第二十二話 全力全開最終砲火
「さっきまでの勢いはどうしたァッ!! 防戦一方じゃねぇか!!!」
穂村の言う通り、もはや少女には勝つ手段が残っていないとしか思えない程に、一方的な試合展開が続いていた。
銀髪の少女が蒼炎に対してできることは、その軌道を逸らすこと。それも辛うじて自分に向けられているものだけ。既にいたるところが炎上し、平穏だったはずの広場は火の海に沈もうとしている。籠手以外では炎を受けることができない少女にとって、地に足を付けられる場所が減っていっているという事実が更なる焦りを生んでいる。
「っ、これ以上は風で受け流すのも無理……! それに今、あの人に私のことを話す訳にはいかない……!」
少女が生み出す最大出力の風圧でも、穂村から直接放たれる炎を防ぐことはできない。つまりこれ以上の戦闘を続行したとしても、少女に勝ち目はない。
「仕方ないわ……少しズルだけど!」
少女はそう言って籠手の内側に仕込んでいたあるものを使って、この状況の打破にかかることに。
「籠手のエネルギー源であるこのナイフを使って……!」
籠手を捨て去った手に握られたのは、小型のナイフ。その表面にはうっすらと焔が纏われている。
「あれは一体何だ……ナイフか?」
突如として籠手を捨ててナイフを手に持ったことで、穂村はまたしても警戒の為に足を止める。それを見た少女はこの一撃に自信ありとばかりに、最初のような、余裕を持った笑みを浮かべ始める。
「……一瞬だけ。一瞬だけ、あの一撃の再現といかせてもらうわ……!」
少女はナイフを逆手に持って、そして空いた手を重ねるように、祈るように両手で更にぎゅっと握りしめる。
「……見せてあげる。私が知る中で最強で、最悪の暴力を――ッ!」
「……っ!? まずい!?」
あの灼拳爆砕と同様、どこか覚えのある構え。そして穂村はその構えの意味を、たった今思い出した。
少女がこれから繰り出す一撃は、穂村にとっても全力の一撃。だからこそそれが放たれる前に、阻止しなければならない。
しかしその考えが行動に至るまでに、僅かであるが時間が足りず――
「――全力全開最終砲火ッ!!」
――文字通り最後の一撃が、少女の手から放たれる。それまで多くの敵に決着をつけてきた全開火力が、穂村へ向けて真っ直ぐに発射されていく。
そして次の瞬間、夕日が沈もうとしているにも関わらずまるでもう一度太陽が昇ったかのような眩い輝きが広場を包み込み、そして空までもがまるで真昼間のような、晴天の空へと変わっていった――
◆ ◆ ◆
「……流石に貴方自身でも、この一撃には相当に堪えたみたいね」
「…………」
広場は炎の海に包まれていた。しかしそれは穂村の炎ではなく、銀髪の少女が最後に放った炎によって、生み出されたものだった。
――燃え広がりつつあった全ての炎を塗り潰して、少女がその場の全てを支配した。
「……死んでないわよね?」
少女がそんな感想を持つほどに、穂村は完膚なきまでの敗北を喫していた。
焔を扱う能力者が火傷を負う――これほどまでに屈辱的なものはない。しかし穂村の身体にははっきりとした焦げ跡が、敗北の証が刻み込まれている。
「…………ぐ……ぎ……!」
「良かった、生きてるみたいね。じゃあ後は、『巻き戻し』でもしてもらって頂戴な」
「ま……て……!」
穂村の制止する声は少女に届かず、少女は悠々とその場に背を向け去っていく。
そうして数歩歩いたところで、何か思い出したかのように少女は足を止めて、そして振り向くことなく穂村にこう伝えた。
「……言っておくけど、そんな色々と考え事をこじらせている状態の貴方に負ける程、私は弱くないの」
「なっ――」
言葉の真意はさておき、少女はまるで穂村が悩み事を抱えていることを、まるで以前から知っているような口ぶりで語り始める。
「今の貴方には、私を倒すなんかよりよっぽど決着をつける必要がある物事がある筈よ。まずはそっちを片付けることができたら、また会いましょ」
「っ、てめ……ぇ……」
袖を掴んで足を止めようにも、一歩も歩くことができない。そして最後に振り向かせられるような、喧嘩を売る一言を言おうにも、穂村は最後の力も尽きたのか、伸ばそうとした腕をぱたりと地面に落とし、そのまま目を伏せてしまった。
――穂村正太郎VS不明個体(変異種登録外)。戦闘結果、穂村正太郎の敗北を確認。なおこのデータは、即座に破棄されるものとする。




