第七章 焔の色 第十九話
「…………」
かつての力帝都市では、午後の六時を過ぎた時点で自宅にいる者を相手取ることおよび病院内での戦闘が禁じられていた。
そしてそれは市長の言葉によって問答無用となった今でも、実際に暗黙の了解として息づいている。
「…………」
「見ろよ。あれが噂の……」
「ああ。あの第二区画のライブの裏で起きていたという、あのバトルの張本人――」
「パッと見はどこがSランクなのか、どこが変わったのか分かんねぇけど、実力は確からしいぞ」
時刻はとっくに夕飯時となっている時間帯だが、まだ太陽は沈んでいない。しかし夕暮れや夜に近くなるほど、この力帝都市は殺気立つような感覚に包まれていく。その空気は、かつての穂村にとって高揚感を味わわせてくれるものだった。
しかし今の穂村正太郎にとっては、これもまたどうでもいいものでしかなかった。ただしその意味合いは、以前とは異なっている。
今の彼には――穂村正太郎には、帰る家がある。たったそれだけだとしても、理由としては十二分だった。
「――見つけた」
「……あぁ?」
それは住宅街に差し掛かった時のことだった。
周りの声を無視して帰路につく――そんな彼を呼び止める声が、その目的を果たす。足を止めた穂村が向いた先に立っていたのは、『傲慢』であった時の穂村正太郎ですら覚えのない銀髪の少女。
年代的には穂村よりも少しばかり年上に思えるが、やはりそのような相手に覚えなどない。
「うーん……予定していたものとは違うけど、確かにこの目つきの悪さ、ビンゴだわ」
そういう少女の金色の眼差しもまた穂村に似ていて、決して良いとはいえるものではなかったが、そんなことなど今の穂村にとってはどうでもいい。
「……ビンゴってのはどういう意味だ」
「フフ……別に? “どうでもいい”、でしょ?」
右手につけた金属製の籠手。華美な装飾はなくとも、その手のひらに浮かび上がるそれが、穂村の目を強く引き付けた。
「その焔……てめぇ、俺を前にして舐めてんのか」
「さぁ? 少なくとも私にとって、“この程度”の焔なら造作も無い訳だけど」
――蒼い焔。それだけで挑発行動としては充分に成り立っている。
「ちょこっとだけ、遊んで貰えるかしら」
「……上等だ」
一瞬にして、穂村の右腕が蒼い焔に包まれる。
「口もきけなくなる前に聞いておいてやる。てめぇ、何者だ?」
「何者……? ハァ……まぁ、今のところは貴方のことをよく知っている人物ってことにしておこうかしら」
本能的に理解できる、これから始まる戦い。それが今まで戦ってきた強者と肩を並べるであろうと、未来予知をしなくとも肌で感じ取ることができる。
しかし弥代の時とはまた異なる理由でもって、防護壁はせり上がってくることはない。だが今の穂村にとって、そんなことなどどうでもいい。
「とりあえず、今の貴方に私が勝てそうかどうか、軽く試させてもらうわ」
銀髪の少女の最初の一撃。大きく振りかぶってから繰り出されるであろうそれは、他の誰でもない穂村自身が一番よく知っている一撃。
「灼拳――」
握られたガントレットの中心一点に、炎が集約される。その眩い輝きは、もう一つの太陽が握られているかの様――
「なっ――」
「――爆砕ッ!!」
あまりにも堂々とした一撃。その動きに唖然とするしかなかった穂村は――
――その爆撃を、真正面から受けざるを得なかった。




