第十七話 最終局面
「――徹底的にスキャンしろ」
「そんなことしなくても、今のパルス砲で完全に蒸発したと思うけどなぁ……」
「野郎がくたばった証拠が見つからねぇ限り、この勝負に決着がつかねぇんだよ」
疑う騎西の言葉を裏付けるかのように、彼の持つ端末には勝敗を告げるメッセージが届けられていない。
「……はぁ、それにしてもちょっと寂しいなぁ。折角博士といた時の知り合いがいたっていうのに」
ヴィジルのズレた感想は、人造人間らしいとでも言っておくべきだろうか。しかし騎西は今はそんなことなど関係ないと、命中した辺りの地面を右目でなぞるように何度も見返す。
――対象の完全消滅。電子レンジなど鼻で笑える程の出力を持つパルスキャノン砲、それを四門全て使って命中。一般的な科学者であればスキャンをするまでもなく人間の一人程度なら焼失できていると断言できるだろう。
しかし今回は相手が違う。ほんの少しの勝ち筋があるのなら、それを死に物狂いでたぐり寄せてくる怪物。
同族だからこそそれを理解できる、勝利に対する『強欲』さ――それを感じ取っているからこそこの程度では死なないことを、くたばりはしないことを理解している。
そしてそれに応えるように、虚空に瓦礫が崩される音が小さく響き渡る。
「……ぁっ……」
「……ハハッ、ハハハッ……ハハハハハハッ!! だろうな、そうだろうなてめぇは!! 生きてるだろうなァッ!!」
焔の能力者でありながら、全身に火傷を負った少年が僅かに立ち上がろうとしている。言葉を発せなくとも、その行動から殺意はまだ消え去っていないというのが、見て感じ取れる。
「……今度こそ死ね」
要塞が静かに移動し、穂村の遙か上空にはこの要塞で最大の砲口を持つ最強の対地無反動砲が重なる。
「こいつを使えば第一区画どころじゃねぇ、力帝都市全てが吹き飛んじまうだろうよ。だが穂村ァ!! てめぇにはこれを使うだけの価値があんだよ!! 光栄に思いなァッ!!」
要塞は徐々に高度を上げ、遙か上空へと飛んでいく。自身が放つ無反動砲に巻き込まれぬように。上下左右全てを文字通り無に帰す程の威力の影響を受けないように。そして何より勝者として、遙か高みから見下ろす為に。騎西善人は相手が満身創痍になってもなおのこと――否、満身創痍になっているからこそ、完全なるとどめの一撃を刺そうとしていた。
「……これこそまさに、完全に消滅する一撃。決まればてめぇのツラも二度と見ることはねぇだろうよ――」
砲台へのエネルギー充填が始まる。空が赤紫色に変化していく。その光源は当然、『超弩級大量破壊兵器』の最下部にある砲口である。
「…………」
穂村正太郎は天を仰いだ。そしてまばゆい光を放つそれに向かって、僅かに動く口を動かしていた。
「…………ぁ……ぃ……」
――聞こえない。
「……っ……ぉ……」
――聞こえない。
「…………」
――聞こえない。聞こえてこない。あいつの歌が、聞こえてこない。
「……ぃ……ぅ……ょぉ……」
畜生、畜生、畜生――何で聞こえてこない。なんで届かない。
「……ぃ……ぁ」
――あいつか?
――“そうだ。あいつだ。”
あいつが聞こえなくしたのか。あいつが俺の歌を、消したのか。
――“そうだ。あいつがオレ達から歌を奪い取りやがった。このオレ様の『許し』もなく奪い取りやがった。
「……ぁ……ぁ……」
だったら奴は強欲だ。
――“そうだ。ヤツは『強欲』だ。ヤツはオレ達に対して罪を犯した。”
「……ぁ……っ……!!」
だったらどうする? だとしたらどうする――
「――“だったらこの『怒り』を、野郎にぶつけるしかねぇよなァッ”!!?」
穗村の全身が蒼くなる――かのように見えて、更に奥深くにあるドス黒い感情を表すかのように、真っ黒な焔が穂村を包み込んでいく。
「っ!? 何これ何これ!? 高熱源反応が真下に――」
「真下だけじゃねぇよ……!」
ホログラムが示すデータに首ったけのヴィジルをよそに、騎西善人の視線は地面から遙か真逆の一八〇度――天上の黒い球体へと向けられている。
「何だってんだよあの黒い太陽はよぉ……!」
「双子の破壊神ッ!!」
もう一つの太陽――暗黒の次子と、長子による挟み打ち。いくら地上最強の空中要塞とはいえ、太陽そのものに敵うかと言われれば完全に別問題となる。
「ハアアアアアアアアアアアアァッ……!!」
足りない。怒りが足りない。この身を焦がし尽くす程の、『憤怒』が足りない。この胸の内にある全ての憎しみを焼き尽くす程の、焔が足りない。
この怒り全てをぶちまける程の、『憤怒』が欲しい――
「ッ、ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァッッ!!」
――全身を包み込む黒い焔。それは穂村の怒りの形を模るかのごとく、巨大な龍となって空へと吠える。
そして次の瞬間――昇龍という言葉の通り、光を溜めていた砲口へと真っ直ぐに黒龍は飛び立っていく。
「――まずいっ!」
騎西がそう思った時には既に遅かった。砲口に溜めてあった熱源などたかが知れていると、黒龍と化した穂村は収束しようとしていたエネルギー源を蹴散らしていく。そしてそのまま黒龍は、内側から喰い破るかのように真っ直ぐに上へと昇っていく――
「――ようやく見つけたぜェッ!!」
最後の鉄板一枚を突き破ったところで、半身を黒炎に宿らせた少年と、半身が機械化した少年とが、遂に真っ正面から相対する。
「――ッ! …………そうだよな……それでこそだ。それでこそ――」
――俺の宿敵、穂村正太郎だッ!!




