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パワー・オブ・ワールド  作者: ふくあき
―罪滅ぼし編―
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第十章 二十八話 分かれ道

「――はっ? ななっ、なっ? いいい、意味が分からんぞ!?」


 天才の答え合わせが全て間違っていたとしたらどうなるのか。積み重ねてきた真実が、全て虚構だと分かった時、全ての法則、定理が否定されたときにどんな反応をするのか。

遠方からモニタリングしていた天木の場合、頭皮から血がにじむくらいに髪の毛をぐしゃぐしゃに掻き見出してこの言葉に困惑していた。

 その姿を横目に見ていた阿形はというと、ざまぁないとばかりに笑っている。


「ハハッ! まさかの本人から全否定されるとはな!」

「違う! 違う違う違う! あれこそが理想とする穂村正太郎ダーリンの姿! あれこそが――」

「あんなものが穂村な訳ねぇだろ」


 そして本日二度目の地下への侵入。緋山励二が再び二人の科学者の前に姿を現す。


「っ!? ちぃっ、他のクローンを――」

「他のクローンなら全て生き埋めか、溶岩に沈んじまってるぞ」


 先手を打っての行動。緋山はこれ以上の横入りが無いようにと、先に研究所内を回って破壊活動を済ませていた。


「くっ……! 我々をどうするつもりだ!?」

「どうするも何も、今んところただあの穂村バカのクローンを無断で作ったくらいだし、それを均衡警備隊バランサーがどう判断するかだが……その前に」


 緋山はキョロキョロと辺りを見回して目的の少女がいないことを確認すると、何処にいるのかを二人に聞くことにした。


「俺にけしかけてきたあの燃える髪の女はどこにいる?」

「燃える髪……ああ、検体番号〇八〇〇三か」

「検体――なんだって?」

「検体番号〇八〇〇三、フェロニちゃんに用があるんだぁ?」

「まあ、多分そいつだ。どこにいる?」


 ここでまたひと悶着、あるいは面倒事を覚悟していた緋山だったが、天木は意外にもあっさりと居どころを白状する。


「フ、フェロニちゃんなら、この通路の先。君が焼いていなければ、の話だけど」

「? そうか。じゃあそいつを連れて俺は出て行く。後は俺も手出ししねぇし、この先どうなるのかも興味ねぇ。結果は見えてるからな」

「結果は見えているだと……?」


 阿形の一言に、緋山は最後に応える。


「ああ。こんなもん、穂村の勝ちで終わる」


 ――よっぽどの隠し玉がねぇ限りはな。



          ◆ ◆ ◆



「がはぁっ!?」

「どうしたどうした……? 俺を騙るってんなら、まだ行けるだろうがァ!!」


 たった一つの問いを皮切りに始まったのは、一方的な蹂躙だった。


「この程度でへばってんじゃねぇぞ!! 俺を騙るってんならなァ――」


 ボコボコにされる――などという生温い表現では足りない程に全身を痛めつけられた穂村クローンのそっ首を掴みあげながら、穂村正太郎は言葉を続ける。


「――この程度で、てめぇがくたばりかけてるくらいで心折れてんじゃねぇよッ!!」


 爆風によって後押ししながら、首を掴んで投げ飛ばす。そこにさらに追い打ちとして加速、吹っ飛んだクローンの肉体をくの字に曲げるような回し蹴りを突き刺さしていく。


「がっ……!?」


 そのまま近くのビルの壁に叩き付けられ、血を撒き散らしたまま地面へとずり落ちていくクローンの姿を見て、穂村はまた大きくため息をつく。


「ハッ! んだよよく考えれば『フレーム』の力すら半分しか再現で来てねぇじゃねぇか」


 ――かつての穂村正太郎のライバルだった、時田マキナ。彼女のデコピンによって壁に叩き付けられ、これまでいくつのクレーターを作ってきたのか数えられない。しかし目の前のクローンは壁の強度にも劣る肉体でそのダメージを派手に撒き散らし、そして息絶え絶えに地面へと落ちていっている。


