇか決めてこい」
「チッ……言われなくとも分かってるさ」
多少の敵意はあれど、その場の空気はまるで知古との再会に近いものだった。
「……テメェもいずれはぶっ潰す。これはその前座に過ぎねぇ」
「デケェ口叩く分は構わねぇが、大元が同じでもオレ様とテメェじゃ格が違ぇんだよ。そこのところよく理解しておかねぇと、逆にプチッと潰されることになるぞ」
そうして『大罪』と魔人とで軽い火花が散らされようとした瞬間、二人の間にクレーターから一直線に熱線が飛ばされる。
「げほっ、ごほっ! ……てめぇの相手は、まだ俺だろうが……!」
「……だ、そうだが?」
熱線を飛ばしたのは他の誰でもない、穂村正太郎。そうして僅かなブレイクタイムの後に、第二ラウンドが開始される。
「ッ、ウォオオオオオアアッ!!!」
先ほどよりも体力が削られているにも拘らずその焔の出力に衰えなどなく、むしろ更に勢いを増していく。
「蒼に戻ったか……だからといってオレ様がその熱量に耐えられねぇとでも思ってんのか?」
炎熱系の能力者同士の戦いにおいて、炎のやり取りはほとんど意味をなさない。しかしそれでもなお炎にこだわる理由など、お互いとっくに分かりきっている。
「――閃烈の蒼炎拍動……!」
それはかつて己が内に潜む『憤怒』を調伏した、穂村と『傲慢』による最終形態。
しかし穂村は更にその先へと進むべく、蒼い焔を更に苛烈に燃え上がらせていく――
『――ねぇ、穂村君』
『あぁ?』
『夜空の星って綺麗だよね』
『んなもん、どうでもいいだろ』
『もう! ちょっとはロマンチストっぽく答えてくれたっていいでしょ?』
『ケッ、頭の悪ぃ不良中学生に、何求めてんだよ――』
「――もっとだ、もっと……この俺が、燃え尽きるまでッ!!」
奇しくもよぎる、過去の記憶。それはかつてお節介な幼馴染から教えられた、星についての知識。
そしてその知識を基に思い描くもの――それは自らの命を燃やし尽くすほどの、鮮やかなまでの焔光。
「――赫奕の、彗星拍動ッ!!」
――それは一瞬の煌めきだった。
辺りに放たれた眩い光は、昼間を通り越して影をも消し去り、全てを真っ白に染め上げていく。
「っ……あの野郎、そこまでやるか」
太陽をも超える光を放つに至るなど、穂村一人では到底成し得ない所業。
『大罪』無き今、彼がその代償としているものが何なのか、『傲慢』たる少年と魔人は既に感づいている。
「……テメェ、正真正銘のバカか?」
「うるせぇよ……むしろ光栄に思っとけよ。てめぇ一人をぶっ潰す為に、文字通り命を燃やしてんだからよォッ!!」
それは穂村が全身全霊で燃やす命の灯。これまでのような禍々しいものから一転した、眩く神々しい三対の燃える翼が顕現される。
そして広げた両手の指先に、同じように眩く輝く焔が装填されていく。
「F・F・F――装填式煌龍弾ッ!!」
光の進むスピードは一秒間におよそ地球七周半。その速さで動ける人間など、この地球上に存在しない。
――少なくとも現時点で観測できる中で、たった一人を除いて。
「いくぜぇえええッ!!」
箒星のごとき残光を残しながら、瞬きする間もなく穂村は『傲慢』たる己の目の前に立ち、そして勢いよく指を弾く。
「――一発目ッ!!」
閃光という言葉ですら生温い表現とばかりに、装填された光の弾丸が炸裂する。その一撃は回避の為に灰と化した肉体をも容易く焼失させていく。
「がはっ!?」
「二発目ッ! 三発目ッ!!」
指先を弾く度に、『傲慢』の肉体には次々と穴が開けられていく。それは即座に修復などできない、灰すら焦がす超々高熱の光線。
「ぐっ、てめっ――」
反撃すら許すことなく穂村は九発目まで光の弾丸を叩きこむと、最後に留めとばかりに祈るように両手を握って巨大な光の玉を作り上げていく。
「最後の一撃だァッ!!」
「っ、オレ様を、舐めるんじゃねぇええええッ!!」
一撃が放たれる直前、『傲慢』はそれまで辺りに散っていっていた燃えカス全てを己が身に集め、巨大な渦を作り上げていく。
「魔塵、煉葬ッ!!」
「決まるな……」
二人の立ち合いを見届けていた魔人が、ポツリと一言呟く。
そしてその言葉の意味が真実味を帯びていくかのように、『傲慢』の身体が灰によって再構築され、更に悪魔のような姿へと変貌していく。
「どうせくたばるんだ、だったらテメェの技で逝っちまいなァッ!!」
灰を纏った巨大な悪魔が、穂村と鏡映しのように同じ構えをとる。
それは互いの全力全開、最大火力のぶつかり合い。
「……全力――」
「……全開――」
――最終砲火ッ!!
――後に大きな騒ぎとなる一撃から計上された力の余波は、過去いずれのデータも超える、桁違いの破壊力を記録していた。




