第十八話 個人的な野望
「データ回収は上々、しかし問題は――」
「うわぁあああああっ!? そこまで徹底的に殺すかね普通!?」
戦闘実験という名目でデータは相手側にも取って貰えているとはいえ、画面に映し出されているのは凄惨としか言いようがない光景だった。
クローンの穂村正太郎の肉体が文字通りハチの巣となって欠損していく様をモニター越しに眺めるしかない天木が悲鳴をあげる中、助手である阿形はこれまた数奇な運命によって元助手と接触することになる。
「まさか改造人間の世話係を続けているとはな」
「貴方と違って私は途中で研究を放棄したりしないタイプなのよ」
「なっ、違う! 私は今でも『究極の力』に対する研究を諦めていない!!」
「その割には例の双子の人工生命体の回収が出来ていないみたいだけど」
皮肉を皮肉で返されてしまいムキになってしまう阿形だっただが、それでも今でも頭の片隅に残っている問題を指摘されてしまい、反論の声が小さくなってしまう。
「あれは……もう必要ない! 私が今研究しているのは今も昔も変わらない、人工的に作りあげた『究極の力』だ! ……その為にも今、少しだけ寄り道しているだけだ」
「ふぅん……それで脳医学に造詣が深い天木博士の下で、『大罪』について改めて学んでいるってところかしら」
「……恥ずかしい話、『衝動』と『大罪』の区別もついていなかった私だったが、ここに来てようやく理解が進んでいる」
「意外ね、貴方がそうやって他者から学び取るなんて。以前ならばプライド高く突っぱねていたでしょうに」
イルミナスから研究費を出して貰ったり、まだ私費も底をついていななかったりと、余裕があった時期だからこその高慢ぶりであったことを数藤はとうに見抜いているが、それでも目の前の落ちぶれた研究者を前にして敢えて口に出している。
「くっ……貴様こそ、そろそろ研究費が尽きる頃なんじゃないか? いくら『全知』の調整役という大役を持っていたとしても、今ある研究成果がただのAランク止まりの悪ガキだとすればそれも打ち切られて――」
「残念だけど、『全知』の調整役については私は自分から降りたわ。それに他にも『液』っていうSランクの子の面倒も見ているから、スポンサーからは早々に打ち切られることは無いと思っておいて」
「何だと!?」
数藤真夜にとって、研究を引き継いだ騎西善人を被験者とした『G.E.T』のナノマシン研究など、元々からある時期まで片手間にできる程度のものでしかない。そしてそれも『強欲』の発現によって研究対象としての価値が上がることとなり、あらゆる機関のバックアップも継続がなされていることを阿形はまだ知らない。
「オマケにオズワルド=ツィートリヒの研究データも……あっ、これは機密レベルがSランクの話だから、情報開示請求レベルがAランクの貴方は聞かなかったことにしてもらえるかしら?」
「ふざけやがって……私の下にいた時は、ただの世話役しかしていなかったというのに!」
「だって貴方の指示はそれだけだったし、他に手を貸そうにも、あの時の貴方は耳を傾けていたかしら?」
自分の下で物静かに働いていた人間が、実は自分よりもはるか上の技術を持っていた――このような屈辱が分からない程、阿形は愚鈍な存在ではない。
「っ……!」
「あの双子、イノちゃんとオウギちゃんについては個人的な意見として結構いい線いってると思ってたんだけど、それを放棄する辺りが知識不足というか経験不足というか――」
「黙れ! 貴様に説教を貰う為に私はここにいるんじゃない!」
「そう、その通り。そろそろ、じ、助手としてきちんと仕事をしたまえ、阿形クン」
データを取れた興奮と穂村を破壊されたショックとで板挟みになっている天木から急かされ、阿形はモニター室から出て行かされる。
「覚えていろ! 私はいつか必ず、『究極の力』を完成させて――」
「い! いいから、早く! データが腐る!」
「ぐっ……覚えていろ!」
三流の悪役のようなセリフを吐きながら足早に出ていく阿形を笑顔で見送ったところで、数藤は改まった様子で天木の方を向き、それまでの雑談とは違う、本当の意味での研究者としての議論を交わし始める。
「……それでどうかしら。戦闘経験から『大罪』を宿せるかどうかの実験、上手くいっているのかしら?」
「け、結論から言えばノー、だ。穂村正太郎が初めて力帝都市に来た時から、全ての戦闘データを情報としてクローンに移植してはいる。が、どれもこれも決定打にならない。それに、最近市長から買った情報だと、ごく最近までは『大罪』の方が宿主とも言うべき穂村正太郎を偽っていたのだと。フフ……まったく、これではデータ解析も最初からやり直しだ」
「面白い話ね。奥に潜んでいるのが『大罪』じゃなくて、本人の人格だったなんて」
かつてのBだった頃の穂村正太郎の戦闘データなど、そこら中に転がっている。しかしSランク前後の穂村正太郎の情報についてとなれば、情報クリアランスは一気に引き上げられるものとなる。
「……フ、フフフフフフ! ……まさか、そもそも『大罪』に肉体を乗っ取られていたとは、さ、流石は私のダーリン!」
「ダーリン……ああ、貴方のその趣味というか、自己満足の研究、まだ続いていたのね」
天木座里那の野望――それはある意味では『全能』と似通っている。
「完全無敵のスーパーダーリン計画……誰もが望む『究極の力』を、自分ではなく旦那様に望むなんて、貴方らしいと言えば貴方らしいわ」
「ふっ、ふひひっ! 当然、だ! 私は、私の望むスパダリを作り上げたいだけなのだから!」