「俺は骨格フレームも頑丈なんだよ。その辺もきちんと調べとけ」

「いや、いやいやいや! それはおかしい!!」


 これに反論を掲げたのは天木であったが、モニター越しの反論が穂村に届くはずもなく、ただただ天木の一方的な反論だけが地下研究室内に響き渡る。


「分かっている! データとして、『フレーム』の第二能力セカンダリについては調べがついている! っ、クローンの能力発現に異常が……!?」

「そんな悠長に推論を立てている暇はなさそうだぞ」


 阿形の言う通り、既に穂村は決着をつけるべく、地面に降り立ってゆっくりと歩いて行っている。


「…………」

「あ……ぐ……」


 ボロ雑巾のように無様に倒れる姿は、かつての自分にも覚えがある。しかし自分ならここからでも、立ち上がって殴り掛かろうとする気迫を持っていた。

 しかしクローンはまるで敗北を受け入れるかのように、無抵抗に呻いている。


「……てめぇ、時田マキナと戦ったことはあるか?」

「と……き、た……」


 ――時田マキナ。この肉体で直接戦った経験はないが、クローンから集められた記憶が、確かに頭に詰まっている。


「騎西善人とは? 正面から殴り合ったことはあるかよ」

「……さ……い……」


 ――騎西善人。奴とも戦った。だが奴の徹底的な戦いぶりの記憶を思い起こす度に、もう二度と戦いたくないと思ってしまう。


「子乃坂ちとせはどうだ?」

「…………」


 ――子乃坂、ちとせ? そんな人物など記憶データにない。一体誰のことを言っているのだ。ここ最近で戦った、新たな能力者か?


「……偽物てめぇになくて、本物()にあるもの……それが分かったか?」

「な……に……」


 何を言っている。俺こそが本物だ。俺こそが穂村正太郎だ。俺が最強だ。俺が一番なんだ――


「て、めぇ……」

「あぁ?」


 膝をつきながら、フラフラになりながらも立ち上がる。何故だか分からない。だがここで立ち上がらなかったら、俺は穂村()じゃなくなってしまう気がした。


「てめぇ、俺の……何を知ってやがるんだよぉッ!!」


 大きく振りかぶっての、不器用なテレフォンパンチ。それは記憶の中にあるような、殴り慣れている穂村正太郎のパンチとは全く違う、初めて人を殴る時の、大振りの素人パンチ。


「てめぇがそれを、言ってんじゃねぇええええッ!!」


 そしてそれに対する穂村正太郎の放つ拳は、正真正銘これまで戦ってきた者として培ってきた、相手を倒すための拳。

 クロスカウンターではなく、パンチを避けてのストレート。その一撃は確かにクローンの穂村の左頬を、真っ直ぐに捕らえていた。

 それは自分自身を殴るような、気つけの一撃。「あんなことが無かったなら」と願っていたものが、目の前に立つクローンの醜さによって否定される。

 これまで積み上げてきたもの、そして壊してしまったもの――それら全てが、今の穂村正太郎(自分)へと繋がっている。

 そうして穂村は仮の穂村正太郎(自分自身)を殴り倒し、今の自分と向き合い、認める覚悟を持つこととなっていく。


「ぐ……あ……」

「バカ野郎が……」


 そう、クローンとしての意識はここで途絶え果て、残されたのは抜け殻だった。抜け殻だけのはずだった。


「――っ!? ……てめぇ、一体どういうつもりだ」


 クローンの体が、再構築されていく。そしてその変貌は、穂村にとって覚えのある姿へと変貌していく。


「――オイオイ、折角過去と向き合うっつーなら、オレ様とも最後にもう一度向き合えよ。真正面から、真っ向から!!」


 灰の被ったような髪に、赤く輝く瞳。そして今、己の中に『アイツ』はいない。


「……前回で決着ケリつけたんじゃなかったのかよ」

「アァン? あれはあくまでテメェが表に出る為にケツを叩いてやったに過ぎねぇ。これはそれとは違う」


 ――分かっている。

 今度こそ、今度こそこいつをも認め(倒さ)なくてはならない。『傲慢』に逃げ続け、放り投げてきた過去と、今度こそ向き合わなければならない。


「――テメェがオレ様に勝てた時、その時こそ腹を括るんだな」

「なんだ? てめぇの存在意義が消えるから負けてくれって事か?」

「ヒャハハッ!! テメェこそ、向き合う度胸が無くなってわざと負けて見ろ、今度こそテメェの身体を乗っ取ってやるよォッ!!」

「上等じゃねぇか……やってみろよ!!」


 それまでの全てがお遊びとも思えるような熱気が、辺りを包み込む。

 あまつさえ自然発火さえ起きかねないような高熱が、区画一帯を支配していく――


「さぁ!! ここがテメェにとっての、本当の“運命の分かれ道”だ!! 過去を捨てて今度こそオレ様に全てを委ねるか――」

「俺が俺であることと、真正面から向き合うか――」


 ――勝負だ。

 さて、ここまで一番最初の『不思議な少女と揺らめく焔編』のセルフオマージュをちょっとだけちりばめながらの最終戦です。一度目はバトルをカットして勝敗だけ、二度目は穂村の目を覚ますことを目的として。そして今回は正真正銘真っ向から、一方が勝ち、一方が負けるまでの戦いを描いていきたいと思います(`・ω・´)<次回をお楽しみに。

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