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パワー・オブ・ワールド  作者: ふくあき
―データ争奪内乱編 後編―
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第十六話 破壊行進曲

「いぇーい!! 続いての曲は――」

「な、何だあれは!?」

「だ、第一区画の方だ!」


 水河達のラストライブが行われている第二区画――隣接しているのは、穂村達が死闘を繰り広げている第一区画。そしてライブのセットの後ろから見えてきたのは、見る者が皆驚きを隠せないほどの、空中に浮かぶ巨大な機械だった。

 巨大な駒のような形状、しかしその全てが機械によって制御された破壊兵器。そのような代物が姿を現わしたとなれば、ライブ会場も混乱に陥るのは間違いない。


「に、逃げろー!」

「いくら市長が防護膜バリアを張ってるといっても、あんなものまで止められる訳がない!」


 第一区画は、ありとあらゆる者が全力で戦えるように与えられた戦場。ゆえに管轄も市長が直々に行っている筈である。

 しかしギルティサバイバルでの市長の発言が、こういった場での信用をなくしているのもまた真実。


「……穂村君……」

「ちょっと二人とも、ライブは中止!」


 袖から顔をだしたのは二人のマネージャーをしている千宝院せんぽういんつかさ。力帝都市に長く馴染んでいる他のライブスタッフの助言を受けて、壇上の二人にも同じく避難をするように声をかけるが――


「……ごめんなさい、マネージャー」

「何を謝ってるの。急いで避難を――」

「お願いです! せめて、次の一曲で最後にしたいんです!」


 一緒に壇上を降りようとする相方の千宝院せんぽういんあきらの手を振りほどいて、水河は一人壇上に残っている。

 壇上から見た光景はというと、既に避難の為に多くの人々が持ち場を離れ、背を向けて去って行こうとする姿。


「……急いで! 最後の曲を聞いて貰う前に皆が離れちゃう!」

「そんな悠長なこと言ってられないでしょう? 聞けばこの裏にある第一区画、この都市で一番危険な場所っていうじゃない」


 暁はそう言って水河に壇上を降りるように促すが、水河はそれを聞いてなお断固として動こうとしない。


「いやよ! 私はここで歌う!」

「何を言ってるの!? ここで強行して歌ったところで、誰も聞いたりなんて――」

「いるわよ!!」

「っ!?」


 まだマイクが入ったままだということに気がつかずに、突然大声を挙げて水河は叫ぶ。


「私のライブを、私の応援を、まだ聞いている人がいるんです!!」


 辺りは一瞬静まりかえるが、それもすぐに避難の為の誘導や案内の声に埋もれてしまう。マネージャーである司は痺れを切らしながらもマイクの音声を切り、そして水河の身を案じているからこそ声を荒げて叱ろうとする。


「っ……そんなの一体誰がいるっていうのよ!! いい!? 見ての通り、殆どの人が既に避難を始めているし、残った人もスタッフが全て誘導して第二区画から離れて貰うようにしている途中なの! それなのに貴方は――」

「――私の歌を、聞いくれている人が、いるんです!」


 そうして水河が見上げた空の方角は、まさに今問題となっている第一区画の方。

 そして――


「あらあら、いつの間にか最前列まで空いてしまいましたね」

「本来ならば一緒に避難するべきなんでしょうけど……」

「まあまあ、いざという時は私の力で核シェルターでも投影しておけば大丈夫ですよ」

「ななみ! ここまで近くにきたぞ! おねぇちゃんももっと聞きたいって言ってるぞ!」


 いつの間に席を詰めていたのか、最前列には守矢小晴と子乃坂、そして水河に向かって手を振るイノとオウギがいる。


「……私は、まだ歌を聞いてくれようとしている観客に背を向けたくありません」

「…………」


 それまでの水河では想像できなかった固い決意。それは物事を冷ややかに見がちな妹の暁の心をも動かそうとしている。


「……仕方ありません。付き合うのは一曲だけですよ」

「――っ! ありがとう暁ちゃん!」

「はあぁ……なんであんたまでそっち側につくのか……まあいいわ。ここでライブを中断したところで払い戻しもする気は無いし、こうしてライブは最後までやってましたって言い張った方が払い戻ししなくて済むだろうし」


