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パワー・オブ・ワールド  作者: ふくあき
―罪滅ぼし編―
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第十一章 二十九話 二つの凶星

 夜空を横切るは二つの流れ星。鮮やかなまでの蒼い星と、それまでに見たことが無いような、夜空を墨で描くような、灰色の流れ星。真っ直ぐに、そして並走するように、それらの星々は多くの人々の目に映っていた。

 そして当然この力帝都市を滑る二人の長の目にも、魔人の目にも流れ星が――二人の穂村正太郎の姿が映っていた。


「――遂に始まったか」

「ヒャハハハハッ!! 一世一代の見物みもの、テメェで生み出した『大罪ツケ』にテメェで決着をつける時が来たようだな!!」


 ――なぁ!? 穂村正太郎!? 



               ◆ ◆ ◆



 流れ星はやがてぶつかり合う。目の前を飛ぶ羽虫を叩き落とす様に。互いの存在を否定するように。


「ハッ、ようやくウォームアップってところかァ!?」

「奇遇だな……俺もそろそろ、温まってきたところだぜッ!!」


 防護壁などこの二人の前では意味がない。市長の先回りした計らいにより広域に対して警告および避難勧告が出ていたが、それすら間に合うかどうかは分からない。

 なぜなら二人の戦いはいつどこで炸裂するのか、誰にも予想がつかないものとなってしまっているからだ。


「――炙装煉成崩壊レッドブリードデストラクションッ!!」


 連続爆発する熱波が、突如空中で燃え広がる。

 何もないはずの空間をひた走る炎、そして爆発。それをどちらが出したのかは分からない。しかし付近で、そして頭上で爆発するそれを見た者の多くが、こう感じていた。

 ――ああ、これが死の恐怖というものか、と。


「温まったって言う割には、まだ熱が足りてねぇんじゃねぇかァ!?」


 灰色の少年は爆風を目の前にして、断ち切るように身を捩じらせて回転蹴りをくらわせる。爆風は二つに割れ、代わりに突き進むは僅かに灰を舞わせるだけの不可視の熱の刃。

 鬼塵煉葬きじんれんそう――暴灼舞刃ぼうしゃくぶじん。傲慢たる少年が得意とする攻撃を、穂村正太郎は真っ向から受け止める。


「ぐっ!?」


 自身を炎と同化することで難を逃れたが、その背後にあるビルについては彼のあずかり知らぬこと。横一文字に真っ二つとなって倒壊を始めようが、振り向くことすらしない。


「――被害報告。第十二区画および十三区画、半壊。飛んで第二、第三、第四区画、小規模の損害あれど、人的被害なし。二人については、第一区画に誘導を――」

「できると思うか? 我が片割れよ」

「……無理難題。あの戦いに介入することを許される者など、誰もいない」


 市長室にあるいくつものモニターでは、二人の戦いが多角に映し出されていた。そしてその戦いの眼下にある被害状況も。


咄咄怪事とつとつかいじ。理性的。自らの住まう居住区画は避けての戦闘を続けている」

「それは当然だろう。あそこには子乃坂ちとせがいる。互いにそれを分かっているからこそ、この戦いを見られないようにと避けているのだろう」

(しかしながら、その目論見が通る筈がない。これだけの騒ぎになって、ベランダから外の様子を伺わぬものなど、いる筈がない)


 更に言うならば予想される被害規模の大きさからランク制限(クリアランス)による情報統制もなされておらず、テレビをつけるだけで全てのチャンネルが速報を流している。


「……穂村君」


 そして市長が予見していた通り、子乃坂ちとせはベランダから身を乗り出して空の様子をじっと見つめている。

 一体どんな戦いなのかは分からない。しかしその戦いが今までの中で最大のものとなることを、そして蛇塚の時とおなじように、誰の為でもない自分自身の為に戦っていることを子乃坂は悟っていた。


「……必ず勝って、帰ってきて」


 ――私はずっと、待ってるから。




「――ッ、オアァアアアアッッッ!!」


 更なる蒼い焔を纏って、穂村正太郎は燃え上がる。


「へっ、なんかスイッチでも入ったか? ようやくこっちも本気で――ッ!?」

「――遅ぇよ、バカが」


 両足を発火ブーストさせての高速移動。そして接近。


「――穿孔爆砕ペネトレイトバスター


 黒い焔を纏っていた時に、市長に向けて無意識に使っていた技。それを穂村なりに介錯して、再度技として昇華させたもの。


「ごっ……がっ……!」

「テメェも俺も、基本的に表面的な炎熱は効かねぇ。だが内側からならどうだ!?」


 強烈なボディブローによる腹部ストマックの破壊。めり込んだ拳から放たれる極限の熱が、背中へと貫通していく。


「っぜぇ、やるじゃねぇか、アァ!?」

「テメェと戦うんだ、それくらいは――がはっ!?」

「だったら同じ真似をされることくらい、覚悟してんだろうなァ!?」


 穿孔爆砕ペネトレイトバスター返し――穂村正太郎の腹部に、鮮烈なまでの灼熱が押し付けられる。


「ぐっ、がぁっ!?」


 互いに後ろに下がりながら体内の熱を自らの炎で制御、排熱でもって抑えつける。


「っ、思いついたはいいがここまで痛ぇとはな……!」

「ケッ、テメェでやったことねぇもんをオレ様で試してんじゃねぇよ!」

「ハッ! こんなもん誰にでもやれるかよバァカ!! 一発で勝負が決まっちまうだろうがッ!!」


 勝負は一旦休止――とはならず、互いにダメージを抱えてもなお戦いは続いていく。


「ヒャハハハッ、アーハハハハハハッ!! なぁ穂村正太郎、テメェも楽しいよなァ!?」

「っ……てめぇと戦ってきて、今まで一度も楽しんだことねぇんだよォッ!!」


 蒼が、赤が、灰色が。様々な爆炎が夜空を彩っていくが、誰もそれを綺麗だなんて言う単純な感想で片づけたりはしない。


 ――恐ろしい。かくも桁違いの力が身近に行使されるというのは、これほどまでに恐ろしいものだったのか。

 戦いとは、こうも恐ろしいものだったのか。


「ククク……今頃はどいつもこいつも、テメェの戦いがおままごとだったって事に気がついているだろうよ」


 画面越しの鑑賞ではなく自らの目で、魔人はその戦いを見届けていた。空中にまるで地面があるように、両腕を組んで立っている。


「この戦いについてこれるヤツなんざ、Sランクでもそういねぇ。候補をあげるとするなら――」

「騎西善人なら、この戦いにもついていけると思うよ」

「アァ? ……何だテメェか、熾天使セラフ


 三対の翼を持った中世的な出で立ちの天使が、気づけば魔人のそばで浮いている。


「ぼくやわたしも見学していいかな?」

「見学って、見て学べるもんねぇだろ」

「いやー、あるにはあるよ?」


 そう言ってセラフは二人の苛烈な戦いを、まるで低レベルな子供の喧嘩を見守るような優しい目で眺めつつ呟く。


「……衝動があるから、人間は強くなれる」

「……それはテメェ等にそれ以上はねぇって事に繋がるのか?」

「さあ? どうだろうね? 神ってのは人間の信仰、イメージによっていくらでも変わるものだから」

「……ケッ、下らねぇ」


 言葉の意味の有無はともかくとして、魔人も天使もそれ以上多くを語ることはなかった。

 ただ二人の戦いを、相も変わらずじっと見つめ続けていたのだった。

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