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パワー・オブ・ワールド  作者: ふくあき
―罪滅ぼし編―
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第十三話 Attention

「どこまでもふざけた能力だぜ……」

「物量で押し通せるとも思ったんだけど、意外にも粘るわね」


 辺り一面に黒く広がる燃え跡。そして獣の肉が焦げ付く臭いが一面に立ち込める。

 しかし肝心の動物の姿はなく、その場にいるのは穂村と弥代、そして倒れたまま気を失っている伊粗木のみ。

 一般市民のことごとくがその場から逃げ去っている中で、穂村はこの戦いに疑問を持っていた。


(おかしい……こいつが本当にSランクだっていうなら、とっくに障壁で囲まれているはず)


 Sランク同士の戦い。それは人の秤を超えた規模の戦いになっていく。しかしまるでそこまでの必要は無いと言っているかのように、力帝都市の防護プログラムは沈黙を貫いている。


(まさかこいつ……ハッタリをかましてるのか?)


 実際問題、あらゆる動物を無限に呼び出して攻撃を仕掛けてくるあたりは人間の理解の範疇を充分に超えている。しかしSランクどころか市長とも戦った経験を持つ穂村にとって、目の前の男はどう高く見積もったとしてもAランクにしか思えてこなかった。


(ぶっちゃけこいつを相手にするくらいなら、時田を相手にする方が百倍物事を考える必要がある……一体何がこいつをSランク認定に至らせたのか――)


「さて、そろそろ本気で行くわよー」


 弥代は今までと変わりなく、軽い口調で本気を出すと宣言した。しかしその言葉に対して力帝都市側は初めて反応を示すことになる。


「――ッ! ようやく出やがったか……」


 倒れたままの伊粗木を弥代が抱きかかえると共に、その背後から区画を分断する防護壁が次々と立ち昇っていく。


「んー、防護壁コレが出ちゃうとアタシ的には狭っ苦しくなるのよねぇ」

「何だ? 巨大化でもするつもりか?」


 穂村の冗談に対し、弥代は笑いながらそれを否定する。


「アハハ、巨大化はしないわよー。アタシが今から呼び出すのが大きいだけ」


 そうして弥代はまるで地面を叩くように、片足ずつ改めて地面を強く踏みしめる。

 そして次に呼び出す生物の名を、この現代において絶滅したはずの種の名を高らかに叫ぶ。

再誕リザレクション――」


 ――ブラキオサウルス。


「……っ!? なんだよそりゃ……反則じゃねぇかッ!!」


 穂村が文句を言うのももっともの話だった。

 遥か昔の地球を支配していた、恐れられる竜の名。地上に立つ者からすれば遥か見上げる程に長い首を持ち、二十メートルは優に超えるその全長。

 未だかつて化石でしか見つかっていない筈の、超巨大恐竜――それが穂村の目の前に突然として姿を現したのである。


「反則反則って、アタシ達の戦いに反則ルールなんてあったかしら?」


 そんなものなどあるはずないのだが、弥代はあえて挑発するように穂村を見て口角を上げて笑う。


「それじゃひとまず、伊粗木ちゃんのお返しね」

「っ! がァッ――」


 呆気にとられていた穂村の横から風切り音を立てて迫りくるのは、首と同様に長く発達した尻尾。

 大型車に跳ね飛ばされる以上の衝撃に、穂村はまともな防御もできずに壁へとそのまま吹き飛ばされていく。


「どう? 太古の一撃は? 思ったよりキくでしょ?」


 遥か遠くの防護壁に叩き付けられ、壁から煙が上がる。伊粗木が叩きつけられた時とは違う、堅いもの同士がぶつかるような、ドォンという重低音が遠くから届けられる。


「さぁて、同格と戦うのは久しぶりなんだけど、まさかこの程度でくたばったりしないわよね?」


 体重差百倍では済まない、恐竜の強烈な一撃。しかし測定不能とされるSランクが、この程度で終わるはずがない。

 そして弥代の言葉に応えるかのように、防護壁からはまた別の爆発と衝撃が発せられる。


「恐竜まで呼び出すとは面白れぇじゃねぇか、だったら俺がもう一回絶滅に追い込んでやるよッ!!」


 鮮やかな蒼の炎が、輪となって宙に広がっていく。その中心にいるのは、同じく蒼い炎を身に纏った穂村。その瞳までもが今や蒼に染まっており、これまでとは全く違うことを誰の目から見ても理解させている。


