令和三年年越し番外編 その2
――前回の予告の通り、ゲストとして一人の男がその場に姿を現わす。
「おっとと! ここはどこでしょう?」
姿を現わしたのはベージュカラーのローブを身につけた、茶色の髪の物腰柔らかそうな男。
「……魔法使いか」
「ええ、まあ、そうですけど……」
ゲストが来ると知っていた穂村とは対照的に、未だに状況が読めないままに問いに答える男。この男は穂村達のいる物語とはまた別の物語からやってきたということになる。
「あの、私子乃坂ちとせっていいます。貴方のお名前を教えていただいてもいいですか?」
この場において唯一の常識人ともいえる子乃坂の自己紹介によって、少しは話ができそうだと男は安心するとともに、自らの身の上を明かす。
「私の名はカイ・ユーバンク・バトラー。学校の教職員をしている者です」
「学校の先生かよ。しかも名前的に外国の人か」
「そういう貴方達は、東の方の国の方でしょうか? 名前の法則性的にそう思ったのですが」
「力帝都市は一応日本の管轄下らしいから、そうなるのかな?」
「知らねぇよ」
何とか異国の人間と対話を試みようとする子乃坂と、はなから自分の興味の範囲から外れた時点でどうでもよくなってしまっている穂村。そして科学よりでこの場において魔法とは一番かけ離れた存在である騎西もまた、こたつに突っ伏したままいびきをかいている様子。
「…………」
「騎西君に至っては寝ちゃってるし……折角なので、学校の話とか聞かせて貰えますか?」
「学校ですか……私の勤めている学校は魔法学校といって、その名の通り魔法を学ぶ学園なのですよ」
話を聞いたところによると、バトラーの勤めるブルーラル魔法学校は穂村達の世界におけるイギリスのような学業形態を取っているようで、十一歳から入学をして一年生から最年長の七年生までの七年間を学校に住み込むような形で生活するらしい。
「生徒は勿論、先生側も学期の間は学校に住み込みで過ごしています」
「結構大変そう……」
「んー、大変といえば大変ですけど……」
バトラーはある一人の少女の顔を思い浮かべながら、軽く握った手を口元に当てて苦笑する。
「それはそうと、貴方達も魔法か何かを使えるのですか?」
「ん?」
「えぇーと、私はそういうのが何も無い一般人なんですけど、穂村君はちょっと変わってて……」
頬をポリポリとかきながら、子乃坂は穂村を横目でチラリと見る。
「そうなんですか? 私としてはそこの右目が真っ赤な子の方が凄く気になりますが――」
「そいつは気にするな。ただの雑魚だ。俺の方が強ぇ」
今は強さの話をしているはずではないのだが、いつの間にか話がすり替わって穂村の力の強さを見せつける話へと変わっていっていく。
「焔を自在に操る……それが俺の力だ」
「力……といいますと、魔法とは違うのでしょうか」
そういうとバトラーは杖を取り出して無言で杖を振るい、目の前で小さく炎を振りまいてみせる。
「……とまあ、私達もこうして炎を出すことくらいはできますが」
「へぇ、面白ぇじゃねぇか。だったら俺の焔とどっちが強ぇか、勝負――」
「はいはい、勝負はしなくていいから」
無理矢理穂村を座らせた子乃坂は、お近づきの印にと雑煮を再び温め直す。
「折角ですから、ここでこっちの世界の料理を食べていってください」
「気持ちはとてもありがたいのですが、本当によろしいのですか……?」
そういうバトラーの視線の先には、まだ食べ足りないと鍋を見つめるオウギの姿が。
「後でまたつくってあげるから、ここは異国の先生に――」
「いえいえ、私なんかより是非彼女に食べさせてあげてください」
そうしてニッコリとしていると、バトラーの後ろに再び光の穴が空く。
「あっ、これ! これのせいで私はいきなりこの場所に飛ばされたんですよ」
「だとしたら、そろそろお帰りの時間って事だな」
普段であれば決して交わることのない別の物語の人間との邂逅。戦うことはなくとも、とりとめのない話をするくらいが、一番平和なのかもしれない。
――そしてそれが、一番争い事から遠い世界なのかもしれない。
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