 打算的な考えを並べてはいたものの、マネージャーの司も気持ちが折れてライブの続行をスタッフにお願いしにかかる。


「……一曲だけよ。ここだけは譲らないから」

「ありがとうございます!」


 想いはまだ繋げられる――力帝都市最後のラストライブ、そのラストソングは、巨大な空中要塞を背にして始まろうとしていた。



          ◆◆◆



「――さあ、最ッ高のバトルにしようぜぇ!!」


 暗雲が漂い、雷鳴が鳴り響く空。そして要塞から響き渡るは宿敵ライバルの声。だが穂村の耳に、それらは一切届いていなかった。


「……うるせぇ」

「おいおい、まさか今更ビビって――」

「うるせぇっつってんだよ!!」


 ――この時穂村が聞こうとしていたのは、僅かに耳に届けられた、叫ぶような歌い声。


「……へっ、BGMにしては上等だ」


 そうして穂村が完璧に捉えたのは、この力帝都市で穂村が唯一知っているアイドルのラストソング。


「……わりぃが、ノリにノらせてもらうぜぇッ!!」


 その日一番の最大火力フルパワー。穗村の全身に鮮やかな蒼が迸る――


「――ッ!?」


 ――しかしその一瞬、己が蒼に僅かな濁りが混ざったように穂村は違和感を感じ取る。


「……気のせいか」

「自信があるのかないのか知らねぇが、消し飛んじまいなァッ!!」


 既にロックオンは済んでいる。そして穂村の四方八方――全方位から追尾ミサイルが撃ち込まれようとしている。


「――蒼炎渦ブルーワールッ!!」


 突如として現れる蒼い竜巻。それは天高く立ち上る青龍のように、蒼い嵐で爆風を呑み込んでいく。

 そして天高くまで立ち上った竜巻の行く先は、遙か空高くに浮かぶ要塞の更に上。


「見つけたぞ」


 騎西がみあげたその先には、蒼紅煉葬ブルータルドライヴのジェット噴射によって空にとどまり、そしてこちらを見下ろす宿敵ほむらの姿。


「んだそりゃ? 魅せ技ってやつかよ」

「んな訳ねぇだろ。それよりこうして上を取ったってことはどうなるか分かってんだろォ!?」


 頭上から降り注ぐ炎の雨。それらは全てを焼き付くす為に、要塞の甲板へと容赦なく降り注ごうとしている。


「チィッ! おいヴィジル!」

「うん、任せて!」


 しかしここでバックアップを任されていた助っ人の人造人間ヒューマノイドの登場により、空から降り注ぐ火の玉に対し、更に上回る熱量を持ったレーザー砲による薙ぎ払いが行われる。


「っ、脅かしやがって……つーかてめぇ何仲間引き連れてんだよ!」

 ――“オイ、アイツ確か島で会ったヤツじゃねぇか?”

「仲間? 違ぇよ。こいつは付属品オプションだ」

「ちょっと、その言い方は酷すぎじゃないかな」


 ぷくっ、と不満げに頬を膨らませているが、事実としてヴィジルは人造人間であり、普通の人間ではない。だからこそ騎西はあくまで備品ヒューマノイドとしてのヴィジルしか見ていない。


「ケッ、どっちでもいいから、かかってこいよ」

「言われなくても、そのつもりだァッ!」


 何も無い場所に手をかざすことで出現するホログラム。それはシンセサイザーのような多数の鍵盤やスイッチで構成された、まさに戦場を彩る音楽を奏でる楽器と呼べる代物。


「ジェノサイドオーケストラッ!!」


 穂村の耳に届けられていた楽曲をかき消すように、騎西善人は破壊の協奏曲をかき鳴らす。


「殺戮の歌を、かき鳴らしてやるよォ!!」


 ミサイルポッドから幾つもの弾頭が煙をまき散らして発射され、要塞上部に取り付けられたガトリング砲が穂村の通った後の空間を蜂の巣にしていく。


「チィッ、まずは武装の破壊が優先か!?」

 ――“サクッと本体ブチ殺した方が早くねぇか?”