「なるほどね。それがアナタにとっての本気ってところかしら」


 しかし弥代はその姿を前にしても特に驚いた様子もなく、ただ冷静に相手の本気を見極めようとしている。


「……良いこと思いついたぜ。恐竜に相応しい死に方ってやつをよ!!」


 昼間の空でありながら、より一層に輝く蒼い光。穂村はそれをさらに増幅させ、もう一つの太陽のごとく輝き始める。


「……まずいわね。流石に怒らせすぎちゃったかしら」


 ここに来てようやく、弥代の額から汗が一筋流れる。

 しかしもう遅いといった様子で、穂村は巨大な恐竜を一瞬にして焼き尽くす技を繰り出す体制を整え終えてしまう。


「見せてやるよ。俺なりの隕石ってやつを」


 右手を大きく振りかぶり、そして上から叩きつけるように落下。

 空高く光り輝く小さな星が、巨大な恐竜の背中へと落ちていく。


「――絶滅蒼星シリウスエクスティンクション!!」


 単純な落下と炸裂。しかしその威力は恐竜の体に大穴を開け、地面にそのまま巨大なクレーターを作り上げるには充分過ぎるものだった。

 穂村の全身は恐竜の体を貫通し、そのまま地面に着弾。それと同時に辺り溶かし尽くすほどの熱を伴った衝撃波が全てをなぎ倒していく。

 あくまで恐竜だけを狙ったためか、物理的な防衛ラインである防護壁を破壊するまでには至らなかったものの、それでも辺り一帯は滅茶苦茶となってしまっていた。


「……さぁて」


 辺りを見回すが、弥代の姿は見当たらない。しかし穂村とて考えることは同じ。

この程度でSランクが倒れるはずがない、負けを認めるはずがない。

 誰もいないと目視していながらも、穂村は問いを投げかける。


「てめぇもどうせくたばってねぇんだろ。まだやるか?」

「その思いやりを伊粗木ちゃんにも向ければよかったのに」


 穂村の予想通り、弥代は生きていた。しかし再登場する際に鳥の集団に吊るされながら遥か上空から降りてくることまでは予想がつかなかった。


「……もはや何でもありだな」

「そりゃSランクだもの。お互い様でしょ?」


 そうして様々な鳥が飛び立ちながら消えていくのを見送ると、弥代はこれ以上戦闘を続けるつもりはないとばかりに穂村の目の前で服についた埃を叩き落とし始める。


「あーあ、これ結構高いのよ?」

「ハッ、いつ戦いに巻き込まれるか分からねぇ力帝都市で、服にこだわるなんざ――」

「このデニムパンツ高かったのよー? これ一着で五十万もするんだから」

「はぁっ!? 五十万!?」

(さっき時田と見てまわった服は高くて一万前後だったっけか……!?)


 元々が平凡なBランクの金銭感覚だった穂村にとって、Sランクのファッションデザイナーの弥代の金の使い方はまさに狂っているとしか思えなかった。


「ちなみにこの薄手のシャツも一着二十万くらい」

「ちなんでんじゃねぇ! ……っつぅか、別にSランクは金銭とかそんなに気にする必要ねぇだろ」

「あら! 何言ってるの! そうやって周りの人との感性がズレたりすると、ファッションの流行とかも追えなくなるのよ?」

「たかがズボンに五十万の時点でズレてんだよ普通に」


 穂村のツッコミをよそにして、弥代は抱きかかえていた伊粗木をそっと地面に下ろす。


「……ん?」


 穂村はいまだに目を閉じたままの伊粗木に対して、ある違和感を覚えた。

 あの時壁に叩き付けたダメージは、そう簡単に治るものではない。しかし今目の前に横たわっている伊粗木は、まるで最初からダメージなど負っていなかったかのように、安らかな寝息を立てている。


「一体どういうことだ?」

「うん? あら、簡単な話よ。アタシが負傷した部分を再生成してあげたの」

「なっ!? 再生成だと!?」

「そう。アタシの能力は投影とはちょこっと違う。アタシにできて小晴ちゃんにできないことがあるってこと。当然、逆もしかりなんだけどね」


 確かにここまで戦ってきた中で、穂村の中では既に一つの仮説が立てられていた。

 それは高射砲や戦車のような強力な武装を呼び出すことができないということ。代わりに命ある生物――かつて滅んだはずの恐竜も含めて、全てをこの場に生成できるのが弥代の能力なのだと穂村は予想していた。


「さてと、貴方の言い分だと喧嘩を売ったのは長楽ちゃんってことみたいだし、アタシとしてもある程度は長楽ちゃんの為に戦ったことだし、これでおひらきにしてもらえるかしら?」

「……まさかてめぇ、そいつに言い訳する為に俺に喧嘩売ったのかよ」

「力帝都市の掟からすれば、戦いを仕掛けたからには長楽ちゃんの自己責任。それがこの子ってば、最近Bランクに上がったばかりで舞い上がっちゃってねぇー」

「ハァ……何だそりゃ」


 と言いつつも、穂村もかつては『傲慢(アッシュ)』と入れ替わっていた時には時田という明らかな格上相手に何度も無謀な挑戦をしていた記憶を持っていることから、あまり大きなことも言えず、呆れた様子でため息をつくだけに終わる。


「ってことで、今からこの子を交えて交友を深める意味で、お茶でもしましょ?」

「ハァ? お茶するってなんだよ」

「いいじゃないの。減るもんじゃないんだし」


 そうしてにっこりと笑う弥代だったが、穂村としてはこの男とお茶をするメリットが無いが為に、ぶっきらぼうに断ってしまう。


「嫌だ、めんどくせぇ」

「もう! いいじゃないのちょっとくらい! 最近の高校生の流行とか知りたいだけなの!」

「だったらなおさら俺以外に頼めよ。俺は流行なんざどうでもいいし興味ねぇんだからよ」

「そう? 残念ね……だったら、そうだわ!」


 八代はならばこれは取引だと言わんばかりに、一方的な折衷案を穂村に押し付ける。


「貴方は高校生として今の流行をアタシに教える。その代わりアタシは貴方のような不器用な高校生に恋愛のイロハを教えてあげるわ!」

「はぁ……? いらねぇんだがそんなもん――」

「いるでしょ? だってさっきまで貴方、さっきまで女の子と色々と服を見てた筈なのに、今は一人でいるもの。お昼を食べる時間にもなっていないのに、もう別れるなんておかしいわ」

「ぐっ……なんでてめぇが知ってるんだよ」

「だってアタシ、さっきの店で一部始終を見てたもの」

「なっ……!?」


 先程のショッピングモール内のファッション店の近くに、どうやら弥代がプロデュースしている店もあったようで、視察に来ていた弥代にやり取りを見られていた様子。


「ってことで、喜びなさい初心な少年(チェリーボーイ)。このアタシ、ファッションと恋愛の最先端を行く男、TOHORU(トオル)様がレクチャーしてあげるんだから!」

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