第二十一話 Kamikaze
「――話に聞いてた通り、この程度じゃ防がれて当然ってところかしら?」
「チッ、試すような真似しやがって……」
(それにしても何なんだこいつは……戦い方があまりにも俺に似過ぎている)
――“ヒャハッ! テメェのファンじゃねぇのか?”
「ファンにしちゃ厄介系過ぎんだろ……っと!!」
籠手と素手の拳が交差すると共に、辺りを爆風がひた走る。互いに一歩も引くことなく、炎を操る者として真っ向からぶつかり合っている。
「腕力は俺の方が上だが……!」
「“焔”の扱いは私の方が上のようね!」
「ついでに言うとその減らず口も、なァ!!」
互いの焔と焔が混ざり合い、一つとなってゆく。
その中で焔の主導権を握るのは――
「――っ! 熱っ!?」
「ハッ! よくよく考えればてめぇ、籠手以外に炎を纏えてねぇじゃねぇか!!」
観察者――とまでは行かないにしても、穂村自身に積み重なった戦闘経験が相手の弱点を見抜く。
「とりあえず吹っ飛びなァ!!」
右の手で同じく少女の右手を弾いた穂村は、そのまま炎を纏った蹴りで銀髪の少女の腹部を蹴り飛ばそうと軸足を回転させる。
「炎装脚!!」
技の名の通り、バーナーのごとく真っ直ぐに燃える炎を噴出させ、そのまま薙ぎ払うように、ぶった切るように水平に蹴りを繰り出す。
「くっ、仕方ない!」
「なっ!?」
ここで穂村にとって想定外だったのは、少女が生身である反対側の手を穂村の足に向けて伸ばしてきたことだった。
(バカかこいつ!? 直撃は避けられるが左腕は暫く使い物に――)
しかし少女の手に足が触れるか触れないかのその刹那、穂村に強烈な違和感が植え付けられる。
「なっ!?」
バチィン!! とまるで磁石の同極どうしで弾かれるかのように、穂村の足は少女の手から弾かれてしまう。
そしてそれだけではなかった。
「……てめぇ、今度こそ何しやがった」
以前の『傲慢』が演じる穂村であれば、数歩よろけるように後ろに下がったところで、疑問を残しつつ即座に切り返すように再び前に出ていたであろう。しかし穂村はあくまで今の違和感を拭うことを優先して、相手の出方の様子を見るかのようにその場に立って距離を取っている。
「……さぁ? 何のことやら」
「とぼけるな。てめぇの手に触れる直前、俺の炎がまるで避けるかのように曲がっていった」
空間が捻じ曲がるかのように炎は少女の手に引火することなく、そして素手と素足がぶつかる直前――それこそまさに穂村の足は少女の手を前にして、蹴りと同じ力で弾かれてしまったことに穂村は気づいていた。
「てめぇさては炎は自前の能力じゃねぇな?」
「いえ、これはちゃんと親から受け継いだ“能力”よ。私の扱いが下手なだけで、私はこの力に誇りを持っているわ」
「だったら俺の足を弾き飛ばした方の能力はなんだ」
「あら? わざわざ戦っている相手に能力全てを開示する程のお人好しとしか戦ったことが無いのかしら?」
「……それもそうだ」
一瞬の沈黙ののち、当然の答えに穂村は納得する。そしてそこからは直接の打撃戦を避け、遠距離からの攻撃を徹底し始める。
「蒼い焔よりは温度が落ちるが……燗灼玉!」
低い温度――それでも人間が火傷を負うには十分な高熱を秘めた細かな火球が、穂村の前方に向けてばら撒かれる。
「もう一度見せて貰おうか、その空間を捻じ曲げる力ってやつを!」
「捻じ曲げる……0点ね」
少女は文字通り降りかかる火の粉を払うかのように、今度は右手を軽く水平に振るう。それと同時に一瞬にして火の粉は消え去り、更には穂村に対してお返しとばかりの強烈な熱波が襲い来る。
「うおっ!?」
「分かったかしら? 私の能力が」
「……なるほどな。爆風で消し飛ばしたって訳か」
「うーん、80点ってところかしら」
「チッ、んだとコラ」
テストで80点を取ったことがない穂村にとっては、常に80点を取っていそうな雰囲気の秀才発言はカチンとくるものでしかなく、悪態をつく理由としてはじゅうぶんだった。
「おーこわっ、やっぱ同年代でも怖いものは怖いわね」
「最初からずっと回りくどいもの言いばかりしやがって……ネタは割れたんだ。次はそんな爆風なんざ軽く消し去る程の、本物の爆風ってやつを見せてやるよ」
その瞬間から穂村の身体に纏わりついていた炎が消え去り、代わりに僅かながら、穂村を包む熱気が満ち始める。
「マズイわね……本気で怒らせるつもりなかったのに」
「もう遅ぇよ。あとはてめぇがくたばらねぇことを祈ってろよ」
身体の中心に、穂村は熱を集めていく。その熱はやがて四肢へと広がり、足先、指先へと広がる。そして背中からはまるで内に秘めた熱が噴き出るかのように、一対の蒼い翼が顕現される。
「蒼炎拍動……紛い物の炎を持つてめぇがこれにどこまでついてこれるか、見ものだな」
「……ママにも言われていたけど、やっぱりこの人は今も昔も、怒らせるべきじゃないわね……」