「頭ん中でガタガタうっせぇんだよ! 黙ってろ!!」


 一人脳内会議を終えたところで、更なる攻撃がまさに重奏するかのように次々と追加されていく。


「チィッ、ガトリングの砲台が追いついてねぇ! ヴィジル、パルスキャノンを起動させるぞ!」

「これ以上は負荷が大きいと思うけど……やってみる!」

「ようやく俺の流儀が分かってきたじゃねぇか! 照準合わせは俺がやるから、穂村の野郎を残りの銃火器で追い回せ!」


 それまで沈黙を続けていた四門のキャノン砲が、一斉にもたげていた砲口を上空へと向ける。二つ並んだ金属の棒の間の空間に、バチバチと蓄電が始められる。


「精密射撃なんざやったことがねぇが………この目なら、同じようにあいつを追える!」


 機械化した右目を通して、高速移動する穂村を視界に捉える。


「……まだだ、まだだ……」


 絶対に当てる。必ず殺す。騎西は文字通り、必殺の一撃を穂村に向かって放とうとしている。


「――今だッ!!」


 四門全ての砲口が、たった一点に高電圧の雷を飛ばす。ゴゴォン! という空気を切り裂き地を鳴らす音が鳴り響くと共に、強烈な電磁波が上空をひた走っていく――



「――きゃあぁっ!?」

「っ、今ので機材が壊れた!? 一体何があったの!?」

「……電子パルス砲、まさかそんなものまで……」

「小晴さん、大丈夫ですか!?」

「ええ、大丈夫。ありがとう子乃坂さん」


 上空に広がる電磁波の被害は、第一区画だけでは済まなかった。第二区画を含む隣接する区画全てに大規模な停電が起こり、当然ながらライブ会場の放送器具や電子機器も破壊されて続行が不可能な状況に陥ってしまう。


「……今度こそ無理よ、七海。機材も全部今ので壊れたって」


 マイクも使い物にならないと、肉声のまま隣に話しかける千宝院暁に対して、まだ終わりたくないと水河は目で訴える。


「約束したのよ!」

「だからそれが無理って言ってるじゃない。歌声を届けようにも、届ける機材が壊されてるって――」

「なんかあるでしょ!? ワイヤレスのマイクでも、何でも――」

「何でも壊されたわ。さっき第一区画から電磁パルスが放出されたせいで、大規模な停電が起きたっていう話も聞いてる」


 マネージャーである千宝院司はお手上げといった様子で溜息をつき、今度こそライブを中止しなければならないと水河に告げる。


「これ以上は本当に無理。ていうか、スタッフから聞いたところ今日の第一区画での戦いって本当に危ないやつじゃない。いくら片方に面識があるっていっても、これ以上までやってあげる義理はないわ」

「…………」


 司の言うことは至極当然のことだった。ここが東京であれば、そもそもこうなる前に中止されているのが当たり前。争い事から離れるのが、一般人として普通のこと。

 それがいつの間に毒されていたのか、間近で命を削る戦いが繰り広げられているというのに、その余波が実際に届いているというのに、一人のアイドルとして、また、穂村正太郎という少年に魅了された一人の少女として。

 水河七海は、このライブを決して止めようとはしていない。


「アカペラでも何でもいいの! 路上ライブ時代だって、そうしてやってきた! 私の歌を、皆に届けてきたんだから!」

「確かに貴方の言うとおり、今までそうやってきたのかもしれない! でも今回は違う! いい加減現実を見て! こんなの東京じゃ有り得なかったのよ!」


 マネージャーとして、未成年の少女を預かる身として、そして何より、姉のような立場として。千宝院司は、水河七海の身を誰よりも案じているからこそ、中止を訴え続ける。


「とにかく、今度こそライブは中止! 機材が壊れた今、歌なんて届けられるわけ――」

「機材を投影すれば、ライブを続けて貰えるんですか?」


 二人が声のする方を向くと、そこにはにこにこと笑顔を浮かべるツインテールの観客が。


「……誰、ですか?」

「まあ、ごめんなさい。自己紹介が遅れました。私の名前は守矢小晴といいます。私の能力は『投影リフレクション』といって――」


 ――何でもその場に投影できちゃう能力が使えるんですよ。

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